角南篤の発言 (予算委員会公聴会)
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○公述人(角南篤君) 今日は、お招きいただきまして、ありがとうございます。
私の方からは、限られた時間ではございますけれども、現在、我が国の中で非常に推進をしております経済安全保障についてお話をさせていただければと思っております。
御案内のとおり、経済安全保障というのは世界でも非常に注目されている課題でございまして、これに向けて、今回我が国では初めて経済安全保障を担当する大臣を設置するということで世界からも注目をされているところでございますが、それに伴いまして、現在、御案内のとおり、経済安全保障推進法案ということで今国会の中で議論がされるというふうに伺っております。今日は、それについて少し私の意見を述べさせていただければというふうに思っております。
まず、資料に沿って話をさせていただきますが、一枚めくっていただきまして、我が国が推進する経済安全保障と、そして、よくこれに伴って使われている言葉でエコノミック・ステートクラフトということがあります。
なかなか、こうした概念というのが一体何を意味しているかというのがなかなか分からないというところがございまして、今日はまず、私が考える、まず、我が国にとっての経済安全保障というのはどういうことを目指すべきかということを少しお話をさせていただければと思います。
いろんな定義があるわけでございますが、私は、この社会経済システムを伝統的・非伝統的安全保障課題ということで、非常に幅広いこの課題というものからこの社会経済システムを守り、そして同時に、この強靱な社会経済システムを活用することによって、こうした脅威に対して課題解決に活用していくというところを考えるべきではないかというふうに思っております。
伝統的といえば、軍事的脅威ということでございますが、これは今、もちろんウクライナではもう大きな戦争に発展しております。具体的に軍が侵攻して行われている脅威でございますが、それ以外にも、非伝統的課題というのは我が国でも非常に大きな脅威として出ています。これは、気候変動であったり自然災害、それからテロ、海賊問題というようなこともありますし、感染症あるいは金融的な危機ということもあります。
こうした幅広い脅威というものを、我々のこの社会経済システムをどうやってそこから守り、そしてそこから、自らこのこうした課題に対して解決も出していくと、こういうことを考えるのが経済安全保障ではないかというふうに思っております。
参考までに、現在、政府の中で、法案の方で書かれている定義はそこに書いておりますけれども、それよりは、私は割と広めにこう考えているというのが現状でございます。
それから、エコノミック・ステートクラフトというのがよくこの議論の中で出てくるんですが、これは国際関係論の中で、一九八〇年代に、当時私はコロンビア大学の博士課程の学生だったんですけれども、デービッド・ボールドウィンという先生がいらして、それで八〇年代に「エコノミック・ステートクラフト」という本を出しました。それは主に、経済制裁の効果、つまり、ここに書いてありまして、一言で言うと、国家が自らの戦略的目標を達成するために経済的手段によって他国に影響力を行使すると。つまり、経済的な手段を使うことによってある国家的戦略を達成するということをエコノミック・ステートクラフトと当時は言っておりましたが、なかなか現実問題として、実際にそれで効果が上がったのかというところは常にこの研究の間で議論がございまして、効果の実証の問題、あるいは実際に実効性の課題ということをかなり言われております。
今回も、ロシアに対して経済制裁を考えたときに、やはりみんなが一つになって経済制裁をしないと意味がないんですが、やっぱりそこに温度差が必ず出てくると。一国や二国は参加しなくなってきて、なかなかその経済制裁って効果性、効果的なのかという議論が常に、今回もありましたけれども、そういった意味では、この効果が本当にあるのか、あるいは実際にこのエコノミック・ステートクラフトを実行したときに実効性があるのかと、これは研究者の間でも常に議論があるところです。
言われているのは、エコノミック・ステートクラフトはアナウンスメント効果はありますということで、これはもう最初からみんなで、ああ、それは絶対私たちは認めませんよというメッセージ効果というのが言われていますが、実際にこれを実動すると、基本的にはお互いに報復の応酬が始まってどんどんエスカレーションしていくと。じゃ、出口がどこに行くのかというところの議論が常にありまして、今言ったような形でこのエコノミック・ステートクラフトというのは研究の対象には結構なるんですけれども、実際にこれを実行していくということについては幾つかの課題があるということです。
このエコノミック・ステートクラフトと経済安全保障というのは同じではなくて、経済安全保障というのはもちろんもっと大きな、先ほど申し上げた概念で今我々はこの議論をしているんだろうという私の理解です。
めくっていただきまして、この背景に、これも皆さん御案内のとおり、先端技術をめぐって米中の覇権争いが顕著になっているということがあると思います。我々の研究の中でテクノヘゲモニーの分析というのがあるんですけれども、二十世紀にですね、これは、アメリカが先端技術をベースにしたある種の覇権というものをつくったときの要素というのは二つあると言われております。
