松尾豊の発言 (内閣委員会)

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○松尾参考人 東京大学の松尾と申します。
 本日は、今回の法案のテーマでありますデジタル社会について、私の専門でもあります人工知能、AIの観点も含めて意見を述べさせていただきます。
 GAFAと呼ばれる、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンといった米国の企業が急成長を遂げています。また、中国ではBAT、バイドゥ、アリババ、テンセントなどの企業も躍進を見せています。
 米国の電気自動車の新興企業テスラの時価総額は、日本の全自動車メーカーの合計を超えました。さらに、米国の五社のテクノロジー企業の合計は、日本の全上場企業の時価総額の合計を超えています。
 こうした躍進の背景にあるのはデジタル技術です。インターネット上、スマホ、あるいは車の中で、デジタルの技術を活用し、大量のデータを扱うことで利便性を大きく向上させることができます。データが価値につながり、様々な商流を生んでいます。
 政府の行政サービスに関しても、デジタル化は多くの国で進められています。例えばエストニアは、行政のデジタル化が大きく進んでいる国の一つです。九八%の国民が、日本のマイナンバーカードに当たるナショナルIDカードを保有していますし、九九%の手続が、二十四時間三百六十五日、アクセス可能になっています。シンガポール、イギリスなどでも、こうした先進的な行政のデジタル化の取組が進められています。
 日本でも、こうしたデジタル技術の社会全体での活用は喫緊の課題です。日本全体でデジタルを活用していくことで、また、データ、AIを活用していくことで、産業の新たな競争力につなげるとともに、一人一人の生活者の利便性を上げ、安全で安心して暮らしやすい社会につなげていくことができます。
 まず、産業から話を始めますと、産業全体でDX、デジタルトランスフォーメーションを進めていくということは急務です。デジタルトランスフォーメーションは、デジタル技術を用いて人間の生活のあらゆる面によい影響を引き起こす、こういった概念ですけれども、企業の場合には、データとデジタル技術を活用し、顧客、社会のニーズを基に、製品、サービス、ビジネスモデルを変革する、また、業務そのもの、組織、プロセス、企業文化を変革し、効率化や付加価値の向上につなげていく、こういうことになります。
 典型的に言いますと、紙で処理したものをデジタルにするということが挙げられます。
 今、AIの分野では、例えばAI―OCRということで、ディープラーニングの技術を用いて紙をデジタルに取り込むということができます。
 ただ、紙をデジタルに取り込むと必ずしもいいということでもありません。そもそも、紙ではなくて最初からデジタルで入力してもらった方がいい、こういう場合もあります。つまり、デジタル化するということは、業務全体を見渡して、どこをデジタル化して、人の仕事をどう変えていけばいいのか、それを含めて全体を再設計するということでもあります。
 企業において、これまで、人事、経理、総務、営業、いろいろな仕事がありました。これを必要な部分をデジタル化していくことでより効率化して、それによって空いたリソースをより付加価値の高い重要な仕事に振り向けるということができるようになります。
 これは、機械の分野で工場の労働を機械化して、それによって生産性を上げてきたという日本の製造業の歴史とも重なる部分があります。これが、より多くの仕事でこれから起こっていくということになります。
 もちろん、大企業だけではなく、中小企業にとってもデジタル化は非常に重要です。多くの企業に共通する業務を、例えばSaaSと呼ばれるクラウドで提供されるソフトウェアのサービスを利用することで安価に効率化していくことができます。また、RPAといいますけれども、人間がコンピューター上で行ってきた定型の事務作業を自動化する、そういうソフトウェアの利用などもその一つです。
 もちろん、行政においても、こういった効率化の余地は大きくあります。
 ユーザーからすると、オンライン化されておらず役所に行く必要がある行政手続もとても多いですし、また、オンライン化されていたとしても様々な手続がワンストップで行えないという場面も多いというふうに思います。また、官公庁、自治体の中の業務についても、デジタル化されていない、あるいは、古い業務システムを使っているがゆえに非効率な状態で業務を行わざるを得ないという場面もいまだに多いのではないかというふうに思います。
 これを変えていくためには、やはりデータをどう扱うのかというのが非常に重要な観点になります。データを取得し、データを連携し、活用していくことができれば、こうした業務の効率や利便性は大きく向上します。
 しかし、このデータの連携というのは、技術的な問題よりも、むしろ法律やルール面での難しさがあります。
