酒井正の発言 (厚生労働委員会)

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○酒井参考人 法政大学の酒井と申します。よろしくお願いいたします。
 私は、経済学の立場から、労働市場におけるセーフティーネットなどを研究しております。
 私は、職安法については余り詳しくありませんので、特に、雇用保険部会の公益委員として今回の改正法案策定の議論に参加してきた立場から、今般のコロナ禍によって改めて顕在化した雇用のセーフティーネットの問題と、それに関連して、この改正法案が持つ意義についてお話ししたいと思います。
 まず、今回のコロナ禍の労働市場と雇用対策について、私がどのように見ているか述べることから始めさせていただきたいと思います。
 御存じのように、おととしに、我が国でも新型コロナウイルスの感染拡大が始まった比較的早い時期から、雇用調整助成金の特例措置が発動されてきました。この雇調金の特例措置によって支給額は累計で五兆四千億円、支給件数にして五百九十万件以上ということになっており、この措置によって失業への流入が相当程度抑えられてきたであろうということは確かと思われます。
 ただ一方で、このような雇用維持策にもかかわらず、非正規雇用者数は大きく減少したというふうに理解しております。
 したがって、雇調金のような雇用維持策と同時に、コロナ禍で現に仕事を失った人々に対するセーフティーネット、すなわち、失業状態から脱出させるための施策として、求職期間中の所得保障ですとか、就労支援、職業訓練といったものを十分に機能させることが必要となると考えております。
 しかし、従来の雇用保険、雇用保険の本体である失業給付ですけれども、これは非正規雇用が受給しにくいという問題を抱えていることは、これまでも様々に指摘されてきたところです。
 というのも、非正規雇用は、就業が短時間、短期間になりがちであり、保険料の拠出を前提として給付を行う社会保険では十分に給付を行いにくいという側面があるからです。したがって、非正規雇用に十分なセーフティーネットを提供するには、保険料拠出と給付の対応関係を緩めた制度が必要になると考えます。
 この点に対応するのが、第二のセーフティーネットと呼ばれる求職者支援制度です。
 求職者支援制度は、雇用保険を受給できない求職者が、無料の職業訓練を受講し、一定の要件を満たす場合には月十万円の給付金を受給しながら再就職や転職を目指す制度であり、雇用保険制度の附帯事業として実施されております。
 この求職者支援制度はリーマン・ショックを契機に創設されたものですけれども、求職者支援訓練の受講者数は、十万人をピークにその後減少を続け、コロナ禍以降、若干の増加に転じておりますが、今年度は、目標受講者数の五万人に対して、一月までの実績となりますが約二万二千人ということで、残念ながら利用者数は低迷していると言わざるを得ません。
 その原因として、支給要件が厳し過ぎるのではないかという指摘があり、コロナ禍における特例として、収入要件、あるいは出席要件の緩和などが行われてきました。これらの措置については、まだまだ認知度が高いとは言えないというふうに考えておりますので、より一層の周知が必要ではないかと思います。
 ただし、求職者支援制度、この利用が低調な理由は、年収要件などが厳しいだけとは限らないとも思います。雇用保険から漏れ落ちている人であっても、必ずしも転職を希望していないということもあるかと思います。
 その意味では、先般、特例措置として、対象者が拡大され、在職者が転職を希望しなくてもスキルアップのために求職者支援訓練を受講できる、利用できるようになったということは、研究者の立場からすると非常に注目に値することだと思っております。このような特例措置の効果を十分に検証した上で、利用状況によっては特例措置の恒久化も検討すべきだと考える次第です。
 この求職者支援制度ですが、基本的に雇用保険から漏れ落ちた人たちのための制度ということですから、財源における相応の部分は雇用保険料以外から充当すべきというのはストレートな発想だと思われます。求職者支援制度の国庫負担割合、この本則は二分の一ですが、現行では五%にすぎません。今回の法案には、来年度以降当分の間、本則の負担割合の二分の一の五五%水準、すなわち二七・五%ですけれども、これに引き上げる改正内容が盛り込まれております。本則に完全に復帰というには至りませんけれども、本来あるべき財源構成に近くなったという意味では、ある程度は評価できるのではないかと思います。
 求職者支援制度の対象となる人々、この人たちには様々な人たちが含まれていると思いますが、その中には、通常の就労が困難で、何らかの通常の就労に困難を抱えているがゆえに雇用保険制度から漏れ落ちている人たち、そういう人たちも含まれるというふうに考えております。そのことを常に念頭に置いた上で、今後の求職者支援制度の在り方を長い目で考えていく必要があると思っております。
