北岡伸一の発言 (国際経済・外交に関する調査会)

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○参考人(北岡伸一君) 北岡でございます。このように意見を述べる機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
 私の簡単なメモをお手元に配ってあると思いますが、最初に、その海洋の自由と、海洋について考える広い文脈といいますか、前提をお話ししたいと思います。
 今、自由で開かれたインド太平洋というのが二〇一六年に安倍総理から発言されまして、その後、トランプさんもバイデンさんもこれに言及し、支持するという形になっております。他方で、これは一帯一路と、中国の一帯一路と対抗するものというふうに理解していらっしゃる方多いんでありますが、私はそうではないという話から始めたいと思います。
 自由で開かれたインド太平洋というのは、日本の、近代日本の発展の大前提でございました。戦前、日本は、先進国であるヨーロッパと通商をし、旅行をし、また、東に向けてはアメリカと通商をしていったわけであります。こうした自由な貿易、資源の輸入、輸出というのが日本の発展の大条件でございました。
 それは無条件にできるものではなくて、戦前はこれを保障していたのは良好な日英関係でありました。一番典型的には、日英同盟の時代というのはこのインド洋辺りはイギリスが支配していたわけです。また、アメリカとも良好な関係があった、一九三〇年代まではそうでありましたから、これはアメリカがここにいたわけでありますが、ですから、戦後になってみますと、戦後も、この自由で開かれたインド太平洋、特に日本の中東への石油の依存とか、それからアメリカとの緊密な連携というのはやっぱり大変日本の発展の基礎でありまして、基礎条件でありまして、これを保障していたのは日米安保条約と言って過言ではないと思います。
 そしてまた、戦後の日本の発展は、単にこれらの条件に依存していたのみならず、日本の発展が東南アジアに及び、さらにインド洋に及び、この自由で開かれた太平洋と自由で開かれたインド洋を結び付ける役割を果たした、日本自身が積極的な貢献をしてでき上がったものだと言って過言ではないと思います。
 そしてまた、この地域の安全に対して日本は、少しずつではありますが、いろんな役割を果たすようになりました。中東地域に対するODAに始まって、そして湾岸のときには掃海艇を派遣し、その後、徐々にアデン湾の海上自衛隊の派遣等々、いろんな役割を果たすようになっているわけであります。これがあって、一帯一路というのは、むしろこれに対するチャレンジャーだと私は考えております。中国という元来は大陸国家がこの地域にだんだん力を伸ばしてきて、一帯一路ができてきたと。
 その中国の膨張の中にやや無視できない考え方がございます。それは、あるとき、アメリカの海軍高官、あっ、失礼、中国の海軍高官がアメリカの海軍高官に話した、また、それと同じようなことを習近平さんも言っているように、太平洋は十分広いから、ひとつ東はアメリカ、西は中国が安全を保障しようじゃないかということを言ったことあります。これは勢力圏の思想であって、我々が考える海洋の自由とは相入れないものだと思います。私はそのときにアメリカ側には是非、海洋の自由を守るのは力ではなくて国際法だと言ってほしかったんですけれども、まあ私はそう思っているわけであります。
 こうした広い地域を勢力圏で分けていこうというのに対して、そうではないと、広い海洋は通商に開かれ、そして紛争は平和的に解決されるものでなくてはいけないというのが我々の基本的な利害であり理想であるというふうに思っております。
 さて、こういう方向に向けてJICAが何をしているかということを申し上げたいと思います。
 まず、幾つかあるんですけれども、一つは、海洋に我々は取り組んでいくのに、海洋の利用をもっと促進していくと、いろんな格好で海洋を利用しようというのがあり、二番目には、その地域における法秩序の維持をどうするかという問題があり、三番目には、海洋の保全、汚染や何かから守ると、資源を守ると、こういうことであります。そして四つ目には、我々が直面している海洋の、特に一番近い太平洋の弱い部分、太平洋島嶼国の部分をいかにてこ入れしていくかという、そういう順番でお話をしたいというふうに思います。
