斉藤章佳の発言 (法務委員会)
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○参考人(斉藤章佳君) おはようございます。大船榎本クリニックの斉藤といいます。
私は、榎本クリニックという依存症の専門医療機関で現場のソーシャルワーカーとして働いております。
現在、榎本クリニックは都内に六か所、あと鎌倉市に一か所、計七か所あります。規模としては、アジア最大規模の依存症の専門医療機関と言われています。私自身は、そこに約二十年間勤める中で、様々なアディクション問題、いわゆる依存症の問題に関わりながら、約十六年前から性加害を繰り返す方の再犯防止プログラムを日本で初めて社会内処遇の枠組みでクリニック内でスタートし、現在、昨年の三月末までに二千五百名を超える性犯罪加害者の再犯防止プログラムに関わってまいりました。恐らく、人数でいうと、一番日本で性犯罪加害者に会っている専門家というふうに言えるんではないかと思います。
そういうバックグラウンドを持ち、今日私ここに座っているわけですが、最初、被害者支援団体の方から今日このような会があるということで是非出てほしいと打診を受けたときに、私は捕まった側の再犯防止プログラムをやっておりますので、果たして私がここで話す意義があるんだろうかというふうに思ったんですが、その方から、是非今日参加される方々に子供への性加害者の実態をしっかりと知ってもらうということと、是非加害者目線で見た刑法改正の意義ということを話してもらいたいという非常に大きなテーマをいただきました。
果たして十五分でそのテーマにしっかりと応えられるか、少し自信はないんですけれども、私は現場の人間ですので、現場の中で見てきた、つまり二千五百名の加害者を見てきた中で積み重ねた知見を通して、今日少しお話しできればと思います。
大きく分けると、今日のお話のテーマは三つになります。
一つは、子供に対する性加害者の実態についてです。日本ではまだまだこの分野に関する研究がほとんどありません。なぜなら、彼らはなかなか臨床の現場に出てこないからです。ですから、データも非常に少ないというのが現状です。その中で見えてきた実態についてお話しできればと思います。二つ目は、加害者視点から見た公訴時効の延長についての視点になります。三つ目は、先ほど島岡先生おっしゃりました加害者のプログラムについてのお話をしたいと思います。
では、青いパワーポイントのスライドの資料と、二〇二二年八月三十一日付け朝刊の朝日新聞の記事を参考に進めていきたいと思います。朝日新聞の記事は最後のページに恐らくあるかと思います。
まず、二枚目のスライドです。
私自身は社会内で性犯罪の再犯防止プログラムにも携わっておりますが、実は刑事施設でも、つまり受刑中の方へのプログラムの提供やスーパーバイズなんかも行っています。
これは、某、ある累犯の刑務所での性犯罪のプログラム参加者の実際の生の声です。実は、このような類いの声を私たくさん聞いてまいりました。先生、俺このまま刑務所から出たくないよ、また絶対に小さい子をやってしまうの分かってるから。つまり、刑務所から出ずにずっと刑務所内で過ごしたいと。その理由としては、また再犯するのは分かっているという切実なメッセージでした。
実は、私、このメッセージは日本の刑事司法の問題が凝縮されたメッセージだというふうに感じています。性犯罪の問題は、どうしても、逮捕、起訴、勾留、そして判決が出るまでは非常にメディアも盛り上がりますが、実は、その後の受刑、そして出所、そして出所後のコミュニティーへの再統合、そして就労、そして再犯せずにどう生きていくかというのが、実はこの加害者臨床と言われる中で非常に重要なポイントになります。
ですから、彼のメッセージというのは、つまり、出所後、野放しで、どこにもつながれる場所がなく、最終的に再犯するという選択で再びまた刑務所に戻るしかないと、このような満期出所者の非常に厳しい現状を表したメッセージだというふうに感じています。
実は、子供性加害者の当クリニックでのヒアリング調査、百十七名の調査によると、初めての加害行為から専門治療につながるまでの平均の年数は十四年というふうに出ています。つまり、十四年の間にかなりの数の被害者を出しているということになります。
