松下和夫の発言 (資源エネルギーに関する調査会)
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○参考人(松下和夫君) 京都大学の松下と申します。本日は、このような機会にお呼びいただきまして、ありがとうございました。
私の方からは、二〇五〇年温室効果ガスネットゼロの課題は何かというテーマで報告をいたします。構成はこのようになっております。(資料映写)
最初に、気候変動とコロナウイルスについて考えてみます。
いずれの問題も人類の生存に関わり、国際社会が協調して取り組むべき重要問題であります。そして、経済のグローバリゼーションと都市集中がその背景にあります。二十一世紀に入りまして、SARS、MERSに続きまして、二十年間で三度目のパンデミックが起こっております。気候変動や無秩序な開発による生態系の変化、人と野生動物の距離の変化が要因と指摘されております。そして、社会の格差の拡大によって、貧困層や弱者への影響が大きくなっております。したがって、いずれの問題に対しても、高い危機意識と実効性のある対策が必要であります。
気候変動とコロナウイルスの対策を比較をしてみますと、共通点としては、まず、信頼できる科学的知見、そして、生活、経済の在り方自体を大きく変える必要、国際社会による協調的対策が必要、それから、大規模な財政出動が必要であります。
一方、相違点としては、気候変動対策は、やり方によってはより質の高い、人々の幸福に貢献できる経済システムに移行することができます。一方で、コロナ対策は、場合によっては質の高い暮らしを犠牲にすることも必要となります。
こうした観点から、現在国際的に提唱されているのは、より良い回復、グリーンリカバリー、緑の復興策であります。
国連では、コロナ禍の教訓を学び、より良い社会の構築、より平等で、かつ包摂的でグリーンで強靱な社会経済への移行を提唱しております。より良い社会の構築には気候危機の回避が不可欠であります。そして、グリーンリカバリーとは、コロナ禍によって被害を受けた経済と社会を環境に配慮した低炭素で災害に強いレジリエントな社会経済に移行することというふうに言われております。
現在では、新しい国家の発展戦略としてゼロエミッションが取り上げられる潮流が起こっております。言わば、経済的にも脱温暖化を達成しないと生き残れないと、そういう脱炭素大競争時代が始まっているというふうに言えると思います。
その先鞭を着けているのがEUであります。EUは、二〇一九年の十二月にヨーロピアングリーンディール、欧州グリーンディールを発表して、欧州を世界初の炭素中立の大陸にするということを標榜しております。ヨーロピアングリーンディールはEUの新しい成長戦略でありまして、温室効果ガスなどの排出を減らしながら雇用を創出していく、そして持続可能な社会へ変革すると、そういう戦略とされています。
それを裏付ける財政的裏付けが復興基金でありまして、トータルで一・八兆ユーロ、二百三十兆円に上る予算が計上されております。そのうち三〇%は気候変動に回されます。そして、欧州気候法案、それから国境炭素調整措置などを検討しております。
欧州グリーンディールでは、二〇五〇年までに正味排出量ゼロを目標としておりまして、さらに、二〇三〇年の目標として五五%削減への引上げを目指しております。そして、投資する案件が環境面から見て持続可能であることを明確化する規則として、グリーンタクソノミーを検討しております。
そういった欧州の復興計画を支えるものが次世代EU復興基金と言われるものでして、これは、通常予算である多年度財政枠組みとは別に、言わばEU委員会が市場から、金融市場から債券を発行して七千五百億ユーロを調達するものです。通常の予算と合わせると一・八兆ユーロ、そのうち三〇%が気候変動対策に回されるということになっております。
こういった、債券ですので償還が必要でありまして、その償還財源として、使い捨てプラスチック賦課金であるとか、あるいは炭素国境調整措置であるとか、EU排出量取引制度の対象部門拡大、デジタル課税等が検討されております。
