別所直哉の発言 (法務委員会)
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○別所参考人 紀尾井町戦略研究所株式会社代表取締役の別所と申します。
本日は、貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます。
私は、一九九九年から二十年ほど、ヤフー株式会社の法務部門の責任者を務めてまいりました。その経験を踏まえまして、本日は、企業法務の観点、あるいはデジタルサービス、インターネットの専門家という立場から参考意見を述べさせていただきたいと存じます。
民事裁判手続のIT化に関しましては、昨年秋に行われました司法シンポジウムのパネルディスカッションにも出させていただいて、私見を述べさせていただくような機会もいただいております。
まず最初に、民事訴訟手続のIT化というものに関しては、必要であり、かつ、避けて通ることができないものであるという認識をしており、改正案の全体的な方向については異論はございません。
司法のデジタル化は、あえて司法のデジタル化と申し上げさせていただきますけれども、国民のための司法を実現する手段として必要かつ有用だと考えております。司法のデジタル化が的確に実現することができれば、司法手続の迅速化や透明性の確保に結びつくというふうに考えております。
まず、改正案で示されている、当事者の申出による期間が法定されている審理手続の創設、それから、住所や氏名等の秘匿制度の創設、人事訴訟、家事事件手続のIT化は、改正案どおりに進めていただきたいというふうに考えているものになります。特に、デジタル化が進展する社会における個人情報、プライバシー保護という観点からは、住所、氏名等の秘匿制度の創設は、本来であればもっと早期に実現されていてしかるべきものだったというふうに考えております。
それでは、改正案全般についての意見を述べさせていただきます。
まず最初に、先ほどデジタル化という言葉を使わせていただきましたけれども、IT化というのはITツールの利用を指すものではないというふうに理解しております。デジタルテクノロジーの発達によって様々なツールが開発されて、既に国民の一般の生活の中には取り込まれていることは御承知のとおりでございます。電子メール、チャット、SNS、オンラインの会議、大容量ファイルの送信システム、あるいは各種クラウドなどは、既に多くの人々が一般的に日常的に使用しているものになります。それらを利用するためのデバイス、スマートフォンとかタブレットとかPCというものも普及しております。後ほど課題についてはちょっと触れますけれども、ネットワークの回線というのも整ってきております。
こういった環境の中でITツールが使われるようになっているということだけではなくて、社会生活のデジタル化によって、訴訟に提出されてくるような証拠類も、オリジナルがデジタルというものが増えているというふうに認識しております。
例えば、多くの方がやり取りをしている電子メールとかチャットというのは、元々デジタルのまま存在しているものになります。また、一部では、契約書のデジタル化、特にコロナ禍の影響もあって、契約書のデジタル化というのが一気に進んでおりまして、デジタル署名がされたデジタル保管されている契約書というようなものも増えてきております。なので、書面だけではなくて、記載されるものだけではなくて、訴訟に関していうと、提出されるべき証拠類というのが、元々、オリジナルがデジタルというようなものが増えている状況にあるというふうになっています。
こういう環境を考えたときに、人々が一般的に使っているようなツールと似たような、同じような環境で裁判手続にアクセスができる、データをそのままデータとして裁判に提出することができるというようなことになれば、当然、利便性が高まりますし、アクセスが容易になるということは想像に難くないというふうに考えております。
一方、今、何回かデジタルという言葉を使わせていただきましたけれども、御承知のように、デジタル庁が創設されて、ITという言葉に代えてデジタルという言葉が使われている背景は、IT化の本質がデジタルデータの利用にあるということにほかならないと考えております。この点は司法においても同様で、考えるべきことはITツールの利用ではなくて、デジタル化されたデータをどう司法手続の中で活用していくのかという観点ではないかなというふうに考えております。
ただ、ITツールの利用というのはデジタルデータを使うための入口ですので、その入口を開けないことにはデジタル化まで進まないというふうに考えておりますので、ITツールの利用ということはデジタル化の入口として捉えるべきだというふうに考えております。
現在、多くの場で行われていることは、デジタルで作成された、つまりPC等で作成されたもの、デジタルで存在しているものを一回紙という書面にアウトプットして変形をします。それを訴訟に使うときには裁判所に提出をする。その裁判所が、紙のまま持っていたら、デジタルのまま使うことができないわけです。これをデジタル化するために、デジタルデータに置き換えをしてもう一度再成形をするというようなことというのは、一段階余分な作業を挟んでいるということになります。
デジタル化というのは入口から出口まで一貫してデジタル化を進めるということですので、そういった形でのデジタル化というのが目指すべき形ではないかなというふうに思っております。デジタルで作ったものを紙に変えた瞬間に、非常にデータへのアクセス性というのが落ちてしまいますし、データの持っている貴重な価値というものが全て失われてしまう、データとしての財産が失われるということになるというふうに思っております。
先ほど少し契約書のところで触れさせていただきましたけれども、今進んでいる契約書のいわゆる電子化は、若干課題があるというふうに認識しております。
なぜかというと、今、デジタル署名をしている契約書というのは、PDFと言われているファイルの形式に変換してそれに電子署名がつくというものです。PDFというものは一種の写真のようなものというふうにお考えいただければいいと思っていて、書かれている文字をダイレクトに加工したり検索したり、まあ、一部検索ができる形式もありますけれども、というのができないという形になっています。なので、PDFという形ではなくて、本来であれば、テキストデータと言われているもののまま保管ができて、裁判とかでも提出することができるということが望ましいと思っていますし、訴訟に提出するものも、先日、先ほどちょっと申し上げた司法シンポジウムで仮のシステムのものを少し拝見させていただいたんですけれども、その中にPDFをアップロードするというものがあって、そのPDFをアップロードするという思想で作られたものというのは、多分デジタル化からはかなり遠いというふうに認識しております。なので、デジタルデータをデジタルデータのまま使うというようなことが望ましいというふうに思っています。
