川崎政司の発言 (憲法審査会)

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○法制局長(川崎政司君) 参議院法制局長の川崎でございます。どうかよろしくお願いいたします。
 御指示により、お手元の資料に基づき、参議院の緊急集会に関しまして、その趣旨、経緯、制度の概要、実例等とともに、主な論点につき御説明をさせていただきます。
 まず、参議院の緊急集会制度の趣旨と制定経緯につきまして確認をさせていただきたいと思います。
 表紙をめくり、一ページを御覧ください。緊急集会について定める憲法第五十四条第二項及び第三項の規定を挙げております。
 衆議院が解散されますと、参議院は同時に閉会となり、衆議院の総選挙後の特別会の召集まで国会はその権能を停止することになりますが、その間に国会の権能に属する緊急の案件が生じた場合に、これに対処するため設けられたのが参議院の緊急集会の制度であります。参議院の緊急集会は、両院同時活動の原則等の例外となるものと解されております。
 この点、下の方に条文を示しておりますけれども、旧憲法には、公共の安全の保持等のため、緊急に必要があり、帝国議会閉会の場合における行政府による緊急勅令や緊急財政処分などの制度が設けられておりましたが、現行憲法にはそのような規定はありません。
 その経緯につきましては二ページで御説明いたしますが、この点について、政府は、制憲時の帝国議会の審議において、民主政治を徹底させて国民の権利を十分擁護するために、政府の一存において行うような処置は極力防止しなければならない、国会制度の趣旨を徹底して実行するための方法として参議院の緊急集会の制度を考えた、特殊の必要が起これば臨時会を召集して処置し、また、衆議院の解散後で処置できないときは参議院の緊急集会で暫定の処置をするなどと説明をしております。
 なお、一院による緊急集会の制度は、国会を尊重しつつ、実際の必要に応じるものではありますが、外国にもほとんど類例を見ないものであり、この場合、参議院は、暫定措置として国会の権能を代行するものと解されております。
 そこで、二ページで参議院の緊急集会制度が導入された経緯について見ておきますと、日本政府側は、GHQに提示した三月二日案において、第七十六条として、衆議院の解散その他の事由により国会を召集できない場合において緊急の必要があるときは、内閣は、法律又は予算に代わる閣令を制定できる旨の規定があり、これは旧憲法における緊急勅令と緊急財政処分を念頭に置いたものでした。しかし、GHQは、あらかじめ法律で適当に委任しておけばよいなどとしてこれを拒否し、一旦はこのような規定は消えることになります。
 ただ、日本政府はこれで諦めたわけではなく、その後の交渉の場で、衆議院の解散の場合に短期間とはいえ全然活動不能となるのは不合理として、順次、参議院が国会としての権限を行うとする案、国会に置かれる常置委員会が国会の権限を行うとする案、さらには、衆議院の解散等の事情により国会を召集できない場合に内閣が緊急措置をとることができるとする案などを提示します。しかし、GHQ側からは、不測の災害の場合にはエマージェンシーパワーにより措置できるなどとして、これらも拒否される一方、議会解散に備えこうした規定が絶対必要であるならば、参議院に緊急権能を、職能を代行させることがよいとして参議院の緊急集会制度の提案がなされ、これが憲法に取り入れられることになったものです。
 その意義につきましては、二ページの下の方に書いてございますけれども、政府は、帝国議会の審議において、民主政治を徹底する見地から、衆議院が解散せられ、急に議会を開くことができない場合に、全体の改選がなく、国民代表である参議院をもって緊急集会という方法により、予測すべからざる緊急の事態に対し暫定の措置をとり得ることとしたものだと説明をしております。
 次に、三ページと四ページで緊急集会の制度の概要について確認をしたいと存じます。
 まず、参議院の緊急集会が開かれ得るのは衆議院が解散された場合とされていますが、解散以外の衆議院不存在の場合にも開くことができるかどうかが議論となっております。
 また、その場合に、国に緊急の必要があるときとされており、これは、時期的に新衆議院が成立、特別会の召集を待つことができない程度の緊急の必要があり、参議院だけで国会の権能を代行しなければならない場合があることを要すると解されております。そして、このような場合としては、治安上の緊急事態や非常事態的な場合が考えられるものの、必ずしもこれらに限られず、憲法及び法律を施行する上で特別会の召集を待たずに措置しなければならない緊急の必要がある場合も含まれ得るとされているところです。
