黒江哲郎の発言 (財政金融委員会)
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○参考人(黒江哲郎君) 以前、防衛省に勤務しておりました黒江でございます。
まず、本日はこのような機会を頂戴いたしましたことに心より感謝を申し上げます。
御案内のとおり、政府は昨年末に国家安全保障戦略を始めとします戦略三文書を決定したわけですが、私は、元防衛事務次官という立場で国家安全保障局のヒアリング、あるいは国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議に参加させていただきまして意見を述べさせていただきました。本日は、こうした立場から、現在の日本を取り巻く安全保障環境、さらにこれを受けた戦略三文書のポイント、今後の実施の課題といったところについて簡単に私見を述べさせていただきたいと思います。
まず、お手元の資料、三ページでございますが、参考一を御覧いただきます。
基本的なことですが、我々が存在しておりますアジア太平洋地域は軍事力の量という観点で見ますと、世界の中でも軍事力が、軍事大国が集中しているホットスポットだということが言えると思います。さらに、その中でも、中国、ロシア、北朝鮮という権威主義の三か国が、現在三者三様の形で国際秩序に対する地政学的な挑戦を激化させていると、これが我が国周辺地域のみならず国際社会全体の安全保障環境を厳しくしているということでございます。
最初のページに戻っていただきまして、それでは具体的にどのような対応なのかということで、まず中国でございます。ここには、戦略文書の中からこれまでにない最大の戦略的な挑戦という位置付けをしておる部分を抜き書きしてございますが、中国の場合の特色は、軍事力のみならず、経済力あるいは技術力を含めて国力全てを用いて国際秩序に挑戦していると、この点が最も特色のあるところでございます。
これは、彼らは超限戦と、限定を、制限を超えた戦いというような言い方をしておるというふうに理解をしております。巨大な人口と非常に効率、ある意味非常に効率的な国家資本主義、あるいは最近では先端技術力を背景としまして世界第二位の経済大国に上り詰めたわけですが、彼らはその巨大化した経済力を自国の意図を他国へ強制する手段として用いていると、いわゆる経済的威圧ということでございます。
さらに、この経済成長が軍事力の拡大というところにどのように寄与したかというのは参考資料の四ページ、さらに、そこで蓄積されました軍事力が実際にどのように使われているのか、我が国周辺でどのように活動が拡大しているのかということを五ページ、参考の三にお示しをしてございます。
したがいまして、我々は中国を見るときに、軍事力のみではなく、経済力あるいは技術力あるいは情報力等々、国力全体に着目する必要があるということでございます。
続きまして、北朝鮮でございます。
これは、一ページの北朝鮮のところには、従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威ということで戦略の文言を書かせていただきましたが、これは言うまでもなく北朝鮮の場合には核とミサイルの脅威でございます。
昨日も偵察衛星と称する物体の発射を試みましたけれども、昨今どのような打ち上げ方をしているのか、あるいはその北朝鮮のミサイル能力がどうなっているのかということにつきましては資料の参考の四、六ページ、さらには、打ち上げの状況につきましては七ページにグラフとしてお示ししてございます。これは、令和四年版の白書から取っておりますので、実は白書が発刊した後に発射回数が激増しまして、昨年度は五十回を超える発射に至っているというふうに認識をしております。
また、ロシアでございますが、中国との戦略的な連携と相まって、安全保障上の強い懸念になっているというのが戦略の表現でございます。これにつきましては、NATOの東方拡大でありますとかカラー革命に対する警戒感というところを基にしまして、二〇一四年にクリミアを併合し、昨年ウクライナに対する侵略を行ったわけでございます。
ロシアの場合の特色は、間違いなく、ためらいのない軍事力行使ということでございます。また、その際に、軍事力とともに、いわゆるハイブリッド戦という形でサイバー攻撃あるいは情報戦といった非軍事的な手段を併用するという、そういう脅威であるということでございます。さらには、昨今のウクライナの状況、ウクライナ戦争の際に、核による威嚇ということまでやっておるということでございます。
これらの地政学的な様々な三者三様の挑戦に加えまして、戦略では、国際社会のガバナンスの低下というところに警告をしております。これにつきまして、米国、G7等の国際的な枠組みによるリスク管理というのは困難である、あるいは国連が十分に機能発揮できていないという、そういう記述があるわけですが、これは私なりに解釈をいたしますと、世界平和に対して特別の責任を負っておるというのが国連の安全保障理事会なわけですが、その常任理事国五か国のうち、実に二か国が秩序を維持する側ではなくて国際秩序に挑戦する側に回っていると、このことは国連が機能不全に陥っていることの非常に大きな要因であるというふうに考えております。
