川村百合の発言 (法務委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○参考人(川村百合君) 弁護士の川村百合と申します。本日は、意見陳述の機会を頂戴し、ありがとうございます。
 私の経歴の詳細は履歴書をお配りさせていただきましたので、本日の意見のベースになる点に絞って御説明させてください。
 私は、平成九年に弁護士登録をして以降、一貫して子供の権利擁護活動に携わってきました。子供の権利保障を実現するためには、様々な分野を横断した活動が必要となります。そのため、私が実践してきた子供の権利擁護活動は、福祉分野、教育分野、少年司法の分野、少年矯正の分野にわたり、さらには、少年矯正の分野と児童福祉の分野の架橋、橋渡しをすることもあります。そのような経験を踏まえて、私は今般の少年法改正法案には反対です。なぜなら、現行の少年法は、少年の非行防止、将来の犯罪予防という観点から極めて有効に機能していると評価されているため、これを改正すべき立法事実がないからです。
 今回の改正を厳罰化と評することがあります。私は、必ずしも、厳罰化だから今回の改正案に反対しているのではありません。刑罰化に反対しています。刑罰化に反対するのは、少年の更生、再非行予防により効果があるのは刑罰よりも保護処分だからです。
 少年法が予定する保護処分は甘いと誤解されることがあるのですが、保護処分は決して甘いものではありません。少年院では、一日中教育的働きかけの対象とされ、全人格的な成長、発達を期待して、少年の内面にまで立ち入って内省を求めるという教育をします。被害者に対する贖罪意識を醸成する教育、決して表面的ではない、真の反省に至ることができるような働きかけをします。刑務所での懲役刑は反省していようといまいと満期になれば出所できますが、少年院ではいまだ教育的効果が不十分だと判断されれば収容期間を延長することも可能です。
 厳罰化という意味では、私自身は反対していましたけれども、二〇〇〇年以降に重ねられた少年法改正により、重大事件についての厳罰化はとっくになされています。人の死亡という結果が生じている事件を重大事件というならば、今回の改正は、重大事件ではない比較的軽微な犯罪までを原則逆送の対象に含めようとするものです。そのため、逆送後、起訴されても、初犯だからと執行猶予が付いて社会に戻されることが多くなるでしょう。現行法の下では少年院に送致されるような少年たちが、今後は、何らの教育も支援もなく社会に戻されることになります。非行少年たちが社会の中に放置されるということです。それは社会にとって利益になりません。
 十八、十九歳の非行少年はどういう少年なのかということを御理解いただきたいのですが、十八、十九歳の子供は、非行少年ではない一般の子供の平均的なレベルであってもまだ心身の成長発達の途上であり、まだまだ成長発達が見込まれる年齢ですが、とりわけ非行少年の多くは、虐待家庭や貧困家庭など、ハンディのある生活、生育環境の中で育ってきています。中には、先天的な資質上のハンディ、すなわち発達障害や知的障害などがあるにもかかわらず、専門的な治療や療育を受けられなかった子供もいます。そのような背景を持って非行に至ってしまった少年の多くは、年齢に比して人格的発達、精神的発達、知的発達などが未熟あるいは劣っている子たちなのです。それは少年鑑別所で行われる知能テストや心理テストの結果からも明らかです。
 不適切な養育環境で育ってきたがために非行に至ってしまうような少年は、本来、非行に至る前に児童相談所に適時適切に保護されるべき要保護児童でした。しかし、実際には児童相談所が適時適切に保護しなかった子供たちです。また、親が不適切な養育をしているのは、必ずしも邪悪な意図を持ってやっているわけではなく、親自身の病気や知的なハンディや貧困など、様々な理由があって養育能力が不足しているということもあるので、親に対しても福祉的な支援が必要だったのにされていなかったということが少なくありません。すなわち、非行に至る少年とその家族は、社会の中のセーフティーネットからはじかれてしまった親子あるいは家族だということが言える場合が多いのです。
