光本滋の発言 (文部科学委員会)
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○光本参考人 おはようございます。参考人の光本滋です。
本日は、本委員会におきまして意見陳述することのできる大変貴重な機会を賜りましたこと、委員長並びに委員の皆様に厚く御礼申し上げます。
私は教育学を専門としております。特に青年期以降の人々の教育の問題に関心を持っておりまして、大学進学率も上がっておりますから、大学教育が若者や成人の教育的な要求に応えるものとなっているかどうか、それを支える法制や組織運営が適切であるかどうかなどについて、幅広く関心を持ち、研究をしております。
国立大学の法人化に関しては、当初から、大学の経営の改革を目的とした法人化が、大学の研究、教育、学生、教職員にとってどのような影響を及ぼすのか、動向を追いかけてまいりました。現実には、法人化は大学にたくさんの困難を引き起こしています。よいことはほとんどなかったと私は思っております。あえてよい点を挙げるとすれば、現実、私のように国立大学に勤めている者の周りで起きている出来事と、教育制度という非常に抽象的なものがどうつながっているかということを絶えず考えさせられるという、そういった点では、非常に思考の材料を与えてくれたというふうに思っております。そういった成果は、本日の陳述の中でも発表してまいりたいというふうに思っております。
さて、本意見陳述では、大きく三つの柱で意見を述べていきます。第一は、国立大学法人法制の運用において守られなければならない原則は何であるかということです。第二は、中期目標、中期計画及び評価の運用の実際がどうであったかということです。また、その問題点についてです。そして、第三は、今般の国立大学法人法改正法案の内容に関して懸念される点についてであります。
第一の柱、国立大学法人法制において守られねばならない原則について。
国立大学法人法第三条は、「国は、この法律の運用に当たっては、国立大学及び大学共同利用機関における教育研究の特性に常に配慮しなければならない。」としています。学問の自由の侵害につながることのないようにすることが大事だというのが条文の趣旨です。
学問の自由の侵害といいますと、先ほど石原参考人が言われたように、国家による特定の書物の発禁処分とか、特定の教員を大学から追放するよう命ずるといったような、いわば直接的な介入がまず頭に浮かびます。
しかし、国家による学問の自由に対する侵害は、直接的なものだけとは限りません。国が大学の組織を改廃することによっても、間接的に学問の自由の侵害は起こり得ます。
私の専門領域を例にしますと、教育学者というのは政府の教育政策に批判的な研究者が多い、まあ、実際そうかもしれませんが、だから教育学者のいる組織を潰してしまえと政府が考えたとします。このとき、国立大学法人法の仕組みはとても利用しやすい面があります。文科大臣が大学に対して中期目標を与え、中期目標期間の実績に関する評価を行い、組織、業務の改廃の検討をするという仕組みになっていますので、中期目標に、教育、研究を社会的要請の高い分野へ転換することと書いて、評価を行い、教育学はどうも社会的要請が高いとは言えないというような評価を行ったとします。そうしますと、大臣自ら組織の改廃権を用いて組織を潰すということも可能です。
このような仕組みが学問の自由を侵害する危険性があることは、法人化の過程で様々な関係者から指摘されてまいりました。その結果、本委員会など国会審議でも様々な議論が行われ、国立大学法人法自体は成立いたしましたが、さきの第三条の総則的な規定だけでなく、歯止めとして大きく四つの重要な事項が確認されました。
その四つとは、具体的には、国立大学法人が中期目標、中期計画の原案を作成し、文科大臣は、財政上の理由など、真にやむを得ない場合を除き、基本的には国立大学法人が作った原案を尊重するということです。これが一点目。それから、中期目標達成のために必要な経費の確保、二点目です。国立大学法人評価委員会が行う中期目標記載事項のうちの教育研究の質の向上に関する評価はピアレビューによって行う、評価を適正に行うというのが三点目です。そして、組織、業務の改廃、大臣の権限でありますこの改廃の検討は大学自身が行うということが四点目であります。
