石井由梨佳の発言 (国際経済・外交に関する調査会)

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○参考人(石井由梨佳君) 御紹介いただきました防衛大学校の石井由梨佳でございます。国際法を研究しております。
 本日は、このような機会をお与えくださいまして、ありがとうございました。
 私の方からは、海底ケーブルの保護と管理に関して、主に法的な課題に絞って御報告したいと思います。
 お配りしましたスライドの三枚目以降に沿ってお話しします。また、三十ページ以降に関連する条文を掲載しておきましたので、適宜御参照ください。
 まず、海底ケーブルは情報化社会のインフラであり、その重要性については改めて申し上げるまでもございません。他方で、海底ケーブルは直径数センチの管でございますので、物理的に脆弱です。しばしば漁船の網やいかりなどに引っかかる場合がございますし、また地震等でも容易に破損します。二〇一一年、東日本大震災のときにはケーブルが破断し、数日にわたり通信に支障が出たことは御記憶に新しいかと思います。
 また、デジタル産業の成長に伴い、ケーブルの産業構造も変化しております。かつては通信事業者が主な出資者でございましたが、近年では米国のIT大手であるコンテンツプロバイダーがケーブル敷設に参画する例が増えてきております。さらに、ケーブルの敷設はこれまで民間事業者が担ってきましたが、米中対立が激化すること、していることを背景に、国家がプロジェクトに関与する例も出てきております。
 そのことを踏まえまして、私の方からは、主に国際法の観点から次の三つの点についてお話ししたいと思います。
 まず、海底ケーブルを規律する国際法規則の意義と限界についてでございます。特に、現行の国際法規則では海底ケーブルを十分に保護、管理できない場合があるということを御指摘したいと思います。第二に、その検討を踏まえまして、現行の日本国内法制の課題についてもお話ししたいと思います。最後に、海底ケーブルが持つ経済安全保障上の意義についても簡単にお話ししたいと思います。
 まず、国際法上の課題についてです。スライドの六枚目以降になります。
 海洋における法秩序といいますのは、海洋が全ての国にとって共有可能な開かれた空間であるということが基礎になって形成されております。現行の海洋法秩序は、一九八二年の国連海洋法条約において規律されています。国連海洋法条約は、海域を領海、排他的経済水域、大陸棚、公海といった海域に分けて、それぞれの海域において沿岸国とその他の利用国が何ができるのかと、あるいは何をしなくてはいけないのかということを定めています。
 簡単に申し上げますと、領海内におきましては沿岸国の主権が及んでいます。領海は国家領域の一部です。公海は全ての国がその利用の自由を享受するという開かれた空間であります。排他的経済水域ですけれども、ここでは特に漁業資源を含む天然資源の開発等に関して沿岸国の排他的な権限が及んでおります。これに対して、排他的経済水域における航行については、公海利用の一部としてその自由が全ての国に保障されています。
 海洋は、古来より遠距離の交流に不可欠な役割を果たしてきました。そして、十九世紀後半に実用化された海底ケーブルが国際通信の構造を変えたことは申し上げるまでもありません。
 そのことを背景にしまして、海底ケーブルの敷設は公海利用の自由の一部であります。排他的経済水域、大陸棚におきましても、その敷設等に当たり沿岸国の同意を得る必要はないというふうにされております。また、海底ケーブルが損壊された場合、その損壊をした船舶の旗国又はその者に管轄を持つ国が処罰などをしなくてはならないことになっています。これに対して、沿岸国はそのような管轄は持っていない。したがって、例えば処罰などをしたい場合には、その管轄を持つ国の同意を得なくてはいけないということになっています。もっとも、これらの自由を享受する際には、お互いに妥当な考慮を払う義務が課されております。
 このように、国連海洋法条約では、漁業資源の開発についての管轄は沿岸国が持つと、海底ケーブルの敷設についての管轄は事業者の本国が持つと、ケーブルを損壊した船舶の責任の追及についてはその船舶の旗国が持つと、あるいはその者に管轄を持つものが持つという形で管轄を割り振っているわけです。
 それぞれの国が効果的な規制を行っていれば問題はないのかもしれませんが、実際にはそのケーブルの保護のための効果的な法制を持つ国は少ないと言われています。多くの国は、一九八二年の国連海洋法条約、あるいはその前の一九五八年の公海条約を批准する際に制定した法律、場合によっては海底ケーブルが利用され始めた十九世紀の法律をまだ維持しているということです。日本も一九〇六年と、公海条約を批准するときに制定した一九六八年の法律があるのみであります。
 そこで、どのような問題が生じているのか、そしてどのような対応がされているのかを五点ほど具体的に御紹介したいと思います。
 第一に、まず領海の外側において外国漁船の過失によってケーブルが損壊する場合です。
