原田正樹の発言 (国民生活・経済に関する調査会)
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○参考人(原田正樹君) 日本福祉大学の原田と申します。本日はこのような機会をいただき、ありがとうございます。(資料映写)
子供、外国人、引きこもり、社会的孤立、コロナ禍での生活困窮など、今日的な困難を抱えている人たちの現状や課題を踏まえ、それらを横断的にどう支援体制を考えていけばよいのか、私は地域福祉の視点から意見を述べさせていただきます。具体的には、法律で努力義務規定や任意事業になっているため、多くの市町村に普及しない、あるいは横展開されていない現状と課題を踏まえ、その解決に向けた意見を述べたいと思います。
まず、困窮、困難を抱えている人への支援体制といったとき、直接的に対応する制度は生活困窮者自立支援制度です。この支援制度があったからこそコロナ禍での生活困窮に一定対応できてきたと評価することができます。
スライドの二を御覧ください。
自立相談支援機関に寄せられる課題は経済的困窮のみならず、就労活動困難、病気、住まいの不安定、家庭課題など多岐にわたっています。いわゆる制度のはざま問題も含めて、複雑化、複合化した課題が顕在化してきています。
この調査では、寄せられる相談の半数以上が二つ以上の課題を抱えていることが明らかになっています。個人的には、困難を抱える人への支援として、この生活困窮者自立支援制度をどう大切に育てていくかが重要だと思っております。なぜなら、この制度の強みは、アウトリーチによる社会的孤立への支援を重視しているからです。
今日、アウトリーチという支援の大切さは認識されてきていますが、従来のような申請主義に基づく支援では対応できていないニーズが増加してきているからであります。ただし、本人同意の在り方、個人情報保護の運用などの仕方も含めて検討していただき、支援者が安心してアウトリーチができる環境を整えていただきたいと思います。
スライド三です。包括的支援体制が必要な背景についてまとめたものです。
左側の列にピンク色の現状があります。対応できているニーズとありますが、多くの人たちはここに当てはまります。保育のことで困っている、介護のことで困っている、御自身や家族の困り事が分かっていて、その分野の相談窓口にアクセスして、そこで相談支援が受けられる。ここに当てはまれば従前の分野別窓口の仕組みでよいわけです。ところが、その下にある対応できていないニーズ、ここがどこの地域でも顕在化し、今日増加してきているわけです。
スライドの四です。この対応できていないニーズを拡大してみました。
一つは、世帯の複合化の課題です。例えば、子供の貧困、ヤングケアラーへの関心が高まっていますが、そもそも子供だけに貧困があるのではなく、それは家庭の貧困であり、親子関係の貧困、さらには親自身にも生きづらさがあるわけです。
先日、ある自治体の要保護児童対策地域協議会に参加する機会がありました。そのときはヤングケアラーの事例検討が行われました。中学校一年生の児童ですが、母親が精神を患っているので、病院の受診をきちっとしていないというケースです。地域協議会には、御案内のように、学校教育関係者、児童福祉、心理職や小児医療など専門家が出席しているわけですが、当該児童の教育、生活、権利を保障していくためにどうするかが、話合いが進められていきます。ところが、途中から母親への批判になっていくわけです。児童が犠牲者で母親が加害者という構図になっていく。
これは、この自治体だけのことではありません。児童に関連する関係者だけが集まって児童を中心に話をしているとこうなることがあるのです。この母親には誰がアプローチするのか、母親のケアや治療をどうするのか、何よりもこの親子を世帯としてどう支えていくか、特定分野だけの関係者による話合いでは十分ではありません。
少し話が外れますが、こども家庭庁の懸念の一つはここにあります。子供を中心に、今までの縦割りの支援に横串を刺すということはとても重要なことでありますが、ライフステージを通して一生涯にわたる継続的な支援をしていくためにどう切れ目なくつなぐことができるか。地域共生社会や包括的支援体制の中から子供分野だけが離れてしまうことがないように留意していただきたいと思います。
八〇五〇問題というのも同様で、高齢者の支援を通して五十代の引きこもりの子供のことを捉えがちです。そうすると、五十代の引きこもっている子供が困った息子、娘になり、親が被害者という構図になりがちです。でも、五十代の子供から見たら違った家族関係に見えるかもしれません。