なぜ十四年掛かるのか。例えば痴漢の場合は八年、盗撮の場合は七・二年というデータが出ています。それよりも、この子供性加害者の場合は十四年掛かっているわけです。もちろん痴漢や盗撮に比べて母数のデータはちょっと少ないんですけれども、約倍ぐらいの期間が掛かっています。これは、彼らが泣き寝入りしそうな、そして訴え出なさそうな、特に小学校一年生から三年生を主に狙っている加害行為を繰り返している人たちだからです。つまり、子供は性被害を受けているとき何をされているか分からないから。
彼らの中には、実は男児を狙う者が非常に多いです。これ、理由は、同性愛者ではなくて、女児よりも男児の方が声を上げにくいと知っているからです。昨今、某芸能事務所の男児への性加害の問題がメディアで出ておりますが、実は加害者というのは、自分が逮捕されないために、この問題行動を続けるために何が一番選択として正しいのかを知っているわけです。そのために男児を狙うという加害者が実は結構多いという事実が余り知られていないなというふうに感じます。
次のスライド行きたいと思います。
子供性加害の実態ですが、一つ目は、これは実際のプログラムを受けている当事者の言葉です。その常習性と衝動性は他の性倒錯の群を抜いている、好みの子供を見ると、まるでそれに吸い込まれるように近づいてしまうんだ、このような発言はよくプログラムの中で見られます。
有名な研究で、少し古いんですが、アメリカのジョナサン・エイブルの研究では、未治療の性犯罪者が生涯に出す被害者は平均三百八十人であり、延べ五百十八回の加害行為に及ぶと言われています。これは子供性加害だけではなくて、あらゆる性暴力を含むアメリカの研究です。
私、刑務所等のプログラムで必ずこのデータを出すんですが、先ほどの刑務所から出たくないと言った方のグループでこの話をしたときに、たまたまそのグループは五人参加していて、三人が子供性加害の受刑者だったんです。累犯です。皆さん刑務所に五、六回は入っている方々です。このデータを見て彼らの一人が、私はその三倍はやってきましたと言いました。私はやっぱりびっくりしまして、ほかの方の顔を見たら、ほかの方もうなずいていました。実は、この子供性加害の問題、これだけの現象を見て確定的なことは言えませんが、非常に暗数が多く、そしてその背景には何十人、何百人という被害者がいるんだなというふうに現場で実感いたしました。
法務総合研究所の調査、これも少し古いですが、子供への性犯罪前科二回以上の者の再犯率は八四・六%と言われています。これ、ちょっと母数が少ないのでもう少し母数取った方がいいと思うんですが、現場でこれは私自身が感じている実感と非常にシンクロします。
次のスライド行きたいと思います。
これは、実際に子供性加害を繰り返した方が当院の再犯防止プログラムにつながる際に、診断名として小児性愛障害という診断が付くケースが多いです。実際に子供に性的な関心を持つ人は、男性では人口の五%、女性では大体一%から三%と言われています。その対象は同性、異性どちらもあります。
実際に、私は今女性のペドフィリアの加害者の治療に当たっています。初めて私も女性のペドフィリアの加害者に出会ったんですけど、現場で。ただ、多くは加害者は男性です。そして、被害者は女児もいれば男児もいるということは言えると思います。
小児性愛障害のタイプとしては、純粋型と混合型二つに分かれます。純粋型は十三歳未満の児童のみが対象です。混合型は十三歳未満も、それ以上、成人も対象としています。当院の百十七名のデータでは、約一割が純粋型、そして残りの九割は混合型でした。
あと、小児性愛障害を診る上での留意点として、これ臨床的なところで重要なポイントとして挙げておきました。児童への性的嗜好は、必ずしも直接的な加害行為を含むわけではありません。実際に児童への性交を想起しながらも、生涯加害行為を実行に移さない人も一定数存在します。
また、セクシュアリティーの複雑さというのも実は余り知られていません。小児性愛障害の方のセクシュアリティーの複雑さということで、今回、キッズライン事件と言われる事件の朝日新聞の記事を持ってきました。私、この方の担当を今もずっとしているんですが、この方に関しては、成人の男性、女性も性対象ではなく、児童に関しても、女児は対象ではなく男児のみ性対象という方です。ほかにもこういう方がいらっしゃいました。成人の場合は男女とも性対象だが、児童の場合は男児のみ性対象で女児は性対象ではないと。
このように非常に複雑なセクシュアリティーを持った加害当事者がいますので、初診のときには必ずその方のセクシュアリティーを確認するようにしています。