 この場合、沿岸国にはそのケーブル損壊そのものについての管轄権は認められていないのは先ほど申し上げたとおりです。そこで、その沿岸国としましては、後にお話ししますケーブル保護区を設置したり、あるいはそのケーブルの所有者である事業者等を支援する体制を整備しておくことが必要になります。
 第二に、いかりを引き揚げるときにケーブルも一緒に引き揚げてしまうということもあります。
 この点、停泊したりするのは航行の一部ですので、航行の自由の一部ですので、これも沿岸国の権限は直接には及ばないと解されます。この場合も、やはり同じように保護区を設置したり、あるいは沿岸国と事業者との協力を行う、これが必要になってくると思います。
 第三に、ケーブル敷設や修理を行っている船舶に対して妨害を意図して漁船などが接近する例があるそうです。
 この場合、ケーブル敷設船舶の旗国は、漁船に対して接近しないように指示する権限というのは持っておりません。漁船ですので、沿岸国がその排他的経済水域において有している権限の範囲内においてそういった活動を制限することは可能だろうと言われております。
 第四に、私人がケーブルを意図的に損壊する例もございます。
 領海の外でそのような切断がされた場合に、沿岸国は管轄権を持たないということになります。この場合も、同じく船舶の旗国や容疑者の国籍国との協力が必要になります。また、損壊がされた場合の対応プロトコルを策定して関係国や事業者との間で協力する必要性も指摘されています。
 第五に、自然災害によるケーブル破断の場合ですけれども、これに対応するような国際法規則はいまだ確立しておりません。少なくとも、敷設する際にそういった災害リスクについて事業者と陸揚げ国が情報を共有しておくことが重要だと考えられます。また、既にされていますけれども、国内における陸揚げ拠点の分散やケーブル保護区の設置も有効だと考えます。
 このケーブル保護区ですけれども、これは、国連海洋法条約にはそのような制度はございません。沿岸国は排他的経済水域に、あるいは大陸棚において有している権限の範囲内で設置する、そういった区域、エリアになります。外国漁船の操業区域の指定は、排他的経済水域で沿岸国が有している権限であります。そこで、実例としましては、オーストラリアやニュージーランドがこのような保護区を設置しています。
 もっとも、これに対して懸念されるのは、沿岸国は国連海洋法条約が定めている権限を越えてケーブルを保護すると。ケーブルを保護するという名目で、実際はその排他的経済水域とか大陸棚におけるそのケーブルの敷設を制限しようとすると、これが懸念されています。
 例えば、国連海洋法条約上、沿岸国は領海の外におけるケーブルの経路設定については同意権は持っておりません。この点、国連海洋法条約の七十九条で、パイプラインについては沿岸国がそのケーブルの経路設定について同意権を持つとされておりますけれども、ケーブルについては沿岸国はそのような権限を持っていないわけです。また、自国に陸揚げされていないケーブルの敷設や修繕について事業者に許可を求める権限も、沿岸国は持っておりません。
 しかし、自国の排他的経済水域や大陸棚におけるケーブルの敷設や修繕について、その許可を必要とする国内法を持つ国もございます。条約では、沿岸国が大陸棚における資源の探査、開発等について適当な措置をとる権利を認めておりますので、そのような権利行使としてそのような規制を正当化する見解もあります。しかし、ここまで申し上げたケーブル敷設の自由がそれによって不当に制約されないのかという点も問題になりますので、この点は解釈の明確化が必要な論点となっています。
 最後に、国際協力についてですけれども、海底ケーブルに関する問題を扱う国際的なフォーラムは幾つかございます。特に、国際ケーブル保護委員会は、政府主管庁、ケーブル運用者など、利害関係者から成る国際フォーラムであり、情報共有やベストプラクティスの策定において重要な役割を果たしています。しかし、先ほど述べたような国際法規則の限界を乗り越えるために、例えば国家間の権限配分について再考したりとか、あるいは国際法上のケーブル保護義務を新たに設けたりするための国際組織というのはないというのが現状であります。
 このほか、例えば欧州海底ケーブル連合におきましては、海底ケーブルの所有者、運用者等の産業界のフォーラムというのがつくられており、欧州周辺のケーブル施設の保護を図っているというプラクティスがございます。また、アジア太平洋安全保障会議におきましては、二〇一四年に海底通信インフラの安全とセキュリティーについて覚書を採択しているということです。また、国連の薬物犯罪事務所のグローバル海上犯罪プログラムにおきましても、海上保安の観点から、海底ケーブルの保護と管理について指針などを策定しております。しかし、いずれも包括的にケーブルの管理などをしているわけではないというのが限界ということになります。
 以上を踏まえまして、次に、日本国内法上の課題についてお話ししたいと思います。
