神津里季生の発言 (法務委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○神津参考人 ただいま御指名を受けました神津でございます。
本日、このような機会をいただきましたことに、まず感謝を申し上げたいと思います。
以下、今回の法改正の案件の中でも、特に、いわゆる侮辱罪に関連する問題に重点を置きながら、私なりの見解を申し述べさせていただきたいと思います。
本日、この場にお呼びをいただくことになったきっかけは、昨年の十月二十一日に開催されました第百九十二回法制審議会におきまして、当時委員でありました私の以下の発言と、それに伴う対応であったかと思います。したがいまして、当時の議事録に沿って、以下、再度この場でそのままの内容をまず申し述べさせていただきたいと思います。
近年、SNSなどのツールを使った匿名による特定の個人への誹謗中傷行為は、目に余るものがあり、自らの命を絶つ事案まで生じてしまっているわけであります。精神的な苦痛を余儀なくされている方々が増えている現状を踏まえれば、こうした行為を抑止する策を講ずる必要性は大いに理解できるところであります。
一方で、侮辱罪につきましては、その行為が侮辱に当たるのかどうかの線引き、判断が難しく、現状では、科刑は年間三十件程度と聞いております。今後SNSの更なる普及が想定される中、本件については、厳罰化が及ぼす様々な影響を含めて、身体拘束の是非や名誉毀損罪における免責に類した取扱い等、幅広い意見を聞いた上で、慎重に検討を重ねるべきと考えます。今回の検討において、十分な議論が尽くされたとは言い難いのではないでしょうか。
本日採決ということでありますけれども、私としては、現時点で賛成若しくは反対という明確な判断を下す材料を持ち得ないというのが、率直なところでありまして、保留せざるを得ないということを申し述べさせていただきたいと思います。
以上の内容の発言をし、そして、採決においては態度を保留させていただきました。しかし、この法制審議会では、異例の短期間でまとめられた答申原案が、日弁連の大迫委員の反対と、そして私の態度保留を除く賛成多数で決定をされ、その内容がそのまま内閣提出法案として現在審議に付されているわけであります。
この案件は、その必要性が世の中でも大変目立っており、ここに至る異例の短期対応はそのことを反映しているものとも思われます。私自身も、労働組合としての発信の必要性、重要性を強く認識しつつ、ツイッター等SNSのアカウントを開設をし努力をしてきた中で、匿名の投稿による罵詈雑言やいわれのない誹謗中傷をしばしば受けてきましたから、何らかの対策が早期に必要なこと自体は大変よく分かります。
しかしその一方で、そのようなある種の分かりやすさばかりが先行して、刑法という世界において不可欠であるはずの歯止めの機能がなおざりにされているのではないでしょうか。私たち一般の大衆社会がその危険性に気がつかないまま、そして警鐘を鳴らすべきメディアの世界も気づかないまま、あるいは見て見ぬふりがされて、この改正案件がそのまま通過しようとしているのではないか、率直な危機感を禁じ得ないところであります。
今回の法改正がすぐさま悪用されるとか、権力者の恣意的な批判封じ込めに即使われるとまでは申しません。しかし、時間がたてば分かりません。時代が変化し、もしも国民の民主主義的な思考習慣が今以上に弱まっていってしまうと、時の権力者がこの条文を悪用する可能性は否定できないのではないでしょうか。そのような危険性は、民主主義的なマインドの劣化に反比例して高まっていくことも容易に想像されます。そのようなことが起きてしまえば、かつて我が国が陥ってしまったような、自由に物が言えない社会への入口に入ってしまいかねません。果ては、連日その有様が報道されるロシアを始めとした専制国家と何が違うのかということにもなりかねません。
そうなってからでは遅いのであります。今回の改正は、目的とすることについてはしっかりとその目的達成を目指し、一方で、目的としていないことについては生じかねない危険性の芽を摘んでおくということが極めて重要なポイントとなっているのではないでしょうか。そのことが、外してはならない課題となっているのではないか、そしてそれは、後世に対する私たちの責任として突きつけられているのではないかということをまず申し述べておきたいと思います。
具体的な懸念点を、以下、私なりの表現で更に申し述べておきたいと思います。
様々な問題は、先ほど触れました昨年十月の法制審議会において日弁連の大迫委員からも述べられましたし、また先ほど、同じく日弁連の趙参考人からもお話がありました。私としても同様の趣旨の認識を持つ中で、素朴な疑問も含めて、問題意識を申し述べておきたいと思います。
侮辱罪とは、刑法第二百三十一条の定めにあるところの「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」というものであります。
侮辱とは一体何でありましょうか。辞書を引きますと、他者を侮り、蔑み、ばかにしたり、罵ったり、ないがしろにすることとあります。このような侮辱という言葉の持つ様々な態様を考えますと、侮辱罪の対象自体は非常に広い範囲で捉え得るのではないかと思いますが、現状では、侮辱罪の事案は年間で三十件程度ということであります。これが、今回の厳罰化でどう変化していくのでありましょうか。どう変化していくと期待されているのでありましょうか。
