山本和彦の発言 (法務委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○山本参考人 一橋大学の山本でございます。
 本日は、裁判IT化に関する民事訴訟法等改正法律案について意見を述べる機会を与えていただき、誠にありがとうございます。
 私は、現在、大学において民事訴訟法の研究及び教育に携わっておりますが、本日は、民事訴訟法の研究者として、また、裁判手続等のIT化検討会の委員、座長、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会の委員、部会長として、この問題の議論にこれまで関与してきた立場から、意見を申し述べさせていただければと存じます。
 さて、従来の民事訴訟のIT化が必ずしも十分でなかったことは否定できません。ただ、現行民事訴訟法も、平成八年の制定当時は、当時の技術を十分に活用するものでした。例えば、電話会議システムによる争点整理、ファクスによる準備書面の交換、裁判所間をつなぐテレビ会議システムによる証人尋問等を可能にしておりましたし、さらに、司法制度改革審議会の議論を受けて、平成十六年の法改正においては、一般的な形でオンライン申立てを可能とする民事訴訟法百三十二条の十という条文も設けられました。
 その意味で、私の認識では、平成の前半期は改革の時代と言うことができたのではないかと思いますが、残念ながら、平成後半は逆に停滞の時代になってしまいました。
 平成十六年の改正は最高裁判所規則の定めを前提にしていたものでありますが、その規則は先般ようやく成立したものの、十五年以上にわたって、実際上この条文は死文化しておりました。
 その意味で裁判のIT化というのは停頓していたわけですが、その結果として、この面での諸外国との格差は拡大する一方であり、IT技術の活用に元々積極的なアメリカはもちろん、ヨーロッパ諸国、さらには、アジアではシンガポールや韓国などにも次々と追い抜かれ、結果として日本は裁判IT化の後進国になってしまいました。
 その意味で、今回の改正は、やや遅きに失した感もありますが、必須のものであるというふうに考えております。
 今回の改正は、何よりも裁判利用者の利便の促進に着目したものになっております。オンライン申立てによって、裁判所に行かずに訴えの提起その他の訴訟行為を当事者が行うことができますし、電磁的記録のオンラインによる送達、いわゆるシステム送達というものも設けられました。また、判決書や期日調書、訴訟記録の電子化により、当事者は、自宅や事務所等から、裁判所の外からオンラインで事件記録を閲覧し、またダウンロード等もすることができることになります。
 さらに、ウェブ会議による口頭弁論期日や証人尋問等も可能となり、既に可能になっているウェブ争点整理も含めて、裁判所に実際に行かなくても手続を追行することができますし、離婚訴訟や離婚調停での和解、調停の成立もウェブ期日で可能としております。
 また、訴訟費用も、従来の収入印紙や郵便切手に代えて、郵便費用も手数料に一元化した上で、ペイジー等による手数料の支払いが可能となっております。
 このような形で、裁判所から遠隔地に居住している当事者や、高齢者等の物理的な移動が困難な当事者にとって、さらには離婚を望むDV被害者等も含めて、今回の改正は大きな便宜を与えるものであり、過疎化や高齢化が進む日本社会において裁判を受ける権利を実質的に確保する重要なツールとなり得るものと考えております。
 さらに、より一層の訴訟の適正迅速化を図る措置として、法定審理期間訴訟手続も設けられております。これはいわば民事訴訟のDX化とも言えるものであります。
 御承知のように、DX、デジタルトランスフォーメーションというのは、単に、紙を電子に、あるいは郵送、ファクスをオンラインに変えるというだけではなくて、そのような技術を活用して、仕事の仕方、手続の在り方自体を根本的に変え、ユーザーにとってより利用しやすい手続にしていく試みと承知しております。
 現在の民事訴訟の課題としては、当事者にとって審理期間の予測が困難であるため、その利用をちゅうちょする者が多いという点が制度利用者を対象としたアンケート調査で明らかにされており、結果として訴訟事件数が停滞、減少しているという問題点が挙げられております。
 法定審理期間訴訟手続は、IT化の利便を生かしながら、六か月以内の審理の終結をあらかじめ法定することで、当事者の予測可能性を確保し、民事訴訟の利用を促進しようとするものであります。
 また、近時の民事訴訟に求められるニーズとしては、当事者のプライバシーや個人情報に対する意識の高まりを反映して、秘密保護の充実という点も求められております。
 これに応えるものとして、今回、当事者の住所、氏名等の秘匿制度が導入されております。これは、DV被害者や性犯罪の被害者等が相手方当事者に自己の住所や氏名を知られることによって社会生活を営むのに著しい支障が生じるおそれがあるようなときは、これらの情報を秘匿しながら訴訟を追行する道を開くことでこのようなニーズに応えるものであります。
 ただ、他方で、このような手続は相手方の手続保障等とのバランスには慎重な配慮を要するため、かなり複雑、精緻な手続が設けられています。