このようにすることで、法律上は大臣が持っている中期目標の策定、組織の改廃をする権限を形式化するというところにポイントがございます。
今お話ししたような内容を図にまとめたものが、本日の配付資料の一でございます。ちょっと字が小さくて見づらくて恐縮でございますが、これは、文科省が国会審議の内容を忠実に評価のプロセスに反映しようとして作成した図でございます。
そして、評価委員会が適切な評価を行い、その評価結果を、国立大学法人が作る中期目標、中期計画の原案に生かすことによって、大学が自主的な組織運営と改革を行えるようにしようとしたわけです。
これらは、国立大学法人法の制定過程におけるいわば立法者意思です。政府、文科省は、これらに従い、国立大学法人法の解釈、運用を行っていく義務があると考えます。
さて、第二の柱、国立大学法人法制の根幹を成す、今申し上げてきましたような中期目標、中期計画及び評価の仕組みというのがあるわけですけれども、その運用がどうであったかというお話でございます。
法人化されてから既に十七年ほどたっております。国立大学法人の中期目標、中期計画は、これまで三回作られています。過去三回の中期目標、中期計画の策定、評価の過程には、いずれも様々な問題がありました。
第一期目、まだ国立大学法人法が成立する前ですが、文科省が各国立大学に事前に詳細な指示をしていたことが国会で明らかにされました。当時の遠山文科大臣は、それまでの政府参考人の答弁の誤りを認め、訂正、陳謝しています。
第二期目は、二〇〇八年、平成二十年から二〇〇九年、平成二十一年にかけて問題が起こりました。国立大学法人の第一期中期目標期間の五年度目、六年度目です。このとき、文科省は、第二期の中期目標、中期計画の原案は、第一期中期目標期間の実績に関する評価の結果を受けて各国立大学法人が自主的に作るとしてきたわけですが、先ほどの図のようにしてきたわけですが、途中でその方針を翻して、各大学の中期目標の原案作成過程に介入し始めました。
当時の文科省が作成したもう一つの図があるので示します。それが資料の二でございます。
文科省は、国立大学法人の中期目標期間に係る業務実績に関する評価結果、これは国立大学法人評価委員会が行うものですが、これと関わりなく、国立大学法人の組織及び業務全般の見直しという文書を作り、これを各国立大学法人に示しました。そして、これに基づき、中期目標、中期計画の素案、原案でなく素案を提出させたのです。そして、文科省は、この素案をチェックした上で、各国立大学法人に改めて原案を提出させます。
国立大学法人法の制定過程において、形式化することを約束していた大臣の中期目標策定権、組織の改廃の検討の権限が見事に復活していることがお分かりいただけるかと思います。そして、書き直しの末、大学が提出した中期目標の原案の修正はもうほとんど起こりようがないということになったわけですが、果たして、これで大学が中期目標を主体的に作成していると言えるか疑問であります。
第三期目の問題は、二〇一四年、平成二十六年から二〇一五年、平成二十七年にかけて起こりました。やはり第二期の中期目標期間の五年度目、六年度目です。基本的な問題は第二期のときと同じなのですが、このときの問題は大きな波紋を呼びましたので、皆さんももう御存じであろうかと思います。
どのような問題であったか。当時の下村文部科学大臣が、二〇一五年六月八日に決定した国立大学法人の組織及び業務全般の見直しという文書の中で、各大学に対して、教員養成系、人文社会科学系の学部、大学院は、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めるよう指示したのです。この大臣決定は、文科省による人文系不要論とみなされ、強い批判を浴びました。私も、人文系不要論は誤りだと考えています。
ところで、下村文科大臣の決定に関して見逃してならない問題は、これが国立大学法人法が定めた文科大臣の権限の行使であったということです。そして、このときも、国立大学法人評価委員会による各国立大学法人の第二期中期目標期間の業務実績に関する評価と関わりなく、先ほどの決定が行われているのです。
このように、第三期の中期目標、中期計画の作成過程においても、大学の原案策定権が侵害されてきたわけです。
