大嶋寧子の発言 (厚生労働委員会)
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○大嶋参考人 おはようございます。リクルートワークス研究所の大嶋と申します。
本日は、参考人として貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます。
さて、私は、組織における人材マネジメント、それから個人のキャリア形成、そして労働政策の領域で研究を行ってまいりました。その中で、最近は、働く人や中小企業の視点から見たリスキリングについても研究を行ってまいりました。本日は、その立場から、就業者や離職者の学習に関わる現状ですとか課題につきまして概観しながら、改正案のうち、主に教育訓練やリスキリングに関する部分についてお話を申し上げたいと思います。
初めに、少し大きな話になりますが、日本では今後、サービス需要の大きい高齢人口が増加していく一方でサービスの担い手が縮小していく、この結果、労働需要と供給のギャップが継続的に拡大し、慢性的な労働供給制約社会になるということが予測されています。これは、経済にとっても大きなボトルネックになる問題です。これに対抗していくためには、徹底的な自動化ですとか柔軟な働き方の推進により、多様な働き手が付加価値の高い業務で働ける、そういう環境をつくっていく必要がございます。
さらに、二〇二三年以降は、生成AIを利用したサービスが急速に増えております。本格的な活用に乗り出す企業も増える中、今後、AIにより、人の仕事が大きな影響を受けていくと考えられます。
このような変化の中で、就業者や離職者が新しいスキルを身につけ、組織内で、あるいは企業内で新たな仕事に移行していく、つまり、リスキリングの重要性はますます高まっていくものと考えています。
このリスキリングですけれども、大きく、個人主導で行われるものと企業主導で行われるものに分けることができます。
個人主導のリスキリングは、勤務先の指示とは関わりなく、在職者や離職者がこれから労働市場で求められるスキルと自分のスキルのギャップを埋めるために主体的に学び、スキルを実践することを指します。一方、企業主導のリスキリングは、企業が事業課題の解決ですとかビジネスモデルの転換を行っていくために、従業員がその新たな業務プロセスや職務で価値創造できるよう、スキルの転換を促すものと言うことができます。
このうち個人主導のリスキリングには、その円滑な拡大を妨げる大きな問題が存在していると考えます。
まず、現状として、日本の就業者の多くが、自分の意思で仕事に関わる知識や技術の向上に関わる取組、すなわち自己学習を行う習慣を持っていない、そもそも学ぶ必要を認識していないという問題が挙げられます。
私が所属するリクルートワークス研究所では、全国約五万人の方々の追跡調査を行っております。そのデータを分析したところ、自己学習をする人の割合は雇用者の中で三割にとどまり、自己学習しない理由は何かということを聞くと、特に当てはまるものはないという回答が五割近くを占めるという結果になりました。そもそも、学ぶ理由がないということになります。
よく日本の就業者は忙しくて学ぶ時間がないということも言われますが、労働時間が減った人で自己学習が増えるのかといった傾向を確認したり、また、コロナ禍で通勤時間が減った方で自己学習が増えているのかということを検証いたしましても、自己学習の時間は増えていないといったことも見て取れます。つまり、仕事等で忙しいというのは、学ばない理由として、重要なものではあるけれども、最大のものと言うことはできないというふうに考えています。
日本人が自己学習をしない最大の理由は、企業主導のキャリア形成が主流であったため、自ら仕事を替えていくような思考や行動を持つことに極めて不慣れであるということがあると考えています。
戦後の日本では、就業者の多くを雇用者が占める雇用社会が形成されてまいりましたが、企業では、解雇を極力避けるような雇用慣行と引換えに、会社が強い人事権を持って異動や配属先を決定する結果、昇進を軸とするような企業主導のキャリア形成が行われてきました。そうした中、今の組織で通用するような特殊な能力の形成が重視される一方で、雇用者が特定の職務への希望を持つことや、今の仕事に直接関わらない学びをすることが必ずしも歓迎されてこなかったという事情がございます。
さらに、転職へのマイナスのイメージが社会的に存在してきたことや、企業横断的な能力評価、それから賃金評価の仕組みが発達せず、転職後に賃金が低下するといったケースも多く見られました。また、女性の良質な就業機会が限られてきたことから、男性にとって、家族の家計を支えるということが非常に重要になり、今の職場で働き続けるといった選択が合理的なものとなってきたという経緯もございます。
大企業を中心に、近年は社員のキャリア自律を重視する企業も増えてきておりますが、国際比較データを見ますと、まだまだ、キャリアは状況によって決まると考える人の割合が日本で高く、また、近年でも、就業者のうち、労働市場における自分の強みが分からないといった方が非常に多いといった状況にございます。
このように、個人のキャリアが企業主導で形成されてきたことは、日本の就業者の多くが、今後のキャリアについて相談できる人間関係を持たないといった状況にも関わっています。
このような人間関係というのは、心理的なサポートだけでなく、情報ですとか、これまでやってきたことの評価など、あらゆるサポートを人に提供するわけですけれども、こういったキャリアの挑戦を後押しする人間関係を持つ人がどれぐらいいるのかというのを国際比較で見てみますと、大体、アメリカとかデンマーク、中国、フランスだと三、四割を占めるのに対して、日本は一割しかいないといった状況も見られます。つまり、日本は、人間関係が家族や職場に閉じがちで、なかなか次のキャリア、仕事につながるような人間関係、相談先を持たないといったことも分かっているということになります。
