逸見真の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
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○参考人(逸見真君) 東京海洋大学の逸見と申します。
本日は、このようなお席にお招きいただきまして、ありがとうございました。感謝申し上げます。
私は、外航船員の経験及び商船系の教育機関で教鞭を執っております関係上、主として外航海運の船員の現状あるいはその養成の話が中心になりますこと、御理解をいただければと存じます。また、私の発表、発言は、必ずしも現在の勤務先、関係する検討会、審議会ほかの解釈や見解とは一致しませんこと、あらかじめ御了解をいただければ幸いです。
お手元にお配りしておりますレジュメ、これに沿ってお話をさせていただきたいと思います。
初めに、商船の船員とその現状ですが、海運業界は、我が国の港湾と外国、あるいは外国港湾間の海上輸送を担う外航海運と、国内各港間の輸送に従事する内航海運に分けることができます。
お手元の資料にもありますとおり、海運に従事する商船の船員は、職員と部員の二つの職域に分かれております。
職員は、船長、機関長、航海士、機関士という海技士という国家資格を持ち、船舶の運航に責任を有するスペシャリストです。船長は航海士から、機関長は機関士から、海上勤務の履歴と上級資格の取得によりプロモートします。海技士資格、例えば一級海技士の取得は船長、機関長となる要件となりますが、船長、機関長が実際の職務を執るには、雇用先の海運会社より実務能力や勤務態度に一定の評価を得て辞令を受ける必要がございます。
一方の部員に海技士の資格はありません。職員の指揮管理の下でハンズとして船の運航を支えております。練習船や旅客船を除き、我が国の外航海運では日本人の部員の供給はありません。採用は職員のみです。国際社会での船員の雇用は一般に海上勤務のみとする期間雇用ですが、我が国の海運会社が採用する船員は、陸上産業と同様、終身雇用が原則です。
我が国の輸出入を担う日本商船隊については、二〇一九年の数値によれば、隻数で二千四百十一隻、そのうち日本船舶は二百七十三隻であり、ほかはパナマなどの外国船舶となります。当然ながら、現在の日本人船員の規模でこれだけの商船を扱うのは難しく、そのほとんどは外国人船員による運航となります。日本人船員が配乗される船舶でも、例えば職員のみ、あるいは船長、機関長のみが日本人船員であり、残りは外国人船員との混乗となります。内航商船は乗組員の全員が日本人です。二〇一九年の外航商船の船員数は二千百七十四名、内航海運は二万八千四百三十五名となっております。外航船員は、一九七四年の五万六千八百三十三名より下降を続け、二〇一八年に二千九十三名という最低を記録をしております。日本人船員の長期的な減少は、オイルショック、円高不況という社会環境の中での度重なるリストラもさることながら、日本人の部員がほぼ完全に外国人に置き換わったこととなります。内航海運も同様に一九七四年の七万一千二百六十九名より下降し、二〇一三年に二万六千八百五十四名と底を打った後、漸増して現在の数値になっております。
私の勤務する東京海洋大学の学生の就職先である外航大手の海運会社による船員の採用は、例年、一社当たり二十名を超える程度、中堅企業に至っては五名前後です。これに海技教育機構の採用等を加えて私なりに試算をしてみますと、年間約百名弱採用し、在籍年数四十年と換算して四千名、離職率を一五%と考えると三千四百名、ざっとこんな感じになります。国土交通省による日本船舶及び船員の確保に関する基本方針の変更についてにある二〇一八年からの十年間で外航船員を一・五倍の三千四百七十二名にする目標はほぼ達成可能ではないかと思われますが、海運会社ではなお不足の状態と言われております。逆に表現すれば、現在の採用状況が変化なく続く限り、この数字をもって外航船員数の頭打ちになるかもしれません。
続きまして、業務に求められる知識、スキルの多様性というお話になります。
船員の職場は船の上と恐らく誰もが持つ認識は、事我が国の外航船員に限っていえば誤りとなります。勤続四十年のうち、個人差はあれ、海上勤務は十年前後というのが主要な海運会社での船員のワークスタイルとなっております。船員が陸上で働くという違和感も相まって、現在は船員を海の技術者とみなして海技者という呼称も一般化しております。
船員の陸での活用は、余剰人員を陸の職域に求めた結果ではありません。経営のための資源である船を維持する必要もさることながら、船舶一辺倒に終始する船員の消極的な活用は、彼らが熟練を極めても結局は視野の狭いスペシャリストとしてしまいます。こうした環境からの脱皮、言わば海陸にまたがるジョブローテーションの実践には、海上経験や海技知識を基礎に持つ船員を様々な職種に転用したいといった海運界に共通する認識と期待とがあります。