 ここで、改めて少年法の理念について確認しておきたいと思います。少年法一条には健全育成と書いてありますが、これは、我が国が一九九四年に子どもの権利条約を批准する前の古い用語です。子供を人権や権利の主体として考える子どもの権利条約にのっとって少年法一条の理念を現代的に捉え直すならば、それは子供の成長発達権保障と読み替えるべきであると最近の少年法の基本書には書いてあります。そして、非行は、成長の過程において虐待やいじめの被害に遭ったり、貧困、差別などの生育上の困難を抱え、成長発達権が十分に保障されてこなかった子供たちのSOSと言える場合が多いのです。したがって、非行という形で発せられたSOSを契機として、改めて少年の成長発達権を保障し、育て直しをするために選択されるのが少年法上の保護処分であるということになります。
 このような理念に基づいて少年法が採用しているのは、科学主義です。科学主義とは、非行の原因を人間諸科学を駆使して解明し、要保護性を図り、再非行、再犯予防の観点から必要な処分の要否や種類を選択するものです。少年の資質上の問題ないしハンディは、少年鑑別所で心理テスト、行動観察、医師の診察などの心身鑑別を行うこととされています。また、家族関係や交友関係等の環境上の問題は、家庭裁判所調査官が社会調査を行うことになっています。このように、科学主義にのっとって審判が進められ、処分を決められることにより、成人の再犯リスクより少年の再非行リスクは低く抑えられてきました。さらに近年、脳科学の発達により、幼少期からの不適切な養育が脳を萎縮させたり損傷させたりすること、一方で、受容的な育て直しによって、二十五、六歳ぐらいまでは脳が変化することも分かってきました。
 一九四八年に少年法が制定された当時の医学の力では、まだ脳の中まで見てそれを性格や行動に結び付けることはできませんでしたが、でも、先人たちは、経験に基づいて、少年たちには可塑性、変化する可能性があることを知っていました。そのため、第三種少年院、これは以前は医療少年院と呼ばれていたものですが、そこでの処遇は、家庭裁判所の収容継続審判を経れば満二十六歳に達するまで延長することができるのです。
 このような少年法の仕組みが正しかったことを裏付ける最新の脳科学の知見が知られるようになったのに、それに逆行するような実質的な少年法適用年齢引下げになる制度改正を今なぜする必要があるのでしょうか。
 今般の改正案の問題の第一は、原則逆送対象事件の拡大です。
 新たな原則逆送対象事件として、強盗、強制性交、現住建造物放火、それから、いわゆる振り込め詐欺等特殊詐欺も、単純な詐欺罪で立件されるのではなく組織犯罪処罰法を適用して立件されると、短期一年以上の犯罪となります。これらの犯罪は一見するとおどろおどろしい罪名のように聞こえるかもしれません。しかし、非行に至った原因を探ってみると、例えば強盗は、家庭で虐待を受け家出した少年が、おなかがすいてコンビニでおにぎりを盗んだら警備員にとがめられて、逃げようとした際に警備員を突き飛ばしたというような事案もあります。強制性交、放火、特殊詐欺、それぞれの具体例の説明は割愛いたしますが、いずれも少年の資質上あるいは生育上のハンディが背景あるいは原因にあって非行に至っているという典型的な少年事件、少年事件らしい少年事件と言うことができます。
 にもかかわらず、原則逆送対象事件を拡大し、犯情重視、結果重視となると、家裁調査官の調査が弱体します。そして、調査、審判が変質するでしょう。二〇〇〇年に十六歳以上の少年の重大事件について原則逆送規定が創設されたときも、少年法の理念は変わらないと立法提案者は言っていました。しかし、実際には二〇〇〇年以降、調査官調査は弱体化、変質しています。この犯情という概念は刑事裁判的なものです。それを少年法に持ち込むことは、少年法が採用する科学主義、処遇の個別化、教育主義に反します。犯情の軽重を重視するということは、非行原因の個別性を無視して、量刑相場にのっとり、応報刑にシフトするということになります。しかし、これでは再非行、再犯防止にはならないのです。