 歴史的に見ますと、検索エンジン、これの開発競争において、実は著作権の許可を得ないままクロールしてきてインデックスするということがよいのかどうかという議論が二〇〇〇年ぐらいからずっとありました。これは、グレーな状態で諸外国は技術開発を進め、それがグーグルを始め検索エンジンのビジネスに大きくつながっていったわけですが、日本でこれがきちんと法律ができたのは二〇〇九年の著作権法改正でした。
 このことからも分かるように、日本では、やはりグレーなものをグレーなままやるということは企業、国民は好みませんので、きっちりデータの連携に関しても仕組みづくりを早期に進めておくということが必要だと思いますし、それによって柔軟な活用を可能にして、将来の可能性を潰さないような、そういった仕組みをつくっていくことは大変重要だというふうに思っています。
 国民一人一人にとっても、こういった仕組みが整っていくことは、仕事の利便性が上がりますし、また、行政サービスの利便性が上がるということで、非常に大きなメリットになるというふうに思います。
 そのためには、誰もが使いやすいUI、UX、ユーザーインターフェース、ユーザーエクスペリエンスというふうに言いますけれども、が大変重要です。
 今のスマホあるいはその中のアプリは、米国のIT企業によって作られているものが多くて、総じて若者向けに作られています。これは、ターゲットとするユーザーに対してABテストと呼ばれるテストを繰り返し行っていくことによってよりよいものにしていく、そういう方法論がありまして、これが技術的に確立しているわけですが、それをターゲットである若者に対して適用している。
 日本の場合は、高齢者を含めた幅広い世代の方に合わせて、きちんと最適化していくということになると思います。さらに、障害をお持ちの方ですとかデジタル技術に詳しくない方、日本語ネイティブでない方など、全ての人が使いやすいように設計していくということは重要だと思いますし、そのために必要な技術ももう十分成熟しています。誰一人取り残さない、つまりアクセシビリティーをきちんと確保した形で進めていくということは、僕は十分に可能だというふうに思っています。
 また、人材育成も大変重要です。デジタル社会になるに従って、従来の仕事が変わっていくということは多くあると思います。考えてみますと、駅員さんの仕事、昔は切符を切るということだったわけですが、これが自動改札になって仕事がなくなったかというと、そんなことはなくて、より大きな、駅全体の管理をするという仕事に変わっていったわけです。
 これまでも、やはり技術の進歩によって、人間の仕事の内容は変わってきました。デジタル化によって仕事の内容が変化するという仕事もたくさんあると思いますし、また、新しく仕事が生まれるということもあると思います。技術の進化による失業という悲観論が議論される場合もありますが、私は、歴史的に見れば、技術は新しい雇用を生み、人々を豊かにするというふうに思っております。
 ただし、取り残される人が出ないようにということは大切で、社会全体で包摂していくということが必要だと思います。そのために、適切な教育、職業訓練をしていくということが必要になると思います。
 私は大学で人工知能を教えておりまして、これまでに講義を受講した学生、社会人はここ五年で五千人を超えています。最近では、各地域にある高等専門学校、高専ですね、ここにもAIの講義を提供しています。人工知能とハードウェアの組合せによるイノベーションは非常に重要だというふうに信じております。
 このように、全国の幅広い人を対象にした人材育成ということは現実に可能ですし、それを国として力強く進めていくべきだというふうに思っております。
 最後に、デジタル化に当たって、個人情報の観点も非常に重要です。個人情報については、守るべき点と、産業、社会全体で活用していく点、そういう両面のバランスというのがとても大事だというふうに思っています。
 日本では、過度に個人情報に警戒心が高いという一方で、それぞれの人は無料ということで無料サービスの登録、オプトインを気軽にやってしまう、そういうアンバランスな一面もあります。本来は、自分のデータの価値というのは非常に高いものだというふうにしっかり理解すべきだと思いますし、それをまた社会全体で活用していくということの便益も非常に大きいというふうに理解されるべきだというふうに思っております。
 そうしたことにもきちんと目を向けて、社会全体で個人情報を適切に管理しながら、配慮しながら、きちんと活用していける仕組みをつくるということは重要だというふうに思っております。
 以上、今回のデジタル改革関連法案によって、日本社会のデジタル化が大きく前に進むということを大きく期待しております。
 ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 松尾豊

speaker_id: 29992

日付: 2021-03-18

院: 衆議院

会議名: 内閣委員会