このように、世帯を支援するということは、家族一人一人のニーズを踏まえつつも、家族全体の支援の在り方を考えていかなければならないわけですが、介護保険制度も障害者福祉制度も基本は対象者本人への支援であって、世帯全体を支えていくという仕組みになっていません。
対象者別の制度や縦割りの枠組みの中で仕事をしている職員は、所属する枠組みを超えて支援するということが非常に難しくなってきます。結果として、多職種連携といって様々な専門家が集まって多くの課題を有する家族のカンファレンスをした結果、その家族がばらばらになってしまうという事態が生じてしまうのです。これは分野別福祉制度の一つの弊害と言えます。
次のところ、制度のはざまと呼ばれる問題も見ておきたいと思います。これは、制度のはざまがあるから新しい制度をつくればよいというわけではなく、制度があるからはざまが生じてしまうという逆説的な問題です。
つまり、従来の福祉制度は、ややもすると対処療法的な対応をしてきたわけです。結果として、例えば、現在日本の社会福祉施設の種別は六十種類以上にも細分化しているわけです。これに在宅のサービス事業所の種別を加えると更に多くなります。当たり前ですが、それぞれのサービスには利用できる要件、条件が付けられています。かつ、そこに従事する職員にも資格や研修が義務付けられていく。結果として、縦割りの構造、業界がつくられていくわけです。
例えば、ごみ屋敷に居住しているの支援についても、社会問題として注目されていますが、大阪府の豊中市社会福祉協議会のコミュニティーソーシャルワーカーは、ごみの問題から人の問題へとしたことで大きな功績があったと評されています。どこの自治体も、周辺住民からの苦情により、ごみ処理をどうするかが問題となります。担当部署は環境課なのか、福祉課なのか、掛かる経費は自己負担なのか、誰が負担するのか。
ところが、豊中市社協のCSW、コミュニティーソーシャルワーカーは、ごみの問題ではなく、そうした環境にいる人への支援を優先しようとします。時間を掛けて信頼関係をつくりながら、その人のことを知っていく。その結果、見えてきたことは、ごみ屋敷に居住するようになった要因は人それぞれであること。認知症や発達障害、精神障害、あるいは家族を喪失した、失業によって生活が破綻して生活する意欲そのものがうせてしまったなど、それに対しての個別支援が必要であることを明らかにし、そこに共通するのが社会的孤立状態であることを指摘しています。
この取組から学ぶのは、ごみ屋敷住居者支援法などといったそういう制度が必要なのではなく、ソーシャルワークを中心に、本人からの申請の有無によらず、専門職のアウトリーチによる包括的な支援を仕組みとして整備していくということです。
これから大きな社会問題になっていくと予測されるのが、社会的孤立であり、セルフネグレクトです。
社会的孤立が問題になるのは、こうした孤立状態が長期化することで自己肯定感が失われ、どうせ自分なんかというセルフネグレクト状態に陥っていく。そのことが様々な事象として顕在化してくることによって、社会的排除につながっていくおそれがある。この負のスパイラルをどう断ち切ることができるのか。
ここで強調しておきたいのは、こうした社会的孤立の背景に、家族、地域、企業の変化といった近年の社会構造の変化があり、社会的孤立の状況とそれに伴う生活困窮への支援の在り方は、社会全体で考えていかなければならないという視点です。
このことは、スライドの六にあります昨年十二月二十八日に公表された孤独・孤立対策重点計画の中でも盛り込まれています。基本理念として、孤独・孤立双方への社会全体での対応、人と人とのつながりを実感できるための施策の推進が位置付けられています。
スライドの七、御覧ください。この中では、基本方針として(1)、(2)、(3)、(4)といった基本方針を示し、柱ごとに具体的な各省庁による施策が盛り込まれています。
有識者会議の場でも発言したのですが、こうした一つ一つの施策や、NPO法人や社会福祉法人などで取り組まれている良いものが面としてつながっていないこと、ここが大きな課題であると認識しています。
入口としてNPOなどが、SNSなどを活用して多様な世代や立場にある人たちの声を受け止める。しかし、その後、継続的な支援として既存の社会福祉協議会や社会福祉法人につながっていません。逆に、公的な組織はNPOのような柔軟な対応ができないため、ニーズキャッチが十分できていないという指摘もあります。そのためにプラットフォームを形成することが必要とされていますが、実はこのプラットフォームをどうつくるかが難しいことです。誰がどの範囲でどういったプラットフォームをつくるのか。国のレベルももちろんですが、都道府県、市町村のレベル、あるいは地理的な範囲を超えて、テーマや関心によるプラットフォームを構築していく必要があります。こうした具体的な構想が必要になってまいります。
