池島大策の発言 (国際経済・外交に関する調査会)

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○参考人(池島大策君) 早稲田大学の池島でございます。よろしくお願いします。
 本日は、このような機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。
 それでは、早速意見陳述に入ります。(資料映写)
 まず、テーマとしましては、極域をめぐる国際的秩序の現状と課題ということでお話をさせていただきますが、その前に、アウトラインとしまして、南極、北極の順で、それぞれ四対六ぐらいの割合で、北極を中心にその国際的秩序をお話しさせていただきます。それぞれにつき、我が国のいわゆる政策、特に北極の方については北極政策における課題と提言のようなものをお話しさせていただければと思います。詳細や補足は、質疑の中で行う機会があればそちらの方でさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
 それでは、まず初めに、ここにあります極域の地理的特性ということで、二枚の地図をそれぞれ挙げさせていただきました。どの地図も何らかの意味合いをそれぞれ含んでおりますが、南極と北極、同じ極域と言われるところでも、要するに地理的な大きな違いは、北極が氷に覆われた海、海洋、海域であるというのに対して、南極は氷に覆われた陸の塊、陸塊、陸であると、この違いが大きい。そして、これに対するその歴史的由来とかその国際的な秩序の在り方、これが当然変わってくるというところをお話しさせていただくつもりであります。それにつき、それぞれに南極政策、北極政策、日本のものを、それぞれ課題と提言という形でまとめさせていただきます。
 では最初に、南極の方から入らせていただきます。
 この地図をまず御覧ください。
 ここにございますものは何を示しているかと。大陸であるということ以外に、南極をめぐってはその領土獲得の動きというのが戦前からございました。そういう国々が争ってきたと、そこで対立が生まれたという現状があって、その秩序をやっぱりつくらなければいけないということから、南極条約というものが一九五九年できたわけであります。この南極条約を中心とした秩序体制があるというのが南極における大きなポイントでございます。
 これは、ここにございますように、日本も一九五九年当初から入っている国際的な条約。元々は十二の署名国、最初から入っていた国があるんですが、その七か国、これらの国々は、自国の領土であるという領土主権の主張、クレームですね、そういうものを展開してきた国としているわけですが、それ以外に、それを認めない国というのもあり、また潜在的に自国のクレームを保持していると言われる国々もあると。こういった十二の国々がそれぞれの思惑を秘めて、お互いの立場を認めつつ南極条約というものを作り、これまで育んできたわけであります。
 その基本原則は、ここにある四つであります。平和的利用、科学活動の自由と国際協力、一つ飛ばしますが、非軍事化といった流れの中で、この三番目の領土請求権の凍結、これが一番大きなものとして実は隠れています。つまり、七か国は自分の国の請求権を凍結しておく、主張しないということをもって、平和的に使うということを約束し合ったわけです。
 実際には、協議国と呼ばれる一定の実質的な科学的研究活動を実施している国々が特別な地位を与えられて運営をしてきております。そうでない協議国も二十五、すなわち、二十九の協議国と二十五の非協議国が勧告その他のいろんな措置を採択して運営をしてきている。
 先ほど述べた基本的な原則を守る、それを実際に担保するために査察の制度というのを置き、お互いに履行の確保を図っていると。しかも、二〇〇一年になっては、これは大体四十年ぐらいですかね、たってから事務局を設置して、いわゆる組織化ということが進んでいるという点で特徴的です。南極条約体制と呼ばれるような形に大分組織化が進んできました。様々なここに挙げてある条約、それをお互いに採択、そして作るということによりまして南極を運営していくという努力がこれまでなされてきたわけです。
 大きな特徴は、最初は生物資源、そういったものを中心に守ろうという動きだったのが、一時的に鉱物資源の思惑が国々に出てきたと、しかし、それはまずいという動きがやっぱり八〇年代、そして九〇年代初頭までに出てきたために、今では環境保護、この動きが非常に強くなり、南極においても環境保護ということが中心になってまいりました。
 では、日本はどのように対応してきたかということが次のお話です。
 日本は、原署名国として最初からこの南極条約体制を、参加して積極的に活動してきた国の一つです。その中には、観測のための基地を設置して科学的な調査活動を行ったり、関連法規、そういうものを国内的に準備して、輸送協力に当たっては、「宗谷」、「ふじ」、「しらせ」、二代目の「しらせ」といった形で観測船を持ち、独自の調査をしてきております。また、環境保護についても、国内法を担保してきちんと対応してきていると。
 このような非常に組織立った計画的、かつ非常に国としてきちんとした政策の下に行われてきたのが南極であります。組織化、そして国際化が南極条約体制でも進んでいるということが特徴であります。
 では、次に北極の方ですが、これはどうでしょうか。
