古川俊治の発言 (憲法審査会)
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○古川俊治君 投票価値の不平等に関する私の意見を述べます。
最高裁は、投票価値の平等は憲法上の要請であるとしていますが、その判断枠組みは、投票価値の不平等状態が国会の裁量権の限界を超えているか、合理的期間、相当期間の間にこれを是正する措置を講じないことが立法裁量の限界を超えるか否かという二段階であります。
仮に最高裁が投票価値の平等を人権論として論じているのであれば、定数不均衡による法の下の平等の侵害が国会の裁量権の限界を超えれば、直ちに人権を救済しなければならないはずであり、合理的期間の徒過や議論の方向性などを考慮することは人権論の救済としては妥当ではありません。
すなわち、最高裁が論じているのは、人権論というよりは立法不作為の違憲性の議論に近い、制度の議論であるということが言えます。制度としての選挙制度を考える場合には、投票価値の不平等の問題を最大較差で議論する最高裁の議論は選挙制度全体としての良しあしを考える上では適切な指標ではないと思います。なぜなら、投票価値の不平等は、一番上と一番下の都道府県の間のみに存在するわけではなく、上から二番目以降と下から二番目以降の都道府県の間にも存在するからです。
この点では、令和二年の判決の補足意見で草野耕一裁判官は、ジニ係数を算出すべきだと指摘されております。憲法審査会事務局の四十三ページにあります。
ジニ係数を用いれば、選挙制度全体としての不均衡が明確な数字として表されるからであります。実はジニ係数を用いると、人口が少ない、一票の価値が大きい島根、鳥取などの選挙区ですが、そこの議員定数を減らすことは投票価値の平等を実現するには非効率であるということが分かります。例えば、平成二十七年当時提案された最も合区を進める方向の案、二十県十合区案でありますが、これを行うと確かに最大較差は二・〇二倍まで低下するものの、ジニ係数は現行制度の一四・二二から一二・三一%にしか改善せず、全体としての一票の較差の是正は僅かしかないということが分かります。
すなわち、ジニ係数を小さく、すなわち投票価値の平等を実現するには、人口が多くて一票の価値が低い選挙区の議員数を増やすのが効率的ですけれども、現行の政治の下では、議員定数を増やすのは国民負担を増やすため、難点があります。
例えば、一票の価値の低い東京の有権者の多くは、東京選挙区の議員定数を増やして自分の一票の価値を上げることよりも、議員が、議員定数が一人増えることによる負担を嫌うと考えられます。最も不利益等を受けているはずの人が、その不利益の解消を強くは望んでいないという現実があります。
素直に考えると、投票価値の平等の議論は、専ら裁判所と一部の法律家の間で行うマニアの議論になっていて、一般国民の意識から乖離してしまっているのが現状だと思います。
草野裁判官は、違憲判断には、投票価値の不均衡が存在することによって一定の人々が不利益を受けているという具体的かつ重大な疑念の立証が必要であるというふうに論じております。投票価値の不平等の問題は、人権論というよりも制度論である以上、憲法四十七条が国会に広い裁量を付与していることからも、より緩和された違憲性判断基準が妥当するものと考えられます。
合区は、国政と地方自治の関係、特にこの両者を前提として機能している政党政治の在り方に重大な変更をもたらすものです。また、合区には、対象選挙区の有権者の政治意識に関する悪影響、悪影響を及ぼす、対象選挙区の間に人口差がある場合、人口の少ない選挙区の選挙民に被差別感が生じるなどの弊害が生じると指摘されています。投票価値の不均衡が存在することによって、一定の人々が本当に合区の弊害を超えるような具体的に不利益を受けているのかどうか、現在に至るまでその立証はありません。
参議院選挙において、合区の弊害をもってしてまで投票価値の平等を実現しようというのは、投票価値の低い都道府県の有権者を救うという実体のない正義の理念に振り回されているとの疑念が強く、是正すべきものと考えます。
以上です。