坂元茂樹の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
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○参考人(坂元茂樹君) 御紹介いただきました神戸大学の坂元です。
二十分と時間が限られていますので、早速レジュメに沿って御報告をさせていただきます。適宜、資料の条文も御参照ください。
一九八二年に採択された国連海洋法条約は初めて領海の幅を十二海里に統一し、その外側、十二海里に接続水域を、そして二百海里の排他的経済水域、それ以遠の深海底とその資源を人類の共同財産と規定しました。
このように、海洋法条約は、秩序形成の基盤として、それぞれの海域に対する沿岸国とその他の国の権利義務を定める海域区分の考え方を採用し、また、航行、漁業、資源開発、海洋環境の保護、海洋の科学的調査という事項別規制の方式を取っています。公海における規制実現の方式としては船舶の旗国主義を採用をしております。
同条約は、現在、百六十八か国の締約国を有する普遍的な条約であり、その規定の多くは、海洋法条約の非締約国に対しても慣習国際法として拘束をしております。
海の憲法とも称される海洋法条約の解釈、適用をめぐる紛争を平和的に解決できるように、海洋法条約は、十五部に紛争解決の条文を置き、義務的な紛争解決手続を定めております。つまり、海域区分に基づき、国の権利義務を定める国連海洋法条約の体系と両立しない形の国の主張は認められる余地がないということであります。
これが明確に示されたのは、二〇一六年七月の南シナ海仲裁判決であります。これはフィリピン対中国の訴訟なんですけれども、フィリピンは、二〇一三年一月、アキノ政権下で、領有権の争いのある礁や低潮高地を実効支配する中国を相手取って第十五部の義務的仲裁手続を開始しました。
しかし、中国は、二〇〇六年に、東シナ海の一方的ガス田開発を始めるに当たって、海洋境界画定紛争や軍事的紛争などについて裁判所の管轄権を認めないという海洋法条約二百九十八条に基づく選択的除外宣言を行っていました。ですから、フィリピンが中国を訴えるためにはこの裁判管轄権をいかにかいくぐるかが重要な関門だったんですけれども、フィリピンは、中国が実効支配する礁や低潮高地は領海やEEZ、大陸棚を持ち得るのかという権原取得紛争として提訴いたしまして、この管轄権の壁を乗り越えました。
二〇一六年七月十六日、南シナ海仲裁裁判所は、中国が主張する南シナ海における九段線は国連海洋法条約に違反するとの判決を下しました。この判決は、中国の九段線内の生物資源あるいは非生物資源に対する歴史的権利の主張というのは、海洋法条約が規定する中国の海域の限界を超える限度において海洋法条約と両立しないと結論し、したがって、中国の海洋法条約への加入、また同条約の発効によって、九段線の中で中国が有していたかもしれない歴史的権利は、国際法の問題としては、中国とフィリピンの間において海洋法条約が規定する海域の限度、すなわちEEZや大陸棚によって取って代わられたと判示をしたわけであります。中国の主張を否定したということですね。しかし、中国は同判決を違法かつ無効とし、この判決の履行を拒んでいます。
判決は、アメリカ・ワシントンで中国の戴秉国元国務委員が述べたような、決して一枚の紙くずではありません。判決の拘束力は海洋法条約二百九十六条に明記されています。ただ、国際社会には判決を強制執行する手だてがないというだけであります。
こうした判決を無視する中国の態度は、南シナ海における中国の海洋権益の擁護という国家の重大利益の前には国際法を無視してもいいと述べているのと同じであります。国際社会は、中国による拘束力ある判決を無視するという国際義務の違反を容認せず、南シナ海を海洋法条約が適用される平和な海にする努力が求められます。今回の中国の海警法には中華人民共和国の管轄水域という表現が採用されているんですが、南シナ海仲裁判決に対する強烈な反発とも読めるわけであります。
三に移ります。
海洋法条約は、各国が海洋の利用について立法、執行、司法の権限を行使する際に協調した処理をするための客観的な枠組みを設けるものであります。各国が海洋法条約の規定を国内法に取り込み、自らの国内措置に反映することを求めています。こうしたことが実現されて初めて海洋秩序の国際法的な枠組みとしての意義を持つことになります。そのため、各国は、自らの国内法の制定に当たっては海洋法条約に準拠するという、こういう必要があるわけであります。
しかし、中国は、海洋法条約の締約国であるにもかかわらず、海洋法条約に合致しない国内法を制定している国であります。
