佐野利男の発言 (外交・安全保障に関する調査会)

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○参考人(佐野利男君) 紹介していただきました佐野でございます。
 今日いただきましたお題目は、NPT、CTBT、FMCT、INF、新STARTなど、二国間、多国間を始め、多様な枠組みで進められている核軍縮、核不拡散の現状、成果、課題、及び核軍縮、不拡散の推進に向けた意見、提言ということで、先生方には釈迦に説法になってしまうかも分かりませんけど、一応確認の意味を含めてお話しさせていただきたいと思います。
 なお、本日の意見の陳述は、私の今の職である内閣府原子力委員あるいはいかなる組織を代表した、組織の意見を代表したものではございません。私の個人の見解でございます。御承知おきください。
 まず、多様な枠組みの現状で、このレジュメを用意いたしましたけれども、これを丁寧に説明していただきますと四十分掛かるということが分かっていますので、若干省略しながら要点のみをお話ししたいと思います。
 NPT、核不拡散条約でございますけれども、七〇年に発効して今年五十二年、三年ですか、百九十一か国が加盟している戦後の核秩序の根幹を成すものであって、国際安全保障の礎石であるという認識でございます。
 五か国のみに核保有を認めている言わば不平等条約です。これは、一九六七年一月以前に核実験をした五か国ですね、これに核保有を認めて、当時、一九六〇年代の課題というのは核兵器をいかに拡散しないかということであったわけで、この拡散を望まない米ソにより主導された、まあ言わば主権平等を犠牲にした条約であって、当時の知恵であったというふうに私は考えております。そのうち、西独、そして日本が入ることによって、この当時の国際政治における敗戦国の主な国ですね、西独、日本が入ることによって一定の目的を達成した条約であると思います。
 ただ、不平等なんですが、その条約の中にグランドバーゲン、大きな取引と書きましたけれども、つまり、将来にわたってこの不平等性を解消していこうと、つまり核兵器国が核を廃絶していく方向のベクトルを明記しておる。これは六条、有名な六条でございますけれども、同時に、非核兵器国の原子力の平和利用、この権利を認めていこうと、こういう条約でございます。
 二十五年たった九五年、これが重要な年なんでございますけれども、無期限の延長に国際社会が合意しました。つまり、不平等性が糊塗されたわけですね。ただ、その見返りに非核兵器国が得たものがあると。それは、その下のちょっと太字で書いてありますが、CTBT、包括的核実験禁止条約、これの早期採択、これはもう交渉が内々続いていたわけですが、それから、二番目にFMCT、兵器用核分裂性物質の生産禁止条約、三番目に、一番最後の行ですが、中東の非大量破壊兵器地帯の実現、で、次のページの一番上ですが、消極的安全保証、大体この四つぐらいが非核兵器国が無期限延長の代わりに勝ち取ったといいますか、そういう項目でございます。
 まず、CTBTからいきますと、これは端的に申し上げますと、地下核実験を禁止したものです。地下核実験を禁止することによって、以前からあった部分的核実験禁止条約、つまり海中、大気圏、宇宙も入れてですね、全てのところ、場所における核実験を禁止しております。ただ問題は、発効要件が敷居が高かったわけですね。そこに書いてあります八か国が現在も締結しておりません。米、中、インド、パキスタン、エジプト、イスラエル、イラン、北朝鮮、この八か国です。署名数は百八十五ともう非常に多いんですけれども、いずれにせよ発効していないと。
 この現状がこういうことですが、問題としては、やっぱり国際政治の現実から見て、この八か国が批准していくのは非常に難しいと。つまり、米は御存じのように共和党と民主党、立場が違います。上院で三分の二以上を取らなければ批准できません。中国はアメリカを見ている、インドは中国を見ている、パキスタンはインドを見ている。それから、エジプト、イスラエルは相互に見合っているわけですね。イランもイスラエルを見ている。北朝鮮は御存じのような開発をしてしまっていると。この八か国が批准してCTBTが発効するというのは非常に難しいと思います。
 ただ、二か国を除いて、今この国際社会の中に核実験できるか、国際的な世論に抗してできるか、私はできないと。二か国というのはロシアと北朝鮮のことを言っているんですが、この国以外に核実験はできないという規範が各国の指導者の中にあると思います。そういう意味では、CTBTの八割方のその条約の精神というものは尊敬、尊重されているというふうに言えると思います。
 これを発効するために、例えばもう一度外交会議を招集するとか、あるいは条約の暫定適用という手はあるかも分かりませんけれども、しても同じですね、この八か国が入ってこないわけですから。つまり、国際政治の問題であって、条約を発効させる云々というのは二次的な問題じゃないかというふうに考えております。
