半田滋の発言 (内閣委員会)

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○参考人(半田滋君) 本日は、意見陳述の機会をいただきまして、ありがとうございます。
 私は、東京新聞でおよそ三十年にわたって防衛省・自衛隊、そして在日米軍のことをひたすら取材をしてまいりました。その取材を通じて、自衛隊の海外の活動や、あるいは国内の自衛隊の在り方などについて、実際に現地に行き、多くの自衛官や防衛官僚の皆さんと会って実際に取材をし、記事にしてきた者であります。現在は防衛ジャーナリストとして様々な論考を雑誌やSNSで発表しております。
 今日お話をするこの重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案、これを土地取引規制法案と便宜上名付けまして、これから意見を述べていきたいと思います。
 まず、お手元のレジュメにありますとおり、この問題について三つのポイントに絞っています。一つは、米軍や自衛隊、海上保安庁、生活関連施設などの敷地の周囲約一キロと国境離島などを個別に注視区域や特別注視区域に指定し、所有者の個人情報や利用実態を不動産登記や住民基本台帳などを基に政府が調査をする。二つ目として、必要に応じて所有者に報告を求め、利用中止を命令できる。三つ目として、利用の中止命令に応じなければ二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処すと。この三つが大きなポイントであるかというふうに思っています。
 次に、論点について具体的に説明をしていきます。
 一、個人情報が丸ごと収集される。
 この法案は、注視区域に指定される対象区域が広く、その分、広範囲にわたって住民の調査が及びます。重要施設、つまり自衛隊、米軍基地や海上保安庁施設、そして重要インフラが注視区域となり、周辺一キロに住む住民が調査対象となります。
 調査は、現地調査から始まり、内閣総理大臣が必要があると認めた場合、地方自治体などに土地利用者の氏名、住所その他政令で定めるものを求めることができると書かれていますが、その他が何かは法制定後の政令まで分からないという曖昧さがあります。土地登記簿や住民基本台帳を見るだけでは、氏名、住所が判明するだけで、土地利用者の属性は分かりません。
 そこで、政府が必要があると認めるときに土地利用者から報告又は資料の提出を求めることができるとの規定を根拠に、更に個人情報を収集することになります。収集される個人情報は、思想、宗教、家族や姻戚、友人関係、海外渡航の有無、現在及び過去の職歴、趣味などを幅広く総合的に収集することによって、初めて意味を成すことになります。つまり、重要施設の近くに住んでいるというだけで個人情報が丸ごと政府に収集される、そのこと自体に問題があるというふうに思います。
 二番目、土地取引が抑制される。
 特別注視区域に指定された場合、二百平方メートル以上の土地取引は内閣総理大臣に届出を義務付け、違反した場合に刑罰を科すことにしています。
 例えば、東京屈指の住宅密集地、新宿区にある防衛省の周囲一キロが特別注視区域に指定されるのは確実でしょう。防衛省と同様に、米軍で司令部機能のある東京の横田基地、神奈川の横須賀基地及びキャンプ座間、沖縄県のキャンプ・コートニーも指定される可能性が高いと考えられます。いずれも住宅地に囲まれ、普通に土地取引が行われています。
 土地取引規制法案が制定された場合、内閣総理大臣への届出と許可という手続が加わることにより、自由な土地取引が抑制され、土地価格が下落する可能性があります。土地価格の下落は注視区域においても発生する可能性があります。土地利用者にとっては、重要施設の周辺に居住するというだけで財産が目減りする可能性があるのです。
 大変に奇妙なのは、不動産業界、ホテル業界、建設業界などの産業界から反対の声が上がらないことです。二百平方メートルといえば、これから計画するビルやホテルの多くが該当します。手続の煩雑さに嫌気が差し、ビルやホテルの建設を他の場所にしたり諦めたりする例が出てくるのではないでしょうか。
