大橋弘の発言 (経済産業委員会)

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○大橋参考人 皆さん、改めまして、おはようございます。
 東京大学で副学長をしております大橋弘と申します。経済学を専門としております。
 本法律案との関わりですが、総合資源エネルギー調査会に設置された電力・ガス基本政策小委員会などの委員を務めさせていただいております。また、電力広域的運営推進機関や電力・ガス監視等委員会においても構成員を務めさせていただいております。
 本日は、このような貴重な場をいただきましたので、電力システムにおける課題やそれへの対応策について申し述べたいと思います。
 東日本大震災という国民の記憶から決して消え去ることのない惨事をきっかけにして始まった電力システム改革も、二年前に一応の区切りを迎えました。大手電力による垂直一貫システムを解体し、発電、小売に更なる競争を導入しながら、消費者に改革のメリットを還元する素地を電力システム改革はつくり上げたと評価できると思います。多くの消費者にとって、小売事業者の選択肢が増え、事業者が、少しずつではありますけれども、供給者目線から顧客目線に切り替えて事業に取り組めるようになってきたのは、電力システム改革がもたらした大きな成果の一つだと思います。
 自由化とは、経済性を追求することです。市場が広く事業者に開放されると、大手電力でも経営を効率化し、合理化に努めるようになります。採算性の悪い設備は休廃止する、余分な設備は持たないようにするといったことが効率化の一例です。そうした取組が自らの事業コストを低減し、消費者によりよいサービスを提供するというのが自由化の果実です。
 他方で、電力にとって欠かせないもう一つの側面があります。安定供給です。安定供給とは、何か事故があっても電力が滞りなく供給されるべきという考え方になります。
 我が国では、電力システム改革が始まる前から、安定供給を何よりも重要な政策の柱としてきました。燃料を海外に依存し過ぎない、電力を確実に消費者に届けるために発電、系統設備をしっかり維持する、こうした点が電力政策の重要な位置を占めてきました。供給が逼迫しているときも、だぶついているときも、電気の需要と供給を瞬時瞬時に一致させて停電を防ぐことが重要とされているわけであります。
 一見すると、経済効率性と安定供給とは対立関係にあるように見えます。経済効率のために、余分な設備を持つべきではないですが、安定供給のためには、例えば需給逼迫が起こる場合に備えては、余分な設備を持っておくべきということになります。
 電力システム改革では、当初から経済性が強く打ち出されてきました。そこにはいろいろな理由があると思いますが、総括原価方式で十分な設備量があることを前提に、政策的にやや強く経済性を打ち出しても、安定供給にすぐにひびが入ることはないという楽観的な見方もあったかもしれません。
 しかし、二〇一八年夏の北海道胆振東部地震を始めとして、度重なる災害での停電をきっかけにして、安定供給の重要性が改めて認識されました。二〇二〇年に成立したエネルギー供給強靱化法では、災害時における安定供給に対して更なるシステム改革がなされたところであります。残された課題は、平常時における安定供給上の更なるシステム改革を行うことでした。
 こうした中で、二〇二〇年度冬での断続的な寒波とLNG不足によって、数か月にわたる需給逼迫が生じ、市場価格が過去に例を見ないまでの水準に高騰しました。このときは、広域機関を含む行政や電力事業者によって電力融通やLNGの在庫量を適正化する努力、ディマンドレスポンス事業者による最大限の需要を抑制する努力、そして、確実に発電機が稼働するよう、昼夜を問わず細心の注意を払って作業に努められた現場の発電事業者の努力、そうした様々な関係者の努力のおかげで、私たち一般消費者に特段の負担を強いることなく、何とか安定供給を維持することができました。
 ところが、去る三月の東日本における需給逼迫は、季節外れの寒波の到来と福島県沖地震による設備故障などの影響という、いずれか一つが起きても東日本地域での需給逼迫を回避できない状況というものが生じ、史上初の需給逼迫警報を発することになりました。この経験は、安定供給を誇りにしている我が国の電力システムがもはや盤石と言い切れないのではないかと国民が感じる出来事だったのではないかと思います。
 電力システム改革が目指す効率化と安定供給とのバランスの中では、安定供給における需要家の参画が既に視野に入っていたものと思います。しかし、節電や計画停電など需要家への負担をお願いすることは、東日本大震災での惨事を思い出させるところもあり、なかなか踏み込んだ議論が政策的にできてこなかったものと思います。今回の需給逼迫警報を奇貨として、平時の安定供給における需要家の果たす役割を改めて議論すべきと思います。
 二〇二二年度の電力需給の見通しは更に厳しく、とりわけ冬においては、東京から九州にかけての広範囲にわたって、必要な供給予備力を確保できない見通しとなっております。今後の電力システム改革において取り組むべき平時での安定供給に係る課題に対して、今回の改正案は更なる改革への出発点になるものと考えます。
 以下では、平常時の安定供給に関して三点申し述べます。
 第一は、電源投資についてであります。
 系統全体で必要な供給力は、小売事業者が年間ピーク需要の一〇一%を負担し、系統運用者が予備力相当を分担することで確保をしています。系統運用者は、電源保有が認められておらず、電源1や電源1'といった調整力を毎年公募することで、必要な予備力を確保しています。小売事業者は、自らが電源を保有し、あるいは発電事業者と相対契約を結ぶことで、供給力を確保することが期待されています。