 FMCT、これは兵器用核分裂性物質生産禁止条約です。端的に申し上げますと、核兵器の原料となる高濃縮ウランとプルトニウム、これの生産を禁止していこうという、ある意味で画期的な条約ですね。これができましたら、ある意味では核軍縮、核廃絶の道が大きく開かれるという条約ですけれども、これが残念ながらジュネーブの軍縮会議において、二十数年にわたって交渉がなされてきませんでした。
 その理由は、本音ベースで言うとこのFMCTを望まない国があるということだと思いますが、表面的には、ほかにプライオリティーがある、ほかのイシューにプライオリティーがあるということでですね、例えば宇宙の問題とか、ことをいうわけですが、たまたまこのジュネーブの軍縮会議はコンセンサスがルールですから、一か国でも反対すると交渉が始まりません。そういう状況がずるずると今日まで及んでおります。ですから、成果が出てないということです。課題は山積です。
 ただ、条約の草案を作っている国もあるし、それから条約が始まった場合に即交渉が開始できるように様々な準備がなされてきている。日本政府も相当努力をしてきております。この軍縮会議のルールを、コンセンサスルールを変えるのはどうかというのがよく議論されますけれども、それも一つの方法かと思われます。
 中東の非大量破壊兵器地帯、大量破壊兵器といっても、特に非核地帯をつくろうと。その心は、イスラエルの核を放棄させようということですね。当時、アラブ諸国が無期限延長に合意したのは、もしイスラエルの核が放棄されれば非常に望ましい状況ができるという、言わば冷戦後のユーフォリアの中にいたんだと思いますけれども、ただ、これも全く進展しておりません。いろんな会議を開いておりますけれども、まさに会議は踊るで、実際は全く進展しておりません。
 現実世界に目をやりますと、かなり難しいですよね。今の中東和平の状況を見て、イスラエルが核を手放すか。つまり、イスラエルは、自分たちは中東における最初の核兵器国にはなりませんという形で曖昧政策を取っているわけですが、まあほとんどのアラブ諸国は持っていると思っているわけですから、この実現は見通しは困難であると。
 四番目に、消極的安全保証ですけれども、これは実は、そのNPTが無期限延長される前に安保理の九八四によって五核兵器国が供与したもの、つまり、核兵器国は非核兵器国に対して核の使用及び核の威嚇をしないという約束をしたものですが、これは皆様既に御存じのように、クリミア併合あるいは今回のウクライナの侵略時におけるロシアの態度を見ても明らかに違反されている。したがって、これは宣言なんですね。条約でもなければ、公的拘束力がある文書じゃありません。ただ、これを条約にするかという動きはあります。ただ、核兵器国がどれだけ譲歩するかということだと思います。
 この四項目を今から見ると、必ずしも現実的とは考えられないような約束の見返りとして無期限の延長をしたというのが現実であります。
 それ以降のNPTの動きを見てみますと、注目されるのは、二〇〇〇年の会議という、運用検討会議ですが、これで全面的核廃絶の明確な約束というのを核兵器国がしております。そのための、実現するための十三の具体的な措置についても約束しております。これは二〇一〇年の最終文書でも引き継がれ、これが最後のNPTの合意になっているわけです。昨年行われました二〇二二年の最終文書は、ロシア一か国の反対によってほごにされました。
 現在の状況ですが、やっぱりNPTの運用検討会議で合意文書ができないという状況で、NPTに対する求心力が弱まっているということが言えると思います。対立が表面化している。つまり、非核兵器国対核兵器国、ロシア対加盟国、米英仏対ロ中、それから核兵器禁止条約派と核兵器国あるいは同盟国、こういった対立が明確になってきております。特に、核兵器国間の対立、米中の対立ですね、が今後のNPTのマネジメントに深刻な影響を与えると思います。今までは、善しきにつけあしきにつけ、五か国が固まって合意形成に参加していたわけですが、今後実のある合意は困難だと言わざるを得ないと。
 しかしながら、そのNPT運用検討会議の失敗、NPTの求心力が失われているということに過度に悲観的になる必要はないと私は考えております。なぜならば、実際の核兵器の削減というのは、米ソあるいは米ロですね、の二国間、そして英仏の一方的な宣言で行われてきていたわけで、NPTの合意によって削減されてきたわけじゃないんですね。したがって、今後何よりも重要なのは国際安全保障環境の改善ですけれども、大国間競争の中でも同時並行的に米ロのこのSTARTに加えて中国を交渉に参加させる、あるいは米中でもいいと思うんですけれども、そういった軍備管理交渉を始めることが重要だと思います。
 次に、INFですけれども、これは皆様御存じのように、七九年の核戦争の危機の後、NATOが二重決定をした。つまり、ソ連、当時のソ連が中距離核戦力、SS20が主ですが、配備するのに対して、NATO側は同時にパーシングⅡという中距離を配備する決定をして、同時に交渉をしましょうと、つまり抑止と同時に交渉をしましょうと、そういう結果できた条約です。
 発効が遅れるわけですけれども、これは英仏のミサイルを入れるかどうかということで遅れてきたんですが、結局発効して、米ロともこれを全廃します。それを二〇一九年にトランプ政権が破棄したわけですね。これは後で述べますけれども、この三十年の間に、米ロが手を縛られている間にそのほかの国、特に中国がミサイル開発に乗り出してきたというのに対して取った私は勇断だと思いますが、現在は破棄の状態にあります。
