川村真理の発言 (法務委員会)

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○参考人(川村真理君) この度は、参考人として意見を述べる貴重な機会をいただき、ありがとうございます。
 私の専門は国際法で、長きにわたり難民問題に関連する国際法制度に関する研究に携わってまいりました。また、実務では、UNHCRの国際保護局において人権関連のリエゾン業務に携わった経験があります。入管行政との関連では、現在、難民審査参与員を務めております。過去には、難民認定制度運用の見直し状況検証のための有識者会議及び収容・送還に関する専門部会の委員も務めさせていただきました。
 本日は、こうした経験を踏まえつつ、難民条約と人権条約の特徴、入管法等改正法案の規定についてお話しさせていただきたいと思います。
 まず、難民条約についてお話しします。
 難民条約は、難民の基本的権利と自由のできる限りの保障を考慮するとともに、各国の負担分担や緊張関係の防止も考慮して制定されています。難民条約では、人権条約のような履行確保の監視する措置の設置を規定せず、締約国が独自に難民認定手続を定めること、また、国家が重大犯罪を行った者など国家の安全にとって危険であると認める者等を条約上の保護の範囲外としてよいことを前提に規定されています。その上で、締約国は、国内事情や国内法制を考慮しつつ、条約の規定に従って難民の保護をすることを想定して起草されました。
 その後、国際情勢の変化に伴う難民保護の拡充の要請と人権条約の発展を受けて、UNHCRとその執行委員会からUNHCRハンドブックなどの様々な文書が発出されました。
 しかし、UNHCRは、条約の適用を監督する任務を有していますが、締約国に実施措置を課す権限はありません。また、執行委員会は、条文解釈のための専門家で構成されている機関でもありません。UNHCRや執行委員会の出す文書は、法的拘束力がなく、資料一の一のとおり、国家の政策決定の指針とはなり得るものの、条約法条約も当事国の合意を確立するものには当たらないと解されています。
 次に、人権条約について述べます。
 人権条約は、条約の履行確保のための実施措置制度を有しているものが多く存在し、例えば昨年の自由権規約人権委員会の対日審査などがこの履行確保のための実施制度に該当します。この制度を通じ、各締約国は条約の実効性確保に向けた対話の促進などの努力を行い、この対話の促進の過程こそが重要であるとされています。規約人権委員会が発出する意見等にも法的拘束力はありませんが、資料一の二のとおり、条約解釈の補足的な手段として使用され得ることもあります。
 また、人権条約の実施制度とは別に、人権理事会の特別手続には収容も扱う恣意的拘禁作業部会などがあります。この特別手続において、法的拘束力のない文書等で独自の見解を発出することがあります。恣意的拘禁作業部会には個人通報手続がありますが、申立て内容に多少の事実誤認があっても、書面で通知を行った一方当事者の意見をそのまま用いて意見を提出することがあり、意見が諸外国の政府に無視されるなど、その実効性に疑問視する見方もあります。
 このように、国際機関の意見といっても、各条約の規定ぶりや関連機関の権限等により、発出する文書の性質やその効果も異なります。国際法の見地から申し上げると、国家は、法的拘束力のない諸文書だからといって直ちに無視するのではなく、国際法の遵守にかなうよう参照し、説明責任を果たし、建設的対話を重ねることが重要です。
 他方で、各国際機関が発出する文書で指摘を受けたから直ちに国際法違反や国際水準に達していないと非難するのも論理的飛躍があり、国民に誤解を与えかねません。難民入管問題は、人権問題であるとともに、国家の不安定化を招きかねないセンシティブな内容であるということを踏まえて議論を行う必要があると考えます。
 例えば、難民法の研究者グッドウィン・ギルは、裁判での規範となるような条約解釈というものと各国への働きかけにとどまる勧告とをきちんと区別すべきで、後者は国家において勧告の趣旨を受け入れられるかどうかを時間を掛けて検討すべき性質のものだなどとしています。
 また、他の研究者は、UNHCRやその見解に司法機関のような監視権限やそのような効力を認めることでかえって社会の対立が深まり、保護すべき人が取り残される危険がある、難民保護のためには、国家主権と難民の安全のいずれも考慮した上、民主主義に基づいた政治的コンセンサスを重視すべきなどと指摘しています。
 欧米諸国の高いと言われる難民法、人権法の基準も、実際には、例えばカナダに見られるように、入国者への事前のビザ発給の厳しい制限や、安全な第三国協定に基づく入国制限などの入国を希望する外国人に対する厳しい法制度などと表裏一体として実行されているものであることを御認識いただき、建設的な議論がなされることを期待します。
 次に、政府提出の入管法等改正法案の補完的保護対象者について述べたいと思います。
 改正法案の補完的保護対象者の範囲は、難民条約一条A(2)にある五つの理由以外の理由で迫害を受けるおそれを有する者となっており、迫害の考え方は、公表された難民該当性判断の手引に示されています。手引における迫害に関する考慮事項には、人権の重大な侵害、差別的措置、不利益等の累積が明記されました。これに加えて、衆議院での答弁でも、紛争、拷問等は迫害の考慮事項に含まれ得ることが確認されました。