EUの議論を見てみますと、注目すべき点としては、まず第一は、成長戦略として脱炭素化が必要であるという認識があります。それから第二点目としては、そういった脱炭素時代の産業の姿を具体的に描いて、そこに至る道筋と政策手段を議論をしているということであります。
それから三点目としては、EUはこういったグリーンディールを進めることによってEUでやっている基準であるとかルールを国際化するということで、例えば、EUタクソノミーといった投資の持続性の基準ですが、それがESG投資の世界共通のグリーン定義、基準になっていくのではないか。
それから、炭素国境措置については、EU以外の域外から入ってくる温暖化対策が取られていない製品に対して関税をするということでありますが、それを通じて域外の国に対して環境対策を迫るといったアプローチであります。
それから、水素戦略ということで力を入れておりますが、水素に関する定義、基準について主導権を握ろうとしている、そういった傾向が見られるわけであります。
次に、バイデン大統領のアメリカですが、バイデン大統領は、就任直後にパリ協定復帰を指示をしております。そして、非常に野心的な選挙公約を実現すべく、次々と手を打っております。
選挙公約では、二〇五〇年までに経済全体で温室効果ガスネットゼロ排出、それから、二〇三五年までに電力部門から排出ゼロとしております。それから、持続可能なインフラとクリーンエネルギーへの投資として、八年間で二兆ドルといったことを発表しております。さらに、温室効果ガスの排出規制とインセンティブの再強化、環境正義の実現を目指しております。
バイデン大統領の基本的なコンセプトは、気候政策を通じてクリーンな雇用をつくっていくということであります。したがって、インフラストラクチャー法案も、タイトルがアメリカン・ジョブズ・プランといったタイトルになっております。これは、先ほど言いましたように、八年間で二・三兆ドルと、これはGDPの毎年一%、そのうち気候変動関連が二五%から五〇%と、そういったふうに言われております。
次の十三ページのスライドに続き、これは、バイデン大統領の気候変動政策ビジョンということで、言わば選挙公約であります。二〇五〇年までの経済全体のネットゼロ化に向けまして、様々な分野における脱炭素化投資について言及されております。
全体としてこれまでのバイデン大統領の気候変動政策をどう評価するかということでありますが、相対的に見ると、過去のどの大統領と比べても野心的な内容となっております。実質的にはグリーンニューディールといった内容であろうと思います。
それから、元国務長官であったジョン・ケリーさんを気候担当の大統領特使に任命する、あるいは元環境保護庁長官であったジーナ・マッカーシーさんを気候変動の国内調整担当の大統領補佐官に任命したといったことに見られるように、ホワイトハウス、それから全省庁挙げて、非常に強力な布陣をしいております。
一番最後のところを見てみますと、特徴的なことは、非常に政治的な実現性であるとかあるいは戦略性を持っておりまして、現在共和党は、上院では共和党と民主党が議席が拮抗しておりますが、共和党上院の支持を必要としないという形で、行政命令であるとかを通じて政策を進めていると、それから、雇用とか生活改善に焦点を当てて国民の支持を得ようとしていると、そういうふうに評価できると思います。
次に中国ですが、中国も、昨年九月の国連総会で、習近平国家主席がCO2排出量を二〇三〇年までに減少させると、そして二〇六〇年までにCO2排出量ネットゼロにするということを表明しております。中国は世界最大のCO2排出国でありますので、この方向転換は非常に大きい意味があります。
その後、二〇二〇年の十二月には、GDP当たりのCO2排出量であるとか、あるいは一次エネルギー消費量に占める非化石燃料、再生可能エネルギー等でありますが、割合であるとか、あるいは風力発電と太陽光発電の設備容量を目標を引き上げております。
それから、今年の六月には、全国レベルで炭素排出権取引制度を、これを本格的に稼働するという予定となっております。
それからさらに、中国では、いわゆるNEV、ニュー・エナジー・ビークル、新エネルギー車という産業発展計画を出しておりまして、プラグインハイブリッド車、バッテリー電気自動車、燃料電池、これを新エネルギー車と言っておりまして、それを二〇二五年までに新車販売に占める割合を二〇%に高めると、それから、二〇三五年にはその比率を五〇%以上にしてガソリン車の販売は禁止すると、そういった方向も出しております。
