二木芳人の発言 (内閣委員会)

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○参考人(二木芳人君) 昭和大学医学部で客員教授を務めております二木芳人と申します。
 本日は、このような場を与えていただき、誠にありがとうございます。
 ただいま、齋藤参考人の方から非常にシステマティックなレクチャーをいただきまして、危機管理がどういうものであるかということを私も大変勉強させていただきました。
 ただ、私は、立場として、二〇二〇年の三月に昭和大学医学部の内科学講座の特任教授を退職して、その後は客員教授として昭和大学にお世話になっております。ごく初期に、僅かな感染症パンデミックの始まりに患者さんを診させてはいただきましたけれども、基本的には現場の最前線でこの感染症パンデミックと闘ってきた立場にはありません。また、公的な組織や会議のメンバーとして参加することもありませんでしたので、ほかの参考人の方々とはかなり違った立場あるいは目線でこの感染症と三年半付き合ってまいりました。
 特に、パンデミックの当初より、テレビ、新聞、雑誌などの各種メディアに頻繁に感染症専門家としてお招きをいただきまして、新型コロナウイルス感染症の現状ですとか今後の予測などを解説する機会というのがたくさんございました。
 メディアに出演するいわゆる専門家の務めとしては、一般の視聴者や読者がいかに正確な情報を得るかということをお手伝いすることが大切であり、膨大な情報が日々集積されてくると、特にテレビ局などでは、毎朝、局に参りますと、膨大な情報が出てまいりまして、その中から今日はこれを取り上げたいというふうな提案があります。それに対しまして、その是非ですとか正確性というふうなものを評価した上で番組の中で解説をするというようなことをするわけでありまして、これは大変神経を使うもので、私の長い人生の中でこんなにたくさん日々論文を読んで勉強したことはないんじゃないかなと思うぐらい頑張って仕事をしてまいりました。おかげさまで、そのかいあって、間違った情報を発信することは余りなかったのではないかなというふうには自負しております。
 そんな中で、私がこの新型コロナウイルス感染症対応で感じたこと、そして、この度は、新しい法案をお考えいただく上で是非反映していただきたいというふうなことを今日は三点ほどお話ししたいというふうに思います。
 まず一点ですけれども、やはりこれは情報伝達と、それから政府方針の発信の在り方だというふうに思っております。
 パンデミックの初期から感じたことは、ほかの参考人の方もよその委員会でお話をされておられましたようですけれども、二〇〇九年に我々は新型インフルエンザのパンデミックを経験いたしております。当時は、私も現場の最前線で指揮を執っておりましたのでいろいろと苦労したわけですけれども、その際に、二〇一〇年の六月にパンデミックが終了した後、対策総括会議の報告書というようなものが出されまして、その中で提言として示されていることの多くが今回のパンデミックが始まったときに課題のままで残っていたというふうに考えたことです。
 この中には、感染症危機管理に関わる体制の強化、それから迅速、合理的な意思決定システムと、そして法整備なども冒頭でうたわれております。その必要性は三年半のパンデミック期間中に常に感じていたことで、今回、それらがようやく法案として議論され、整備されることは大変喜ばしいことですし、必要なことだろうというふうに思っております。
 それに対する課題だということですけれども、このパンデミック初期は、このウイルスがどのようなものか皆目見当も付かない状況で、日々、主に中国から寄せられる情報はまさに恐怖をあおるようなものばかりで、実際に令和二年一月から始まった国内の第一波では感染者の死亡率も五%を超えると、医療現場も大混乱に陥る状況でした。まさに未知のウイルスとの出会いですし、仕方がなかったんじゃないかなとは思いますが、その後の第二、第三波までは、政府や自治体の対応もおぼつかず、最も困惑したのは、政府や行政からのメッセージが明確に国民に届かなかったことではないかというふうに思っております。
 そして、大きな問題として、医療衛生物品ですとか、例えばマスクやガウン、消毒薬などが深刻な不足に陥りまして、検査件数も全く増えないというふうな状況が続いておりました。これもよく議論されましたけれども、政府からは明らかなメッセージがなく、コメントに窮した記憶が私自身がございます。まあ、ないならないで、そういう状況は仕方がないので、明確にその理由と今後の見通しを述べるべきだったんではないかなというふうに思っております。