 こちらの方は、この図ちょっと分かりにくいんですが、何を言っているかというと、真ん中の辺に青い、実は薄い青い部分が小さく一か所、二か所あります。それ以外は何か色が付いていたり、また斜線が入っている。これはどういうことか。これは、沿岸国というものがあって、北極海は氷に覆われているが、その沿岸国があり、その国の権限が何らかの形で及ぶ、そして、海域の部分は、公海、公の海の部分は非常に限られているという現実であります。
 これをまず頭に入れた上で、では、北極の国際的秩序を見てまいります。
 まず、今述べた地理的特性については、氷結海、氷の、凍った海ということなんですが、それをめぐる八つの利害関係国があるという現実です。ここは五つの沿岸国、カナダ、グリーンランドが代表されるデンマークですね、デンマーク領であるグリーンランド、ノルウェー、ロシア、そして米国、アメリカですが、アメリカはアラスカが北極海に臨んでいると。これに対して、三つの非沿岸諸国としてフィンランド、アイスランド、スウェーデンは、このいわゆる北極圏の中に入る非常に利害関係を有する国ということで、この北極圏内、北極海をめぐっては非常に活発な活動をこれまでもしてきたということです。
 では、この地域において、これはある種北極の部分のローカルな話のところになってしまうんですが、主な法的な枠組みとしては、ここにありますような国際海洋法、海に関しては海洋法を適用すると。すなわち、一九八二年の国連海洋法条約、UNCLOS、そして慣習法といったものを、凍った海なんですが、凍っている、陸地に近いとも言われていますが、一応適用するんだという考え方ですね。
 逆に言うと、実は北極条約なるものは存在しない。南極と違って、南極は南極条約、そしてそれが発展した南極条約体制があるが、北極には北極を一元的に管理運営するような北極条約というものはまだないということなんですね。一九九六年に、実は北極評議会、AC、アークティックカウンシルですが、これが設立されました。これは、設立されたんですが、その意味はまた後でちょっと述べさせていただきますが、普通の国際組織とか国際機関というようなものとはちょっと違うというところが大きなところであります。ただし、いろんな条約、ここに述べてある少なくとも四つの事項については、このACが非常に主導的な役割を果たして、何らかの規律する合意をこれまでも結んできているということです。
 一番最後のところに出ております各沿岸国の国内法令、これも一つ大きな法的枠組みの中に考えられております。なぜかというと、やはり、その沿岸国五つある、これらの国が、自国のその沿岸を氷が解けたときに外国船舶が通航するということが実際に行われてくるようになったというのもある。そうすると、そのためにやはり環境保護とか航路に関する規制というものを行うようになって、とりわけロシアやカナダということ、それぞれの国については、ロシアはいわゆる北極海航路、ノーザンシールートですね、NSR、カナダについてはノースウエストパッセージという北西航路、これらを規制するような動き、この国内法令がその船舶、外国船舶の通航に非常に大きな影響を及ぼすような状況が出てきているということです。
 では、なぜそういった動きがあるか。一番の大きな点は、そのやはり領土、海域画定をめぐってという動きなんですが、幸いなことに、大きな問題は今のところ、直接的な紛争ということはありません。あるとすれば、資源開発、鉱物資源、特に液化天然ガスとか、それから石油といったもの、開発はむしろ協力的に行おうと、そして航路の開発もそれぞれの国が協力して行うということになっているんですが、要するに、関係二国間で、隣の国同士で話合いで解決するというような話とか、国連という場を使って、例えばロシア、ノルウェー、デンマーク、カナダは大陸棚の延長といったものを国連海洋法条約、UNCLOSに基づいて申請するという形で解決を図ってきているというふうなのが現状です。
 また、このAC、アークティックカウンシル、北極評議会は、言わばハイレベル政府間のフォーラム、話合いの場です。いわゆる国際組織とはちょっとまた性格が違います。全会一致で話合いを進め、そして隔年で持ち回りで進めるという形になっています。しかも、当事者となるものは、八つの加盟国、先ほど申し上げた八つの国以外に、いわゆる常時参加者と呼ばれる先住民族構成団体というようなものが六つほど認められています。これは国とはまた別の団体というふうな形です。それ以外に、多彩なオブザーバーというものもこの北極評議会に参加できる一定の地位を最近得ています。中でも、元々ヨーロッパの国々が大きかったんですが、イギリス、フランスその他ですね、アジア、アジア諸国の中でも、ここにあります中国、インド、日本、韓国、そしてシンガポールといったものが北極の航路だとか資源開発その他を考えてオブザーバーの地位を得ると。
 ただ、このAC、北極評議会は、元々持続可能な開発と環境保護ということにだけ絞ってみんなで話合いをしましょうというのが目的だったんですね。逆に、軍事や安全保障は除きましょうということが当初から話合いがされてきました。そのように、了解の上にこのACが設立されてきたということです。
 では、我が国の対応はどのような形だったか。それは、ここにありますような主要な科学調査、観測事業というものを実施し、この十年ぐらいにおいては、GRENEと呼ばれるものやArCS、そしてArCSⅡといったものを、五年置きぐらいに観測事業を、政府その他の基金から出て科学的な活動を行ってきております、今、ArCSⅡというのが始まっておりますが。それ以外にも、北極評議会でのステータス、オブザーバーのステータスを得るために外交努力を続けてきました。
