大石眞の発言 (憲法審査会)
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○大石参考人 大石でございます。今日はお招きいただきまして、ありがとうございます。
それでは、お手元のレジュメに従って、私の考えを申し述べます。
第一のところは原則と例外という話ですから、繰り返しませんが、まずは、憲法上問題になるのは、憲法が衆議院が解散されたときに開催可能としている参議院の緊急集会の規定ですが、これ以外の場合に類推適用ができるかという点であります。
衆議院が不在となるのは、衆議院が解散されたときに限られません。衆議院議員の任期が満了したものの、何らかの事情によって総選挙が実施不能となった場合も当然あり得るわけです。そこで、この場合に、衆議院が解散されたときに準じて参議院の緊急集会を求めることができないかという論点があります。
思うに、解散による場合と任期満了後の総選挙実施不能という場合との間には、ある限定された期間における衆議院の不在という意味で類似性を持つわけです。その期間における参議院の役割を同じように維持するということには十分な合理性が見出されると思いますので、総選挙実施の不能による場合について、衆議院が解散されたときの類推解釈として参議院の緊急集会を求めるということは、憲法上可能なのではないかというふうに考えます。
他方、解散に起因する衆議院の不在期間というのは、憲法上、最長で七十日というふうに限定されておりますが、この期間そのものについて拡大解釈は可能かというと、やはり、この日にちの問題というのは一義的に明白なわけですから、これ自体を延長するというような解釈はちょっと取れないというふうに考えられます。
これに対して、任期満了後の総選挙不能という事態における衆議院の不在の場合も参議院の緊急集会が開催可能だとした場合に、その期間の問題をどう考えるかという点が当然に問題になります。といいますのも、その期間については、あらかじめ憲法所定の手続を踏むことができないわけでして、緊急状況のいかんによっては一律に判断できるものではない。したがって、解散による衆議院不在の場合と全く同列に論じるということもできないと思われます。
しかしながら、とはいえ、憲法は、例えば、毎年の常会召集、毎年の決算審査、予算案についても単年度制を前提とした毎年議決を定めているわけです。そうすると、一年を超える緊急集会を認めるというようなことは、最低限、そうした財政民主主義の在り方を崩すものとして許されない。しかも、その前提の下に衆議院に予算案の先議権を与え、その議決に優越的な効力を認める現行憲法の基本的な枠組みがありますから、これとも相入れないということになります。
そもそも、参議院の緊急集会が両院同時活動の原則に対する例外を成すものであることを考えますと、その存続期間は、憲法上、やはり最大で七十日という制約に服すると考えるのが合理的であろうと思います。もし、これをはるかに超えて参議院の緊急集会の期間を認めるとすれば、憲法五十四条の類推解釈として出発しながら、実はその限定的な規律から大きく逸脱するということを意味するわけでして、もはや憲法五十四条の類推解釈の名の下に正当化できるものではないのではないかと思います。
さて、次のページに参りますが、内閣が国に緊急の必要があるときに参議院の緊急集会を求めることのできる事由あるいは範囲について、憲法上の制限があるかどうかということも問題になります。
これについては、緊急集会開催の要求権は内閣の権限であり、国に緊急の必要があるときの認定権も内閣にあるわけですから、基本的には、その事項、範囲も内閣の判断に委ねられると考えられる。その点からは、内閣の判断によっては、緊急集会中の参議院の権能は国会の権能の全てに及ぶ可能性もあります。
もっとも、そうした権限を参議院が行使できるのは、前記のように、あくまでも衆議院解散後、総選挙を経て、特別会が召集されるまでのいわば最長七十日間に限られるということ、その点に注意する必要があります。また、この期間の限定が示しますように、そこで取られるべき措置はいわば緊急対応措置に限られますから、そうでない性質のものというのは対象から外されると言わざるを得ません。
実例としては、あるいは先例としては、参議院緊急集会には過去二度ありますが、この先例で注意すべきことは暫定予算だという話でして、衆議院で予算通過したその後に衆議院の解散が行われました。そのために予算不成立となってしまった場合の緊急対応措置であって、したがって、年度の本予算ではなくて、四月から五月だけの二か月間にわたる暫定予算であったということであります。その実例を根拠として、一般的に一年にわたる本予算まで含めると解するのは、もはや緊急対応措置を超えるものとして妥当でないと考えます。といいますのも、暫定予算と本予算との間にはかなり大きな違いがあるということを考えざるを得ないからです。
実際、本予算の場合、執行の前提となる特例公債発行法の制定とセットになっているわけです。この点を踏まえますと、参議院の緊急集会で本予算を議決するとなれば、その特例公債発行法の切替え年度に当たる場合、その制定も緊急集会で行うということになりますが、これは向こう四年間の財源問題を固定化する意味を持ちます。このような事態まで例外的な緊急対応措置として許されるというのは、ちょっと考えられないと思います。
他方、現行法上、緊急集会中の参議院議員には案件に関連する議案の発議権というものが認められております。この発議権はどこまで拡大的に認められるということになるのでしょうか。
この問題は、内閣から示された案件に関連のあるものに限りという国会法の文言の解釈に関係しますが、憲法五十四条の解釈上、内閣による提示案件は議案の発議権を拘束するという考え方を強調しますと、つまり、その拘束は憲法から導かれるのだというふうに考えますと、その範囲は限定されることになります。
しかし、内閣が提示する案件に関連のあるという限定は、それ自体、具体的には国会法という法律によるものにすぎません。この点を強調しますと、その規定の改正は参議院の緊急集会でも取り得る措置というふうに考えられますので、緊急集会中の参議院議員の発議権に対する制約は、法律上、原理的には存しないということになるでありましょう。
こういうふうに考えますと、類推解釈として出発しながら、参議院の緊急集会の権限がどんどん拡大するということになりますと、元々、内閣の緊急集会の開催要求権、案件提示権と参議院の審議、議決権というのは、単独の国家機関による権限簒奪の危険を回避するために権限の分有を図ったものだというふうに解されておりますが、一方的な緊急集会の権限の拡大は、内閣と参議院の関係を大きく変えるというだけではなくて、その期限に関する拡大解釈あるいは無限定解釈などと結びつきますと、そのような危険をもたらしかねないというふうに考えられます。
ちょっと時間が早めになりましたが、以上で私の意見の発表とさせていただきます。
どうもありがとうございました。(拍手)