そういうことをすることによって、例えば、主張の部分を一部書き写したりするというのもデジタル上でできるようになるというようなこともありますし、大量のデータの中から必要な部分を検索して使うということ、あるいは、将来的には、証拠や主張の分析をAIを使ってサポートしてもらうというようなことができるというふうに考えておりますし、裁判がなかなか進まないというような課題についても、デジタル化されていれば、そのデジタル化されたものを使って、どこで遅延が起きているのかというような分析を行って、手続を変えていくというような可能性というのは十分あるというふうに考えております。
また、全ての判決の公開ということも、判決文のデジタル化というところを徹底していただければ十分にできるというふうに思っていますし、判決文が公開されていくことで、いろいろな解析、裁判に対する分析というのを更に進めることができる、その結果、裁判結果の予測ができたりとか、場合によっては判断のばらつきがあるというようなことが見つかったりとか、そういうようなことが可能性としてはあるというふうに思っています。
こういうことができるようになるというのがデジタル化を進めていく意義だというふうに考えていて、そのために、その入口としてのITツールの利用というところを開けていただきたいというふうに考えております。
デジタル化を考えていくために必要な要素と課題について、お手元の資料に簡単に触れさせていただきましたけれども、ここで課題というふうに書かせていただきましたけれども、課題があるからデジタル化をしないとか、課題があるからITツールを使わないということを申し上げたいということではなくて、課題を課題として認識いただいた上で、避けて通れないデジタル化社会に向けて、司法手続のデジタル化を進めていただきたいというふうに考えているということです。
言わずもがなですけれども、インターネットを使おうということがいろいろなところに出てきますけれども、インターネットはベストエフォートで提供されているサービスになります。なので、品質保証が完全にされているわけではないというのが一つになります。
それから、インターネットを使うと、インターネットを多くの方々がインフラのように使っていますけれども、インターネットを一体誰がガバナンスしているのかということをきちんと考えていただきたいというふうに思っております。
インターネットガバナンスというのは、グローバルで、マルチステークホルダーという形でいろいろな国とか団体とか市民社会が参加して維持するという形になっていますけれども、このインターネットガバナンスへの議論にこの国は実はほとんど関与していないということです。
インフラとしてちゃんと使っていきましょうという以上は、インターネットガバナンスを守るというのは非常に重要で、インターネットに関する国の支配を強めたい国々があって、そういう国々と伍して今のガバナンス体制を維持していくためにも、インターネットガバナンスに対する国の関与ということが、後ろを支えるという意味で必要だというふうに考えております。
もう一点、デジタル環境のばらつき、既に御指摘の委員もいらっしゃいましたけれども、今、日本中、どこからでも安定してネットワークがつながっているというふうには必ずしも言えないということです。つながっているネットワークが、先ほど言いましたベストエフォートですので、いつ途切れるか分からないということです。
ITのツールは非常に便利ですので、例えばですけれども、証人尋問とかに使うことも当然、技術的にはできます。それは進めていただきたいと思いつつ、ただ、起きることを予測して様々な手当てが必要になってくるというふうに考えています。証人尋問で質問を重ねたいときに、回線が突然切れてしまって質問が続けられないというようなこともありますし、ITツールの一つの欠点は、相手方の状況が正確には分かっていないので、自分で一生懸命話しているつもりでも、相手方の回線の不具合で聞こえていなかったというようなことも当然起こり得るわけです。
こういうようなことが起きるということを前提に、いろいろなツールを選び、あるいは不具合が起きたときの対処をしながら使いこなしていっていただきたいということを考えております。
多くのものが最高裁判所規則に委ねられているというふうな形になっていますので、最高裁判所規則の方の規定の仕方あるいは運用のところがきちんとアップデートされていくということが極めて重要だというふうに考えております。そのために、定期的な見直しをしていただきたいのと、あわせて、技術レベルがどんどん変わっていきますので、その技術水準を追いかけることができるような人材を是非、司法の中で確保していただきたいというふうに考えております。
誰一人取り残さないために、今の現状では、全ての手続をインターネットを通じてという、必須にはしないという考え方自体は理解はできますけれども、ただ、現実、デジタル化を本当に進めたいのであれば、一気にデジタル化をするという選択肢の方がより有効だというふうに考えております。現状を見ながら、そこは手続を見直していっていただきたいというふうに思っています。
いつ一気にインターネットでの書面等の提出を義務化するのかというのは、一つの試金石になると思っています。基本的には、五年とかというのは非常に長い期間ですので、そういう期間を待たずに、できるだけ技術水準とかネットワークの進展状況を見据えて見直していただきたいというふうに考えております。
最後に、本件とは少し離れますけれども、デジタル化という観点からは、今後の検討課題というところに少し書かせていただきましたけれども、司法をめぐる、周辺にあるデータの整備というのがまだ遅れているというのが実情だと考えております。
戸籍とか不動産登記とか法人登記のデジタル化、そのデジタル化と併せて、データの悉皆性というのが必要になっております。現状では、不動産に関して言うと、所有者不明の土地というのが出ておりますし、実は、株式会社についても、株主が分からない状態の会社が存在していて、事業承継とかで既に問題が起きているというようなこともあります。基本になるデータをきちんと整備していかないとデジタル化というのは進みませんので、いわゆるベースレジストリーと言われているようなもので法務省が管轄しているものについては、データの悉皆性も含めてきっちりやっていっていただくことが重要かなというふうに考えております。
非常に雑駁ですけれども、以上、私の意見を述べさせていただきました。ありがとうございました。(拍手)
〔山田(美)委員長代理退席、委員長着席〕