井上隆の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(井上隆君) ありがとうございます。経団連で専務理事を務めております井上隆と申します。
本日は、全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案の審議に際しまして、経済界からの意見を陳述する機会をいただき、御礼を申し上げます。
私からは、本法案につきまして基本的に賛成の立場から、お手元のレジュメに沿って意見を申し述べます。
まず、全世代型社会保障制度の構築に関する総論的な考え方でございます。
我が国では、二〇二五年に全ての団塊の世代が七十五歳以上の後期高齢者入りをするなど、今後も高齢化は進行し、これに伴い、医療・介護給付費の増加が見込まれております。
一方で、社会保障制度を財政面で支える現役世代は減少を続けており、結果として、現役世代の保険料負担は高齢者を大きく上回るスピードで増加し続けております。医療については、現役世代が負担する保険料の四割以上が高齢者向け支援、拠出に充てられ、健保連の集計によれば、令和五年度では健康保険組合の八割が赤字の見通しとなっております。
今後も、中期的には少子化は進行し、人口構造に急激な変化は見込めませんので、社会保障制度の持続可能性を確保するためには、経済のパイを拡大をしていくとともに、高齢者の方にも可能な限り制度を支える側に回っていただき、能力に応じた負担を通じて、現役世代と高齢者の方々の給付と負担のバランスの是正を図る必要があると考えております。
このような観点から、今回の法案につきましては、このような改革を更に一歩前へ進めるものとして評価をしております。
次に、今回の法案につきまして、特に我々の関心が高い項目に絞って意見を申し上げます。
まず、出産育児一時金を全世代で支える仕組みについてでございます。
今回、出産育児一時金の大幅な引上げにおいて、費用の一部を、現役世代だけでなく、後期高齢者医療制度からも支援する仕組みとされております。少子化の流れが反転しない中、この点については、子育てを高齢者も含めた全世代で支援するという観点から意義があり、評価をしております。
なお、制度の検討過程において、出産費用の見える化の必要性についても議論が行われたと承知をしております。妊婦の方々が安心をして出産できるよう、適切に医療機関を選択できる環境整備が重要でございます。出産費用の状況、医療機関等の特色、サービスの内容等の情報提供、いわゆる見える化を進めていただくことが重要と考えております。
次に、高齢者医療制度の見直しについて申し上げます。
先ほど申し上げましたとおり、高齢化の進行によりまして、今後も、医療・介護ニーズの増大、費用の増加が確実です。現役世代が減少を続ける中、経団連では、これまで公正公平な全世代型社会保障の確立を訴えてまいりました。
公正公平とは、年齢や働き方にかかわらず、国民全体で納得感が持てる適切な給付と負担を実現することであると考えております。そのためには、高齢者の方々におかれても、負担能力のある方には御負担をいただき、現役世代だけに負担が偏ることがないように、制度の持続可能性を高めていく必要がございます。
このような観点から、今回提案をされております、①後期高齢者負担率の設定方法を見直して、後期高齢者の一人当たり保険料と現役世代の一人当たり後期高齢者支援金の伸び率をそろえること、また、②負担能力に応じて後期高齢者の保険料負担を見直すことのいずれにつきましても、全世代で公平に支え合う観点から賛成をいたします。
また、被用者保険からの前期高齢者の医療給付費負担につきまして、これまでの加入者数に応じた調整に加えまして、報酬水準に応じて調整する仕組みを一部に導入する提案がなされております。この点につきましては、報酬水準の高い健保組合にとって負担が重くなる内容ではございますが、今回、あわせて、被用者保険者への財政支援策も盛り込まれております。
今年度の保険組合の財政は、健保連の調査によりますと、高齢者医療等への拠出が急増する中、五千六百二十三億円もの赤字が見込まれ大変厳しい状況にあり、今回、報酬調整の導入と併せて財政支援が実行されることは意義があると思います。
