小谷哲男の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○参考人(小谷哲男君) ただいま御紹介いただきました明海大学の小谷でございます。
本日は、このような機会をいただきまして、ありがとうございます。
私の方からは、今、坂元参考人からもございました中国海警法について、安全保障の観点から私見を述べさせていただきたいというふうに思っております。
まず、中国海警法、今年の二月一日に施行されまして、それによって中国海警の行動がどのように変わっていくのかということが日本だけではなくこの周辺諸国においても注目を浴びているところですけれども、その中国海警法の背景について、まず私の考えを述べさせていただきます。
中国海警局は二〇一三年に創設されたのですけれども、それ以前は、中国において五つの海洋部局がありました。この海洋部局は、例えば海監ですとか漁政という、二〇〇八年以降、尖閣諸島の領海に侵入していた船を運用していた部局なんですけれども、これらが二〇一三年に、五つの部局、これは五竜と呼ばれていましたが、そのうちの四つが統合されて中国海警局となりました。
その背景には、当時の胡錦濤国家主席が海洋強国を目指すというスローガンを掲げたのですけれども、その際、この五竜が管轄権でありますとか予算をめぐって互いに争っている状態、それがこの海洋強国を目指す上で障害になるという認識があったということです。
この中国が海洋強国になるためには、例えば、日本の海上保安庁が海洋法執行機関として日本の海における海洋管轄権をしっかりと行使していることだけではなく国際協力の枠組みも広げているのを見て、そして、中国もそのような組織を持つべきだということでこの中国海警局が創設されたというふうに理解しております。つまり、中国海警局のモデルは海上保安庁であると言っても過言ではないかというふうに思います。
ですが、実態としましては、中国海警局は四つの部局の寄せ集めという状態が長らく続きました。それぞれ船の名前は元の部局の名前で運用しておりましたし、制服はばらばら、採用、訓練についてもなかなか統一されないという状況が続いておりました。また、この中国海警局は、組織上は国家海洋局の下に置かれたものの、運用に関しては武器を使用するということから公安部の指揮を受けるという形で、やや中途半端な浮いた存在であったということが言えます。
何よりも、新しい国家海警局というものをつくったわけですが、その根拠法が存在しませんでした。実態としては省庁間協力というまま海警局は運用されていたということになります。
今回の中国海警法というのは、真っ先に、一番最初の目的はこの海警局の根拠法を制定するということであり、むしろ問題は、なぜ今できたのかというよりも、なぜ今までできなかったのかということではないかというふうに思います。
なぜできなかったのか。それは、やはり中国の縦割りの文化の中で、なかなかその四つの部局を統合する形で法律をまとめるというのが難しかったというのが一番大きな理由だったというふうに理解しておりますけれども、言わば海上保安庁法がないまま海上保安庁が存在するような状態が七年以上続いていたということになります。
それが、この海警法が今回制定された一番大きなきっかけになりましたのが、二〇一八年に海警局が武警の下に移管されたということであります。この武警に移管されたことで、この根拠法である海警法も作りやすくなったということになります。
では、なぜ海警局は武警に移管されたのか。
表向きの理由としては、武器を使う組織はやはり共産党が指導するべきだということで、中央軍事委員会の下にある武警の更にその下に海警を入れたということであります。それは、今の習近平体制を更に強化するという流れの中にも位置付けられるかというふうに思います。
ですが、今述べましたとおり、この海警法の一番の性質が海警局の根拠法であるということ、そして、七年以上根拠法のないまま海警は活動してきた、その中には、武器の使用もありましたし、周辺国との摩擦を引き起こすような事案もありました。
どちらかといえば、この海警法というのは、この七年あるいは八年の海警の行動を後から法律で裏付けるというものですので、この海警法ができたからといって私は、急速に、急激に海警の行動が変わるとは見ておりません。
もちろん、長期的に見れば、海警がこの海警法に基づいてその役割を拡大する可能性は否定できないと思いますけれども、短期的に、急激に海警の行動が変わるというふうには思っておりませんし、実際施行されて二か月以上たっておりますが、海警の行動が変わっているということは、公の情報では今のところ出ておりません。
とはいえ、海警法の中には、坂元参考人の方からもありましたとおり、国際法の観点から見て逸脱していると思われる部分が散見されます。やや繰り返しになるところもございますが、海警法自体を見ますと、やはり海上保安庁法をかなり参考にしたのではないかと思われる部分がありますが、例えば、二章では海警の組織について、三章では海洋安全保障について、そして第六章では武器の使用について書かれております。この全体を眺めますと、この海警という組織の性質がやはり軍に近くなったということは間違いないというふうに思います。
海警の関係者と私は一年に何度もお話をする機会がありますが、生え抜きの海警の人たちは、自分たちのモデルは海上保安庁であるということを常に言っております。しかし、今回の海警法あるいはその前の武警への移管を受けて、中国海警局は、例えばアメリカのコーストガード、沿岸警備隊、つまり軍の一部という性格が更に強まったと言わざるを得ないというふうに思います。また、海警法の十二条を見ますと、国家主権の防護というものがその役割に含まれております。やはりその点から見ても、海警局は軍に近い存在になったということが言えると思います。
