太田圭洋の発言 (内閣委員会)
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○太田参考人 日本医療法人協会の太田でございます。
この度は、このような貴重な機会をいただき、感謝申し上げます。
私からは、今回のコロナ禍における医療現場の状況をお話しさせていただくとともに、今後の五類への感染症法上の類型見直しに際して注意が必要な点に関して、意見させていただければと思います。
二ページです。私の管理する名古屋記念病院です。名古屋市南東部にある四百床規模の急性期病院で、地域の二次救急を支える病院です。当院は、コロナパンデミックの初期、二〇二〇年の二月から帰国者・接触者外来を開始、三月初めからは入院患者の受入れを行い、現在までに千人を超えるコロナ患者に入院医療を提供してきました。
三ページです。既に、新型コロナウイルス感染症は、ワクチンや治療薬の普及により、多くの国民が恐怖を感じる感染症ではなくなってきています。しかし、新型インフル特措法が適用される新興感染症の感染初期は、現在とは全く状況が異なると思われます。新型コロナも、当初は致死率も高い非常に怖いウイルスでした。
四ページです。私は、二〇二〇年のゴールデンウィーク、第一波、最初の緊急事態宣言下で設営された宿泊療養施設に一週間泊まり込み、患者のPCR検体を取っておりました。県から医師の派遣を要請され、自院の医師に頼むことも難しく、自分が出務したのですが、本当に怖かったことを覚えています。自分が死んだら家族はどうなってしまうのか、病院はどうなってしまうのか、まさに戦場に赴く兵士の心境だったと思います。治療法も確立していない、ワクチンもない時期の新興感染症の初期対応は、医療従事者にとって精神的に非常に大きな負担であることは御理解いただきたいと思います。
当初、コロナ病床がなかなか増えないと言われました。しかし、全ての医療スタッフが対応できるわけではありません。皆、家族がいます。子供もいれば、年老いた両親もいるのです。業務命令で働かせようとしても、嫌な人は病院を辞めてしまいます。説得を繰り返し、仲間を集め、徐々に病床を拡大していったのが現場の実情です。
今回の感染症法の改正で、事前に都道府県と医療機関が協定を締結することが求められることになりました。これは効果的ではあると思います。当院がコロナ初期からコロナ診療に参画した主な理由は、新型インフルエンザ感染症に対する協力医療機関として指定されていたからです。もちろん、地域医療において自院に求められる役割を果たすという医療者としての矜持もありますが、事前の役割の設定は、病院スタッフを導いていく上で重要だと思います。
五ページです。しかし、二〇二一年に入ると、民間病院のコロナ診療への参画が少ないとマスコミで批判されることがありました。いまだに誤解している人もおられます。しかし、全国で、コロナ初期からコロナ診療に参画できる機能のある民間病院は、当院と同じくコロナ診療に参画しておりました。
六ページです。これが誤解の元となった資料です。左上ですが、民間病院のコロナ患者の受入れが、公立病院七一%、公的病院八三%と比較して、二一%であるとされています。これがマスコミで取り上げられ、大きな誤解を呼びました。しかし、この資料は、二〇二〇年の十月に厚労省が発表したもので、第二波までの状況です。民間病院は小規模な病院も多く、適切な感染防御着も行政から支給されておりません。病院支援策が現場に行き届き始めたのは、二〇二〇年の冬、第三波からになります。
右下に、公立、公的、民間の病院数の割合、ICUを持つ病院数の割合が書かれています。オレンジが民間病院です。百万人以上の都市部において、ICUを備えるレベルの民間病院は四二%ですが、右上、コロナを受け入れていた病院は五二%です。病院の機能として、コロナ対応すべきと考えられる民間病院は、公立、公的病院と同様に、コロナ対応初期からコロナ診療に積極的に参画していたことが分かります。
七ページです。大阪におけるコロナ入院患者受入れの実数の推移です。ピンクが民間病院、緑が自治体立病院ですが、ちょうど第三波の頃、民間病院も含め病院支援策が届くようになった後は、民間病院が主体になってコロナ診療を行ってきたことが分かります。今後の新興感染症対応においても、民間病院が診療に参画できる支援策の策定は重要だと思います。
八ページです。今日私がお話ししたい一番のポイントです。今後の新興感染症対応時においても、感染症医療と一般医療との両立は重要であるということです。
