松森彬の発言 (法務委員会)
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○松森参考人 弁護士をしております松森と申します。こういう機会を与えていただいて、本当にありがとうございます。
今日、私がお話しさせていただきますのは、期間限定裁判の件でございます。
この度の民事訴訟法の改正は、先ほどからお話がありますように、裁判の世界の方でもITを利用して、もっと使いやすい便利な司法にしようということでございますが、その中に審理期間を限定する裁判制度という提案がございます。これは民事裁判のIT化とは関係がございません。IT化は、先ほどからお話がありますように、各国進んでおりますが、このような期間を限定した訴訟というのは、先進国のどこにもないんです。したがって、これはIT化とは関係がないということをまず御留意いただきたいと思います。
私は、弁護士会の方では司法制度の在り方を検討する委員を長く務めていますし、また、ふだん、訴訟代理人の仕事をしておりますので、そういう観点から、弁護士あるいは弁護士会で議論してきたことを踏まえて、この期間限定裁判の問題について簡潔にお話しさせていただきたいと思います。
この期間限定裁判については、四つのポイントがあると思うんですね。
一つは、どういう制度か、どういう問題があるか。二つは、必要性があるのか。三つは、日本の民事裁判をもっとよりよくするためにはどうしたらいいのか。四つ目は、この提案の制度については既に反対意見がたくさん出ております。新聞の社説も出ております。そういうことを踏まえて、国会で慎重に御審議をいただきたいということを四つ目にお願いしたいことでございます。
最初の第一のポイントですけれども、ちょっと話が長くなって恐縮なんですが、簡潔にするために、今日、資料としてお配りしております、資料の一番のいわゆるポンチ絵というもの、二ページ、三ページに、どういう制度か、どういう問題かというのを書きましたので、それを見ながら聞いていただけるとありがたいです。
どういう制度かということですが、これは、原則、六か月の期間が来たら裁判、審理が終わるという制度です。
通常の裁判とどこが違うかですけれども、弁護士の先生方もたくさんおられると思うんですが、通常の裁判は、裁判が始まりますと、双方が主張を書いた書面を出したり証拠を出したり、あるいは裁判官が質問したりして、争点あるいは証拠を整理していきます。それが煮詰まってきて、お互いもう主張も証拠もありません、また、裁判官の方も請求を認めるのか認めないのか判断できますということになりますと、そこで結審して判決を出します。
ところが、この期間限定裁判は、六か月が来たら、原則、裁判官は終わらなきゃいけないんですね。もちろん何か例外は設けられていますけれども、原則、そこで裁判官は判決を書かなければならないということになります。
したがって、当事者も、六か月の間にできること、証人を呼び出してもらえるのかどうか、書類の取り寄せをしてもらえるのかどうか、そういうことがよく分からないままで裁判を進めなきゃいけません。
御承知のように、憲法は裁判を受ける権利を定めていますし、その裁判を受ける権利の中には、主張したり立証したりする権利、これを法律学では法的審問請求権という難しい言い方をするようですけれども、それがある。これはもう通説です。ところが、六か月ということで決めてしまいますと、事実上それが制約をされるんじゃないでしょうか。
そこで、弁護士や学者の方、あるいは国民の方は、何となく、これは制限されるんじゃないんですかと、裁判を受ける権利がね。それで、新聞の方も、そういう心配があるなということを書いておられるわけでございます。
それについて、裁判所の方は、これは裁判所が提案されているんですけれども、裁判所は、これは双方が同意しているときだから許されるはずだと言われるんです。
しかし、どうでしょう。早い裁判とそうでない裁判、そうでない裁判というのは、これまでの裁判を僕はそう言うわけですけれども、早い裁判ができました、そうでない裁判もあります、どっちにしますか、こう言われますと、やはり、早い裁判でやってもらえませんか、弁護士さん、こういうことになってくると思うんですね。それはいろいろ制約もあるんですと言っても、いや、早い裁判でやってくださいよということになっていくんじゃないんでしょうか。
だから、これは、自由な選択じゃなくて、どっちか選ばなきゃいかぬという変な選択を迫られるわけでして、選択肢が増えるいい提案ですよという、そんなのんきなことは言えないというのが私たち弁護士の間での議論でございます。
それから、いろいろリスクがあるので、先ほど山本教授の方からは、手当てをしたと言われるわけです。例えば、本人訴訟は、これは危ないから、本人さんはそんなに法律のことが分からないから、普通はこの裁判はできませんというのが最高裁の当初の提案だったんです。ところが、どうでしょう。今日お配りになっている法律案の六十二ページの三百八十一条の二から八というのがこの制度提案ですけれども、そこにはどこにも弁護士がついている事件に限るというような提案はないんです。
それについて、法務省の方は、本人が訴訟をする場合は適正な審理の実現を妨げることになると言われるんですけれども、私たち弁護士の間では、こんな抽象的なことで、果たして、両当事者がこの裁判でやってくれと言っているときに、裁判官が、いや、あなた方は駄目ですよというふうなことを実際に言うのか、やはり本人訴訟においてもこのリスクのある制度を使われるんじゃないかというように危惧しています。
また、先ほどもお話ございました、リスクがあるから消費者事件と個別労働事件は省いたと言われるんです。だけれども、どうでしょう。民事裁判というのは多種多様ですよね、交通事故もあれば、不法行為もあれば、不動産もあれば、売買代金もあれば。そういう事件はこの訴訟制度で使われることになるんですね。
