鈴木一人の発言 (内閣委員会)

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○鈴木参考人 皆様、おはようございます。東京大学の鈴木でございます。
 本日、私からは、この経済安全保障推進法案に関するコメントとして、三点お話をさせていただきたいというふうに考えております。
 まず第一に、経済安全保障の概念の整理の問題、そして第二に、経済安全保障と自由貿易の関係について、そして三つ目に、経済安全保障とまた異なるコンセプトであるエコノミック・ステートクラフトというものとの関係についてお話しさせていただきたいと思います。
 まず第一に、この経済安全保障に関する様々な議論の混乱といいますか、定義に関わる問題、これは、様々なところで、この国会の中でも、また有識者の中の議論でも、経済安全保障って一体何なんだということが多く議論されています。その混乱の原因を私なりに考えてみたところ、これは三つのコンセプトが一つの経済安全保障という枠組みにあるので分かりにくいのではないかというふうに考えておりますので、少しそれを整理したところをお話しさせていただきます。
 一つが、いわゆるサプライチェーンないしは供給の安全保障ということで、これは、エネルギーですとか食料のほかにも、様々な素材ですとか、サプライチェーン全体ですね、これが、国際的な関係が深まっていく、相互依存が深まっていく中で、敵対的な国家、関係の悪い国家にもそうしたサプライチェーンを依存している状態、これは、国家の安全保障、経済的な関係をスムーズに行っていくことに対するリスクということになっている。
 逆に言えば、そうした依存関係が、チョークポイント、要するに首を絞めたらそこで首が絞まってしまう、死んでしまうような、そういう相手の肝になるポイントというのを握っている状態。これは、二〇一〇年、日本が中国との関係で、中国がレアアースの輸出を禁止した、こういうことがありましたけれども、まさにこれが、レアアースがチョークポイントということになっていて、こうした供給の安全保障というのが必要である、こういう議論があります。これは、現在の法案の中では、サプライチェーンの強靱化という形で対処するということになっているわけです。
 もう一つが、技術の不拡散に関する安全保障という問題がありまして、これは、伝統的に安全保障貿易管理と言われる分野において、貿易などを通じ、つまり経済的な手段を通じて、国家にとって重要な技術、これは他国の安全保障に関わるような技術ですね、かつては大量破壊兵器、核兵器や生物化学兵器などが問題になっていましたけれども、近年では、こうした安全保障に関わる技術が、AIですとかロボティクス、それからバイオテクノロジー、いろいろな分野において安全保障に関わる技術というのが非常に多岐にわたるようになってきた。しかもそれは、軍民融合という形で、軍事的に利用することも、そして民間で利用することも両方可能なものである。ですから、民間の貿易を通じて相手の国家に技術が渡って、それが安全保障上の懸念になるということが起こり得るということから、技術の安全保障、技術管理が大事だということで、経済安全保障の中にこれが含まれた。
 ただし、これは、サプライチェーンの話と技術管理の話というのは、基本的には同じ経済に関わる問題ですけれども、ベクトルが違うというか見ているところが違うということで、ここが一つ混乱の原因になっているのではないかというふうに思います。
 また、先ほど佐橋参考人等からお話もあったとおり、人権の問題などを含めて、今、他国に対して経済的な圧力をかける、そうした政治的な目的のために経済的な手段を使うという、これはまた後にエコノミック・ステートクラフトとしてお話しさせていただきますが、こうしたことが起こっていることが、これからの経済の安全保障上の問題、つまり、他国の政治的圧力のために経済を使われてしまう、そこからどういうふうに、この問題、我が国の能力を高めていくのか、どうやって守りを固めていくのか、こういうことが重要だという、この三つが経済安全保障の大きな枠の中に入っているがゆえに、どれが経済安全保障なのか、議論をするときも、皆さんが使っている経済安全保障という言葉がばらばらになっている。
 次のスライドですけれども、この中で重要になってくるのが、依存と脆弱性の関係だと思います。
 つまり、経済安全保障の鍵となるのは、他国に依存すること、特に、特定の国家に、とりわけ敵対的な関係にある国家に特定の品目を依存している状態というのが望ましくないということで、これはまさにサプライチェーンの問題として、この依存をいかに減らしていくのかということがこれからの経済安全保障の鍵になるというのと同時に、経済的な関係が深まっていくことによる技術の拡散、これをどうやって防いでいくのかということが重要な鍵になっていくのではないかというふうに考えております。