コロナ対応では、一般医療との両立の重要性が、当初、軽視されたと感じています。コロナ病床確保が政策的に最優先され、一般医療、救急医療に大きな影響が出ました。医療現場に余力がない中で、多くの都道府県で、一般医療とのバランスを考慮せず、知事から半ば強引に、コロナに病床、マンパワーを割くことを求められました。その結果、現在も救急搬送困難事例数は高止まりしております。
今後の都道府県と病院間での協定締結においては、一般医療、特に救急医療との両立に配慮が必要です。確保病床数ありきでの短期間での都道府県の計画策定は、救急医療を含む一般医療に大きな影響が出る可能性があります。
九ページです。その重要性を裏づける資料です。これは、千葉県の、デルタ株が流行した二〇二一年夏、第五波までの救急搬送のデータです。
当時、救急搬送の逼迫が首都圏で大きな問題となりました。ピーク時、救急搬送台数千三百台のうち、コロナ陽性者の搬送は百九十人。コロナ関連の救急搬送は、全体の一五%にすぎません。日本には、ほかの疾患で医療を必要とする多くの患者がいることは、今後の新興感染症対応を考える上で忘れてはならないと思います。
しかし、感染症対応を行う医療機関の現場は、非常に厳しい状況にあります。十ページ、今年の一月の新聞記事です。会計検査院の調査で、病床確保料により病院が大幅に黒字になったと伝えられた記事です。確かに、調査のとおり、多くのコロナ対応をした病院が黒字になったことは事実です。しかし、真に問題なのは、コロナへ対応した二百六十九病院が、コロナ前、二〇一九年度は平均四億円の赤字だったという事実です。大学病院、自治体立病院、民間病院を含め、公立病院は補助金を入れての数字です。
日本の急性期医療は、長年の診療報酬の抑制で、産業として成立しないレベルまで経営環境が悪化していたということは、御理解いただきたいと思います。日本の病院現場は、余力のない状況で、新型コロナという新興感染症と向かい合うこととなりました。新興感染症への対応には平時の医療機関に余力が必要であるということが余り議論されておりません。
十一ページです。五月の八日からの感染症法上の位置づけの見直しに関して、最後に意見させていただきます。
これは、一月二十七日、政府対策本部が類型見直しを決定した日に行われた厚生科学審議会感染症部会の概要です。感染症法上の位置づけの変更に関してマスコミは、感染症専門家が、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある状態ではなくなったため、位置づけ変更を了承したと伝えました。しかし、そうではありません。その前に書かれている、感染症法に基づく私権制限に見合った状況ではないと判断されたことで専門家が類型変更を了承したということは、申し上げておきたいと思います。
十二ページです。この決定は、決して国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがないと判断されたからではありません。感染症法の議論は、昔から、公衆衛生上の利益と私権の制限のバランスが議論されてきました。その観点から、感染症法上の類型の見直しが了承されたわけです。
しかし、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれは、感染が拡大し、医療が対応し切れず、医療が逼迫すれば起こり得ると、我々医療者は考えております。今後、医療が逼迫しない形での体制の移行が重要となります。
三月十日に政府の移行案が発表されました。今後、都道府県で、新たな病床確保料や診療報酬を基に移行計画が策定されることになります。
今後も、コロナで入院医療が必要な患者がスムーズに入院できる体制を構築する必要があります。しかし、それは容易ではありません。
オミクロン株の感染力は非常に強く、どれだけ努力をしても院内感染、クラスター発生を完全に防ぐことは難しく、これまで多くの医療機関が大変な思いをしてきました。決して感染対策を怠った病院だけでクラスターが発生したわけではありません。どれだけ努力をしても、無症状の患者が感染を広める本ウイルスの院内感染は防ぎ切れないのが現実です。
病院には、コロナウイルスに脆弱な高齢者や基礎疾患を抱える人が多く入院しています。我々は極力、そのような方々を守らなければなりません。そのためには、クラスター発生時、院内の感染拡大を抑えるために、一時的に病棟への新規入院を止める措置も必要となります。病床稼働は下がり、経営的にも大きなダメージを被ることとなります。
現在、院内クラスター発生時の医療機関を支援するスキームがありますが、これが維持されないと、今回発表のあった移行策だけでは、感染者の入院を受け入れる病院が今後増えない可能性もあり、危惧しております。是非、この点は今後御配慮いただければと思います。
以上です。御清聴ありがとうございました。(拍手)