それから、十七ページに移りますと、これは、現実に中国の新エネルギー車生産、販売は世界最大となっております。メーカー、トップ20のメーカーが出されていますが、赤いところが中国のメーカーで、上位二十社中七社が中国で、上位十社中三社が中国です。日本は、十四位の日産、十七位にトヨタが入っております。
これは、自動車の電化、新エネルギー車に替えることによってCO2を減らし、エネルギー安保にも寄与する、そして電気は再エネ電源にして、それをインターネットで融合して促進すると。そうしたことを通じて大気汚染対策と地球温暖化対策とエネルギー安全保障を同時解決し、地域経済も振興していく、そして脱炭素社会と持続可能な発展を実現すると、そういったシナリオを描いていると言えます。
十八ページは各国のポストコロナ復興計画でありますが、詳細は省略させていただきます。
十九ページでは、現実にG20の各国はどの程度グリーンな投資をしているかということでありますが、これは昨年八月までのデータですが、これまでのところ、いわゆる緑の復興支出、グリーンな支出は比較的少ないという状況でとどまっております。
次に、日本、脱炭素を目指す日本であります。
二十一ページに参りますが、御案内のとおり、昨年の十月の国会で、所信表明演説で菅首相は、二〇五〇年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするということを宣言されました。これは、パリ協定実現に必要な目標ということで非常に画期的であると思います。しかしながら、これはなかなか実現は容易なことではございません。
二十二ページのグラフを御覧いただきたいと思いますが、これは、我が国、一九九〇年以降の温室効果ガスの排出量の実績と、それから二〇三〇年の目標、それから二〇五〇年ネットゼロの目標であります。最近は少しずつ温室効果ガスは下がる傾向にありますが、この傾向を加速させて二〇三〇年目標もより上積みして、二〇五〇年ネットゼロを達成すると、非常にチャレンジングな課題となっております。
一方、英国の温室効果ガスの推移を見たものが二十三ページでありますが、英国の場合は九〇年以降着実に減らしてきておりまして、二〇三〇年の目標も、ここでは五七%にしておりますが、六八%に上げております。それから、二〇三五年は最近の報道ですと七八%とするということで、COP26の議長国としてかなり頑張っているということがうかがえると思います。
こういったことで、二十一世紀経済は言わば脱炭素市場獲得をめぐる脱炭素大競争時代というふうに申し上げましたが、それに向けた経済社会の変革の道筋であるとか、あるいは政策手段、財源を検討し、脱炭素社会ビジョンと緑の産業政策を構想する必要があると考えます。
政府では、昨年の十二月にグリーン成長戦略を発表しておりまして、主要十四産業部門別に野心的目標と成長戦略を定めております。
非常に野心的目標を定めたこと自体は評価されるべきだと思いますが、その実現はこれからに懸かっております。そして、幾つか課題もあります。
例えば、二〇三〇年の削減目標、あるいは再生可能エネルギーの目標強化の方向性は出されておりません。それから、二〇五〇年のエネルギーミックスが示されておりますが、これにもいろいろ問題があると思います。それから、石炭火力発電に関する言及はありません。さらに、CO2をたくさん出す鉄鋼を始めとする素材産業については論じられておりません。電力部門の脱炭素化をどう進めるか、再エネの大量導入あるいは石炭火力の廃止といったことは不可避であると考えます。それをどういうスケジュールでどういった手段で実現するかということを戦略では検討する必要があると思います。
日本版の緑の復興と脱炭素社会移行を考えるときに、まず四つの前提があるというふうに思います。
一つは、二〇三〇年までの温室効果ガス削減目標の強化であります。二〇三〇年までに九〇年比で少なくとも四五%削減、これらはIPCC等でも言っていることであります。二〇一三年比でいうと五〇%以上になると思います。