 他国は異なる規定ぶりだという指摘もありますが、重要なのは、どのようなものを対象とするかという点に尽きると思います。例えば、自由権規約七条の送還禁止に関する個人通報事案は拷問に関するものが多くを占めており、政府案は、実際には他国の保護範囲と同等であり、保護すべき者を適切に保護し得ると考えられます。
 続いて、送還停止効の例外規定について述べたいと思います。
 諸外国でも、公共の安全に危険を及ぼす者や重大犯罪者に対する送還停止効の例外の規定が設けられています。そして、例外の対象者については、国際法上確立した定義や国際社会全体で共有し得る解釈はなく、各国が国内事情を踏まえて国内法で定める性質のものと言えます。
 収容・送還に関する専門部会において、難民認定再申請に関する送還停止効についての他国の国内法規定やUNHCRの見解も確認いたしましたが、それらと比較してこの規定自体に問題があるとは思えません。
 また、三回目以降の申請者への送還停止効の例外規定の適用について、送還手続に入った段階で入管法五十三条に基づきノン・ルフールマン原則の適用の検討がなされますし、行政判断に不服がある場合には訴訟を提起することも可能となっています。
 ただし、送還停止効の例外によってノン・ルフールマン原則が害されないよう、運用において難民認定申請の審査及び送還先の決定等の質の向上を常に行っていく体制を整えることは当然に必要です。
 なお、第三者機関創設の議論もございますが、これは非現実的であると考えます。その理由として、資料四のとおり、複数の諸外国では一次審査については入管機関が行っているように、庇護手続は結局は上陸と滞在を認めるものである以上どうしても入管業務との円滑な連携を図る必要があること、また、少人数の独立機関では業務に支障が出て処理が更に遅れるおそれがあることなどが挙げられます。
 この点、私も、第三者機関を求める趣旨、つまり、公平公正な審査の必要性については当然理解できます。ただ、私の参与員としての実務経験上、参与員の審査は独立性が損なわれているとは感じません。また、参与員の能力に対する批判もありますが、私の経験上、参与員のみならず関与する全ての者の質の向上が必要であると認識しており、これは第三者機関を設ければ解決する話ではないと考えています。そこで、まずは現行制度において、関与者の専門性の向上と運用上の改善を図っていくべきであると思います。
 最後に収容について、規約人権委員会は、入管収容自体は恣意的ではないが、収容の正当性が認められなければならないとしています。
 昨年十一月に発出された規約人権委員会の我が国に対する総括所見では、まず、我が国の姿勢について、収容施設の改善、退去強制手続の改正及び長期収容の回避する措置に関する検討等を歓迎する旨表明されています。
 収容の上限の導入に向けて取り組むよう言及されていますが、まず、自由権規約の規定において収容上限は求められておらず、また、資料四のとおり、収容期間の上限を設定していない国もあります。
 大事なことは、収容期間を短くし、長期収容される者をできる限り減らすことですが、この点に関して、監理措置の導入のほか、三か月ごとの事後的な定期審査によって対応できるものと思います。特に、収容要件を定めた上での監理措置の導入、事後的な定期審査は、規約人権委員会が一般的意見で示した方向性にも一致しているのではないかと思います。今後、条約の趣旨、目的に即した説明責任を果たすとともに、特に監理措置の適切な運用が望まれます。
 なお、恣意的拘禁作業部会らからの書簡については、先ほど特別手続の専門家は独自の見解を示すと述べたように、事前の司法審査を求めている点は規約人権委員会の解釈と異なる独自のものと考えます。実際、資料四のとおり、五か国中四か国が裁判所による事前審査を行っていません。我が国は、収容決定後に裁判所へアクセスすることは可能であり、不服である場合は速やかに訴訟提起ができるようにすることとしており、これによって正当性が確保されると考えます。
 結論として、大事なことは、自由権規約等、人権条約の趣旨及び目的にかなうようにするということですが、資料五にあるように、規約人権委員会の勧告については、入管庁による運用及び改正法案の施行によって対応できる部分が多いと考えます。今般の改正法案は、国際法の遵守に向けた方向での検討があり、その内容も実施可能で、人権保護の観点からも改善されています。最大多数の合意に基づき新たな入管法の枠組みを規定した後に運用によって更なる改善をしていくことは可能であり、我が国の実情に即し、今回、実現可能な内容の法改正を早期に行うべきと考えます。
 難民の保護と入管行政の改善を推し進め、国際的な難民及び移住問題の解決にも貢献できる体制を整えることを期待してやみません。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 川村真理

speaker_id: 20499

日付: 2023-05-23

院: 参議院

会議名: 法務委員会