齋藤智也の発言 (内閣委員会)
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○参考人(齋藤智也君) この度は、このような機会をいただきまして、どうもありがとうございます。
私、国立感染症研究所、通称感染研と呼ばれておりますが、ここに二〇二〇年四月に新たに設立されました感染症危機管理研究センター、こちらのセンター長を務めております齋藤智也と申します。
私は、感染研に二〇二一年一月に着任しておりますが、それまでは国立保健医療科学院という機関におりまして、新興感染症対策、特にパンデミック対策ほか健康危機管理、いわゆる感染症に限らず様々な原因による健康危機に対処する概念でございますけれども、そのような分野を専門として取り組んでまいりました。その以前には、行政で三年ほど危機管理あるいは感染症対策というものに取り組んでいたこともございます。現在は、所属先の名前のとおり、健康危機管理の中でも感染症分野の危機管理に取り組んでおります。
この度、内閣感染症危機管理統括庁の設置に係る法案審議ということですけれども、まさにこの感染症分野の危機管理体制の向上に向けて我が国の重要なターニングポイントになるものと考えております。
危機管理のフェーズ、これを大きく三つに分けると、いわゆる発災、災害や感染症が起きるその前の予防のフェーズ、予防をする、未然に防ぐ、あるいはそれを事前に早く察知する、あるいは素早く起きたことを検知する、その発災前のフェーズ、そして、発災してから終息するまで、その対応に当たってできるだけ被害の軽減を目指していくフェーズ、そして、終息後に、次に備えて対応の振り返りを行ったり、演習や訓練を行ったり、計画を立て直したり、あるいは物品などの備蓄を行ったりという事前準備、英語でプリペアドネスと呼んでいるフェーズがあります。この三つのフェーズ、予防、対応、事前準備、このサイクルの中でやはり一番目立ってくるのは対応をしているフェーズです。
新型コロナ対応は、まさにこの対応の部分を三年以上もやることになってしまうほどの大事件だったわけですけれども、もっと長い目で見ますと、実はこの危機管理のサイクルの中で対応をしているフェーズというのは実は非常に僅かな時間で、実際には事前準備という活動に費やしている時間がほとんどであります。
しかしながら、この長い長い事前準備の時間というのは非常に苦しい時間でもあります。残念ながら人は、喉元過ぎれば熱さを忘れるという言葉のとおりで、あっという間に危機でさんざん苦労したことを忘れてしまいます。事前準備、プリペアドネスの活動のために人もお金も費やす時間もあっという間に減っていってしまうというのが現実でございます。いかに次の危機に備えるためのモチベーション、すなわち、人、物、金を維持できるか、これをどれだけできるかというのが次のパンデミックの対応につながっていきます。
特措法は、計画策定や訓練の実施、備蓄の構築等を行うことを定める法律であり、この事前準備のモチベーションを維持する重要な役割をこれまでも果たしてきたと考えております。さらに、そこに、総理、内閣官房長官直下に統括庁という形で明確な国のリーダーシップが定まることで、長い年月にわたる事前準備、プリペアドネスの継続的な推進力となることをまずは期待したいと考えております。
続いて、この事前準備、プリペアドネスの具体的な在り方についてお話しさせていただきたいと思います。
これまで、この新型コロナの度々の波を経験する中で、感染症法、特措法等の法改正が行われてきました。当初は、すぐこの目の前に迫りつつある次の波をいかに乗り越えるかということで、その対応面での強化の議論が進んでいたかと思います。そして、徐々に次のパンデミックを見込んだ事前準備、プリペアドネスの強化に議論が移ってきたところではないかと思います。
この新型コロナの反省を踏まえて、これまで決められていなかったけれども、実際にやることになったことをしっかりと法的に次にはきちんとできるように位置付けていく、あるいはこれまでできなかったことをできるようにする、継続的な準備や計画的な準備を行う体制をつくる、あるいは病床など、ある一定数を緊急時に確保できるような体制をつくる、こういった取組が進められてきているところかと思います。
こういった何かを準備するためには、常に何かしらの想定というものが必要になってきます。多くの場合、これまでの新型コロナでの経験を基に、その準備の目標数や対応というのが定められつつあるところです。これだけ社会に未曽有のインパクトを起こしてきた事態というのを経験してきたわけですから、再度このような事態が起きても対応できるように備える、これは自然な流れでもありますし、一つの妥当な考え方であります。直近の事例というのは、誰にも非常に分かりやすいシナリオでもあると思います。