一つは、新しいアイデアを誰よりも早く導入する、そういうシステムを持っていると。ここは大学と産学連携というのが一つのキーワードになるんですけれども、やはり、大学で新しいオリジナルのアイデアをつくって、そしてそれを産学連携という仕組みでどんどん世の中に出していく、これを持っていることが一つ要件の中に入っている。それからもう一つは、それを一気に大量生産をして社会実装していくと。
この二つの要素を持っている国はいわゆるテクノヘゲモニーというような意味で技術の覇権国家としてできていくということでありまして、そして、御案内のとおり、二十世紀後半には日本が世界の中ではこの技術をもって大きな国に、大国になるのではないかということで言われたときもあります。
今回、今は、この二十一世紀になって中国がまさにこの分野で台頭したことによってアメリカは覇権国という地位を脅かされているということでありまして、例えばロボティクスであったり、AIであったり、ドローンであったりというようなところがまさにこのターゲットになって米中の間での覇権争いが非常に激化していると。そういう背景の中で我が国にとって経済安全保障ということを考えなきゃいけないという議論が今起きているというところでございます。
先端技術が切り開くフロンティアというのは、テクノジオポリティクスというふうに我々呼んでいますけれども、そこにおいては、宇宙空間であったり海洋であったり北極圏であったりサイバー空間であったりということで、まだまだ我々人類がまだ未開のところで、先端技術がないと入っていけないようなそういう空間においてまさにこの米中の覇権争いが激化しているというのが現状であろうというふうに思っておりまして、こういった意味では、日本、我が国も先を見て、海洋の可視化プロジェクトというのをこう書いてありますけれども、海の、海底であったり、それから月面産業ビジョンということで、もう月まで見通して戦略を打っていくと、こういったところを同時に考えながらこの経済安全保障戦略というのを立てていく必要があるだろうということであります。
めくっていただきまして、中国の台頭なんですけれども、私はずっと、何年かずっと中国の科学技術政策を見てきまして、やがてこの日が来るだろうとずっと確信していました。毛沢東が両弾一星政策というのを打ち出して、その後、トウ小平が改革・開放ということで、大学、それから研究機関、いろんなこうした科学技術を支える組織の変革に大胆に取り組んできた、しかもそれを長くやってきたというのが中国の私は強みだろうと思っております。
先ほどアメリカの例を取り上げて、テクノヘゲモニーの二つの要件と、話をしましたが、一つはまさに新しいアイデアを導入して産学連携で出していくということと、二つ目は大量生産をできるノウハウ、能力ですが、この二つは、実は私は中国にはあるというふうに思っています。非常に長く大学を改革してきまして、今や、北京大学もそうですけど、中国のトップ大学は世界のランキングの中でもかなり上を狙ってくるポジションまで上がってきましたし、それから、研究機関もどんどんベンチャー企業を起こしたり、いろいろしながらやってきたという、システムをとにかく長年掛けて導入してきたというのが一つです。
それから、大量生産の話は、これは我が国もすごく貢献したんだと思うんですけど、中国で物づくりを一生懸命やりましたので、そこにはある意味で大量生産をするノウハウとか工場というのを幾つも彼らは持っていったわけですね。そうすると、テスラが最初に電気自動車を造ろうと言ったときに、世界の中で中国を選んで、そして中国で生産をするということをしているわけであります。
そういう意味では、この生産システムを持っているということで、この二つの要件を満たしている中国はまさにアメリカにとっては非常に脅威になるということで、この中国とアメリカとの間での覇権争いが、この我々が今経済安全保障を議論している背景にあるということをお話しさせていただきました。
そして、めくっていただくと、具体的に、五ページ目に、アメリカと中国の間で技術の優位性をめぐる競争が具体的なプログラムとして、政策としてこういう形で出ています。
先端技術の脅威、それに対する投資拡大ということで、アメリカは、これも御案内のとおり、最近イノベーション・競争法案ということが通りまして、半導体とかいろんな新しい先端技術、大きな投資をするということが決まりました。それに対して中国も、第十四次五か年計画で非常にこの研究の強化というのを入れております。
それから、人材の問題、確保、流出対応ということで、アメリカも中国も、特に中国はこの千人計画というのが有名になりましたので、そういった意味で、お互いにこの人材、それから流出対応ということで、これを、政策を取っていると。
それから、技術、データの保護というものを強化するということで、アメリカと中国、それぞれ輸出管理に関してもこういう形で政策を整備している。
それから、サプライチェーンのリスクの低減ということで、これも、中国も十四次五か年計画の中でサプライチェーンの強化というのを入れておりますし、アメリカも、御案内のとおり、サプライチェーンの再評価をバイデン政権の下でこれを実施しているという状況であるということです。