社会福祉の分野では、社会福祉法の改正をもって、包括的支援体制や重層的支援体制整備事業が施行されています。
包括的支援体制については、二〇一七年改正によって、社会福祉法百六条三によって法定化された仕組みです。この体制は、これまで高齢者を対象としてきた地域包括ケアシステムを普遍化することで、ゼロ歳から百歳、全ての住民を対象にして、自治体ごとに新しいセーフティーネットを構築していくというものです。しかし、この包括的支援体制の構築は自治体への努力義務にとどまっております。
今日私に与えられた、困難を抱える人への支援体制の在り方について回答するとすれば、全ての市区町村でこの包括的支援体制を速やかに構築していくことであると考えております。
この体制の特徴は、このイメージ図にもありますように、住民に身近な圏域において、地域の基盤づくりを地域住民と行政、専門職が協働して進めるという機能、これは(1)の部分です。さらに、多様な相談支援機関がアウトリーチをして、困り事を丸ごと受け止めるという総合相談の機能、(2)です。さらに、市区町村全体で多機関協働ができるネットワークを構築すること、これが(3)のところです。さらに、左下のところに点線で囲まれている部分がありますが、医療的ケアを要する児童などスペシフィックなニーズに対しては、全てを市町村の中だけで完結するということではなく、都道府県や広域で支援をしていくという体制です。
こうした包括的支援体制については、各自治体が策定する社会福祉法第百七条の地域福祉計画に盛り込むことになっています。
さきの法改正で、地域福祉計画の策定は努力義務になりました。しかしながら、策定率は二〇二一年四月一日現在で八〇・七%です。いまだ三百三十六自治体が未策定です。都道府県による策定率も大きな開きが出ており、都道府県別の市町村策定率が一〇〇%のところが十五府県ある一方で、いまだ五〇%台が六道県あります。市町村の受け止め方の問題もあるでしょうし、都道府県による市町村への支援の在り方が問われているのではないでしょうか。とはいえ、地域福祉計画が法定化されて二十年がたちます。重要な施策については、いつまでも先送りするのではなく、介護保険事業計画、障害福祉計画と同様に策定の義務化を検討する必要があると思います。
ただし、市町村の現場では数々の種類の行政計画の進行管理に追われており、とても負担が増しています。これは計画だけのことではなく、縦割りの制度ごとに協議体をつくったり、特に地域づくりに関しては類似した施策が多くあります。自治体ごとに棚卸しをしなければ、こうした新しい施策は屋上屋を重ねることになり、職員の負担増になりかねません。とはいえ、市町村が勝手にできることではありませんから、国がしっかりと方策を、方針を示すべきかと思います。
二〇〇〇年までの措置の時代には求められなかった、自治体ごとに地域福祉を推進する企画力、各部署や関係機関の調整力がこれからの自治体には求められてまいります。それは単に職員個人の資質だけではなく、社会福祉法第十四条に定められてきた福祉事務所としての機能や組織そのものの見直しが必要な時代になってきたと言えます。市町村に地域福祉課やあるいは福祉政策課などが増えている背景もここによるところと思います。
これから人口減少社会の中で、単身世帯が増加し、ますます社会的孤立が進展するなど課題が山積していく二〇二五年問題、二〇四〇年問題に対処していくためには、一九五一年の社会福祉事業法以来、七十年間にわたり積み上げてきた社会福祉の枠組みをこの場で一度再点検をし、必要な改革をしていく転換期にあると思います。
地域共生社会による政策とは、直面する課題解決の方策としてだけではなく、将来に向けた改革のビジョンを示していくことが必要かと思います。その意味で、憲法二十五条の生存権や十三条の幸福の追求権を今日的にどう保障していくか、そのための行政責任と役割を果たしていくために、福祉事務所、児童相談所、障害者の更生相談所など、行政の福祉組織、あるいは社会福祉主事など任用資格について多面的に見直す時期なのではないでしょうか。
二〇二一年度からは、社会福祉法百六条の四で法定化された重層的支援体制整備事業が施行されました。この事業は、さきの包括的支援体制を具体的に推進するために、相談支援、参加支援、地域づくりという個別支援から地域支援までを一体的に実施するという事業です。属性、世代を問わない相談・地域づくりなど実施体制に向けて、財政的にも一体的行使が、執行ができるという画期的な事業が位置付けられました。