陸での船員の職務といえば、船体、機関の保守管理、航海や停泊中の安全管理、荷役指導、条約や関連法規の遵守、船員の採用と育成、配乗管理や福利厚生という船舶管理業務のほか、海上輸送に関する技術開発、コンテナなどの専用船ターミナル、バース管理、荷役の監督業務等、船の仕事の延長線上にある仕事が挙げられます。しかし、現在の船員の仕事はこれだけではありません。定期・不定期船営業、海運市況に準じた船舶の建造、調達、売船、新規事業の調査や企画のほか、船舶の自動運航、AIの利用等の研究開発、船員業務とは直接のリンクのない総務、経理、果ては系列会社、社外団体への出向から海外勤務にまで及んでおります。現在の日本人船員は、数ではなく質、それも船舶の運航という技術的な職域から出て、およそ海運業全般に多角的に求められていると言えることができると思います。
陸での業務には、船上では得られない知識やスキルを学ぶ必要が出てまいります。船舶管理業であれば、船の安全運航、船員の資格や労務管理、社会保障、海洋環境の保護に関する国際条約の理解のほか、必要に応じ、船の寄港国の国内法や港湾規則の調査が必要となってまいります。営業であれば国際海上物品運送法、運送・用船契約書の内容、企画であれば船舶金融、資金調達のためのファイナンス、経理であれば税務に関する知識等の業務知識を含む海運慣行、法令や規則に関する附帯知識です。
こうした陸上での経験は、海上職に復帰した際に大きく寄与します。不定期船の船長は、船主はもとより荷主、用船者の意向に留意して船を運航しなければならず、用船や運送契約に関する知識と内容の理解があってこそ、彼らとの意思疎通が可能となるわけです。日本人船員に求められる職域の多様性は、専ら海上で船舶の運航に従事する期間雇用の外国人船員とは大きく相違していると表現できるかと思います。
続きまして、船員不足の問題とその影響ですが、このような船員を取り巻く環境は、海運会社に恒常的な船員不足を招いております。外航船員は一般に五十五歳を境に役職定年を迎えて子会社へ天下ったり、船長であれば水先人に転じたりしてきましたが、海運会社は正規の六十歳定年ぎりぎりまで雇用するようになっています。
中でも機関士の不足、採用難が海運会社のいずれにおいても深刻な問題となっています。機関士は航海士よりも技術的な度合いの高い職域であり、陸では船舶管理の中核を成すのとともに、海運、船舶における新たな技術開発を主導する枢要な存在です。採用難の理由として、航海士と比べてソースとなる養成課程及び定員が少ないこと、求人が陸上の各種製造業、メーカーと競合し、転職も盛んなこと、船舶運航では船長、航海士に劣位するというイメージが払拭できないことなどが挙げられます。
また、従来、船員の再雇用により維持されてきた職域に変革が求められているようにもなっております。その一つが水先人です。水先行為には、船舶の運航についての相当の知識、十分な経験、ふさわしい技量を有する者が従事すべきとされ、我が国では外航船舶の船長を一定期間務めた者が担う制度として維持されてきました。しかしながら、外航船員を母体とした水先制度の維持は徐々に難しくなり、新たなソースを取り入れた制度の変革が求められます。
そして、二〇〇七年、従来の水先人を一級から三級にまで等級分けした水先制度が導入されました。一級は三千総トン以上の船舶に沿海以遠の海域での二年以上の船長履歴、二級で一等航海士以上を二年間、三級では職位を問わず千総トン以上の船舶に一年以上、すなわち、商船系教育機関の新卒でも水先人となれる制度でございます。制度上、海技資格も全ての等級に三級海技士(航海)で就業できます。
続いて、出自の多様性ですが、資料にありますとおり、船員になる課程は、商船系の国立、私立大学、高等専門学校、海上技術学校等、水産系も含めて複数あります。これらの課程において、学生は、勉学による知識と技能、船舶実習による乗船履歴により特定の海技士資格を取得して、海運会社に採用されます。加えて、最近は、大手の海運会社において、一般の大学卒、大学院卒が海上職員として採用されています。彼らの専攻は、工学、理学といった理系から、経済経営、法学、人文、語学等の文系まで、境なく選抜されています。この課程は、商船系の教育機関に続く三級海技士資格の新たな取得コースとして、新三級制度とも呼ばれております。採用後に乗船履歴を付け、海技大学校における座学を経て海技資格を取る、自社養成による船員です。生き残りを懸け、多様な能力、知識を身に付けた人材を求める企業行動の表れとも言われております。
資料にもあります女子船員について、商船系の教育機関で初めて女子学生を受け入れたのが旧東京商船大学です。一九八〇年、その第一期生が入学した後、旧神戸商船大学が続き、現在では商船系の教育機関の全てが男女共学となっております。既に一般社会でも女性の就労を促す法制度が整えられているこの時代、女性船員は堂々と日本人船員の一翼を担っていると思いきや、いまだ数えるほどにしかすぎないのが現実です。