 法律でも、武力攻撃事態等又は存立危機事態、あるいは災害緊急事態の緊急政令などの場合における国会の承認等について、衆議院が解散されている場合の緊急集会による措置が規定されておりますが、これらは、事柄の性質上、憲法が定める国に緊急の必要があるときに該当するものであると理解されております。
 緊急集会を求めることができるのは内閣だけであり、内閣総理大臣から集会の期日を定め、案件を示して参議院議長に請求すべきものとされており、仮に一定数の議員により請求があったとしても、法的効果はないものとされています。その際、国に緊急の必要があるかどうかの認定権も内閣にありますが、参議院側はこれに拘束されず、緊急の必要はないとして内閣提出の議案を否決することも可能とされております。
 このほか、衆議院が解散された場合には、四十日以内に総選挙が行われ、その選挙の日から三十日以内に特別会が召集されなければならないこととされておりますが、その関係で、参議院の緊急集会が可能な期間が議論となっております。
 続いて、四ページの方に参りますけれども、権能や手続でございますが、緊急集会で審議される案件は、内閣からの緊急集会の請求の際に示されたものに限られ、参議院議員は当該案件に関連のあるものに限り議案を発議できるものとされております。
 参議院の緊急集会の権能は国会の権能の全部に及びますが、案件の性質から見て参議院の単独の議決のみでは許されないものや緊急の必要性がないものは、その範囲につき議論はありますものの、緊急集会の権能外と解されているところです。
 国会法及び参議院規則は、全体として、条理上参議院の緊急集会の本質と相いれないものを除き、全て参議院の緊急集会に適用があり、このことを前提として、特に参議院の緊急集会について規定を要する特則と必要な読替規定を置いております。
 なお、緊急集会中には、議員の不逮捕特権と免責特権も認められております。
 参議院の緊急集会については会期の観念はなく、内閣から求められた集会期日の当日十時に参議院に集会して審議を開始し、緊急の案件が全て議決されたときに緊急集会は終了することになりますが、その際、議長は緊急集会が終わったことを宣告するものとされています。
 緊急集会において可決された案件につきましては、公布を要するものは内閣を経由して公布奏上され、それ以外のものは内閣に送付されます。
 参議院の緊急集会においてとられた措置は、臨時のものであることから、次の国会開会後の十日以内に衆議院の同意がない場合にはその効力を失うものとされています。緊急集会においてとられた措置に対する衆議院の同意については、当該案件を内閣が提出するものとされております。衆議院の同意があったときは、緊急集会でとられた措置は国会で議決された場合と同様の効力を有するものであることが確定いたします。他方、衆議院の同意がない場合における緊急集会でとられた措置の失効は将来に対するもので、過去に遡及するものではないとの解釈が通説となっております。
 次に、緊急集会をめぐる主な論点について簡単に御説明いたします。
 緊急集会をめぐっては様々な議論がありますが、ここでは四点ほど御紹介をいたします。
 第一は、衆議院議員の任期満了による総選挙の場合に参議院の緊急集会を開くことの可否であります。五ページから六ページにその議論につきまして記載をしております。
 すなわち、衆議院議員、衆議院の任期満了による総選挙は、公職選挙法により、任期満了前三十日以内に行われるものとされていますが、国会の会期の終了の時期により任期満了後に総選挙が行われることもあり、この場合には衆議院議員が存在しない期間が生じることになります。
 この点について政府でも議論となったことがあり、昭和五十一年の内閣法制局での検討の際には、参議院の緊急集会の制度は極めて特殊な場合の変則的、異例の措置であって、解散という予期しない事態の場合に限って特に明文の規定をもって認めたものであり、それ自体としても抑制的に運用されるべきものであるため、消極的に解すべきであるという見解、また、解散による選挙と任期満了による選挙の間に根本的な差異があるとは考えられず、解散の場合の条件よりも厳格に考えるべきであるが、真に国政上の緊急の必要があるときは憲法第五十四条第二項の類推適用が許されるという見解の両論があり、結論を得るには至らなかったということであります。