法改正を経ても余り件数が増えないとすれば、侮辱罪に相当する事案そのものがそもそも少ないということで、実際にそうであれば望ましいことですが、果たしてどうなんでありましょうか。実際には、現状に大いに問題があり、侮辱罪に相当する事案の多くが表に出ていないのではないか、そういった見方があるのではないでしょうか。
先ほど、木村参考人から、心の底からの切実なお訴えをお聞きしました。改めて、二度とあってはならないことだとの思いを私も強く持ちました。私からも、木村花さんに対して改めて哀悼の意を表しておきたい、このように思います。
そして、私は、今回の議論を機に、埋もれている事案があるとするならば、それをできる限り表に出していくことは、更なる犠牲者を生まないためにも必須のことではないかと思います。先ほども申し述べましたように、侮辱という言葉の示す範囲が非常に広いこととも重ね合わせるならば、一時的に侮辱罪の事案件数が相当数に膨らんでいくことも視野に置く必要があるのかもしれません。
だからこそ、先ほど申し述べたように、目的としていないことについては生じかねない危険性の芽を摘んでおくことが必要なのではないでしょうか。
侮辱罪と同様に人の尊厳を傷つける罪である名誉毀損罪では細かい制約や免責の定めがあるのですが、侮辱罪にはそれがありません。同様の対応が不可欠であると考えます。
そして、言論等の表現に対する刑罰法規については、憲法が保障する表現の自由を脅かすことがないようにするための手だてが必要であります。公益的な目的で行われる論評や批判など、保護すべき表現については、正当行為や違法性の阻却事由になることを明文化するということがあってしかるべきと考えます。
海外の先進諸国における対策の動向についても、私からも一言触れておきたいと思います。
先ほど趙参考人からあったとおりなのでありますが、やはり、人権尊重を第一義とする民主主義陣営の各国においては、この種の事案に対しては、刑事罰で牢屋に入れてしまうというやり方から、民事で解決を図ろうとする方向に転換する流れが一般的である、このように聞きます。その下で、SNS対策を地に足の着いた形で強化すべく取り組んでいるとも聞きます。それは、権力の恣意で、侮辱されたから牢屋に閉じ込めるなどということが起きないようにする、その考え方が根底にあるからだと認識をします。
そのような意味では、刑法の改正もさることながら、改正プロバイダー責任制限法の早期施行や、発信者情報の開示請求がより早期に行われるための更なる改正に向けた検討促進であるとか、あるいは、その他の法整備によって刑事告発、あるいは民事の損害賠償の手続などが迅速に行われるような環境の整備を行う必要があると考えます。
以上、内閣提出法案に対する懸念点を申し述べてまいりました。
本委員会におきましては、立憲民主党・無所属会派から提出されている通称インターネット誹謗中傷対策法案が同時に審議対象となっております。ただいまるる申し述べてきた問題意識からしても、私は、この法案につきまして、是非真摯な議論を重ねていただき、今回俎上に上がっている問題に対する有効な解決策として採用されることを切望をいたします。
具体的にも触れておきたいと思います。
まず、この法案では、加害目的誹謗等罪を創設するとしています。人の内面における人格に対する加害の目的で人を誹謗中傷した者は、拘留又は科料に処するとしているところです。
先ほど来申し述べておりますように、単に侮辱と言っただけでは非常に広い概念を含んでおります。しかし、実際に事案として明確になる侮辱罪は、年間三十件程度ということです。このギャップは一体どういうことなのかということであります。三十件などという限られた件数であるはずはありません。実際には、屈辱にまみれながらも、訴えるすべを持つことができず、ひたすら我慢をし、耐え忍んでいる被害者が山のようにおられるのではないでしょうか。
そもそも、侮辱罪というかなりの曖昧さを有した枠組みをそのまま継続することでは、問題の解決には全くつながらないのではないでしょうか。量刑を重くすることで、これらのあまたの被害者が救われるようになるという、そんなに簡単な話であるとは私は到底思えません。
立憲民主党・無所属会派の提出法案のように、人の内面における人格に対する加害の目的で人を誹謗中傷した者と特定することによって初めて問題の解決に歩を進めることができるのではないでしょうか。このように特定をし、ターゲットを絞ることによって、対象事案の問題性がより一層明確にあぶり出されるのではないでしょうか。
以上、特に法制審議会で留保をした問題に関連した内容に絞って発言をさせていただきました。
悲劇は二度と繰り返されてはなりません。しかし、今も悲劇の温床は相当の範囲で広がってしまっているのであります。
多数を占める与党により淡々と内閣提出法案がそのまま通過をするようでは、問題の解決にはほど遠いと言わざるを得ないと思います。単なるアリバイづくりであったと後から言われることにもなりかねないのではないでしょうか。
一方で、数で大きく負ける野党の法案だからといって、そこに込められた問題解決への提案が採用されなければ、何のための国会審議かということになるのではないでしょうか。
以上、私からの冒頭の発言といたします。御清聴ありがとうございました。(拍手)