楊井人文の発言 (憲法審査会)
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○楊井参考人 今、御紹介にあずかりましたファクトチェック・イニシアティブ事務局長で弁護士の楊井と申します。
本日は、このような意見陳述の機会をいただき、誠にありがとうございます。
本日、私からは、日本におけるファクトチェックの現状及び国民投票を見据えた偽情報対策についてという話をさせていただきたいと思います。
皆さん、こちらの憲法審査会においては、国民投票を見据えて様々な議論をされていると承知をしております。国民投票、まだ決まってはおりませんけれども、もしなされる場合は、事実に基づいた議論、そして、それに基づいて、冷静な国民の最終的な判断、そういうことをできる環境の整備というものが大変重要だということで、皆さん、御議論いただいているかと思います。
その際に、事実に基づいた議論ができるのかどうかというところにおいて、このファクトチェックというのが一つ重要な役割を果たせるのではないか、そういう観点からお話をしたいと思います。
まず、簡単にファクトチェックというものについて概略を御説明しますが、社会に広がっている様々な情報や言説が事実に基づいているかどうかということを検証して、そして、その結果を発表する営みをファクトチェックといいます。
これは、実はアメリカを中心に、もう二十年以上前からそういった民間での動きがありまして、そして、最近、フェイクニュースという言葉が流行語になった二〇一〇年代半ばに急速に、世界各国でファクトチェックの団体、メディアが急拡大いたしました。
最近、オシントという言葉も皆さんお聞きになったことがあるかと思います。オシント、オープンソースインテリジェンスですね。公開情報を駆使して、ウクライナ戦における様々な問題を民間レベルでデータを駆使して解明する。公開情報を駆使するという点ではオシントという営みとも類似をしておりますけれども、ファクトチェックは、それよりも更に厳格な固有の作法も持っております。
担い手は、伝統メディアのジャーナリストだけではなく、専門家や市民など、様々なバックグラウンドを持った方々がファクトチェックに取り組んでおります。主に、非政府、非営利の第三者型のファクトチェック団体が主流になっております。
お手元の資料に幾つかファクトチェックの事例を挙げておりますので、そちらの方は御覧いただければと思います。
世界では、ファクトチェックの活動というのは非常に活発に行われておりまして、北米だけではなく、欧州、中南米、アフリカ、アジアにも拡大しております。そして、国際ファクトチェック・ネットワークという団体が二〇一五年に発足をしまして、ここで国際的なルール、原則が定められました。非党派性、公正性、透明性という、こういった重要な原則を定めて、詳細な基準も定められております。この基準を満たしているかどうかを審査する国際団体がIFCNです。
そちらに加盟している、現在、世界各国の団体は、百二十四のメディア、団体が加盟しております。アジアからは、韓国、台湾、香港等、各国から加盟しておりますが、残念ながら、日本からはいまだゼロであります。これは、G20の中でも日本と中国、ロシアといった国しか、まだ加盟できていないという状況であります。
それぐらい日本でのファクトチェックというのはまだまだ不十分なところもあるわけですけれども、そういったことを乗り越えていくために、私を中心として、日本におけるファクトチェックの普及に向けた団体、これを、ファクトチェック・イニシアティブ、二〇一七年にNPO法人、設立をいたしました。
そして、この活動は、ファクトチェックそのものを行うわけではないんですが、ファクトチェックを普及させるための様々な取組をしてまいりました。
まず、そもそもファクトチェックというのは何なのか、世界でどういうふうに行われているのか、それをメディアを始めとする関係者の皆さんに情報提供をし、セミナー等を開き、そして、選挙期間においてファクトチェック、これは国民投票もそうですけれども、重要な選挙、今度の参議院選挙でも、我々、参議院選挙のファクトチェックプロジェクトを行う予定でございます。五年前の衆議院選挙、そして参議院選挙も行いました。
そういった選挙期間のファクトチェックプロジェクトを実施したり、あと、疑義言説と申し上げているんですが、真偽不明な情報を我々の市民や学生のスタッフがモニタリングをして、そして、これは怪しい、疑義のある情報や言説というものをファクトチェックを行うメディアに提供する、そういった取組をしております。
お手元の資料の中にもファクトチェック・ナビというものを御紹介しておりますので、そこで、数はそれほど多くありませんが、日本で行われたファクトチェックの事例が一覧できるようになっておりますので、もしよろしければ御覧いただければと思います。
こうした日本のファクトチェック活動も、我々の取組もありまして、コロナ禍を契機に拡大傾向にあります。ただ、まだ諸外国のように、専業でファクトチェックを行う、そういった方は日本にはおりません。ですので、量的にもまだまだ不十分というのが実情です。
そういった中で、憲法改正国民投票に向けての課題と提言についてお話をしたいと思います。
海外では、国民投票をめぐるファクトチェックも活発に行われております。お手元の資料に一つ、スイスは国民投票が非常に多い国だというふうに皆さんも御承知かと思いますが、そのスイスにおいても、国民投票の際に、公共放送を始めとするメディアがファクトチェックを投票前に実施をしているという事例を一つ、参考事例として添付をいたしました。
こういった取組をしているわけですけれども、もう一つ重要な論点として、国境を越えた誤情報の流通リスクが高まっているということを、我々、活動を通じて気づいております。というのは、このコロナ禍、そして、その前の大統領選挙もありました、非常に海外の情報が日本語に翻訳されて日本の中で流通するようになってきています。もちろん、日本の情報が海外に行くということもあるんですけれども、そういった中で、海外のミスインフォメーション、ディスインフォメーションが言葉の壁を簡単に越えて日本で流通する、そういうことも出てきておりますので、ここも一つ気をつけなければいけないポイントだと思います。