 第四波、第五波の折にも、政府のメッセージは余り明確に聞こえてまいりませんでした。特に東京オリンピック問題が絡んで、より政府の国民へのメッセージが不明瞭になりました。ようやくメッセージが届くようになったのは、ワクチン接種が開始される前後からではないでしょうか。菅総理が、毎日、ワクチンと飲み薬がゲームチェンジャーだというふうに連呼されていたのも記憶しています。
 そして、この感染症との闘いを明確、闘い方を明確にお示しいただいたのが、現在の岸田総理が令和三年の十月に就任後の記者会見で方針を明らかにされた頃だと思います。それまでの対応の中から、この感染症に対する問題点あるいは行うべきことが明確になったのでメッセージも出しやすくなったものと感じています。決して岸田さんがそれ以前の総理に比べて優れているということではなくて、状況がそういうような形をつくったのだろうというふうに思っております。
 しかしながら、その後のオミクロン株による第六波以降も、政府対策本部で決議された取組の全体像は国民に明確にされることがなく、第七波、第八波での対応が行われました。この間、水際対策や行動制限、営業自粛、マスクの着用などの規制緩和が次々と行われましたが、それぞれの担当大臣や官房長官からは方針の公表はあるものの、メッセージとしては弱く、また対象者が曖昧で、つまり若い人たちへのメッセージと高齢者や有病者などの感染弱者へのメッセージの区別が明確でなく、国民はこういうことなんだろうなと推し量ることが多かったように思います。私もそのような解説をいたしておりました。経済優先にかじを切った結果、感染者数と死者数が増加することは当然の結果だったと思います。その説明が欠落していたのではないでしょうか。やはりキーパーソンは恐らく今回は総理だったと思いますが、からの国民に向けての強い明確な包み隠しのないメッセージが必要だと考えました。
 海外では、パンデミック当初に、米国のNIAIDの所長、現在は大統領首席医療顧問のアンソニー・ファウチ氏ですとか、それから台湾で感染初期に感染対策のデジタル化で名をはせたオードリー・タン氏と、それから国民に毎晩語りかけて有名になられたニュージーランドのアーダーン前首相など、カリスマ性があり、かつメッセージが明確で説得力のある、すなわちエビデンスのある、エビデンスの伴った説明をスポークスマンが我々の国には不在ではなかったかなというふうに思っております。
 長々とお話ししてきましたけれども、つまるところ、新しい統括庁ができて、その運用が仮に順調に行われたとしても、その内容や政府方針をいかに国民に伝えるかは極めて重要で、明快なメッセージを専任のスポークスマンか、あるいは総理クラスのキーパーソンが常に国民に伝え続けることが重要なように思います。国民が、我が国の国民が他の国民に比して政府方針を理解し受け入れやすい気質を持っておればこそ、このような国民とのやり取りは重要なように思います。
 特に、結論に至る経過が不明確で根拠が曖昧と思われるような場面が多かったように思います。本来、科学的な根拠に基づき政策が決定されることは理想的ですが、時にはそれをも超えた政治判断が必要な場面もあると思います。それを伝えられる範囲で明確に伝えてほしかったように思います。専門家組織との意見のそごの問題や、メディアやSNSでの誤った情報拡散や政府方針に対する批判なども、この点を徹底すればかなり抑制できるような気がします。この点を含めて、統括庁のリスクコミュニケーション、情報伝達の確実性を徹底していただければなというふうに思っております。
 二番目の問題は、ワクチンと治療薬の研究開発と承認についてお話ししたいと思います。
 今一つ感じていることですけれども、新型コロナウイルス感染症へのワクチンや治療薬の開発、もうこれは、欧米の製薬企業のワクチン戦略あるいは抗ウイルス開発、ウイルス薬の開発というものと比べてみると、歴史上非常に長いものに、長い経過の上に成り立っているということが分かります。
 例えば、ファイザー社などは、随分以前、もう十数年以上前から、今後の感染症への対応は治療薬よりワクチンが中心だと公言しております。長い研究と開発の歴史の上に今回のメッセンジャーRNAワクチンの成功があるんです。