 次の論点であります経済安全保障と自由貿易の問題についてお話しさせていただきます。
 経済安全保障において、自由貿易との関係は、実は、これは対立ないしはなかなか矛盾する関係にあるだろうというふうに考えております。
 経済的な合理性を追求するものとして、これまで戦後長い間、自由貿易体制というのが国際経済秩序の枠組みにあったわけですけれども、それは比較優位に基づく生産の集中や特化をもたらし、それは場合によっては政治体制やイデオロギーや軍事的な対立、そういったものを含む相手とも経済関係を結ぶということを許容してきた、そういう側面があります。
 他方、現在の経済安全保障の問題というのは、政治的、安全保障上の合理性を含んだもの、つまり、自らの国家に対して敵対的な国家ないしはリスクのある場所、そういったところに生産ないしはサプライ、経済関係を結ぶこと、これに抵抗するないしはそれに対するリスクを回避するということが目的になっていきます。これは言い方を変えると、自由貿易にさお差す行為ということにもなるわけです。
 ですので、経済安全保障を進めていく上で、我が国が、CPTPPを始めとして自由貿易ルールに基づく経済秩序、こういったものを進めていく立場として、このバランスをどうやって取っていくのかということが重要になってくるかと思います。
 参考のところでつけました、WTOそれからCPTPPのところで安全保障例外ということをスライドでつけておきましたけれども、これら安全保障例外は、読んでいただくと分かると思うんですが、なかなか解釈が限定的である。特にWTOのガット二十一条というのはそういう状態になっているということで、安全保障だから、国家の国益に関わる問題だからということで自由貿易と経済安全保障の問題を折り合いをつけるということはなかなか容易ではないということですから、この経済安全保障推進法案の中でもかなりの神経を使って調整をされているということは理解はしておりますけれども、やはり、この点、引き続き重要なポイントとして示させていただきたいと思っております。
 三つ目の論点ですけれども、エコノミック・ステートクラフトということをちょっと御紹介しておきたいと思います。
 先ほども少しお話ししましたが、これは、他国の脆弱性を狙い撃ちにして、政治的意思や価値、これを強要することであります。つまり、ある国が経済的な手段を使って他国に自国のやり方を押しつける、こういうことになります。
 これはやり方は様々ありまして、例えば、現在ロシアに対して行っている経済制裁、これもエコノミック・ステートクラフトの一種です。停戦をしろ、戦争をやめろという政治的な意思を伝え、そして圧力をかけるために経済制裁というのをかけております。北朝鮮に対する経済制裁もそうであります。
 他方、経済援助において、例えばこういうことをすれば援助するとか、援助においてコンディショナリティーをつける、いろいろな条件をつけていくというのも、これも一種のエコノミック・ステートクラフトというふうに考えることができます。
 しばしば問題になるのは、これまでは自由貿易の枠組みの中ではこうした国家の権力を行使する形で経済的な行為を阻害することは認められてこなかったわけですけれども、近年、それを積極的に行うような国が出てきているということが大きな問題になっております。つまり、経済的な手段、特に経済力の大きな国、そういった国々が、自国の経済の、ここに市場の重力、マーケットグラビティーと書きましたが、多くの国がその国に輸出することを依存している、それが結果として、輸入を禁止するという形で経済的圧力をかけるということがございます。
 例えばですけれども、中国は、オーストラリアとの関係で、オーストラリアの石炭、鉄鉱石、それから農産品、また、ノーベル平和賞の受賞に関することで、ノルウェーからサーモンを買わないといったようなことが現実として起きております。
 こうしたエコノミック・ステートクラフトというのは、まさに経済的手段を使って政治的な圧力をかけることなわけですけれども、これをきちんと対処しておかないと、我々は他国のそうした経済的圧力に屈する可能性がある。
 そうした経済的圧力を受けないようにするためにも経済安全保障というのは極めて重要な問題になるんだということで、この経済安全保障法案、今この時期に議論されていることは大変重要なことだと考えておりますし、また、そのために、自由貿易の価値を守りながら、同時に、我が国の経済的な安定、そして、他国の政治的な圧力に屈しないようなそうした政策、法律の運用を目指していただきたいというふうに考えております。
 私からは以上です。ありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 120804889X01420220331_006

発言者: 鈴木一人

speaker_id: 27421

日付: 2022-03-31

院: 衆議院

会議名: 内閣委員会