次のスライド行きたいと思います。
実際に彼らが見ている世界というのはどういう世界なんだろうかというのを少しまとめてみました。
今回、刑法改正の中で、不同意性交等罪ということで、同意という言葉が入ったのは私も非常に画期的だなと思います。
彼らの考える同意の概念、どういうものでしょうか。彼らの考える同意というのは、自分の行為は、これ、行為というのは加害行為です、受け入れられて当然であるという認知のゆがみに支えられています。つまり、子供は無条件に自分を受け入れてくれているという中で、加害者自身は承認欲求を満たしています。実際に、純愛幻想、飼育欲、支配感情という三つの特徴がありますので、そちらは目を通していただければと思います。
よく彼らはかわいいという言葉を使います。このかわいいは、我々の子供に感じるかわいいとは質的に異なります。その背景にある言葉は、相手を絶対に脅かさないという保証がそこに含まれています。だから、彼らは子供をかわいいというふうに感じるわけです。
彼らの同意というのは、支配、被支配の中で成立するものです。ですから、この法律の中に不同意性交罪、この同意という概念が入ったことによって、彼ら自身も治療の中でこの同意の概念をアップデートしていく大きなきっかけになりますので、是非この名前で法律ができるということを私は強く望んでいます。
最後のまとめです。性犯罪の再犯防止に重要な視点として幾つか挙げました。
一つは、やはり刑罰や監視によるアプローチというのはもう限界が来ています。先ほども申し上げたとおり、過去に二回以上子供に性犯罪で逮捕されている人の再犯率は八六%でした。刑罰だけでは防げないというのがもう目に見えております。ですから、やはり医療モデル、教育モデル、社会福祉モデルを統合的に加えたアプローチを普遍化していくことが重要だと思います。
そして、一つ気を付けないといけないのは、これは我々自戒を込めてですが、医療機関でこういうプログラムをやっている以上、診断名が付きます。そのことによって過剰に病理化してしまうことは、本人の行為責任を隠蔽してしまう機能があります。彼らは交番の前ではやりません。ですから、非常に選択的な行動と言えます。ですから、この辺の行為責任と疾病の部分、しっかり分けて考える必要があります。
そして三番目は、関わる支援者が子供への性暴力に対する正しい知識と認識を持つことも大事だと思います。昨今から出ています男児も性被害の対象になることや、カミングアウトにはやはりそれ相応の時間が掛かります。ですから、この辺りもしっかりともう世間一般の常識として知ってもらいたいですし、グルーミングという言葉に関しても是非多くの人が知ってもらいたい言葉だなと思います。
最後になりますが、性犯罪に関しての一次予防、二次予防、三次予防というふうにまとめました。
一次予防は、先ほどから出ています啓発、そしてやはり性教育です。
包括的な性教育の重要性というのは、私もこのプログラムを通して感じています。実は、昨年の九月から、我々の加害者のプログラムで性教育のプログラムを始めました。実際に助産師の櫻井裕子先生に来ていただいて、月一回ではあるんですが、性教育、学校で受けるような性教育のプログラムを行っています。これ非常に参加者に好評で、こういうことをもっと早く知っていたかったと加害当事者が言っています。ですから、この包括的性教育を幼少期からしっかり学ぶということの重要性は当事者も声を上げているということを知っていただきたいと思います。
あと、二次予防に関しては、早期発見、早期治療。先ほど、初めての加害行為から専門治療につながるまでかなりの期間を要しています。この辺りは刑事手続も含めて早い段階で治療につながっていくようなシステムの構築が重要だと思います。
最後は、再発防止です。これは今我々が取り組んでいるプログラムになります。まだまだ少ないので、もう少し増えていくといいなと思います。
最後ですが、今回の資料から引用したデータ等は、こちらの「「小児性愛」という病―それは、愛ではない」という本の中に書いてあります。もう少し詳しくデータとかまとめたものがこの本の中には集積されていますし、実は加害者自身も過去に小児期の逆境体験を多く経験しています。つまり、彼らも過去被害者だった経験があるわけです。このような被害と加害の負のサイクルを断ち切るためにも、我々がやっている加害者臨床の意義というのは非常に大きいなというふうに感じています。
御清聴ありがとうございました。