そういった中で、日本のファクトチェック活動を活性化させていかなければならないわけですが、まだまだ資金不足、そして人材不足というところがあります。十分な経験や体制を持った組織を準備していなければ、いざとなったときに迅速かつ有効な検証活動は行えません。来る国民投票までに、信頼できる経験値の高いファクトチェック専門メディア、団体が、一つではなく複数活動している状態が望ましいと思っています。また、情報流通を担うのはプラットフォーマー、プラットフォーム事業者ですので、そういった事業者の協力というものも不可欠だと思います。
基本的に民間の自主的な取組に委ねられる分野ではあるんですけれども、こういった検証活動、非常に難しい、人手のかかることであり、そして、民間の取組というものも少しずつは進んでおりますが、検証活動の独立性というものを担保した上での、何らかの公的な支援の枠組みの検討も必要かもしれないというふうに思います。さもなければ、ちょっと間に合わないかもしれない。国民投票がいつなのかはもちろん分かりませんが、それまでに十分信頼のできるファクトチェックメディアが複数活動している状態になっているかどうかというのは、少し不安な状況にあります。
ただ、憲法問題というのは、もちろん、意見、解釈をめぐる問題も多いと思います。あくまでファクトチェックというのは事実に基づいているかどうかということの検証というものにフォーカスを当てるものでして、それぞれの見解、どちらが正しいのか正しくないのか、軍配を上げることではありません。あくまでファクトについて検証するということですので、事実と意見をきちんと区別して、そして事実に関する問題について検証を行うということを旨としております。
一方、意見の問題というものは、様々な自由な議論というのは行われると思いますが、異なる立場同士の公開討論会のような場というものをたくさん設けていただくことによって、それぞれの意見、見解の相違点をより明確化できるとともに、また、事実関係の誤りというものや、そういったファクトチェックというものも、公開討論会の場を通じて共有するということが効果的なのではないか。
実際に、海外の、イギリスの国民投票でも、討論会においてファクトチェックの結果が共有されたりしたことがございます。そういった異なる立場同士の公開討論というものも、ファクトチェックというものを周知する重要な機会になるのではないかというふうに思っております。
最後に、まとめに入っていきますけれども、ファクトチェック、これは、偽情報対策として万能というものではありません。ファクトチェックもあくまで神ならざる人間が行っているものですので、人間が行っているものである以上は、誤りもゼロではありませんし、そして、偏りが全くゼロかというと、そうでもないかもしれません。ですので、民間の努力で行うわけですけれども、できるだけ多くのファクトチェック団体が増えること、要するに、多様なバックグラウンドを持ったファクトチェック活動が行われることが望ましいかと思っています。
そしてまた、課題は多いんですが、直接的にフェイクニュースの法規制といったようなことは決して望ましくないと思っています。それは非常に副作用が大きい。濫用の可能性もありますし、そういった法規制によらずに、効果は少し弱いかもしれないけれども、ファクトチェックという活動に、是非、活性化をするという方向に向かっていただきたいと思っています。そのことを通じて誤情報に対する人々の免疫力というものが強まっていく、そういう可能性は十分あるかと思っています。そういった施策ということを求めたいと思っています。
そして、最後に、あと時間も僅かですので、一言だけ申し上げたいと思います。
こういった偽情報の問題というのは、ネット社会だけの問題では当然ありません。メディアの問題でもあり得ますし、そして、政府も決してその偽情報の問題から無縁ということではないと思います。国会の場は、当然、事実に基づいた議論に基づいて、様々な法案の審議等がなされているかと思いますけれども、今回のコロナ禍において、果たして事実に基づいた議論が冷静に行われていたのだろうか。本当に、政府関係の部署から、あるいは自治体から、事実に基づいた情報がきちんと発信をされていたのかどうか。私は、ファクトチェックをしていた立場として、疑問に感ずることが多々ございました。
一例、詳しくは述べませんけれども、昨年冬、緊急事態宣言が行われたことは御記憶にあると思いますけれども、その昨年冬の緊急事態宣言において、東京都において重症者の病床使用率が一〇〇%近いということを連日報道、発表されておりましたが、実際は三〇%台だったということが後で判明しました。
これを明らかにしたのは私でございますけれども、そういった誤った情報に基づいて国民の自由や権利が制約されるということは、決してあってはならないというふうに思います。新型インフルエンザ特措法五条においても、国民の権利の制限というのは必要最小限に、新型インフルエンザの対策の実施のために必要最小限にとどめなければならないと書いてあります。
果たして、法の支配に基づいてそれぞれの政策が行われているのかどうか、事実に基づいて、データに基づいて行われているのかどうか。これは決してネット社会だけの問題ではなくて、国会の皆様においても、重々そういったところを意識していただきたい。
そしてまた、憲法審査会においては、将来的に、緊急事態条項も含めた日本の統治機構の在り方を議論されると思います。非常に立法府の、あるいは司法府、裁判所によるこういった行き過ぎがないかどうかのチェック・アンド・バランスですね、そして検証がきちんとなされているのかどうか、この仕組みが甚だ心もとないというふうに感じておりますので、そういった事実面の検証、そして政策の検証、これをきちんと行える仕組みづくり、これは今後の憲法審査会においても是非期待をしたい、これは一法律家として、一国民として一言最後に申し上げたいと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)