しかし、これも任意事業です。初年度では全国で四十二自治体しか実施せず、令和四年度からは、現時点で百三十四自治体、移行準備に向けた自治体も二百二十九自治体という状況です。スライド十四は今年の四月から施行する自治体、スライド十五は移行準備に取り組む自治体の一覧になっております。厚生労働省、都道府県挙げて市区町村への後方支援をしているとのことですが、速やかに実施できるよう働きかけていく必要があると思います。
この事業に関しては、縦割りになっている行政組織を束ね、役所内の庁内連携が不可欠です。市町村長を始め幹部職員の理解がなければ推進できません。それには議会での協議も必要になってまいります。
ただし、課題ばかりではありません。前回報告された野洲市を始めとして、自治体ごとに創意工夫している自治体もたくさんあります。この後のところは幾つかの事例紹介になります。
例えば、長野県茅野市は、人口五万ですけれども、市内四つのエリアに保健福祉サービスセンターという拠点を設置し、より身近なところで総合相談支援を行っています。
愛知県東海市は、ゼロ歳から百歳の地域包括ケアシステムを標榜して、医師会、歯科医師会、薬剤師会始め、市民と協働しながら市独自に地域包括ケア推進計画を推進してきました。
富山県氷見市は、三十年前から地域福祉の推進に力を入れ、地域にはケアネットといって、一人一人を支えるソーシャル・サポート・ネットワークが八百六十二チームもできています。市役所には、ふくし相談サポートセンターがあり、コミュニティーソーシャルワーカーがアウトリーチをしたり多機関協働のコーディネートを務めています。
三重県伊賀市は、医療福祉政策課を設置し、庁内外のコーディネートを分担する仕組みをつくっています。
そのほか、三重県の名張市、まちの保健室、あるいはこの後御報告ある千葉県の中核地域生活支援センターの取組、あるいは高知県のあったかふれあいセンター事業など、挙げれば切りがありませんが、好事例をどう横展開できるかが課題です。
先進的な自治体に共通するのは、地域ニーズの分析と課題解決に向けた方策、将来のビジョンを有していることです。ただし、繰り返しですが、二〇〇〇年の地方分権一括法の施行以来、地域間格差が広がっていることに対し、市町村への支援の在り方を見直す必要があると思います。
最後に、困難を抱える人たちの支援体制として、専門職の配置と専門職支援について意見を述べたいと思います。
厚労省に設置された地域共生社会推進検討会では、対人支援において今後求められる支援として、従来の課題解決型支援だけではなく、つながり続けることを目指すアプローチとして、伴走型支援の必要性を提起しました。これは、社会的孤立が深刻化し、セルフネグレクトの状態に陥っているような対象者に対し、半年や一年という期間で生活を変える、課題を解決するというアプローチがかえって本人を苦しめることになるおそれがあること、また、本人に寄り添う支援をすることで、結果として就労や自立にすぐに結び付かなくても、その人との関係ができたこと自体が価値ある支援だという認識です。
こうした支援は、時間もエネルギーも必要とします。また、支援者自身が燃え尽きないように、支援者を支援する機会も大切になります。何よりも、専門職として育っていく過程が大切になる。ところが、こうしたことを正当に評価し、支援者が安心して伴走型支援ができる雇用条件をつくらなければなりません。
例えば、行政からの業務委託仕様書や人件費の積算根拠への配慮がなければ、決して良い支援にはつながらないのではないでしょうか。五年ごとに事業者が変えられ、人件費を安く抑える業者が選ばれるような仕組みでは、専門職は育ちません。
現在、社会福祉の分野は、資格や職種が過剰なほど乱立し、それぞれの研修のノルマも課せられています。これ以上新しい資格を創設するよりも、既存の資格等を見直し、人材確保だけでなく、今いる現有の専門職が安心して働き続けられる雇用条件や任用の問題を解決していくことが結果として現場の専門性を高めていくことになると考えます。
最後のスライドです。
これは、私が申すのも変な話なんですけれども、令和二年、地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律に対して参議院による附帯決議を示していただきました。これが大変重要なことだと思っております。
今日取り上げた包括的支援体制や重層的支援体制整備事業を推進するには、伴走支援、多機関協働、アウトリーチ、こういった新しい機能が必要であるということ、それに向けての必要な財源の確保、市町村への支援方策の必要性が附帯決議には既に述べられています。
とりわけ、法案では曖昧であった専門的な担い手として、社会福祉士、精神保健福祉士といったソーシャルワーカーの活用が明記されています。このことについて、法の施行後の現状をモニタリングしていただき、この附帯決議の内容が確実に施行されることを期待しております。
以上です。