 また、ワクチン開発、すなわち感染予防は、多くの欧米の国々が国家戦略として、国防の一つとして取り組んできているので、やはり長い歴史があります。
 我が国は、ワクチン開発に関してはようやく最近になってその必要性が認識されるようになって活用が進み始めていますが、国内企業の実力は遠く海外には及ばないようです。したがって、次のパンデミックに向けて国産のワクチン開発を望むならば、相当の覚悟と投資が必要です。
 抗ウイルス薬も同様で、我が国の多くの製薬企業の感染症領域にはもう見切りを付けて、がん領域や中枢神経領域などへその研究方針を向けています。その背景には、かつては感染症領域も我が国では多くの治療薬が開発されて世界に冠たるものであったわけですけれども、医療費抑制政策のあおりと、そういうようなものも受けて、昨今の我が国の製薬企業の業績は振るわず、その結果、研究開発に向ける予算も減少し、新薬開発力の低下も顕著であります。無論、研究開発には人材も必要ですが、そこも枯渇しつつある状況です。危機対応の統括庁の取組ではないかもしれませんが、平時にこの点を解決しておかなければ、危機対応もおぼつかないように思います。
 そして、今回、特例承認や緊急承認、これは新しい仕組みができて、早速、経口治療薬が、我が国の経口治療薬が適用され、承認されたようですが、ここにも不安があります。特に特例承認で国内使用が認められた治療薬は、やはり有効性や安全性の検証は不十分です。承認や適用の見直しが頻繁に行われる必要があるのではないかと思っています。特に抗体薬などはウイルスが変異すればたちまち効果が損なわれます。
 米国では、エマージェンシー・ユーズ・オーソライゼーション、EUAと、緊急承認で認められた薬剤が頻繁に承認取消しなどが行われています。EUでも、治療薬やワクチンの承認の見直しはしばしば行われており、我が国で現在使用中の治療薬の承認取消しなども昨今ありました。
 我が国では、一度承認された薬剤が膨大な買い置きがなされたためということもあるのでしょうか、承認の見直しや有効性再評価がほとんどありません。特に経口薬は国民の安心に結び付くものと考えられている部分もあるようで、まあ最近薬価も付けられたようですが、現在の運用は経済的効果も含めて適正でしょうか。国民に広く使用するものです。緊急事態が過ぎれば、科学的な再評価が望まれると思っています。
 このような部分は、むしろ新しくできる国立健康危機管理研究機構の業務かもしれませんが、やはり統括庁で平時から指導管理されるべき項目であるように思います。先ほど齋藤参考人の方から、やはりその準備期間の大切さというお話がありました。緊急事態が起こる前にいろいろと取り組まなければいけないテーマがあるように思っております。
 最後に、医療提供体制の強化と運用について少しお話ししておきたいと思います。
 もう一点、医療提供体制の強化ですが、今回のパンデミックで問題となった医療提供体制の様々な課題は、実は感染症法が変わって、その中で多くが解決の方向に向けられ整備が進んでいるように思います。ただ、特にこの領域で感ずることは、組織を変えて仕組みが変わっても、大切なのは運用をスムースに行うことですので、もう繰り返し、これも先ほど齋藤参考人の方からお話がありましたけれども、演習や実地トレーニングを行うことが重要だと考えています。
 二〇〇九年の新型インフルエンザのパンデミックが起こった折には、実は今回と違って、事前に、そろそろ新型インフルエンザ、それも強毒性の鳥インフルエンザがヒト型となって襲来するのではと言われて、数年前から準備をしていたのです。いろいろ取り決めておりましたけれども、実際にパンデミックが起こると現場は混乱いたしました。ですので、そういう意味では、事前の準備と同時に、そういうようなものを徹底するトレーニング、演習が必要だというふうに思っております。
 平時から準備をすることが非常に大事ということを最後にお話をさせていただきまして、危機対応もより確実にするために備えることを考えていただければというふうに思っております。
 以上で私の話はおしまいであります。どうもありがとうございました。

発言情報

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発言者: 二木芳人

speaker_id: 17359

日付: 2023-04-13

院: 参議院

会議名: 内閣委員会