また、核軍縮ということを捉えましても、核不拡散条約におきまして核軍縮交渉を進める責任を持っております核保有国、これはロシアもそうでございますが、そのロシアが自ら核による威嚇を行っておるわけでございます。これは、非核保有国にとってみれば、核を持たなければ自国の安全は守れないのではないかという、そういう懸念を呼び起こすわけでございます。そういう意味で、核不拡散体制自体が形骸するという懸念が、非常に強い懸念が生じているということでございます。
また、戦後の国際秩序を支えてきた一つの大きな要素としまして、私はそれは米国の軍事力だというふうに理解をしておりますけれども、米国自身、内政的に経済格差等に起因する深刻な社会の分断、そういったものが対外的な方針、外交方針に大きな影響を与えるのではないかということが懸念されるところでございます。
こうした地政学的な挑戦と国際社会のガバナンスの低下ということに直面をいたしまして、戦略三文書は、これに対する対応の在り方ということで、どのようにこれにアプローチすべきかということを示したことでございます。
ここで、戦略三文書のポイントを三つ挙げたいと思います。
この一つ目は、国力全てを活用した対応ということでございます。これは言うまでもなく、中国を念頭に置いたときに、軍事力、外交力だけではなくて、国力全てを用いて、こちら側としても対応せざるを得ないということでございます。その表れが、国家安全保障戦略を我が国の安全保障政策の最上位の政策文書だと位置付けたことでございます。この位置付けは画期的なものだと思っております。
中国が、先ほど申し上げました超限戦を展開している、あるいはロシアに見られるようなハイブリッド戦と、こういったものに対応するためには、行政の縦割りを排しまして、外交と防衛のみならず、我が国の総合的な国力を有機的、効率的に用いなければならないということを明示したわけでございます。
その具体的な内容というのが、ここに掲げました各種の項目でございます。
また、二番目のポイントといたしまして、抑止力としての防衛力を抜本的に強化するという方針でございます。これは、向こう五年間で四十三兆円を投入しまして防衛力を抜本的に強化するということとしております。これにつきましては、七本の柱を立てて、防衛力整備の優先度とそれぞれの経費規模を明らかにしておるというふうに理解をしております。
やや具体的に申し上げますと、スタンドオフ防衛能力、あるいは無人装備、宇宙、サイバー、電磁波といった、これらの欠落している、あるいは現在自衛隊で整備が遅れている機能を向上させると。それとともに、この中に反撃能力がございます。これにつきましては、周辺国のミサイル能力の向上で、現有のミサイル防衛システムのみでは我が国の防衛が全うし切れないということを受けまして、自ら反撃能力を保有して相手の攻撃意図を制約すると、そのことによって抑止を図るという方針に転換したということでございます。また、防衛力整備計画の最初の五年間で、装備品の可動率の向上あるいは弾薬備蓄の増加を図る、それをもちまして、現在持っております装備品、自衛隊の能力をまず一〇〇%発揮できる、そういう体制に持っていこうとしているということでございます。
これらの事業を行うことによりまして、二〇二七年度に、防衛力の抜本的強化とそれを補完する取組を合わせてGDPの二%を達成するというのが今回の方針でございますが、二%という数字について様々議論はありますけれども、私自身は、主要先進国の水準から比べましても妥当なものだというふうに考えております。
三番目のポイントは、次のページでございますが、外交の積極的な展開ということでございます。
先ほど、ロシアについては軍事力の行使についてためらいがないということを申し上げましたけれども、このウクライナの戦争の事例というのは、外交を軍事力で代替することはできないという教訓を示したものだと思っております。他方、我が国としましては、外交を軍事力で代替してはいけないというのが国是であるというふうに私は理解しております。俗な言い方をして恐縮ですが、国際社会の中で、話せば分かる人たちばかりではありません。しかし、話さなければ分からないというのも真実だと思います。その意味で、今回の国家安全保障戦略の中では、我々が取るべき第一の戦略的アプローチは外交であるということを明示したところでございます。
したがいまして、防衛力の抜本的強化は実際に行うわけですが、これは、自分の国は自分で守り抜ける防衛力を持つということが外交の地歩を固めるものなのだと、そういう位置付けの下で行われる政策であるということでございます。現に、中国との間でも、建設的かつ安定的な関係を構築すると、そのために様々なレベルの意思疎通を通じて、主張すべきは主張し、責任ある行動を求めつつ、諸懸案も含め対話をしっかりと重ね、共通の課題について協力をしていくという、そういう方針を掲げているところでございます。