めくっていただきまして、そうした中で、これはアメリカと中国だけの動きではなくて、世界中でこのミッション志向型ということが今言われていて、これは、ミッション志向型というのは、課題解決に向けた、こういう先端科学技術を使うんだという。今までは、科学技術というのはある意味で文明論的な部分もあって、我々が科学技術を発展させることがある意味では文明の一つのあかしみたいなところがあって、極端な話をすればですね、それから、やはり何のために我々は科学技術を発展させ、何のためにこれを我々は使おうとしているのかというミッション型のスタイルにこれ今世界がずっと変わってきています。
ですので、今一番挙がっているのは、もちろん経済安全保障のような脅威に対してある種科学技術を使っていくんだというようなこと、それから、気候変動のような地球規模課題の解決に向けてやっていくんだ、あるいは今我が国が推進しているソサエティー五・〇のような社会課題、これは高齢化社会もそうですし、地方創生もそうですし、そういった課題を解決するために科学技術を導入するという意味でこのミッション型と、常に何かミッションを与えて、その下で先端科学技術を伸ばしていく、あるいは取り込んでいくということが今これは全世界的に広がっています。
めくっていただいて、このDARPA型というのがその開発のプログラムの一つのモデルとなっていまして、これはアメリカの国防総省の下でアメリカが、スプートニク・ショック以来ですね、とにかく二度と先端技術で世界に負けないということで、非常にリスクは高いんだけれども、世の中にインパクトがあって、ゲームを変えるようなプログラム、技術を開発するためにつくったモデルでございます。
例えば、このDARPAの中でGPSが出てきたりインターネットが出てきたりというようなことでやってきたわけですが、こうしたハイリスクの、しかも、ちょっと先なんだけれども、できたときは世の中を物すごく変えてしまうと、ゲームを変えてしまう、こういうゲームチェンジャーというものを支えるためにこのDARPAというのをみんな今学んでいて、中国もそれからヨーロッパも、いろんなところでこのDARPA型が検討されているという状況があります。
めくっていただいて、最後、時間になりましたので、そうした中で、我が国として、経済安全保障に係る取組を始めてきたということであります。
経済安全保障法制度の議論がありまして、これ有識者会議というのが立ち上がって、私も委員として参画させていただきました。いろんな議論があった中で四つ言われていることがあって、それは、サプライチェーンの強靱化であり、重要物資の安定的な供給の確保、それから基幹インフラの安全性、信頼性の確保、それから官民技術協力によって、さっき言ったような先端技術を磨いて育てていく、それから特許出願の非公開化というようなことがあります。
その中で、最後に、こうした仕組みをしっかりやっていくために、今一つだけ私が申し上げたいのは、これを支えるインテリジェンス機能ですね、シンクタンク機能を持たないと、どの技術が重要でどの技術はもっとオープンにしてよくて、あるいは、これから先どこに投資をしたらいいのか、いろんなそういう、あるいは産業界の中で今どういう研究が重要視されていて、それがどういう形で今後世の中にインパクトを与えていくのかと、こうしたことを専門的に分析をし、そしてその情報を政策に反映していくシステムが必要であります。そこに、やはりこのいわゆるシンクタンク機能を持っていないと、この経済安全保障法案で整備されても、実際運用するとなるといろんなことで困難なことが想像されると思います。
ですので、この法案を出していくと同時に、やはりこのシンクタンク機能というのはどうあるべきかということも議論をしなきゃいけないということであります。
一つの、ここに参考までに置いてあるのがこのFFRDCという、フェデラリー・ファンデッド・リサーチ・ディベロップメントセンターという、アメリカのランド研究所なんかがやっているような、割と長期的にコントラクトを政府からもらって、そして、その五年間なら五年間の間、政府の一つの研究機関のように研究ができるという民間組織をコントラクトで結んで活用するというやり方でありまして、こうした制度の新しい取組というのを我が国も検討していかないと、なかなかこうした研究、シンクタンク機能というのを整備できないんではないかというふうに思っておりまして、あとは、御参考までに、ランドのストラクチャー、十ページ目、それから十一ページ目に今言ったようなこの課題も書いておりますけれども、もし御質問いただければ後ほどまた御説明をさせていただければと思いますが。
やはりこの経済安全保障、米中のあれもありますし、今まさに対ロシアに関して経済制裁、次半導体だ、あるいは医薬品だ、いろいろ出てきていますけど、どういう効果があるのかということもこのシンクタンク機能がないとなかなか分析できないということであります。
その中で、我々が日本にとって、あるいは我々国民社会にとって、ただ閉じればいい、ただ守ればいいだけではなくて、どうやってそれを発展させていって、そしてそれを社会で共有していくかという、両方の面ですね、これをバランスを取るためにも、やはりちゃんと分析をし、ちゃんと情報を集めて政策に反映させていくシステムが必要でありまして、これがまだ我が国にないので、今この議論は先に進んでいますけれども、是非これは早急に検討していく必要があるというふうに思っております。
以上で、時間になりましたので、私は終わります。