 以上のような今回の改正案ですが、法制審議会等における審議の際の主な論点としては、幾つかのものがありましたが、ここでは二つだけ取り上げますと、第一に、いわゆる申立ての義務化の問題があります。これは、最終的には、弁護士、司法書士等の訴訟代理人についてのみオンライン申立ての義務化を認める方向でコンセンサスが得られました。
 一方で、当事者本人にまで義務化することは、長期的にはそれが望ましいとしても、現段階でのITの普及率等を考えると、やはり時期尚早であり、かえって当事者の裁判を受ける権利を害するおそれがあるものとされました。他方、弁護士等は、訴訟代理を業とする者として、IT化にもしっかりと対応していただく責務があると考えられるため、その利用を強制することで差し支えはないと考えられたものであります。
 第二に、先ほどの法定審理期間訴訟手続については、当事者の主張や証拠の提出が事実上制限され、粗雑、拙速な審理になってしまうのではないかという懸念が示されました。
 そこで、そのような懸念に応えるため、様々な措置が取られております。すなわち、対象となる事件類型を限定し、消費者契約や労働関係など当事者間に力の格差のある事案等を除外した上で、当事者の共同の申出ないし同意を手続利用の条件とすること、通常手続への移行の可能性や、不服申立てについても同一審級での異議を認めることなど、様々な工夫によって不適切な利用のおそれは払拭できたのではないかと考えております。
 また、審議過程で課題として指摘された点として、当事者のITサポート体制の確保の必要性があります。
 さきに述べましたように、今回の案は訴訟代理人に限ってオンライン申立てを義務化しておりますが、将来的にはやはり全ての当事者にこれを利用してもらうことが望ましいものであります。そのためには、様々な関係者によるITサポートが必要不可欠となります。
 裁判所には、まずもって利用しやすいシステムの構築が何よりも期待され、その際には是非、ユーザー側の意見も踏まえて、システムの構築や改善に当たっていただきたいと思いますし、弁護士会、司法書士会、さらには法テラスや地方公共団体等のレベルでも、当事者に対して十分なサポートシステムをつくっていただくこと、そして国にはその際に必要な資金面の援助等も求めたいと思います。
 この点では、特に、審議過程では障害者の問題が取り上げられました。法律の条文レベルでは規定は見送られておりますが、ITによるアクセスに様々な困難を抱える方々を社会全体でしっかりとサポートし、裁判を受ける権利を実質的に確保していくことの重要性については法制審議会でもコンセンサスがあったものと考えており、この点は法律施行後の運用に向けて改めてその重要性を指摘しておきたいと思います。
 それから、今回は民事司法の中核である民事訴訟についてのIT化を先行させるものでありますが、その他の様々な民事裁判手続、民事執行、民事保全、倒産、非訟、家事事件等、裁判所の全ての民事手続のIT化を今後迅速かつ着実に進めていく必要があります。この点は、現在、法制審議会でも審議が開始されたものと承知しておりますけれども、家事事件や倒産事件など、IT化が喫緊の課題である手続も多く、是非早期の実現を期待したいと思います。
 さらには、裁判所外の紛争解決手続においても、いわゆるODR、オンライン・ディスピュート・リゾリューションというものを進めていくため、その社会実装に向けた様々な基盤整備を図っていただく必要があるものと考えております。
 これらの結果、SDGsなどでもうたわれている、紛争解決において誰も取り残されない社会というものが実現されていくことを期待したいと思います。
 最後に、言うまでもないことですが、IT技術は日進月歩のものであります。今回の改正案は、私としては、現段階では最も適切なものであると信じておりますが、五年先、十年先を見通せば、決してそうではなくなる可能性があります。平成後半期の停滞を繰り返さないよう、現在の技術水準を前提に制度を固定化してしまうことなく、その時々の技術を積極的に取り入れながら、裁判のIT化というものを柔軟かつレスポンシブに進めていく必要があると思います。その意味で、法律のレベルでも、施行後五年経過時の検討規定というものが設けられているところと承知しておりますが、是非、適時適切な見直しをお願いしたいと思います。
 以上、甚だ雑駁なものではありましたが、民事訴訟法の研究者及び改正の議論に関与してきた者の立場から率直な意見を申し述べさせていただきました。
 今回の改正は、最初に述べましたように、平成後半期の日本の民事訴訟の停滞を打破し、国際水準に追いついていく大きな契機となるとともに、利用者の利便を改善するための必須のものと考えております。是非、この法律案が成立し、その内容が早期に実現することを期待したいと思います。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 120805206X00720220325_002

発言者: 山本和彦

speaker_id: 32734

日付: 2022-03-25

院: 衆議院

会議名: 法務委員会