 さて、海洋利用の推進は、これは古くからあるものでありまして、例えばマラッカ海峡の安全を守ると、それから、その大前提で海図を作るというようなことがございます。それは大変重要でありまして、それからまた、二番目には、港湾の整備。というのは、港湾が非常に効率的に運営されるものであると。日本の戦後の東南アジアへの発展の大きな前提は港湾の整備でありました。港があって、その荷役がコンピューターで管理されコンテナが自由に使われるというのは大変重要なことでございます。
 ちなみに、ここでちょっと余談めいた話をしておきますと、カンボジアにありますシアヌークビル港と、シアヌークビルという港はJICAが支援して造ったものでありました。ところが、何年か前に、これを株式を公開するという動きがあったんですね。そのときに手を挙げたのは、青島の公社でありました。我々は、これはまずいと思って、ここが中国の影響下に入ったら、その株式の一部なんですけれども、やがて全部に持っていって、その港湾の使い方が非常にオープンでないものになる可能性があると。ということで、これは、我々は、JICAのルールのぎりぎりまで頑張って、割合高い値段で買ったんですね。我々が取って、これをブロックいたしました。
 こういうふうに、海洋の自由というのは理想はあるんですけれども、その理想も、やっぱり一方で、我々の国益とどう調整していくかということを常に考えなくてはいけない、そういう例として申し上げた次第です。
 それから、今港湾の整備だと、大物は例えばハイフォンとかいろんなところでやっております。
 それから、最近非常に重要視されておりますが、通信用の海底ケーブルでございまして、これはJICAの出番はそんなに多くないんですけれども、マイクロネシアとキリバス、ナウルと、あの辺りの海底ケーブルを強化すると。これは、実は戦前も日本とアメリカの間でヤップ島問題というのがあって、通信網を誰が管理するかというのは非常に重要な問題でございます。
 御存じの方も多いと思いますが、イギリスの南西にはランズエンドというところがあって、ここは世界中から来たケーブルが地上に上がってくるところなんですよね。ヒトラーもそこにはかなり目を付けていたという、そういう場所であります。
 こういう通信の自由、通信のインフラというのは非常に大事であります。こういうところが今大きな課題になっているところであります。
 さて、二番目に申し上げたいのは、この海洋の法秩序の維持であります。
 これでやっぱり日本が開始して独自の力を発揮しておりますのは、海上保安協力でございます。そこに書いてございますように、ベトナム、フィリピン、インドネシア、スリランカ等にです。特に一番進んでいるのはフィリピンだと思いますが、この地域に海上保安庁をつくると。船を供与し、またその船員を教育すると。船員は選んで、政策研究大学院で一年間座学、勉強します。そして、残りの一年間は広島の海保の学校で勉強します。そして船を供与します。
 ですから、これは国内の法執行でありますから、軍事ではございません。しかし、多少の抑止力にはなるんですね。ドゥテルテさんなんかも、はっきり言えば、いやいや、我々、私、一番困っているのは麻薬だと、麻薬はどこから来るかと、中国人が大陸から持ってくるんだということを言っているわけです。ですから、その麻薬の取締り、密輸の取締りというのは、あんな七千も島のあるところで海上保安庁がなければできません。したがって、こういう島の多い国の海上法執行能力を強化するということが非常に大事で、日本の援助は大変感謝されております。
 最近は、これまで四十メートル級の巡視船だったんですけど、今度は九十メートル級の船を供与いたしまして、大変感謝されております。ここに海保の船が行けば、中国も南にも海保の船を割かざるを得ないと。ですから、そのせいで今、結構中国は南の方に海保の、海警の船を置いているんですね。そういう意味で、こうした海上の自由に貢献し、かつ日本の国益にもいろんな意味で貢献するということをやってございます。
 それから、次にございますが、法整備支援というのは、そもそも旧社会主義国、ベトナム、ラオス、カンボジア等ではきちっとした今日の国際政治経済に通用する法体系がございません。ですから、我々はこれを支援すると。
 日本自身が明治の初期に民法を作るということで大変苦労したわけです。民法、刑法、憲法、いろんな苦労をしましたけれども、特にきちっとした民法、商法がないと国際取引に差し障りがあるわけですね。ですから、日本はナポレオン法典をモデルにフランス系の民法を作った。三回やりました。三十年掛かりました。とにかく、外国のものを持ってきて、それが、国民が納得するものにするというのはなかなか大変なことであります。