 しかも、二〇一五年には我が国の北極政策というものが発表されて、公表され、その中で我が国の立場が明らかになり、そして、それを何年か置きに、海洋基本計画又は総合海洋政策本部の意見書等を採択して北極政策を練り直すということが行われてきたわけです。
 じゃ、その政策の中身は何か。これ三つ、三本柱ありまして、持続的利用、研究開発、国際協力、こういうことで日本は政策を遂行していくということです。これの細かいところは一々取り上げませんが、このように日本も、この十年以内ですね、ようやく本格的に北極政策を遂行するようになってきたというところであります。
 南極の方が大分先に行っておりまして、北極はもちろん科学的な活動として調査や観測というのもなかなかの歴史はあるんですが、北極の、比べるとこれからという点があると思います。
 では、終わりにというところで、課題と展望を述べさせていただきたいと思います。南極と北極につき、それぞれ国際的な側面と我が国の側面というところでお話をさせていただきます。
 南極につきましては、このATS、アンタークティック・トリーティー・システムの略ですが、南極条約体制、これの課題としては、その持続可能性、この体制がいつまでも続いて、南極大陸が平和裏に自由な科学調査、国際協力が進められる場として維持できるか、それが大きな課題です。
 今のところ、喫緊の課題は環境保護と観光の規制です。やはり環境保護の動きというのは、ここ数十年、大分大きなものになりました。それについて、厳しい環境保護対策、これが要求される。ただし、それは平和的な利用というものがあってのことなので、査察という制度によって検証を重ねているという努力が数十年来ずうっと行われてきているのが南極条約体制です。
 我が国としましては、やはり観測事業を持続的に行い、科学活動、調査活動における国際協力を進めることによって国際的にも学術的な貢献を強めていく、こういうことが今後とも期待されているというところです。
 これに対して、北極の方ですね、これのまず国際的な側面を申し上げますと、ここにありますように、AC、アークティックカウンシル、すなわち北極評議会、これが更に組織化されていくのかどうかということが大きな今後の論点になる。
 それはどういうことかというと、先ほども申し上げましたように、北極条約体制というものができるのかできないのか。少なくとも、沿岸諸国は、五つありますが、これらは、必要ない、国連海洋法条約を始めとした海洋法だけで規律していける、秩序をつくっていけるという中で、実は、次の点ですね、環境保護と資源開発、このバランスをどう取っていくかによって国々の思惑がいろいろと変わってくるということです。
 しかも、ステークホルダーの多様化と書きましたが、この北極には、やっぱり国々だけじゃなくて、オブザーバーとか、それから先ほど言った常時参加者といった国ではないような原住民族の組織体というものも入ってきます。しかも、最近は、米中ロの三か国、このトライアングルがどのような形で、要するに三角形、三か国のパワーバランス、これがどのように取られるかというのが北極にも影響を及ぼす、これについては非常に注目が高まっております。
 最後に、では、国内的な課題というところを申し上げさせていただきます。
 まず、今日の一番の大きい私が申し上げたいところは、やはり北極評議会での存在感、そういったものを向上させるためには、やっぱり国民的な理解、支持、これをちゃんと得られるか、北極政策を行うに当たって日本がそのような国民的理解、後押しを受けて政策を遂行できるかということだと思います。
 二つ目、すなわち、民間が主体となって、例えば航路の開発、航路の利用ということに関わっていけるか。国が旗を振る、そして国がそういうことに関与するのはいいんですが、実際に使うのは商船会社だったり、また保険会社。そして、外交官だけでなく民間人の大使を起用するなど、民間も関わってやはりそういう外交活動を、国として政策を行っているんだというところがないとなかなか難しいんではないか。やはり国民としては距離がある、北極までに距離があるなということを感じるかもしれません。
 もちろん科学者が非常に貢献しているのはあって、一番最後に、ArCSⅢというのが今後あるのかどうか。すなわち、南極のように五年置きにこういうものが、観測事業が、組織化が進んでいくのかどうかということがまた問われることになります。
 そのちょっと具体的な話としては、やはりお金の掛かる話です、観測船ですね。北極で砕氷能力の高い北極船、そういうものを建造する必要があるのかどうか。そのためには、国民の理解を得て、タックスペイヤーである国民がそういうものが必要だということが果たして得られる、そういう理解を得られるかを考えていただければと思います。
 以上、私の方から意見陳述させていただきました。本日はどうもありがとうございました。

発言情報

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発言者: 池島大策

speaker_id: 5593

日付: 2021-02-10

院: 参議院

会議名: 国際経済・外交に関する調査会