また、先ほどの、負担能力のある高齢者の方々にも支えていただく見直しを含めれば、高齢者医療制度の改革トータルで見た結果としては、私どもの主張しております現役世代の負担軽減につながるものと一定の評価をさせていただいております。
なお、今後ますます厳しさが予想される医療・介護保険制度の財政状況を見据えますと、先ほど申し上げた公正公平な全世代型社会保障制度の確立の観点から、適正な負担能力の把握が極めて重要となってまいります。この点に関しましては、マイナンバーを活用して、フローの所得のみならずストックにも着目し、御高齢の方の保有する金融資産等も勘案した、真の負担能力に適切に対応した保険料、利用者負担の在り方について更なる検討が必要と考えます。
次に、医療・介護分野の情報基盤整備について申し上げます。
今回の改正案では、医療法人や介護サービス事業者の経営情報のデータベースとともに、自治体や事業者等に分散していた介護情報を電子データで収集、整理する基盤を整備することが盛り込まれております。
急速な高齢化に伴い、医療・介護サービスに関する地域による格差あるいは偏在が大きな問題となっております。医療分野、介護分野のDX、デジタルトランスフォーメーションを進めることを通じて、限られた人材、財源の有効活用、事務負担の軽減、生産性の向上、そしてサービスの質の向上につなげることで、効率的かつ持続可能な医療・介護提供体制の構築を実現していただきたいと思います。
また、経営情報のデータベースは、医療・介護政策をめぐる環境変化に対するエビデンスに基づいた的確な対応とともに、国民に対する医療、介護の現状や実態の理解促進を図る点でも不可欠な基盤であります。
今回、職種別給与費の状況の提出は任意項目とされております。今後、医療、介護に従事されている方々の処遇改善を検討する上でも重要なデータであり、かつ、見える化の趣旨に合致するよう、可能な限り、より多くデータ収集をいただきたいと思います。将来的には、任意の在り方を見直すことも含めて検討すべきと考えます。
最後に、全世代型社会保障制度改革に関連し、経団連の基本的な考え方について申し述べさせていただきます。
日本経済は、三十年来の長期にわたり低迷が続いております。経団連は、地球温暖化を始めとする生態系の崩壊や格差の拡大といった社会課題の解決と、持続可能な経済成長を目指すサステイナブルな資本主義を掲げて活動を続けております。そして、これを支えるのは分厚い中間層だと考えております。分厚い中間層の形成には、社会保障、税制の改革、賃金引上げや人の投資を含む労働政策、官民が連携し中長期に、視点に立ったダイナミックな経済財政運営、この三つに全体感を持って一体的に取り組む必要があります。
企業においては、成長の成果を適切に分配し、構造的な賃金引上げと国内投資の拡大を通じて、マクロ経済環境の改善、分厚い中間層の形成に努めていくことが重要であります。その一環として、既に今期の春季労使交渉では、物価動向を特に重視しながら、企業の社会的責務として賃金引上げのモーメンタムの維持強化に向けた積極的な対応を広く呼びかけ、その結果、多くの企業が対応を始めているところでございます。
今がまさに、長期低迷から脱却して好循環を定着させ、分厚い中間層の形成につなげていく起点となる重要なタイミングであります。分厚い中間層がしっかりと経済成長を担っていくことが社会保障制度の安定にもつながり、少子化の歯止めにもつながります。
経済界としては、賃金引上げのモーメンタムを来年以降も定着させて構造的な賃金引上げを実現していきたいと考えております。しかし、現役世代の社会保険料の負担軽減と将来不安の解消につながる社会保障制度の見直しが行われなければ、こうした企業の努力の効果も減殺され、若い世代の希望も失われてしまいます。
今回の改正案は、その趣旨にありますとおり、全世代対応型の持続可能な社会保障制度の構築に向けた第一歩だと考えております。今後も引き続き、高齢者の方々と現役世代の給付と負担のアンバランスの是正、特に分厚い中間層の形成に資する制度改革に果敢にお取り組みいただきますようお願いを申し上げます。
私からの説明は以上でございます。ありがとうございました。