 次に、実名推知報道の解禁は少年の更生及び社会復帰を妨げるものです。
 そもそも法案では、逆送後起訴されたら実名推知報道解禁となっています。しかし、起訴されても無罪になる可能性はあります。憲法上の大原則である無罪推定の原則からしても、起訴されたからとして実名報道を解禁するのは大いに問題があります。しかも、少年の場合は、起訴後に刑事裁判を受ける中で家裁の審判に戻される可能性があります。にもかかわらず、起訴されたからといって報道されてしまえば、インターネット社会ではどんどん情報が拡散しますから、後に無罪になったり家裁に戻されたりしたとしても取り返しが付きません。また、有罪になって刑に服した場合、残念ながら今の日本の社会では前科者に対して極めて冷たいです。
 したがって、実名推知報道がされた情報がネットで検索して発掘されてしまうと、社会復帰は困難になります。とりわけ就職は困難になります。その結果、非行少年の人生がやり直しが利かないというだけでなく、被害者や遺族の方に対して一生懸命働いて損害賠償をしようにもそれができないということになります。それは被害者の権利を保障することにも反するのではないでしょうか。実名報道されないから少年が悪いことをするという言説があるようですが、それは非行少年たちの実情と乖離しています。
 また、職業制限、資格制限についての特例がなくなることも、就ける職業に制約ができて少年の社会復帰を困難にします。これも実名報道と同じく、少年が社会復帰して働いて収入を得られるようにならないと、結局は被害者への損害賠償もできなくなるということにつながります。
 もう一つ、十八、十九歳の虞犯少年が保護処分の対象から外れたことは、厳罰化とは逆のベクトルですが、要保護性があるのに放置されるという方向であり、大問題であると考えます。
 虞犯少年というのは児童福祉と司法の端境にいる少年たちです。児童福祉行政がその責任を全うできなかった少年たちです。現状、少年院が最後のセーフティーネットになっています。ところが、虞犯が保護処分の対象から外れるとどうなるでしょうか。特殊詐欺などをして生きる、体を売って生きるというような人生になってしまいます。これは将来の犯罪の増加につながります。
 以上のとおり、非常に有効に機能していると評価される法律をいじり、実質的に少年法の適用年齢を引き下げるということは改正ではなく改悪であり、百害あって一利なしと言えます。
 最後に、被害者の権利保障を拡充すること、実効性あらしめることの必要性について申し上げます。
 犯罪被害者やその御遺族の中にもいろいろなお考えの方がいらっしゃいますが、中に少年法適用年齢引下げを望んでいらっしゃる方がいらっしゃるのは承知しています。被害者や御遺族に対して本日の私の意見を押し付けようとは思っていません。ただ、国の制度はどうあるべきかということを考えるときには、犯罪被害者の権利保障と少年の権利保障は対立するものと捉えるべきではなく、それぞれの権利保障を両方とも実現するということが必要だと思います。願わくは、犯罪被害者を生まない社会をつくりたいと思います。
 少年非行の背景にある虐待、いじめ、貧困、差別、これらは私たち社会の病理であり、解決しなければならない問題です。でも、解決できていない現実があります。その現実の中で社会の病理の被害に遭っている少年たちがいる、被害者だった者が犯罪の加害者になるという悪循環があります。非行という形でSOSを出した少年が引き起こしてしまった犯罪被害について、一人少年の責任に負わせるべきではなく、私たち社会全体が一人の人間の成長発達権を保障することができなかった非をわびて、責任を分かち合うべきだと考えます。
 以上です。ありがとうございました。

発言情報

speech_id: 120415206X01120210506_005

発言者: 川村百合

speaker_id: 27616

日付: 2021-05-06

院: 参議院

会議名: 法務委員会