一方、武器の使用について、日本の中でもかなり注目が高まりましたが、武器の使用について規定している六章を見ますと、これは必要最小限、そして合理的な水準で使用するとなっておりますので、この武器の使用については特段国際的な基準を大きく逸脱したというところは見られません。
一番この海警法で問題だというのは、先ほどもありましたが、その管轄水域、管轄海域の定義が非常に広く取られている可能性があるということです。
お手元のレジュメ、一枚紙のレジュメに地図を載せておきましたけれども、この濃い黄色が中国が主張している領土なのですけれども、薄い黄色の部分が恐らくこの海警法が適用される管轄水域ということになろうかと思います。その中には、領海、EEZ、大陸棚以外にも、九段線の中の水域及び台湾海峡、そして台湾の東側の海域、さらには東シナ海、これは沖縄トラフまでが含まれるというふうに考えられます。これほど過剰な海域に対して、この海警法、特に武器の使用も含めて適用されるとすれば、これは海洋法秩序を大きく揺るがしかねない事態を引き起こすかもしれないというふうに考えています。
加えて、二十五条では、海上臨時警戒区というものをやはりこの管轄水域の中に設けられるとなっておりますが、一般的には、領海において警戒区を限定的に制定するということはあることですけれども、恐らく中国の考えは、かなり広い海域で、言わば侵入禁止を制定できる海域を考えているのではないかというふうに思われます。
また、二十一条につきましては、外国の軍艦及び政府公船に対しても、違法な行為を行っている場合、強制措置をとれるという規定がありますけれども、これもやはり主権の免除という原則を大きく逸脱しかねない問題で、これは場合によっては武力の行使に当たる可能性がある非常に大きな問題ではないかと思います。これが実際に、この条文が実際に使われますと、これは、例えば日本に対して使われた場合は自衛権の発動につながるような事態を引き起こす可能性もありますし、米軍が行っている航行の自由作戦、これに対して海警局が妨害をするような行為というものも考えられるのではないかというふうに思います。
それでは最後に、求められる日本の対応について私見を述べさせていただきます。
まず、日本としては、何よりも冷静かつ、そして国際法に基づく対応というものを考えていくべきだと思います。
この海警法、確かに問題は多く含んでおりますが、これを過剰に評価してこちら側も過剰に反応するということは日本の国益にはならないというふうに思います。既に危害射撃の件について国会等でも議論がされまして、これが外国のメディア等にも報道されておりますが、日本がやや過剰な反応を示しているのではないかということを米国の専門家あるいは東南アジアの専門家からも聞きますし、何より中国がこの問題を取り上げて、日本が過剰な反応をしているという世論工作を始めております。この点はやはり気を付けるべきでしょうし、何よりもその武器の使用基準というものは、こちら側の手のうちを見せることになりますので、国会という公の場で議論することが果たして適切なのかということも考える必要があろうかと思います。こちらの手のうちを見せないことが抑止、抑止力につながるということもあろうかと思います。
そしてもう一つが、現場負担の軽減ということを考える必要があると思います。
私も、これまで何度か石垣の尖閣専従部隊を訪問して隊員の皆様のお話を聞いてきましたが、皆様、もう体を張って、有事にならないように日々頑張っているというふうに承知しております。この海警法の制定を受けて、もう海上保安庁の船と人の数を増やせばいいという議論もございましたが、海上保安庁はもうぎりぎりのところで私は頑張っていると思いますし、仮に船を増やしても、それを動かす人が十分確保できない状況になっています。ですので、この現場にもっと頑張れというやり方ではない対応というのが必要ではないかと思います。
では、それは何かといいますと、やはり政治の責任でこの東シナ海の問題あるいは海洋法秩序の問題に取り組むということではないかと思います。
例えば、この海警法に基づいて海警局が尖閣諸島に上陸するようなことがあった場合、この前の国会の議論では、これは海上保安庁法に基づいて海上保安官が対応できるということでしたが、政府の組織である、しかも軍のもう一部と考えられる海警局が尖閣諸島に上陸するということは、これは組織的かつ計画的な武力侵攻とみなすことも十分できるかと思います。そのような場合、現場の判断に任せるのではなく、やはり政治がその責任においてきちんと武力攻撃事態だと認定できるものであれば認定する、それによって日本側もきちんとした対処をするということを議論していくべきではないかというふうに思います。
最後に、やはりこの海警法の問題は日本だけではなく周辺諸国が懸念を強めておりますので、周辺諸国とともにこの問題について中国にきちんとした対処を求めるということが大事ではないかと思います。
昨年十一月に海警法の草案が公開されまして、これに対して周辺諸国から様々な意見が出ました。一番この海警法の問題である管轄水域について、草案の段階では、内水、領海、EEZ、大陸棚及び中国が管轄する水域というふうに明確に定義がされておりましたが、最終的な文面からはこれが削除されました。
これはなぜかということを中国側の専門家に聞いたところ、それは周辺諸国が懸念を挙げたからであるということでした。つまり、周辺諸国が一丸となって懸念を伝えれば、中国はまだ行動を改める余地があるということですので、ここは国際的な連携を深めて、中国が海警法を海洋法の精神に逆らうような形で運用しないように圧力を掛けていくということが必要ではないかと思います。
私からは以上となります。