 次に、新STARTですけれども、米ロ、先ほど申し上げましたように、米ソ、米ロはこのSTART条約を中心に核兵器を削減してきたわけですね。往時は七万発ありました。現在は大体一万二千から一万三千発、総数が、なっていますが、このSTARTで合意しているのは展開されている戦略核のみなんですね、千五百五十発。これは、おおむね両方とも約束を守っています。というのは、検証を、しっかりした検証機能を持っているわけです。衛星あるいは現地査察、それによって約束は守られていると。
 他方、最近の動きとして、ウクライナ戦争の影響を受けてロシアが二国間査察を拒否しているとか、あるいはリャブコフの発言とかいろいろございますけれども、いずれにせよ条約は生きてはいます。これは二〇二六年までです。
 問題は、この二〇二六年に期限が来るわけですが、これをどうするかという問題ですね。一番いいのは、新START条約に中国を加えて、かつ交渉対象を戦略核のみならず戦術核も含めた全ての核兵器国、核兵器、これはアメリカが提案していたんですが、そういう土俵ができればよろしいわけですけれども、ヨーロッパ正面において圧倒的に戦術核に優位に立っているロシアが戦術核を交渉のまないたにのせるというのはなかなか考えにくい。そうすると、少なくとも、私が思うに、単純延長でもいいから二〇二六年からもう一度五年間延長してほしいと、そのための交渉をアメリカが始めるべきだというふうに思っております。
 その次の核兵器禁止条約と核セキュリティーについては、ここでは省略しておきます。後ほどの議論で出てくると思います。
 次に、核軍縮、核不拡散の推進に向けた意見、提言ですけれども、国際情勢は、冷戦後の国際協調の時代ははるか遠くに遠のいてしまって、現在は大国間競争の時代、抑止の時代に入っている、軍拡の時代ですね、入っていると思います。しかし、少なくともこのSTART条約の単純延長でもいいからやってほしいというふうに考えております。合意できなかったNPTの最終文書に実はパラグラフ十七というのがあって、ここでは両国とも後継条約に実質的に合意しているわけですね。だから、そういう意思はあったと。
 それから、何よりも重要なのは、中国をこの軍備管理交渉に参加させることが重要であると。当時、NATOが七九年に二重決定しましたけれども、それと同じように、抑止力を強化すると同時並行的に軍備管理交渉の、まあ準備交渉でもいいから始めていくと。で、交渉を始めて同じテーブルに着く限り、相互の脅威認識を把握せざるを得ないし、猜疑心の解消にもなるし、信頼醸成機能を持つわけですね。
 じゃ、中国が果たして乗ってくるかという大きな疑問があるわけですが、私は、中国が関心を持つ分野、主にソフトな分野だと思いますが、NASAにある、アルテミス合意というのがありますけれども、宇宙の平和利用とか、宇宙の資源の利用とか、あるいはスペースデブリの対策、現在約十八か国ぐらいが参加して、ウクライナも実は入っているんですが、そういった宇宙の平和利用をこのソフトの面から始めていくことも一法じゃないかと。
 中国が一番望むのはMDですね、ミサイルディフェンスの能力を制限したいと。圧倒的に優位に立つアメリカのMDの能力を制限したいということでしょうけれど、アメリカは恐らく乗ってこないと思いますね、自分の優位性を落とすわけないわけで。そういう力関係ある中で、ソフトの面から交渉を始めていくというのが一つの方法だろうと思います。それから、ですから、現在の東アジアの状況というのは、七九年のヨーロッパの正面の状況と極めて類似しているというふうに考えます。
 最後に、今後の核不拡散ですけれども、一番重要なのは、新たな核保有国の出現を阻止すると。プーチンが今回示した核の恫喝というのは、不用意にも核兵器の閾値を下げてしまったわけですね。同時に、核拡散の危険性というものを広げてしまった。そういう効果を持ってしまったわけで、潜在的な核保有国への手当てがどうしても必要になってくる。
 それから、NPTの求心力が弱まる中で、NPTにとどまるメリットというのを途上国メンバーに示していく必要があると。そのためには、例えばIAEAがやっている放射線を使ったがん治療、これアフリカ等々、途上国の首脳が非常に興味を持つわけですが、こういったものを示していく必要があると。
 それから、核兵器禁止条約グループも含めて、対立状況を解消して、NPTを共に支えると、そういう姿勢を示していく必要があるかと思います。
 また、新たな軍縮マシンを創設したり、あるいは既存の枠組みの改革に向けて国連がイニシアチブを取っていくというのも一法かと思われます。
 若干走ってまいりましたけども、以上で私の御説明を終わりにしたいと思います。
 ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 佐野利男

speaker_id: 15426

日付: 2023-02-15

院: 参議院

会議名: 外交・安全保障に関する調査会