 しかし、直近の供給計画を見ると、確保すべき新電力の供給力の多くが調達先未定とされており、市場に供出される発電余力の裏づけがないのに市場調達に頼ろうとする新電力が多数存在することが広域機関の資料から分かります。実際に、小売事業者の調達先未定の量が発電事業者の発電余力量を超えれば、全国の需給では、調達すべき設備量が満たない状況が発生することとなります。
 卸市場で供給力を調達するとは、市場価格の高騰によって発電投資の誘因を確保することになりますが、我が国では、市場価格の高騰を抑えつつ、長期の収入見通しを与えて投資誘因を確保する方が望ましいと判断し、容量市場を開設することに決めました。
 しかし、容量市場は、市場の名こそついていますが、人為的な仕組みであり、結果として、十分な投資誘因を与えるには至っていません。休止、停止火力が増えている状況にあることから、今般の改正案にある休廃止火力の事前届出制を通じて供給力の状況を把握することは重要です。同時に、小売事業者に対して、本来需要家に対する責任として課せられている供給力確保義務をしっかり守っていただくよう、更なる政策的対応が求められます。
 安定供給における第二の論点は、燃料調達であります。
 我が国において、LNGを含む燃料調達における長期契約は極めて重要です。燃料調達の長期契約を促すには、発電と小売の相対契約を進めて、供給力の裏づけをしっかり押さえることが有力な方法と思われます。なお、発電と小売の相対契約を促進することは、電源投資におけるファイナンス確保にも有効となり、先ほど述べた電源投資の確保にもつながることになります。
 ウクライナ情勢が長期化すると、燃料価格の高騰とともに、燃料の量が足りないという、二〇二〇年冬と同様の事態が生じることが想定されます。海外の燃料市況に影響を受けない電源をしっかり確保することはもちろんですが、脱炭素化も見据えながら国産燃料を確保することも、我が国の安定供給上、極めて重要と考えます。
 燃料の脱炭素化については、既に航空燃料の脱炭素化に関する国際的な規制が導入されています。まずは、国産の脱炭素航空燃料、いわゆるSAFといいますけれども、この量を確保すべく、国産ロードマップを早急に作成することを燃料の脱炭素化の第一歩とすべきです。
 カーボンニュートラルは電力セクターだけでは達成できず、例えば農業政策において、食料以外に燃料を作物から作ることを安定供給の概念に取り込むなど、国全体で脱炭素化の取組をしっかり加速させるべきと考えます。そうした取組が、例えば農業セクターにおける担い手確保などの問題も同時に解決することにつながると思います。
 第三が、再生可能エネルギーとの関係であります。
 供給計画上、太陽光や風力などの自然変動する再エネは、設備容量以下とはいえ、一定の供給力として計上されています。適正な供給力を一定とした下で再エネを増やしますと、安定供給を支える電源が減少するということになります。
 そこで、太陽光や風力など自然変動する再エネに対して、蓄電池を導入するなど制御機能を持たせることが、再エネ主力電源化を目指す上では不可欠となります。大型蓄電池を発電事業として位置づけることも、再エネ導入拡大の上での推進力として機能するものと思います。
 予測誤差がどうしても残る再エネと揚水を含む蓄電池を最適に運用するためには、現在のように、供給力を各バランシンググループで調達させるような分権的な管理ではなく、調整力を系統運用者の下に集中管理させる、いわゆるプール制を採用することが効率的と考えます。この点は、スポット価格の高騰を避けるために供給力確保を集中的に行う政策判断を行った、先ほどの容量市場の開設と同様のロジックであります。インバランス料金の高騰を避けようとすれば、需給調整の運用を系統運用者に集中的に行わせるということが効率的であります。この政策判断は、需給調整市場に完全に移行する二〇二四年に間に合わせるように、早急に具体的な議論に着手すべきと思われます。
 今般の改正案では、このほかにも様々な論点がございます。例えば、事業者に、非化石エネルギーへの転換に関して中長期的な計画を作成いただくということが盛り込まれています。この点は、カーボンニュートラルに向けて、中小企業を含めて我が国の企業の地球温暖化に対する意識を高めるだけでなく、我が国の産業構造の転換を前向きに進める推進力になるものと期待されます。
 太陽光が増加する昼間にあえて需要を高める、いわゆる上げDRを行わせるよう促すことも重要です。この上げDRの時間帯に、今は一銭を下限としているスポット市場の価格をマイナスにすることができれば、上げDRのインセンティブは更に高まるものと思います。
 今般のウクライナ情勢に端を発し、我が国における一次エネルギーの国産比率が他の欧米諸国と比較しても極端に小さいことが改めて明らかになりました。電力システム改革は、安定供給の点からはまだまだ改革が道半ばであります。今般の改正案は、今後求められる更なる電力システム改革に向けて欠かすことのできない出発点になると思います。
 以上でございます。
 この度は、貴重な機会をありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 大橋弘

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日付: 2022-04-20

院: 衆議院

会議名: 経済産業委員会