また、本日は時間の関係で細部には触れませんけれども、戦略の中には、中国との対話だけではなくて、各国が広く結集できるような外交課題を列挙しまして、これへの取組が重要であるということも明示しておるわけでございます。
以上が、戦略三文書の三つのポイントでございます。
さらに、残された課題といたしまして、ここで掲げた戦略を実施していくに当たっての課題というものがございます。これは幾つかございますけれども、本日、この中で四つほど述べさせていただきます。
まず、防衛力といいますのは、つまるところ、装備と人でございます。
装備につきましては、これは、参考資料の後ろの方ですね、六ページ、失礼、八ページから九ページに、昨年の国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議の報告書の関連部分を抜粋しましたけれども、この中にも述べておりますが、我が国は、戦前と異なって国営の工廠がございません。したがいまして、自国での防衛装備品の研究開発、生産、調達、これらを安定的に確保しようとすると、これは全て防衛産業に頼らないといけないわけでございます。その意味で、ここに挙げましたような防衛産業の事業の魅力化、あるいは官民の先端技術の防衛装備品への活用、そういった各種の施策が重要になってくるということでございます。このため、現在、政府が国会に対して防衛産業の基盤強化法案を提出させていただいておると聞いておりますけれども、これが国会におきまして徹底的に審議されて早期に成立されることということを私は期待をいたしております。
二番目のポイントは、人の問題でございます。
自衛隊を構成する非常に大きな重要な要素であります人でございますが、少子化の中で人材確保が極めて重要になってきております。ここには、戦略の記述としまして、人的基盤強化のために優秀な人材の確保を図ると、ハラスメントを一切許容しないと、そういった組織環境を整備する等々が書いてございます。
これは特に八ページの参考の六のところにお示ししました有識者会議でもそういう議論が出たんですが、自衛隊員は職務遂行に当たりまして、あらかじめ自分が任官するときに、事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努めると、これ、つまり、自分の命を懸けますということをあらかじめ宣誓しております。これ、こういう宣誓をしておるのは唯一自衛隊員だけでございます。そういった自衛隊員の処遇の改善というのが急務だというふうに私は考えてございます。
また、経済基盤、経済財政基盤の強化ということでございますが、ここには、先ほどの河村先生からも御指摘ございましたけれども、有事の際の財政余力、こういったものが極めて重要だという記述とともに、経済成長が我が国の安全保障の更なる改善を促すんだという安全と経済成長の好循環ということについても留意するんだということが方針として掲げられてございます。この点につきましても、有識者会議の報告書の中でも、具体的には、様々な形で、安全保障に関する事業というのが経済成長にも寄与し得るんだということが記述があるわけでございます。
今回、ここでお諮りされております財源確保法、これを含みます財源の確保措置につきましては、私も財政につきまして専門家ではございませんので、全く防衛の立場から申し上げるわけでございますけれども、まさにその有事に備えた財政余力の必要性あるいは持続性のある経済力、財政基盤の強化、国民の理解を得る必要性と歳出の効率化の必要性、あるいは現役世代での分かち合いの必要性等々について議論された上で、そうした各種の要素を勘案した結果が今提案されておる財源確保措置なんだろうというふうに理解をしております。
特に、かつて防衛省で国の防衛の仕事に携わった身から率直な考えを申し上げれば、防衛省・自衛隊というのは、先ほど申し上げましたように、文字どおり命を懸けて国民の生命、財産を守ろうとしておる、そういう組織でございます。これに対しまして、是非、国民の皆様方からの御理解と御支援を賜りたいというのが本音でございます。そういう意味で、財源確保につきましても、是非このような観点にも御配慮いただきながら御議論いただければ大変有り難いというふうに考えてございます。
最後に、これだけの経費規模を持っております防衛力整備計画でございますので、これが実際にどのように実施されているのかということを検証することが大変重要だと思います。戦略上では国家安全保障会議による定期的かつ体系的な評価ということが書いてございますけれども、これとともに、国会におきまして徹底的に検証されるということも重要だというふうに考えてございます。
私からは以上でございます。ありがとうございました。