これについて、法務省は、また手当てをしたと言われるんです。当事者の衡平を害すると裁判所が判断したときはこの裁判制度の使用を認めないと言われるんですけれども、これも、さっき申し上げたように、両当事者がやってくださいと言っているときに、当事者間の衡平を害するというような難しいことを言って、これを認めないということが現実にあるんでしょうか。
それから、通常訴訟への移行を認めるということが最終段階で出てまいりました。どういうことかというと、六か月で終わる裁判を、両方が希望して合意して出すんですけれども、リスクがあるから、途中で、やめた、通常訴訟でやってくださいよということができるようにしたんです。
だけれども、どうなんでしょう。この制度をつくるのは、当事者間で、早く、私たちは六か月ぐらいで終わる裁判をやってくださいと決めていても、守らない人がいるから法的拘束力のある制度が要るんだというのがこの提案だったんです。だけれども、今申し上げましたように、今配られている法律案も、途中で離脱ができるというんです。最初の立法目的は一体どこへ行ったんでしょうか。
つまり、リスクもあるわ、必要性もはっきりしない、そんな制度を、しかも、近代国家、どこの国にもない、それを、法制審議会の委員の先生方はそれはもちろん熱心に議論されたと思います、しかし、そのような危なっかしい制度をこの国日本に今導入して、危ないことはないんでしょうか、この日本のためになるんでしょうかというのが私たちの心配です。
それでは、どうしてこの制度が提案されたかです。
最高裁判所は、先ほどもお話ございましたけれども、国民は迅速あるいは期間が分かる裁判を望んでおられると。それはそうなんですね。だからこの制度を導入するというんですけれども、僕たちは、そこは短絡的だと思うんです。
なぜかといったら、どこの国だって早い裁判、期間の分かる裁判を望んでおられるんですけれども、だけれども、やはり裁判は事実を解明して権利義務を決めなきゃいかぬから、そういう国民の裁判を受ける権利を侵害するような制度はどこの国も採用していないわけですよね。だから、そういう制度を、期間が分かる可能性を高めるために、期間予測可能性を高めるために導入するということは非常に危ないことではないかなというように思います。
それから、この制度は一体どういう場合を想定されているかということでございますが、これについての説明は、事前に十分な交渉があって、事実関係については争いがなくて、例えば、契約書のこの条項について裁判所の判断を仰ぎたいというような場合だと言われるんです。だけれども、僕たち弁護士からしますと、そんなような事件は、両方の弁護士が裁判所に行って、ここのところだけ裁判所は判断してくださいと言えば、六か月ぐらいで、あるいはもっと短い時間で和解をするか判決をもらえると思うんですね。だから、想定されているような事件であれば必要性がないというように思います。
法制審の部会でこんなことがございました。経済界の、経済団体の方が、企業にこの制度について意見を求められたようです。そうすると、一番多かった意見は、特に反対はしませんというような意見だったというんですね。だから、もちろん、企業だけじゃなくて国民だって早い裁判を望んでいますけれども、この期間限定裁判を一体強く望んでおられるのは誰なのか、大きな需要があるのか、それだけの調査報告書があるのかということについてははっきりしていないというところでございます。
裁判の充実あるいは迅速化はみんなが望んでいることでありますから、これは進めなきゃいけません。だけれども、日弁連は、かねてから、裁判官をもっとやはり増やすべきじゃないかと。東京地裁の裁判官は、一人、常にですよ、百九十件の裁判を抱えておられるんです。それで早くしなさいと言われれば、もう証人調べをやらないとか減らすとかしかないわけでしょう。そういうのが今の裁判の実情ですよね。
期間予測可能性のある制度を設けて裁判の件数を増やすというのは、それはちょっと余りに小さい理由ではないか。もっと国民が裁判を利用しやすくするためには、やはり裁判にかかる費用の問題。ヨーロッパでは、弁護士費用保険をみんな、六割、七割の人が入っているというんです。そういう制度をもっとつくって、あるいは賠償金ももっと増やして、やってよかった裁判にすることが、国民がもっと裁判を利用することの道ではないかなというように思っています。
話を戻しますが、この制度について、今国民がどんな意見を出しているかですけれども、去年の春のパブリックコメントで反対が多数でございました。賛成は少なかったというふうに思います。
その後、先ほどお話のあったように若干修正がされたんですけれども、修正された案について、全国の十の弁護士会、福岡とか大阪とか全国の十の弁護士会が、今の修正された案でも、今日僕が少し聞いていただいたようなリスクがあって、必要性もはっきりしないから、それを導入すべきじゃないという会長声明を出しています。また、消費者団体は、主婦連始め主要三団体が十二月に共同声明を出しておられます。また、新聞の社説は、拙速な審理になるということを書いておられます。新聞社によっては二回にわたって社説を書いておられます。
そういう状況にあって果たしてこの国会で期間限定裁判を実現する必要があるのか、もっと慎重に審議をしていただく必要があるのではないかというように思っております。
結びですけれども、先ほどから聞いていただいたように、この期間限定裁判、正式名称は法定審理期間訴訟手続と言うようですけれども、この分厚い本の六十二ページに、三百八十一条にございますが、これについては今回の制度化から外してもらいたい。
民事裁判のIT化は、基本的に、やはり先ほどからお話がありますように、便利なことですし、慎重に手当てしてもらわなきゃいかぬというのはありますけれども、これについては慎重審議の上に制度化を進めていただきたい。
期間限定裁判については今回の法案から外してもらいたいというように、国民、あるいは先ほど申し上げた消費者団体、あるいはマスコミなどから意見が出ております。私たち多くの弁護士がそういう意見でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
ありがとうございました。(拍手)