 ですから、日本は、こうした外国からの法の輸入において最も経験のあり、最も優れた能力を持っているものでありまして、いろんな大学の先生の援助を得まして、大体ドメスティックな人の多い東京大学法学部の先生も協力してくれて、こういうことをやりまして、いろんなところで感謝されております。
 そして、次は、この法律に基づいて、まだまだ自由に行動できる弁護士さんの活動を支援するようになって、法の支配を強めていきたいというのが我々の念願でありまして、それは海上の法執行にも関係するし、国内の法執行にも関係し、やがて徐々に民主化につながるだろうと、こう期待しているわけであります。
 さて、その海上の、海洋の保全というのはこれまた大変重要なもので、先生方御存じの方が多いと思いますが、今、世界のカレントな話題は、イリーガル・アンリポーテッド・アンド・アンレギュレーテッドなフィッシングを禁止すると。つまり、きちっと法に基づき、そして総量規制した漁業にしないとサステーナブルではないと、これをきちっとしないと次世代が魚を食べれなくなるということでありまして、前のインドネシアのその海洋大臣というのは漁業出身の方だったんですけれども、女性なんですが、彼女は、魚をたくさん捕ることが私の利益ではないと、代々魚が捕れるようにすることが利益だと言って、大変そういう関心を持っておられました。
 それから、言うまでもなく、廃棄物対策、リサイクルというのが大変重要でございます。こういうことをして、ほかのことを含めて水産資源の持続的利用と、次の世代もその次の世代も利用できるようにしようと。
 これは、過去何十年かと比べてみれば、まあ別に中国だけを批判するわけじゃないんですけれども、中国人が食べる魚の量というのは物すごく増えているんですよね。これは世界の中でも非常なウエートを占めていますので、それをきちっと管理しなくてはいけないと。こうしたIUU、イリーガル・アンリポーテッド・アンド・アンレギュレーテッドな漁業の規制は、我々は、アジア太平洋だけではございません、西アフリカなどでもやっております。実際、例えば西アフリカで我々たくさん魚を捕っているんですね、あるいは輸入しているわけであります。ですから、これは、あるいは衛星を使って、あるいは船を使って、その不法な漁業が行われていないかということを我々は各地でやってございます。
 もう一つ、島嶼地帯にはやっぱり防災が非常に重要でございまして、津波も多いわけでありますし、この間もトンガでああいう事件がございました。
 それから、ここにはやっぱり再エネを入れていかなくちゃいけないと。日本自身、その再エネの導入についてはなかなか苦しいステップだったんですけれども、今我々は、再エネへのトランジション、移行をいかに支援するかと、計画を書くことを協力するというようなことも含めていろいろやっております。
 さて、四つ目に触れようと思いますのは、島嶼国支援であります。
 この太平洋に限って言いますと、一番広大な面積を占めている、そこにあるのは太平洋島嶼国です。これは、非常に人口が小さく、経済規模も小さいです。しかし、相対的にその所得はそんなに低くないんですね。ですから、普通の指標でいうと援助額は小さくなってしまうんですよ。しかし、それはまずいというのは私は思いまして、ここは、かつて私、国連大使やっておりました二〇〇五年には、この地域は大体全部日本側だったんですね。かなりもう今は中国側の手に落ちているわけであります。この地域をしっかりてこ入れしようと。
 で、この際、特にコロナがあってこの地域は何が困ったかというと、ほとんど観光で食っている国なので、財政的に非常に困ったんですね。ですから、ここでは緊急財政支援をするというのが大変感謝されました。また、医療が、能力が脆弱でございますので、これはこの地域に限ったことではありませんけれども、コロナが始まってから、JICAでは、世界保健医療イニシアティブというのを始めまして、世界の脆弱な地域の、医療、保健の脆弱な地域になるべく病院を造ろうと。それも、ただ箱物じゃなくて、人材育成と遠隔医療と、そういうものを全部一緒にしたコンプリヘンシブな病院を幾つか造ろうというのをやって、かなり進んでいるところでありますが、特にこの地域では重要だと思っております。