以上のように、三期とも、国立大学法人の中期目標、中期計画は、いずれも文科省が評価結果と関わりなく作る方針により枠づけられてきたのが実態です。悪用すれば、特に悪用すれば、第三期のときのように、人文系不要論すらそこに押しつけられる危険性があるということを指摘しておきたいと思います。
さて、三つ目の柱、今回の国立大学法人法改正法案の内容に関して懸念される事項についてです。
本改正法案の内容は大きく四つに分かれておりますが、その中の一つが、中期目標の記載事項の追加並びに年度計画の廃止及び年度評価の廃止です。この部分の改正は、中期計画記載事項に、現在ある、教育研究の質の向上、業務運営の改善及び効率化とともに、これら二つのために取るべき措置の実施状況に関する指標を加えるというものです。また、年度計画、年度評価を廃止するとしています。
先ほど大野参考人のお話の中にあったように、年度評価のための労力というのは大学にとって大変負担になっておりますので、これを廃止するのは問題ないかと思います。しかし、これは部分的改良にすぎないと思います。法案全体を見た場合、中期目標、中期計画を用いた政府の大学に対する統制が強まることは確実だからです。
二〇二〇年、昨年十二月、国立大学法人評価委員会の総会に、第四期中期目標、中期計画に関する諸文書が提出されています。これらは、第四期中期目標期間が始まる二〇二二年、来年四月までの間に、文科省が各国立大学法人に対し何をさせるつもりかを示したものです。
その一つが、資料三、第四期中期目標期間における国立大学法人中期目標大綱(仮称)(素案)です。第四期の中期目標は、国が各国立大学法人に対して個別に示すのではなく、総体として国立大学法人にまとめて大綱を示し、各国立大学法人はこの中から選び取っていくとされておりますが、資料三を見ていただきますと分かるように、大綱と言いながら、大変詳しい内容になっております。
一方、資料四でございますが、国立大学法人の第四期中期目標・中期計画の項目等について(案)という文書では、今申し上げた大綱の素案に示されている項目のうち、五項目は必須であるとか、別途、計画や調書を出させるなどの細かな指示がこちらでもなされています。
そして、資料五、国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点、今後の、大臣が行う指示のいわば予告編でございます。
そして、資料六、今後のスケジュールを示したもの等々が示されています。
以上により、文科省はこれまでと同じく、第四期も国立大学法人が作成する中期目標の原案の内容を事前に規制しようとしています。その規制は、ほとんど選択の余地のないものであり、かつ詳しく行われています。さらに、法律に定めのない事項を中期目標に書き込ませたり、同じく法律に定めのない計画や調書まで提出させようとしています。
要するに、現在文科省が行っていることは、中期目標、中期計画の原案作成プロセスに対する介入の拡大強化であります。国立大学法人法第三条や国会附帯決議に反するものだと私は考えています。政府にこのようなことを行う権限があるのか、また、仮に権限があるとしても、現在行っているようなやり方が適切なものなのか、法案の審議においてただしていただきたいと思います。
関連して、改正法案が監事の権限を追加していることについて。
監事が、学長に不正行為や法令違反等があると認めるときは、学長選考・監察会議に報告することを義務づけるとされておりますが、先ほど申し上げました中期計画記載事項とされる実施状況に関する指標に基づいて、学長がもし中期計画を順調に進めていないと監事が考えれば、これも法令違反とみなし、学長選考・監察会議に報告されるということになります。
石原参考人が述べたような学長選考・監察会議の権限強化と並んで、文科省から中期目標、中期計画に関する規制を通じて持ち込まれた政府の方針を確実に実施するように学長を監察する仕組み、言い換えれば、国策への協力の観点から学長に対する牽制を行うことを可能にする仕組みではないかと思われます。
このように、改正法案の内容は、大学の組織運営の自由を妨げるものです。大学が自由な学問を行うことを困難にし、ひいては社会的な責任を果たすこともできなくするおそれがあります。本法案の内容とともに、関連して政府が行おうとしている政策自体を見直す必要があることを訴え、意見陳述を終わります。
ありがとうございました。(拍手)