 政府は、昨年、GoToトラベルキャンペーンに踏み切り、コロナ禍で苦しむ観光業の支援を実施しました。一方、この法案は、ホテル建設を抑制することから、外国人観光客を増やすというインバウンド政策と矛盾するのではないでしょうか。これまでの政権が目指した方向性とは真逆の法案を通常国会の終了間際に提出し、およそ熟議とは程遠い審議のまま採決に移るとすれば、大いなる矛盾を抱えることになります。
 三つ目、曖昧な重要インフラの中身。
 重要施設となる生活関連施設、つまり重要インフラについて、法案は政令で定めるとしており、これまでの国会答弁で政府は、原発と、自衛隊と共用している民間空港を挙げています。
 だがしかし、例えば、内閣サイバーセキュリティセンターは、情報通信、金融、航空、空港、鉄道、電力、ガス、政府・行政サービス、医療、水道、物流、化学、クレジット、石油の十四分野を重要インフラに特定しており、法施行後、政令によって範囲が止めどなく広がる可能性があります。
 こうした重要インフラの多くは都市部に集中しており、今回の土地取引規制法案は多くの国民に調査の網を掛けることになっている点を指摘しておきます。法案にある、政令で定めるとの言葉は、行政府への丸投げであり、立法府としての責任放棄にほかなりません。法案には、何が生活関連施設となるのか、具体的に示す必要があります。
 外国の例として、米国、豪州、韓国には、基地周辺の土地取引を規制する法律があるものの、重要インフラにまでは踏み込んでおらず、この土地取引規制法案は他に例を見ないほど土地規制の範囲が広がる可能性があります。そもそも、英国やフランスはそうした規制そのものが法律としては存在していません。
 四、立法事実がない。
 法制定をする必要性として、地方議会における懸念が示されたことが挙げられています。二〇一三年九月の長崎県対馬市議会で、韓国人による自衛隊基地周辺の土地の取得が取り上げられました。対馬市長は、取引を認めた上で、対馬の土地の〇・〇〇六九%が該当すると答弁をしました。市面積の〇・〇一%にも満たない土地の取引が問題視される必要があるでしょうか。
 面積の問題ではないという指摘もあるでしょう。私は、二〇一〇年二月、対馬に行って取材をしました。海上自衛隊対馬防備隊近くの土地を韓国資本が購入したとされ、部隊から見えるところに民宿がありました。部隊によると、所有者は韓国人で、韓国の釣り人を受け入れているとの話でした。対馬と対岸の韓国釜山との間は高速フェリーで約一時間。コロナ禍の前まで、対馬は韓国からの観光客や釣り客であふれていました。
 韓国資本が土地を購入してホテルなどを建設するのはおかしな話とは思えません。実際に、不法侵入、通信妨害など、機能を阻害する行為はあったのでしょうか。あったとすれば、現行法で対応できない理由は何なのか、政府は明らかにする必要があります。
 防衛省は、全国約六百五十の防衛施設に隣接する土地を調査した結果、自衛隊の運用に支障が出たことは確認されていないとしています。この法律を制定する必要性、つまり立法事実がないにもかかわらず制定を急ぐのだとすれば、別の理由を疑わないわけにはいきません。
 五、機能を阻害する行為はさじ加減。
 沖縄県警は、今月四日、チョウ類研究者の宮城秋乃さんの自宅を家宅捜索し、パソコンやビデオカメラなどを押収しました。宮城さんは連日のように事情聴取を受けています。
 宮城さんは、以前から、米軍から政府に返還された北部訓練場から廃棄物の回収を続けてきました。土地の返還時、原状回復は日本政府が行うことになっていますが、いいかげんな作業だったため、あちこちに薬きょうや空き缶などの廃棄物が散乱しています。その廃棄物の一部を北部訓練場のメーンゲートに置いたことが威力業務妨害などに当たるというのです。
 置かれた廃棄物は空き缶などで、またいで通れる程度の分量でしかありません。米軍は、兵士らの不道徳を恥じることはあっても宮城さんを逆恨みするのは筋が違うと思いますが、通報を受けた沖縄県警の対応は、土地取引規制法案の先取りと言うほかありません。