 スライドは二十一ページに移ります。
 日本では、日本の管轄に服する者がケーブルを損壊するかその危険を生じさせた場合には五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金が科されるということになっております。これは、国連海洋法条約で定められている旗国あるいはその私人に管轄を持つ国としての義務を実施するものであります。ただ、この罰則は軽微ですし、また適用された事例はないということです。
 さらに、電気通信事業法において事業者がケーブル敷設をするときに届出をする手続が定められておりますけれども、これは日本の領海の外の海底ケーブルには適用されません。すなわち、日本の大陸棚あるいは排他的経済水域を通過するケーブルについては、それを規制、管理する法制がないということになります。したがって、この国内法制につきましてはその見直しが必要なのではないかと考えます。
 既に日本は海洋基本法に基づいて海洋基本計画を設けて、海洋の包括的な管理を行っております。そこで、その海底ケーブルについても積極的な保護や管理をその計画の中に入れて検討していく必要があると考えられます。
 また、海底ケーブルの保護には各省庁や事業者の協力が必要になります。特に、そのケーブルの設置について所轄している総務省、それから損壊事故などが起きた場合の対応をする海上保安庁等、そういった省庁間の協力が必要になると考えられます。
 では、最後に、海底ケーブルと経済安全保障についても簡単にお話ししておきたいと思います。
 スライドは二十五ページになります。
 海底ケーブルの敷設や運用は、これも海運と同じく民間事業者が主体になって実施しています。海底ケーブルの敷設は巨額な事業ですので、コンソーシアムを結成して敷設や運用を行うのが通例となっているということです。しかし、これに対して、近年では、ケーブルの敷設に関して国家が直接関与をしたり、あるいはその運用に制限を付けたりすることが増えてきております。
 この点で特に着目されていますのが、いわゆる中国のデジタルシルクロードプロジェクトであります。これは、中国が一帯一路政策の一環として海底ケーブルの敷設を推進しているという動きであります。一帯一路政策の一部として道路や鉄道の建設を行っているわけですけれども、併せて通信インフラも整備すると。その中で、海底ケーブルというのはその中核的な、その計画の中核的な部分を占めているわけであります。
 デジタルシルクロードの象徴とも言えるようなプロジェクトが、二〇一七年から開始されているPEACEプロジェクトと呼ばれるものであります。これは、中国の通信事業者であるとか、あるいは銀行とかがコンソーシアムを結成しまして推し進めている海底ケーブル敷設プロジェクトであります。中国とパキスタンとの間には陸路ネットワークがありますので、この海底ケーブルによって中国とアフリカ、それからヨーロッパがじかに結ばれるということになります。
 安全保障上の懸念としては、まずこのケーブルを通じて、まず海底状況の常時監視が可能になるということが指摘されています。さらに、中国は陸揚げ局を通じてコンテンツを傍受していると、あるいは通信のコンテンツ規制をしているという調査も出ております。
 そこで、経済安全保障上の懸念から、このような展開を阻止しようとする動きもあります。二〇二〇年五月にトランプ政権下で開始されたクリーンネットワークイニシアチブはその代表例でして、これはアメリカとつながる海底ケーブルに中国のHMNの機器、ケーブルを接続することを禁止するような中身になっております。もっとも、このクリーンネットワークイニシアチブにつきましては、そのリスク評価の基準が曖昧であるといった批判もされているところではございます。
 以上申し上げたような動向というのは、日本の政策にも影響を与えると考えております。
 これ、ここから先はその考え方は分かれると思うんですけれども、まず、一方では、その安定した信頼できる海底ケーブルネットワークが必要であるということで、特に日本はいわゆる信頼ある自由なデジタル流通政策を進めておりますので、その一部としてもそういった海底ケーブルの安全性を担保する必要があるという考え方であります。
 しかし、他方で、ネットワークというのはつながっておりますので、日本だけ排除することにはほとんど意味がないどころか、日本にとっては不利益になってしまうと。そのことから、信用できない環境においても安全な通信運用を可能にするような技術を開発することが必要なんだという考え方もあるかと思います。
 また、いずれにしましても、海底ケーブル産業における日本企業のプレゼンスを維持する必要があるということは申し上げるまでもございません。
 以上、大変雑駁ではございましたけれども、私の報告は以上とさせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 石井由梨佳

speaker_id: 8519

日付: 2022-02-09

院: 参議院

会議名: 国際経済・外交に関する調査会