一方で、このような備えを行うときに気を付けておいていただきたいということは、いろいろなところで同じことを申し上げているんですが、危機管理は過去のシナリオ、いわゆる過去問にとらわれてはいけないということでございます。次の危機はまたコロナのようなことが起こるのか。きっとそうではない。全く同じことというのは決して起こらないんです。常に、次に起こり得ること、あるいはこれから起こり得ることは何だろうかというのを問いかけながら前に進んでいくことが大切だと考えております。
人は、なかなかこれまで経験してきたことがないシナリオを考え付かないし、受け入れられないものです。実際、この新型コロナの発生以前もそうでした。新型コロナのようなシナリオはとても考え付かなかったし、考え付いたとしても、それを受け入れられなかったんではないかというふうに思います。事前準備というものには、想像力を存分に働かせて、将来起こり得るリスクのランドスケープ、全体像というのをしっかり考えていくことが大切であると思います。
一方で、実際に何か備えるとなったときに、このリソースですね、人、物、金というものが無限にあるわけではやはりありませんので、何かしら目標値というのを定めていくことが必要です。例えば、備蓄量であるとか病床の確保数であるとか新しい組織の人数とか、その準備のレベルは、まあまずは新型コロナの経験を一つの目安として決めようと、これは結構なことなんですけれども、そうしているうちに、ついついまた新型コロナが来たときのためにという考えに陥っていってしまいがちです。我々は、来る次の新型コロナに備えているわけではなくて、あくまで新型コロナを一つの目安として我々のパンデミックの備えの土台をつくっていこうとしているのだということを改めて考えておかなければなりません。
そうして、その先に危機が実際発生したときに、恐らく想像していたとおりのこととは違うことが起きてしまうだろうというふうに思います。そのときに、これまで備えてきたツール、土台というのをどのように使っていくかを柔軟に考えるトレーニングをしておくということが非常に重要です。過去はあくまで備えのための一つの参考であって、常に前向きに、応用問題を解くためのトレーニングをしていくというのが事前準備では重要であります。
今回、新型コロナを一つの目安として土台をつくっていく、これがきちんとできれば非常に大きなパンデミック対策の土台となりますし、この土台の大きさというのがいざというときの選択肢を増やしてくれると思います。このような基盤となる能力を徐々に高めつつ、いざ新しいことが起きたときにそれをどのように応用していくかというところに思いを至らせるような未来志向の危機管理、これを統括庁はリードしていただきたいと、そう思っております。
さて、この統括庁の設置、いわゆる司令塔機能の強化という点について、全く賛成ではございますが、この先、いかにこの司令塔を司令塔たらしめるかと。今回、法案で大枠はできたとしても、それが司令塔として実際に役割を果たすためには、言わば魂を吹き込む作業というのが重要になってくると考えております。
この統括庁のオペレーションをどのように回していくのか。特にパンデミックになり得る事態の発生といった有事を想定してということになりますが、まずは拡張可能なメカニズムというのを有していることが大事です。危機のときには応援職員が多数入って体制を大幅に拡張するというわけですが、そのようなときに、急に顔を合わせた人たちがすぐに協調して対応できるメカニズムというのを準備しておく必要があります。これは、災害対応で培われた考え方というのが参考になるだろうと思います。
加えて、内部のスタッフや幹部も含めて、この危機管理オペレーションの基本的な考え方を理解している必要があります。基本的な考え方について、幹部を含めて全て研修や訓練を受けて、緊急事態のオペレーションのメカニズムに習熟している必要があります。また、危機発生時に増員されたり併任されて危機管理組織に組み込まれる方も全て基本的なトレーニングを受けている必要があります。
それから、そのようなオペレーションをする場所というのも重要です。司令塔には感染症発生に関する様々な情報、知見が入ってきます。そして、各省庁の対応、こういったものも全て共有、統合して迅速な意思決定を行っていく。これを効率的に進めていくためには、共同作業がしやすい物理的な場所の整備というのも非常に重要です。各省庁からの人に限らず、外部からの応援が入っても共同作業が可能な環境整備が重要です。我々も感染研で、エマージェンシー・オペレーションズ・センター、略してEOCと呼ばれる場所を一番大きな、感染研の中にあった一番大きな会議室を改装して整備いたしました。人材を有効活用し、最大限の機能を発揮するためにも、重要な物理的な施設設備というのも御検討いただきたいところであります。
