嶋矢貴之の発言 (法務委員会)

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○参考人(嶋矢貴之君) おはようございます。神戸大学の嶋矢と申します。
 刑法の研究をしておりまして、今回の改正に関しては、法制審議会刑事法部会において幹事を拝命しておりました。
 本日は、このような意見を申し述べさせていただく貴重な機会を設けていただき、誠にありがとうございます。簡単な項目表でございますが、そちらを参照しながらお聞きいただければと思います。
 本日は、専門に関わります実体法について、時間の関係もありますので、特に百七十六条、百七十七条の性犯罪の基本成立要件の改正と、若年者保護の強化に関わる部分について意見を申し述べさせていただきます。
 初めに、今回の改正は、本日お話しいたします実体法のテーマにつきましては大きく分けまして二つのことが目的とされています。
 一つは、処罰範囲の明確化のため、性犯罪の基本部分である強制わいせつ罪、強制性交等罪の成立要件を改めることです。現行法は、百七十六条、百七十七条で暴行、脅迫を手段とし、百七十八条で心神喪失、抗拒不能にさせ、あるいはそれらに乗じて性的行為を行うことを処罰しております。この点の規定ぶりを大きく改め、八つの例示の困難事由を定め、それによって同意しない意思の形成、表明、全うを困難な状態に被害者を置いて性的行為をすることを処罰する規定となっております。
 また、もう一つの目的は、性犯罪の被害にさらされやすい、また、被害に遭った場合には非常に重大な影響を受ける若年者に対する性的保護の強化です。こちらは二つの改正が該当し、一つは、現在十三歳と規定されておりますいわゆる性交同意年齢を十六歳へ引き上げるものです。もう一つは、いわゆるグルーミング、懐柔行為を新たに犯罪として新設することです。
 処罰範囲の変化という観点から申しますと、前者は、基本的に現行法の処罰範囲を維持することとなりますが、後者は処罰範囲を強化、拡張することとなります。そうしますと、新たな処罰範囲を設定するという場合には、そこから誤った処罰や行き過ぎた処罰が生じないように慎重に検討を行うという視点も必要となります。刑事処罰という強い手段で介入し、捜査や裁判の実績のない行為を処罰対象として取り上げることになるからです。
 以上のような理解からしますと、一つ目の性犯罪の基本部分の改正は、これまでの処罰可能であった行為をより明確に処罰の実態を明らかにし、捜査、訴追、裁判でのばらつきがなくなるようにすることが重要となります。それに対して、新たな処罰の設定は、狙いとする処罰目的を達成する明確な規定を説得的な理論的根拠に基づいて設けつつ、誤った処罰や行き過ぎた処罰が生じないように配慮することも重要となります。
 以下では、改正案の具体的部分につき、まず不同意性交等罪からお話ししたいと思います。
 前提として、従来の規定においてなぜ不明確性やばらつきが生じたのかという点を考えますと、三つの要因が考えられます。
 一つは、百七十六条、百七十七条の暴行、脅迫に解釈上、程度が要求され、その程度の理解につき振れ幅が大きかったこと。二つ目は、百七十八条、心神喪失や抗拒不能は、その言葉だけ見ると全く何もできない状態を意味しているようにも思われますが、そうではなく、暴行、脅迫以外により、抗拒が困難となる場合にも積極的に成立を認める裁判例も複数ありました。しかし、その理解が十分に共有されていませんでした。三つ目として、以上のとおり、現行百七十八条による積極的処罰の余地は十分にあったのですが、百七十六条、百七十七条が原則で、百七十八条はやや例外的に適用する場合とのイメージが持たれていたこと。これらが見通しの悪さや、ばらつきをもたらしていたのではないかと個人的には考えております。
 そのような観点から改正案を見ますと、八つの困難事由について、程度を要求することなく、従来の裁判例で認められていた類型や、心理学、精神医学の知見から同等の事態が想定されるような類型、それを取り出し、定めている点が注目されます。その上で、改正案は、それら困難事由により、同意しない意思の形成、表明、全うが困難な状態での性的行為の処罰を定めており、意思決定、実現のプロセスに着目しつつ、性犯罪としての法益侵害の実態である意に反した同意のない性交が処罰されるものとなっております。また、現行の百七十八条に当たる事由も統合して規定することで、いずれかが原則、例外という関係にあるものではないということが明らかにされているのかと思います。
 従来、明確性に欠け、ばらつきをもたらしていた原因が除かれ、より適切な規定となっているものと思います。これにより、社会一般に、こういう場合は性的行為をしては駄目だ、あるいはこういう場合には十分に相手の意思を確認しないとまずいなというようなことが普及し、行為規範として機能することも期待できます。さらに、捜査、訴追、裁判に関わる法律専門家の間でも理解の共有が進み、判断の振れ幅が小さくなるのではないかと思います。
 本改正では、以上の基本部分の改正に関係し、次の三つの指摘すべき事項があります。
 一つ目は、欺罔、誤信による場合の処罰規定です。従来、現行百七十八条、準強制性交等で処罰されていた性的自己決定の前提となる基本的事項の欺罔、誤信について、他の性犯罪と同等の侵害性を有すると考えて規定されたものです。欺罔、誤信がある場合の全てを処罰するのは行き過ぎとも思われますことから、このような規定となっているものと思われます。