例えば、一九九二年の中国の領海及び接続水域法六条二項は、外国の軍用船舶、軍艦は、中国の領海に入る場合には中国政府の許可を得なければならないとして、国連海洋法条約にない外国軍艦の中国領海の通航につき事前許可を求めています。
さらに、同法十三条は、中華人民共和国は、接続区域内において、安全、関税、財政、衛生又は出入国管理に関する法律又は法規に違反する行動を防止し、処罰するための管轄権を行使する権限を有すると規定しています。ところが、国連海洋法条約は、三十三条で、接続水域については、関税、財政、衛生の、出入国管理の、こういう管轄権は認めていますが、安全に対する管轄権は認めていません。でも、中国はこれを規定をしているということであります。
さらに、一九九八年の排他的経済水域及び大陸棚法では、この法律の諸規定は、中華人民共和国の歴史的権利に影響を与えるものではないとしまして、南シナ海における先ほどの九段線を歴史的権利の水域として意識した規定になっています。
さらに、二〇〇三年の無人島保護及び利用管理規定二条も、中華人民共和国の内水、領海、EEZ、大陸棚及びその他の管轄水域における無人島の保護と利用活動に適用するとして、その他の管轄水域という表現で、海洋法条約が認める以外の水域を管轄水域に加えております。
二〇二一年一月二十二日、中国全人代常務委員会は、海警法を可決、成立させ、二月一日より施行させました。中国外交部の汪文斌副報道局長は、この海警法について、国際慣例や各国の慣行に合致しており、中国の政策に変化はないと述べたのですが、条文を見ると、海洋法条約の規定に合致しない諸規定があると。さらに、本年三月八日、中国の栗戦書全人代常務委員長は、その活動報告で、海警法制定の目的を、習近平強軍思想を貫徹し、新時代の国防と軍隊建設の必要に応えるためと述べ、海警が第二海軍の性格を持つことを明らかにいたしました。
時間の関係もあり、二点のみを、その懸念点といいますか、申し上げたいと思います。
一つは、曖昧な中国の管轄水域という概念と追加された防衛任務です。
同法三条は、海警機構は、中国の管轄水域及びその上空において海上権益擁護の法執行業務を展開し、本法を適用すると規定しています。海警が管轄権を行使する水域として、中国の管轄水域という定義のない曖昧な表現を採用しております。これにより、中国に都合のいい恣意的な運用がなされる可能性がございます。
懸念されるのは、三条が、海警機構がその上空において海上権益擁護の法執行業務を展開できるとしていることです。領海の上空は領空であり、上空飛行の自由は認められず、領空侵犯になりますけれども、EEZの上空は公海と同様に上空飛行の自由が認められており、この空域で中国が管轄権を行使すれば国際法違反になるということであります。
もう一つの懸念点は、外国軍艦等に対する強制措置を定めた二十二条です。
同条は、国家の主権、主権的権利及び管轄権が、海上において外国組織及び個人の違法な侵害を受ける又は違法な侵害を受ける緊迫した危険に直面する場合、海警機構は、本法及びその他の法律又は法規に基づき、武器の使用を含む全ての必要な措置を講じ、現場において侵害行為を制止し、危険を排除する権利を有すると規定しております。
外国軍艦や外国公船は一般に執行管轄権からの免除が認められており、海警がこうした中国国内法の違反に対する執行措置をとれば海洋法条約違反となります。
さらに、二十二条は、武器使用の対象範囲を外国組織にまで広げ、さらに、同法四十六条及び四十九条は、より積極的な武器の使用を容認する規定のように読めます。武器の使用は本来例外的措置であるべきなのに、原則化したというところに問題があるということです。
尖閣諸島周辺海域を主権が及ぶ自国の領海と称している中国は、日本漁船を追尾する中国公船に対して、日本の海上保安庁の巡視船が日本漁船の追尾を中断させる行為を行った際には、中国の管轄水域として、中国海警法上は四十六条三項の、海警機構職員が法に基づき任務を遂行する過程において、障害、妨害に遭遇した場合の妨害行為として中国公船による武器の使用の可能性も排除されない、そういう条文構成になっております。国際法は武器の使用について必要性や均衡性を要件としますけれども、そうした国際法への配慮が条文上は見られないということであります。