それから、現在検討されている地球温暖化対策計画とエネルギー基本計画の改定で、再生可能エネルギーを増やして石炭と原子力を減らすと、それからエネルギー消費量自体も減らすということが必要であります。
三点目として、石炭火力からの撤退であります。国内での石炭火力発電をフェーズアウトすること、それから海外への石炭火力発電への支援を停止することであります。
四点目として、環境政策あるいは経済成長政策として、カーボンプライシング、炭素の価格付けが必要と考えます。具体的には、本格的炭素税の速やかな導入などであります。
これは、二十七ページは、地球温暖化対策のための税のCO2排出削減効果を各国で比較したものでありますが、九〇年代以降、諸外国では、CO2の排出量の削減とGDPの成長を言わば両立させるデカップリングが進んでおりまして、それが炭素税の導入によって加速しております。ところが、日本では、CO2排出量が増加する一方でGDPは横ばいにとどまっております。
二十八ページの上のグラフは、名目GDP一万ドル当たりのCO2排出量ですが、かつては、九〇年代は、日本はスイスに次いでCO2排出量が少なかったんですが、その後、ヨーロッパ各国には追い越されて、アメリカにも追い付かれつつあります。それから、現状では、日本の電力は主要国の中でもCO2が一番たくさん出ているという状況になっております。
これは、二十九ページは、日本の再生可能エネルギー拡大の障害の一つが送電線網にあると言われておりますが、地球環境戦略研究機関の研究によりますと、欧米諸国で運用されている市場誘導型と言われる送電線を運用すれば、空き容量なしとされている北海道内の既存の基幹送電線が有効に活用されて、再生可能エネルギーの導入量を大幅に増やせる可能性があることが示されております。
三十一ページに移りまして、最後になりますが、それでは、緑の復興からネットゼロへの移行の課題は何かということでありますが、まず第一は、脱炭素社会ビジョンの明確化であります。脱炭素社会といっても、国民に我慢を強いるだけではなくてより豊かで夢のある生活を、どういった日本をつくっていくか、それから、新しい経済と生活の姿をどうつくっていくか、こういったことを明確化する必要があると思います。
二点目として、日本版の緑の復興策であります。これには、技術、社会システム、ライフスタイル等社会のあらゆる分野で政策を導入して、ゼロカーボンで持続可能な経済への移行が必要であります。
三点目として、自立分散型の地域社会、地域循環共生圏づくりであります。地域資源を活用して、より多くの雇用を地域で創出することが必要であります。
それから、三十二ページに行きまして、計画と規制によるガバナンスと言っておりますが、カーボンバジェット、炭素予算の導入であるとか、あるいは再生可能エネルギーの大幅拡大策の導入、それから脱化石燃料の加速と、そういうことが必要であります。
それから、次の課題としては、これは参加型・熟議型プロセスと言っておりますが、これまでの日本のエネルギー環境政策等は、行政側と一部の産業界、あるいは専門家だけで議論されて、国民の参加、あるいは直接の問題として考えられてこなかったということがありますので、民主的プロセスを経て戦略を形成する、実施をするということが必要であると考えます。
そして、脱炭素化への移行には当然産業構造の転換が必要ですので、言わばエネルギー多消費型産業からクリーンな産業への労働者の移行に対する支援をする必要があります。公正な移行と呼ばれる考え方であります。
最後に、独立した科学的助言、システムが必要だと思います。
以上、述べてまいりましたが、日本においては、個々の産業技術においては、脱炭素技術において最近まで世界的にも優位な地位を占めてきておりました。しかしながら、脱炭素に向けて政府としての野心的目標設定が立ち遅れてきたこと、カーボンプライシングなどの経済的刺激策の導入が乏しかったこと、石炭火力などに過度に依存してきたことなどから、現状では脱炭素市場獲得をめぐる国際競争に立ち遅れていると言わざるを得ません。個々の産業技術の強みを生かしながらデジタル化への対応も進めて、トータルとして日本全体としての脱炭素に向けた経済社会変革が必要と考えます。
御清聴ありがとうございました。