 法案は、安全保障上の観点から重要施設及び国境離島等の機能を阻害する土地の利用を防止とあるので、政府が機能を阻害すると認定すれば、住民が立ち退きを求められることになります。宮城さんが廃棄物を置いた行為について、沖縄県警は機能を阻害すると認定しました。この事例から、何が機能阻害に当たるのか、認定する側のさじ加減一つであることが分かります。
 六、沖縄の離島は注視区域になる。
 沖縄県など国境離島は、島そのものが注視区域に指定されるのは確実です。すると、百四十五万人いる沖縄県民全てが調査対象になる可能性があります。これを本土並みに自衛隊基地や米軍基地の周囲一キロとしても、相当数の住民が対象となります。
 例えば、普天間基地のある宜野湾市の場合、沖縄平和運動センターの調査で、対象者は宜野湾市民の九割に当たる十万人と試算しています。普天間基地は、沖縄戦のどさくさで、住民が避難している間に米軍が町役場や住宅を取り壊し、滑走路を造りました。その周りを囲い込んで基地としました。戦後、戻ってきた住民らは仕方なく普天間基地の周りに家を建てて住み始め、現在のように住宅に囲まれた基地となりました。
 一九七二年の本土復帰時、沖縄県側は原状回復を求めましたが、政府はこの要求を受け入れず、基地が固定化されました。今なお米軍専用施設の七割が沖縄に集中し、本土は沖縄の負担の上にあぐらをかいていると言われても仕方がありません。
 自衛隊のミサイル基地が開設された宮古島、開設準備が進む石垣島も同様です。特に、宮古島の場合、収賄罪で起訴された前宮古島市長の三回にわたる防衛省高官との面会で購入を求め、防衛省がこれに従ったゴルフ場跡地に宮古島駐屯地が開設されました。最初に計画した島の北東部の端にある牧場跡地でなく、市街地に近いゴルフ場となったことで、周囲一キロに住む住民が調査の対象となります。宮古島では現在でも弾薬庫の開設をめぐり反対する住民が多く、反対運動とつなげて住民の個人情報を収集するのは確実ではないでしょうか。
 七、情報保全隊が前例。
 自衛隊のイラク派遣に際し、派遣に反対する市民らの行動を東北情報保全隊が監視し、個人情報を収集していた事実が明らかになっています。公表していない本名や勤務先の情報収集はプライバシー侵害で違法だとされ、裁判所から賠償金の支払を言い渡されました。
 このように、違法な手法で個人情報を収集してきたのですから、土地取引規制法が制定された場合、必ず個人情報を収集するのは明らかではないでしょうか。現状の政府の体制では個人情報の収集に手が回らなくなるのは明らかであり、組織の新設や拡充が行われるという行政改革に逆行する焼け太りとなるのも懸念材料の一つです。
 八、まとめ。
 国の安全保障が重要なことは言うまでもありません。しかし、個人の権利を軽視した上に成り立つ国とは、ゆがんだ虚像と言うほかありません。国民の私権が抑制され、国家が利益を得るような国は、まともな民主主義国家とは言えません。この法案は、思想、良心の自由、プライバシー権、財産権などの私権侵害につながるおそれがあることを指摘しておきたいと思います。
 終盤国会に入り、国民投票法改正案といい、この土地取引規制法案といい、左右対決の法案が矢継ぎ早に審議されています。左右対決は有権者の投票行動の変化を呼び込みません。自民党支持層三割、野党支持層二割、無党派層五割と言われる支持層を一層固定化することになります。
 例えば、消えた年金問題のような富裕層と低所得層といった上下が分割されるような問題であれば、無党派層による雪崩現象が起きる可能性はあるでしょう。しかし、この左右対決の二法案を持ち出したところに、迫りくる総選挙対策を感じないわけにはいきません。有権者の目をコロナ禍による上下対決から背けさせ、左右対決に持ち込むことで、政権政党にとって有利に働くのではないでしょうか。
 これまで述べたとおり、この法案の問題は、沖縄など離島の問題ではありません。東京や神奈川といった大都市の住民が調査対象となり、各地で自由な土地取引が規制されるのです。広く国民全体の問題であることを強調しておきます。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 半田滋

speaker_id: 737

日付: 2021-06-14

院: 参議院

会議名: 内閣委員会