 二つ目は、婚姻関係の有無にかかわらずと規定したところで現在の一般的な理解を確認し、性犯罪の法解釈としては、婚姻関係によりそれを左右する余地は全くないということを明確化しております。
 三つ目は、この点のみ処罰の強化に当たるものですが、性交等の中に陰茎以外のいわゆる異物挿入を加え、現行百七十六条の強制わいせつに当たる行為をより重い百七十七条に当たる行為であると規定しております。この点は、性犯罪被害実態という面で、膣、肛門の場合には挿入されるものによって被害は変わらないという理解から変更したものと理解しております。
 次に、若年者保護の強化についてお話ししたいと思います。
 若年者の性的保護を強化すべきであり、そのための処罰規定を強化、拡張すべきであるという点については大方の一致があり、異論はないところです。被害が重大で、長期に人生を及ぼすこと、加害に対して特に脆弱であること、それが理由となります。そのような共通理解から、性交同意年齢の引上げによる処罰の強化、懐柔行為の処罰規定の新設が改正案に含まれております。
 まず、性交同意年齢の引上げについて、従来は十三歳が基準で、その年齢未満の者は性的行為の意味を理解できないと解されることから性的行為から絶対的保護をされておりました。しかし、この点は若年者の能力を十分に理解しないもので、年齢的に低過ぎるのではないかとの批判もあったところです。そこで、性的行為に関する能力をより立ち入って分析をし、従来言われていた性的意味の理解能力だけではなく、性的行為が将来にわたって自己に及ぼす影響を理解する能力、性的行為に直面した際それに的確に対処する能力なども重要であり、それがある程度備わり発揮できるのは十六歳程度であろうということで、今回の改正案となっております。
 ただ、他方で、十六歳未満であるとはいえ、近い年齢の者同士の性的行為を全て処罰してしまってよいのかという懸念も共有されていたところです。そこで、先ほどの能力の分析から、年齢が大きく離れていなければ直ちに対処不能となるものではなく、性的行為に関するイエス、ノー、希望を表明し対応することも可能な場合があるのではないか、それが含まれるような年齢差の場合には処罰から除外すべきではないかと考えられたところです。
 その検討の際には、改正案と異なり、対処能力が足りないことに乗じたなどの実質要件を加えるべきではないかという議論、五歳差は年齢差として大き過ぎるので三歳差とすべきではないかという議論もあったところです。難しい問題ですが、本規定は、困難事由や同意しない意思の形成等の困難化の認定を要することなく、一律に処罰をする規定と理解されます。そうしますと、実質的判断を入れるのは規定の趣旨に反するということから、実質要件は入っておりません。
 他方で、三歳差では、例外なく年齢差により同意しない意思の形成等が困難になる性的自己決定の侵害があると言えないのではないか、それも規定の趣旨に沿わないのではないかということから、五歳差の案となりました。この点は、年齢という形式判断のみによる処罰強化を及ぼす範囲を理論的に問題がない範囲に限定し、若年者同士の性的行為に配慮をしたものと理解しているところです。
 もちろん、この点は、五歳差がなければ対等であるという趣旨ではなく、一歳差、同年齢であったとしても、百七十六条や百七十七条の困難事由である社会的地位利用などによって、若年者の脆弱性を十分に踏まえつつ、個別に判断されるべきこととなります。
 最後に、懐柔行為についてお話し申し上げます。
 この規定は、これまで全く存在しなかったもので、若年者の性的自由が侵害された後に処罰することと同等かそれ以上に未然に防ぐことが重要であるという理解に基づくものです。特に、いわゆるグルーミングと呼ばれ、大人が若年者と信頼関係を築き、あるいは恋愛関係にあると信じ込ませる等して関係性をコントロールして、望ましくない性的行為に至るような事態を防ぐことが重要と考えられました。
 もっとも、それをそのまま条文化することが難しいことも課題でした。大人と若年者が日常的にコミュニケーションを取ること自体、あるいは信頼関係を築くこと自体は禁ずべきことではありません。性的目的でそれらが行われた場合に処罰をする考え方もあり得ますが、そうしますと、処罰の可否が専ら行為者の内心に依存することとなり、明確性と安定性に問題が生じ得ます。
 そのような考慮から、改正案百八十二条は、一号で威迫、偽計等による、二号で拒まれたにもかかわらず反復して、三号で利益供与等によるという手段を定め、面会要求をすることを処罰しております。不当な手段を用いて意思決定を左右することを定め、かつ、会うことで性的被害の危険が飛躍的に拡大することから、それを要求する行為を処罰する形になっております。これにより、外形的、客観的に処罰すべき行為が明確となり、誤った処罰や行き過ぎた処罰となることを慎重に防ぎつつ、若年者が性的被害に遭わない性的保護状態という法益を守ろうとする規定になっております。
 以上のとおり、処罰の明確化や処罰の強化、拡張が必要であるという大筋の共通の理解を共有しつつ、その範囲につき誤った処罰や行き過ぎた処罰に至らないように慎重に考える意見も踏まえた法制審議会の要綱及びそれに基づく改正案であるというふうに考えます。刑法研究者として、性犯罪の処罰範囲の明確化、若年者の性的保護を大きく前進させるものと積極的に評価をしております。
 私からの意見は以上でございます。御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 嶋矢貴之

speaker_id: 26322

日付: 2023-06-13

院: 参議院

会議名: 法務委員会