 また、この地域では、医療以前に、やっぱり栄養の取り過ぎと。肥満が大問題でありまして、これはもうかなり深刻な問題で、糖尿病になって足を切断するというケースが相当多い地域なんですね。これまたこの地域に限らず、世界の栄養のイニシアティブというのはJICAがリードしておりまして、二〇一六年のアフリカで始めたものなんですけれども、当時はIFNAと言いまして、イニシアティブ・フォー・ニュートリション・イン・アフリカと、つまりアフリカで飢餓に対して食料を供与するだけじゃなくて、良いバランスの取れた栄養を供与すると。特に最初の数年間に良い栄養を供与しないと発育不全になりがちだというデータからこういうのをやっているようなんですけれども、これが、今、栄養不足だけではなくて過栄養も対象にして、この辺りで特に注視、注意しております。
 また、島嶼国については、人材育成というのは大変重要でありまして、JICAは途上国からいろんな留学生を招くと。主なターゲットは若手の役人なんですけれども、これを日本に呼んでいろんな勉強をしてもらう。その中には、防災も農業も都市計画も、いろいろあるんですけれども、併せて日本の近代化の歴史を勉強してもらおうというプロジェクトを私が数年前に始めました。非西洋から苦労して発展を遂げたのは、日本が何といってもナンバーワンであります。で、文化とアイデンティティーを維持しながら発展してきたと、その歴史をどうぞ学んでください、まあ失敗もしたけれども、こういう国をつくったと、それの方がいいんじゃないかと。開発学というとイギリスに行く人が多いんですけれども、イギリスのように最初から先進国で、しかも皆さんを植民地にしたような国に行くより日本に来たらいいんじゃないのと言って、こう我々は呼んでおります。
 で、我々は留学の枠組みいっぱいあるんですけれども、例えばSDGsグローバルリーダーという枠組みで、この太平洋島嶼国から、毎年一つの島から二人ぐらいですけれども、呼んで勉強してもらいます。そして、彼らが成長し、親日家になれば、なると思うんですけれども、その国の発展にも役に立ちますし、また、それは、その影響は長くもつと思います。
 で、こういうので、我々は、日本で勉強してもらうだけじゃなくて、海外にも、JICAチェアといって、日本の近代化と戦後復興と、そして日本のODAについて勉強してもらう講座を世界の途上国百か国ぐらいにつくろうというのを私はもくろんで、今、四十ぐらいできました。二年ぐらいで四十ぐらいできまして、もうすぐ、あと三十ぐらいできそうなんですけれども、小さな講座を世界の、まあそれぞれの国の東大か京大か、そういうところにつくっているわけであります。
 この難点は、島嶼国ではあんまり大学はないんです。ですから、そういう対象があんまりないんですけれども、そこで代わりに影響を非常に、講師を、我々が頼っているのは青年協力隊、海外協力隊の人々であります。彼らは島嶼国で随分活躍してくれておりまして、中でも、例えばオリンピックというのは、失礼、スポーツの分野です。彼らがいろいろ教えたスポーツ選手というのはオリンピックに随分来ていまして、いろいろ活躍してくれております。
 スポーツと平和というのもJICAが力を入れているものの一つでありまして、それでもって来てもらうと。そして、ちょっと大学が少ないものですから、こういう国では協力隊の人に、もうあらゆる小学校を回って週一回ぐらい日本の話をしてもらうということをしてやっていきたいと。この根っこにあるのは、私は、国づくりは人づくりと、人づくりは国づくりという考え方でございます。そうして人材を養成する、それも親日家を養成すると。その結果、彼らはこっちを向いてくると。そういう人々をつくっていくことが大変大事だと思います。
 最近報道されました、ソロモンで中国と安全保障協定を作ったと。しかし、ロシア非難決議案では、太平洋島嶼国は全部非難決議に賛成です。ですから、そういう意味で、我々は、ちょっとずつその民主主義というハードルを少し下げて柔軟にして、こうした国々を取り込んでいくべきだ、いくべきではないかというふうに思っております。
 最後に一言なんですが、私は、この日本は東南アジアについてはASEAN中心主義でいつもやっているんですが、ASEANの中の特に重要な国、インドネシア、フィリピン、ベトナムと、そして我々の親しいパートナーであるオーストラリア、ニュージーランド、そしてこの島嶼国を合わせた地域を束ねて関係を密にして、そして将来はヨーロッパにおけるEUのような西太平洋連合というようなものをつくれないかなというふうに考えております。その中心になるコンセプトが海洋の自由だというふうに考えている次第でございます。
 時間が経過いたしました。どうも御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 北岡伸一

speaker_id: 5844

日付: 2022-04-06

院: 参議院

会議名: 国際経済・外交に関する調査会