これに対して、企業主導のリスキリングというのは、より効果を期待しやすい側面があります。
働く人のデータからは、企業が学びの機会であるとかあるいは方向性を示すことが個人の自己学習を促すということが分かっています。そうした方向の示し方としては、OJTとかオフJTのほかにも、昇進や仕事のレベルアップ、それから、学ぶべきことを示したり、学んだことを評価する場を与えるといったものがあります。
同様に、勤務先が自分に対してITやデジタルの学びを推奨していると認識している人とそうでない人で、実際にデジタルやITの学びをしている人の割合がどれだけ違うのかというのを見ていくと、大体九倍ぐらいの差があるといったこともデータから確認されていまして、その意味でも、今なお、企業が提供する学びの機会というのは個人の自己学習においても非常に大きな力を持っていると考えることができます。
以上より、私は、日本のリスキリングを推進する上では、二つの時間軸を持つことが必要だと考えています。
一つ目の時間軸は、早急に社会におけるリスキリングの総量を増やしていくためのもので、それには企業主導のリスキリングが欠かせないと考えています。
企業によるリスキリングは、これまで述べたような影響力の大きさに加えて、学んだことを実践する機会を持ちやすいですとか、あるいは、転職を前提としないので、労働者の心理的な負担が相対的には小さいといった強みがあります。
日本のリスキリング政策では、在職者支援の中心を企業から個人に移行していく必要性も指摘されているところではありますが、私個人は、社会のリスキリングの総量を上げていく上で、企業のリスキリング、企業主導のリスキリング支援についても更なる充実が欠かせないと考えています。
一方、これまで申し上げましたように、個人主導のリスキリングには大きな課題もあり、少し長い時間軸の下で、個人が主体的に学べるような機運をつくっていくというような仕掛けが必要だと考えております。
これに関して、現在国会に提出されている雇用保険法の改正案におきましては、教育訓練やリスキリング支援の充実に関わる内容が幅広く含まれており、個人が主体的に学ぶ社会の形成に向けた重要な一歩になるものと考えております。
具体的に、週所定労働時間二十時間以上から週十時間以上への適用拡大は、短時間の非正規雇用者や、そうした仕事をかけ持ちする人が、失業時の所得保障に加えて、教育訓練給付を通じて在職中からの学びの支援を得られることという効果もございまして、働き方が多様化する中で非常に重要な改革だと思っています。
また、教育訓練給付の支給対象となる教育訓練等を受講した場合に、自己都合離職者への基本手当の給付制限を解除する見直しですとか、あるいは教育訓練給付の拡充も、在職中の学びを促し、安心して再就職できる環境づくりに貢献すると考えております。
ですからこそ、制度改正後においては、その効果検証を精緻に行い、次の一歩に向けたエビデンスを取得していただきたいと存じます。
最後に、雇用保険の範囲を超える内容も含まれますが、日本でより多くの人がリスキリングの機会を得ていくための今後の課題について、三点ほどに絞って意見を申し上げたいと思います。
まず一点目は、今後の成長産業や、そこで求められるスキルなど、学ぶべき内容に関する情報提供の充実です。
日本の場合、企業が社内で職務の範囲や職務遂行に必要なスキルを十分明確にしていないことから、単純に企業の求人票を集約しても、なかなか労働者が参照できるスキルの情報とはなりにくいといった事情があります。ですので、国と例えば業界団体が連携し、実際に就業する人のスキルに関わる情報を国民に提供していくような方法があり得るかと思います。例えば建設業では、技能評価の仕組みを構築し、労働者のキャリア形成に役立てるといった取組を行っていますが、このような動きが広がることが重要だと考えています。
二点目は、多くの人が利用しやすい小さなリスキリング支援の充実です。
教育訓練給付制度は非常に重要な制度ですが、例えば、最も負担額が小さいと考えられる一般教育訓練給付についても平均支給額が三・八万円、支給率が二〇%で、ここから逆算したときに、個人の負担額は一定の大きさを占めます。
企業のリスキリングは、中小企業で働く非正規雇用者や女性、それから繰り返し作業の多い労働者で少ないということが分かっておりまして、こうした労働者の方々が手にしやすいような、小さなリスキリング支援を充実していくことが必要かと思います。例えばシンガポールでは、全国民に約五万円を上限とするリスキリングクレジットの提供を行っていますが、一定の要件を満たす人に、カウンセリングとセットで質の高いリスキリング支援を供給するようなやり方もあり得るのではないかと思います。
三点目は、簡単に申し上げますが、企業によるリスキリング機会を一層充実することです。
地方自治体や地方の経営者団体からは、今なお、DXやリスキリングに二の足を踏む企業が多いということが指摘されていますが、経営者の方々のリスキリングが遅れると、やはり従業員の方のリスキリングも遅れてしまうという問題がございます。これに関しては、既に厚生労働省の生産性向上支援訓練等の拡充が行われていますが、そういった支援にアクセスできないような中小企業へのアウトリーチの取組なども検討していく余地があるのではないかと思います。
大きな変化が見込まれるこれからの時代に労働者の雇用や職業の安定を図るためには、変化に適応していく力を高めるといったセーフティーネットの変革が必要だと考えています。
意見は以上となります。どうもありがとうございました。(拍手)