一方で、今回の新たな統括庁の司令塔機能というものは一体どのようなものなのか、何をどこまでするところなのかというところを関係機関が、連携する関係機関がきちんと理解していることというのも重要だと考えます。これらを実現するために演習、訓練というものが重要になってまいります。
演習、訓練というのはよく混同されて使われておりますが、詳しく申し上げれば、演習というのは、例えば、計画や手順というのを作っていく過程で、実際に試してみて検証していくプロセスをいいます。一方、訓練というのは、作った計画や手順に習熟することを主な目的とします。
まずは、訓練を行う前に演習を繰り返しつつ、例えば、対応手順、計画の案を作って、演習で試して、その結果をフィードバックして手順や計画をブラッシュアップしていくことが重要になります。その過程で、関係機関などとの合同演習なども繰り返していく中で、統括庁の司令塔機能とは何なのか、何をしてくれるところなのかというのが周りの関係機関に実感されてくることで、役割分担なども理解され、実際のオペレーションが回り出すようになっていくのではないかと思っております。できれば、統括庁には訓練、演習の専門部署もあるとよいのではないかと思っております。
さて、この国における統括庁の司令塔機能とリーダーシップは非常に重要なんですけれども、そこで決められることが余りに事細か過ぎてもいけないと考えております。感染症、特にパンデミックは、確かに各都道府県や地域が大方針に基づいて協調して対応することが非常に重要です。
一方で、流行状況やその地域的背景、例えば医療提供であったり人口構成、これがそれぞれ異なる中で、地域の状況に合った適切な判断というのが求められるところがあります。それには、各地域で情報収集し、分析し、対策を判断する能力というのが必要です。統括庁で全てを事細かに意思決定するという形を取っていくと、そのような地域での分析や判断能力は徐々に失われ、迅速な判断や対応ができなくなっていきます。また、そのようなことができる専門人材も育たなくなってしまいます。結果として、地域の感染症危機管理機能は低下してしまいます。
そのようなことがないよう、国は大方針を明確に示し、進捗管理をしつつ、地方は、その中でそれぞれの地域で状況を見極めて、考えて判断していける体制をつくっておくことが本当に強い国全体の感染症危機管理体制につながっていくのではないかと考えております。
最後に、今後の感染症危機管理の人材育成について一言申し上げたいと思います。
感染症危機管理という分野の専門家をどのように育てていくかですが、非常にこれ新しい分野だと思っています。そして、領域横断的な専門性を有します。単に研修等を提供して関連する知識を得る機会を増やせばよいという単純な話ではありません。職能として確立し、様々なところにその職能を生かすポジションがあり、ステップアップしていけるキャリアパスが社会に形成されるところまで行かなければ人材育成とは言えないのではないかと考えています。
元々、感染症分野というのはそんなにたくさん人材がいたわけではありません。感染症危機管理というのは様々な科学的知見の上に成り立つゆえ、まずはベースとなる学問分野である微生物学、臨床微生物学、感染症疫学、実地疫学、数理疫学、感染症臨床、感染管理、臨床研究、そして公衆衛生、こういったそれぞれの既存の専門分野の人材層を厚くするところからまずは始めなければいけないところです。その上で、危機管理という考え方を学んだ人を増やしていくことが必要です。特に、感染症対策は行政が関与するところが大きいので、行政事務を知る機会を設け、法の運用であるとか行政という感染症統治機構を運用する能力を知ることが重要な要素であると考えます。行政の考え方を知る専門家が増えることで、対策に直結する科学的助言の精度も高まっていくものと考えます。
こういった領域横断的な知識を有する専門家が国レベルでも県レベルでも地域レベルでも育ってきて、地域のステークホルダーとなる行政専門機関、医療機関、アカデミア、これらを横断的につないでいける人材となっていくことが感染症危機管理の強化につながっていくものと考えています。それが職能として、専門性として確立し、キャリアパスとして育っていくことが望ましいと考えています。
この過程の中では、これまでの人材育成体系とは異なった様々な分野、立場をクロスオーバーして経験する人材が生まれてきます。これまで専門人材はその専門性を論文の数などで評価されてきたわけですが、専門性に実務の要素を加えた、これまでの評価軸とは異なる人材の評価体系、評価軸というのが必要になっていくと考えております。
以上、最後に、感染症危機管理の人材育成について、このようなステップを提案させていただきました。
どうもありがとうございました。