 次に、非正規雇用のセーフティーネットと同様に、このコロナ禍でもう一つ注目を集めるようになっている課題の一つとして、フリーランスのセーフティーネットの問題があるかと思います。その必要性については、私自身非常に強く認識しております。ただ、これを単純に雇用保険の適用を拡大するような形で救済するということは、実は難しいんじゃないかというふうにも感じております。フリーランスの方々については、失業という保険事故をどのように認定するか、この点が難しくて、また、仮にフリーランスに雇用保険を適用したとしても、実際に受給要件を満たすケースというのが非常に僅かになってしまうということがあり得るというふうに思うからです。
 むしろ、現行でもフリーランスの人たちは求職者支援制度を利用することが可能ですので、この点をしっかりと周知する、あるいは、更にその求職者支援制度をフリーランスの人たちが利用しやすくするような措置といったものが必要なのではないかと思います。
 今回の法案においては、雇用保険加入者が離職後に起業したがその後廃業した場合に、起業から廃業の期間は受給期間の進行を最大三年間停止することとして、基本手当を受給しやすくする仕組みが新設されました。個人事業主あるいはフリーランスの人々全般に対する救済策とは言えませんけれども、現行制度における適用の考え方を踏まえた上で、フリーランスの方々における失業の一定のケースに対するセーフティーネットになり得るものではないかというふうに思っております。
 多様な就業実態を持つ事業主、フリーランスのセーフティーネットの在り方について、雇用保険制度だけでなく、幅広い選択肢の可能性を視野に入れた上で、真に有効なセーフティーネットを検討していく必要があると考えます。
 次に、育児期間中の所得保障について意見を述べたいと思います。
 我が国の育児給付は、労使折半の雇用保険料と国庫負担を財源として雇用保険制度の中で行われております。OECD加盟国の中でこのタイプの国は、日本、カナダ、韓国の三か国のみとされております。
 拠出原則に基づく社会保険の仕組みで行われる現行の育児休業給付には、幾つかの課題があると考えられます。一つには、雇用保険制度の適用対象となる雇用者のみに受給資格が限定されることから、自営業者や無業者は対象となっていないといったこと。また、失業給付と同じように一定の被保険者期間を受給要件とすることから、非正規雇用などの短期間の就労者には受給しにくい可能性があるといったこと。こういったことが課題として考えられると思います。
 以上の課題については、雇用保険制度からの給付であるということがやはりその制約要因になっている部分もあると思われます。雇用保険制度による育休期間中の所得保障というのは、安定的な財源を確保しつつ、権利性のある給付を実現してきたという点でこれまである程度役割を果たしてきた、そのことは必ず評価しなければいけないことだと思っておりますが、今後、更に普遍的な制度としていくためには、今回の改正法案に規定されているとおり、育児休業給付とその財源の在り方について広く検討していくことが必要だと考えます。
 最後に、財政運営の在り方について一点触れさせていただきたいと思います。
 失業等給付の国庫負担割合については、これまで、労働政策審議会や国会における議論において、本則の四分の一に復帰すべきという意見が強かったと認識しております。また、今回の雇用保険部会においても、本則の四分の一に戻すべきとの主張は、労使双方より当初からなされておりました。しかしながら、今回の改正法案では、雇用情勢や雇用保険財政状況に応じた負担率の設定や新たな国庫繰入制度の導入という内容になっております。すなわち、労使双方の主張をそのまま反映した形とはなっていないというふうに認識しておりますが、この点については、雇用保険部会の位置づけ、あるいは政策決定プロセスなどの観点から、やはり残念に思う部分がございます。
 しかし、今回の改正法案を、コロナのような想定できなかったリスク、つまり社会保険の想定を超えるようなリスクが実際に起こり、雇用保険財政が逼迫した場合に、機動的かつシステマチックに国庫を繰り入れる仕組みが約束されたと見るならば、社会保険制度としての性質を保ちつつ、国も一定程度の責任を果たし得る仕組みなのではないかと評価できる部分もあるのではないかと思います。
 ただし、雇用保険部会でも繰り返し議論されましたが、この新しい国庫繰入規定の実効性が確保されるものかどうかという点こそが懸念であり、この仕組みのまさに肝の部分になると考えます。ですので、政府にはその誠実な履行を求めたいですし、審議会の場でもその実際の運用について不断にモニターし、実効性に疑問があるならば、その是正を求めていくことが必要と思っています。国庫繰入れの際の具体的な要件の妥当性も含め、今後も開かれた議論が行われていくべきと考えております。
 私からの意見は以上となります。どうもありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 酒井正

speaker_id: 29034

日付: 2022-03-15

院: 衆議院

会議名: 厚生労働委員会