また、今回の海警法によって防衛任務が付け加えられたんですけれども、防衛任務と法執行機能の二重の機能を持つ海警の武器の使用の場合、軍事活動における武力の行使なのか、法執行活動における武器の使用なのか、その境界が曖昧になるという問題もあります。国際海洋法裁判所、ITLOSは、二〇一九年のウクライナ艦隊抑留事件暫定措置命令で、軍事的活動と法執行活動の区別は、紛争当事国による性質決定のみに依存するわけではなく、問題となる行為の性質の客観的評価に基づいて行われるべきだと判示をしております。
今回の海警法が提起したのは、海洋法条約は、各国が海洋の利用について立法、執行、司法の権限を行使する際に条約に基づく協調した処理を行うことを求めていますけれども、中国は、立法、執行の面において海洋法条約と異なる国内法を制定したということになります。
中国による今回の海警法の施行によって、世界最大とも言われる海上法執行機関の力を背景に、中国による国際法違反の局面が立法から執行へと移るということを意味いたします。もしそれを許せば、南シナ海や東シナ海における海洋秩序を法の支配から力の支配に委ねることになるということであります。
それでは最後に、今後の日本としての対応はどうあるべきかということで、対米国については、四月十六日に開催される菅総理大臣と米国のバイデン大統領との首脳会談において、一月二十四日の岸防衛大臣とオースティン国防長官との電話会談で確認された共同防衛義務を定めた日米安保条約五条が日本の施政下にある尖閣諸島に適用されることを首脳同士で改めて確認する必要があると思います。
対欧州には、日、米、豪、インドによる戦略的な枠組み、自由で開かれた太平洋戦略、QUADに英国、フランス、ドイツなど欧州諸国あるいはカナダなどの更なる関与を求めると。法の支配を含むルールに基づく国際秩序の確保、航行の自由、紛争の平和的解決などの共通の価値観の共有を広げていく必要がある。
じゃ、中国に対してはどうするのかということですが、日中両国の海上警察機関の衝突という不測の事態が生じないように、二〇一八年五月九日に日中首脳会談で合意された海空連絡メカニズムに関する覚書の対象に日中両国の海上警察機関の船舶や航空機を加えるよう交渉をすると。同覚書では海警の船舶あるいは海上保安庁の船舶は対象外となっていますので、これを加えるよう交渉するということでございます。
じゃ最後に、日本独自の対応ということですけれども、日米で日米安保五条の適用範囲だというふうに確認をすると、中国の立場に立てば、尖閣諸島に対して、日米安保条約の発動の要件たる武力攻撃、組織的、計画的な武力行使に当たらない行動、いわゆる純然たる平時でも有事でもないグレーゾーン事態での行動を模索すると思われます。こうしたグレーゾーン事態に切れ目なく対応できる海上保安庁と自衛隊の緊密な連携の構築が必要です。
中国は、日本が尖閣諸島を実効支配している現状をあからさまに力によって変更しようという動きを行っており、国際社会における法の支配の実現に努力する日本としては、力の支配を排するために自らの対応能力を強化していく必要がございます。
選択肢としては幾つか考えられます。一つは、自衛隊を前面に出すと武力紛争になるので、海保を準軍事組織化し、権限と装備を強化して対応すべきではないかという選択肢。二番目は、自衛隊を前面に出しやすくするために、巡視警戒を自衛隊の任務に加えて、防衛出動の手続を迅速化すべきだとの選択肢。三番目には、現行法には隙間がないので、海保から自衛隊への移行を更にスムーズにできるよう合同訓練などにより連携をし強化をすべきだという選択肢であります。
個人的には、現在の段階では三がいいように思います。なぜなら、一ですと、庁法二十五条の解釈規定の改正が必要となります。日本としては、庁法二十五条の解釈規定の存在を国際的に広く発信し、日本の海上保安庁はその機能が法執行活動に限定された文民の警察機関であることを周知させると。そのことにより、警察機関である海保が仮に武器の使用に至ったとき、第一義的には武力の行使ではなく、法執行活動における武器の使用であるとの推定が働くと。中国の企図するエスカレーション、すなわちグレーゾーン事態において海保や自衛隊が最初に武力の行使を行ったと主張できる状況をつくりたいと彼らは考えているわけで、それを防ぐことができると。この点は、自衛隊の海上警備行動についても法執行活動であることを国際的に周知させる必要があります。ただし、海保や自衛隊の限定された法執行活動に基づく実力行使、それ自体によって武力紛争が発生しなくても、相手の反撃によって武力紛争が発生する可能性は否定できません。海上ではあくまで実力行使の烈度によって国際的な武力紛争の発生が判断されるからです。
日本政府としては、その意味ではあらゆる場合に対外的な説明責任を果たせるような対処方針を作成する、策定する必要があると考えます。
私の報告は以上です。