船の運航における合理化、ハイテク化の目覚ましい進歩とは裏腹に、海運会社はいまだに女性船員の雇用に積極的であるとは言えません。その主たる要因は、結婚や出産など、人生の転機を契機とした、船員としての育成半ばでの退職を企業が危惧する点にあります。女性を主体とする特定の業種を除けば男性偏重、よって女性の就活に強いられる高いハードルは我が国の企業一般に見られるようですが、外航海運には更に業界特有の問題が附帯します。海賊等の出没海域へ向かう船舶への女性船員の配乗は制限せざるを得ないなどが挙げられます。
男女平等は形式的平等であってはならず、妊娠、出産、子育てと女性の本質的な役割に対する制約の軽減を考える社会的、身体的な思いやりを含めた実質的な平等が目指されなくてはなりません。いまだ男性中心にあると言える海運会社は、その意識を変革し、女性船員採用、就労のための積極的な取組を講じなければなりませんが、この点は海運会社も意識して、結婚や出産時に陸上勤務へ配置換えするなど、女性船員の労働環境は大きく改善されつつあると言えます。
女性船員の離職率は男性船員よりも高い現実があります。海上にせよ陸上にせよ、男性優位の現実に直面する失望感や、女性としての限界を感じ、結婚、子育てを機に退職してしまうケースが見られます。
最後に、船員たるにふさわしい人材の獲得と育成ですが、船員の採用を増やすためには、間口を広げる手法、確かに一定の効果が見込まれると思われます。現在、国土交通省が検討している一般大卒の船員志望者を集めて一年余りで養成する課程の検討もその一つとなるでしょう。
私は、自身の経験より、海洋大学を含めた船員の養成機関に求められることとして、第一に、能力、意欲に富み、伸び代のある学生をより多く受け入れること、第二に、学生の抱く船員への志を高めるよう努めることを挙げたいと思います。
第一の点は、就職実績とともに、船員という職業に対して持つ社会一般の理解やコンセンサスが重要であり、養成機関の努力には限界がありますが、第二の点については、教育者の取組と努力が効果を生むと考えております。
私の教えている東京海洋大学海洋工学部海事システム工学科の前身は、東京商船大学商船学部航海学科です。約四十年近く前、商船大学時代の私の在学時と同様、学生の多くは、船、海、航海士、船長に憧れ、夢をかなえようと入学し、在学中に様々な経験を積みます。学内での講義や実習、海技教育機構の練習船実習と、教員、先輩からの指導を受ける中、残念ながら、船、船員に魅力を失い、陸の企業へと方向転換する者もおりますが、なお定員の七割程度はモチベーションを保ちつつ、海運企業への就活に挑戦します。その実績は、例年、外航大手、中堅会社へ就職する者が学科定員約六十名の四分の一ほど、海技教育機構、調査船等のほかの一部内航就職者も合わせて、船員としての職を得るのはよくて半数前後です。国を挙げての船員の確保、育成を建前として企業により多くの採用を求めるのは簡単ですが、採用にかなう人材を送り出せない大学側にも問題があるのも事実かと思います。
学生の採用のお願いで海運会社を回ると、いろいろな意見、要望を受けます。若い船員によくある問題として、スマホやゲーム依存が強く、その分、対人的なコミュニケーション能力に欠ける、すなわち団体生活が苦手、裕福な時代に育ったゆえに打たれ弱く、仕事に対する責任感に疎い、結果として早期の離職がなくならないなどと指摘されています。中には、最初に乗った船で嫌になり辞める者もあるということ。入社して間もないうちの離職は、企業にとっても本人にとっても不幸以外の何物でもありません。まさに、資料にある船員養成の改革に関する検討会とりまとめに指摘されている新人船員の現状そのものです。
学生らには、学業以外に、クラブ活動に励み、アルバイト、ボランティアと様々な経験を積み自らを鍛えるように勧め、また講義では、機会があるごとに船員実務や海運についての情報を伝えて啓蒙しておりますが、あわせて、若い船員が指摘を受けている問題も隠さず教え、どうしてもスマホやゲーム依存と決別できない者、船員を仕事にするについて不安が払拭できない者は船員になるべきではないと諭すようにもしております。辞めるおそれのある者を十名採用してもらうよりも、辞めずに船員として自律できる学生を一人出す方が、海運会社にとってはもちろん、大学にとってもよほど良いかしれないと、はっきり伝えております。ただ、生身の人間を扱う教育にマニュアルはなく、船員にふさわしい確固たる人材の育成に試行錯誤は付き物であることも、私自身十分に自覚はしております。
最後に、私は自身の経験から、船員は、ほかの職業同様、つらいことも少なくありませんが、総じてやりがいがある、一生を託すにふさわしい、誇りを持てる職業であることを学生に伝えておりますことお伝えいたし、この発表を終わらさせていただきたいと思います。
御清聴ありがとうございました。