 学説におきましても肯定説と否定説に分かれており、かつては、衆議院の解散と明記する憲法の規定や緊急集会の例外的、一時的な性格を重視した否定説が多数説と言われるようなこともありましたが、衆議院が存在しないということでは任期満了後の総選挙の場合も解散の場合と変わりがないこと、緊急の必要や内閣に対する統制の必要などを重視する肯定説も増えてきているように見受けられます。
 この点、任期満了の場合を規定をしなかったことについて、憲法制定時においては、これは六ページの一番下のところに記載をされておりますが、任期満了の時期は分かっているからあらかじめ選挙の手続をとれる、解散時ほどに深刻な問題はないといった認識であったと説明されているところです。
 第二は、七ページですが、参議院の緊急集会を開くことができる期間の問題です。
 この点については、基本的に衆議院総選挙を経て特別会の召集が可能となるまでの間で考えることになり、そこでは、特別会を召集し得ることに着目するか、総選挙が行われたことに着目するかで議論が分かれているようですが、衆議院議員の総選挙が行われるまでの最長四十日プラス特別会が召集されるまでの最長三十日の最長七十日などといった議論も見られます。
 なお、この点をめぐっては、天災等に伴う繰延投票により衆議院総選挙が解散から四十日以内に終了しない場合、あるいは総選挙の期日を四十日以内に設定できない場合に、衆議院総選挙までの四十日又は特別会の召集までの七十日を超えて緊急集会は可能かといった問題なども出てくることになりますが、ここでも、緊急集会の例外的、限定的な性格に重きを置くか、それとも衆議院の不存在の場合の緊急の必要や権力の監視、統制の必要に重きを置くかによって議論が分かれております。
 第三は、参議院の緊急集会において議員が発議できる議案についてです。
 この点、国会法第百一条が、参議院の緊急集会においては議員は内閣総理大臣から参議院の緊急集会の請求の際に示された案件に関連のあるものに限り、議案を発議することができる旨、規定をしております。
 これは、二回の緊急集会の実例や経験を踏まえ、昭和三十年の国会法改正により明文化され解決が図られたものですが、緊急集会については、緊急性や緊急の案件の認定は内閣がその責任において行うものであるという考え方に基づくものとされております。ただ、これに対しては、緊急集会の当時において、もう少し柔軟に解して、直接に関連がなくても議案の発議を認めるべきとする意見もあったところです。
 第四は、緊急集会の権能の限界の問題であります。
 この点については、案件の性質から参議院の単独の議決のみでは許されないものや緊急の必要性がないものは緊急集会の権能外と解されていることは先ほど御説明したとおりでございますが、その当てはめに関し、憲法改正の発議、内閣総理大臣の指名、内閣不信任決議、条約の締結の承認、両院同意案件等について、権能の対象となるか否か、対象外とした場合に例外が認められるか否かなどをめぐり議論があり、少なくとも、憲法改正の発議と内閣不信任決議が対象外となることにつきましてはほとんど異論がないように見受けられます。
 最後に、これまでの緊急集会の実例について八ページで御説明をしておきたいと思います。
 これまでに行われたのは、昭和二十年代の二例ということになります。このうち、昭和二十七年八月の第十四回国会閉会後の参議院の緊急集会は、衆議院総選挙と同時に行われる最高裁判所裁判官の国民審査を執行するための中央選挙管理会委員の指名がないまま衆議院が解散されたことから、中央選挙管理会委員及び同予備委員の指名を行うため行われたもので、一日で終了しております。
 また、昭和二十八年三月の第十五回国会閉会後の参議院緊急集会は、衆議院の解散により昭和二十八年度予算の年度内不成立が確実になったことから、暫定予算や法案の処理を行うために行われたもので、三件の暫定予算と期限の延長など緊急を要する四件の法案が委員会での審査を経て議決されており、三日間で終了しております。
 二例とも、衆議院において同意がなされております。
 また、いずれも政治上の事情から予期せぬ衆議院の解散が行われたことによるもので、緊急事態時ではなく、憲法や法律を施行するための緊急の必要が生じた場合であったと言うことができます。
 駆け足の説明となり恐縮でございますが、私からは以上でございます。どうかよろしくお願い申し上げます。

発言情報

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発言者: 川崎政司

speaker_id: 5465

日付: 2023-04-05

院: 参議院

会議名: 憲法審査会