首藤若菜の発言 (国土交通委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○首藤参考人 おはようございます。よろしくお願いいたします。立教大学の首藤若菜と申します。
本日、このような場でお話しする機会をいただき、大変光栄に存じます。どうぞよろしくお願いいたします。
私は、労使関係を専門に研究しておりまして、物流の専門家ではございません。労働問題としてトラックドライバーの研究をしてまいりましたので、本日はその観点からお話をさせていただきたいと思います。
まず、トラックドライバーの労働時間と賃金の推移を御紹介したいと思います。
三ページの図一を御覧ください。
この図は、大型のトラックドライバーを対象としたものですが、一月当たりの実労働時間数を青い線で示し、時間当たり賃金額を赤い線で示しております。
労働時間数の方は、中長期的に見ますと減少傾向が確認されますけれども、近年はコロナの影響もあってアップダウンが見られていまして、どこまで削減されているのかははっきり言えない状況です。他方で、赤い線の方の賃金水準は上昇の傾向が確認されるということが分かるかと思います。
続いて、次のページの図二を御覧いただければと思います。
では、賃金の中身、どこで賃金が上がっているのかというところですけれども、青い線が賞与、赤い線が所定内給与ですけれども、所定内給与はさほど増えておらず、賞与のところで増大しているということが分かるかと思います。
トラックドライバーの賃金体系は、そもそも歩合給の比率が高いということを特徴としておりまして、基本給の低さがドライバーの収入の不安定さにもつながってきたと言われています。現在見られているこの賃金の増加についても、長期に安定したものであるのかどうかというのは、まだ不透明な部分が残されているというふうに考えています。
続いて、五ページ目の図の三を御覧いただければと思います。
上昇が見られるというふうに先ほど申し上げましたが、より長期の視点から見てみますと、これは、一九八五年から二〇二三年までの賃金の、年収の推移を、男性労働者の平均との格差を示したものになります。トラックドライバーは九六%が男性でありまして、日本は男女間の賃金格差が極めて大きいという特徴がありますので、男性の賃金と比較するということがすごく重要だと私は考えています。
赤い線が大型のトラックで、青い線が普通、小型のトラックで、トラックドライバーは高卒労働者が多いので、緑の線で高卒労働者の平均を示しております。これを見てみますと、赤い線がずっと、二〇一〇年頃までかけて格差が拡大してきているということが分かると思います。
トラックドライバーの賃金水準、先ほどほかの参考人の方々からもございましたが、一九九〇年、二〇〇三年の規制緩和を受けて、賃金水準は一貫して低下をしてきました。およそ九〇年から二〇一〇年頃までに二割ぐらいの賃金水準の低下が見られております。
この間、男性労働者の平均年収も伸び悩み、高卒男性の平均年収も低下をしましたが、それ以上にこの業界の労働者の賃金水準というのは下がりましたので、格差が拡大してきているというふうに思っております。
さらに、二〇〇〇年代に入ってからは、賃金の低下のみならず、例えば社会保険料を支払わない事業者であるとか、従業員に健康診断を受けさせない事業者というのも増大してきたということも分かっております。
ですので、二〇一〇年以降、確かに賃金水準は上がってきていますが、これは、それまでに下がってきた賃金の揺り戻しというような面があると思っております。大型トラックドライバーの賃金は、いまだに年収レベルにおいて高卒男性の平均に追いついていない、こういうものが実態となっております。
続いて六ページから、この十年ほど、十年から十五年ほどにどのような政策が打たれてきたのかということを簡単に御紹介したいというふうに思います。
私は、労使関係の観点から労働基準法の改正に着目をして御説明をしていきたいと思いますが、現在、物流の二〇二四年問題が叫ばれていますが、労働時間の規制は段階的に行われてきており、実は、この業界では二〇二三年問題というふうに呼ばれるものもございました。
二〇二三年問題というのは、二〇二三年四月から中小企業にも月六十時間を超える時間外労働の割増し賃金率の引上げが適用されるということになりました。トラック業界は、月六十時間を超える時間外労働の従事者が非常に割合が高いということから、この影響が極めて大きいというふうに考えられていました。
次のページ、御覧いただければと思います。
この労基法の改正に合わせて労働時間をどうやって短縮していくのかということで、全国には、取引環境・労働時間改善協議会というものが設置をされまして、各地域で、トラック運送会社、労働組合、荷主らが集まって、労働時間の削減のためのパイロット事業等が進められてきました。
ただ、この協議会の中でも盛んに意見が出されたものは、その労働時間を減らしていくためには運賃や商慣行を見直さなければならないという点でした。
これは既に出ておりますので、簡単に御説明しますが、例えば、トラックで荷物を輸送する際、高速道路を使った方が早く運ぶことができます。でも、実態としては運賃が非常に安くて高速代金を捻出することができず、下道を走って荷物を運んでいるというような実態が多々あります。
ですので、そういったところで適正な運賃を死守していく、高速代金を死守していくというようなことが進められてきました。運賃の交渉の目安を示す標準的な運賃も、二〇一八年に導入されたということになります。
さらに、そういった取組が進む中で労基法が改正されまして、二〇二四年問題と言われる残業時間の上限規制の導入が決まります。
八ページにあるとおり、持続可能な物流の実現検討会が設置されまして、その中で議論された内容が、昨年六月にはその政策パッケージとして提出されました。それらの内容を前提に今回の法案が提出されたというふうに理解しております。
この間進んできたこうした動きにいかなる特徴があるのかという点を、私が専門とします労使関係の観点から述べますと、これは四者構成にあるというふうに私は考えています。
九ページになります。
労働時間の削減であるとか賃金の水準の低さであるとか、こういった労働問題の解決は、通常は政労使の三者で議論されるというのが労使関係の中では一般的です。政労使の三者間で法案が作られ、制度の見直しが図られる、この三者構成主義というのはILOが規定していることで、国際的な標準でもあります。
しかし、トラック業界で起きてきました長時間労働や社会保険料の未払いといった問題は、顧客である荷主の行動やこの業界の商慣行が要因となっているというふうに考えられています。
こうした問題は、もちろん物流に限らない問題ですけれども、トラックで特に顕著だというふうに思います。ですので、改善協議会でも、荷主を巻き込み、話合いが進められてきました。
さらに、厚生労働省は、改善基準告示の見直しに当たり新たな制度を導入していまして、長時間にわたる悪質な荷待ちをさせている荷主に対して労基署が配慮要請をするというようなことも行っています。
もちろん、荷主は使用者ではありませんので、ドライバーを何時間待たせても労基法の違反で追及されるということはございません。しかし、荷主の行動が変わっていただかないと、ドライバーの労働実態というのはなかなか変容しないという実態があります。ですので、荷主の行動変容というものを求めてきたというのが、この四者構成というような特徴にあるのではないかと思います。
最後、十ページを御覧いただければと思います。
ただ、非常に大きな問題となるのは、荷主にとっては、その自身の行動を変容するインセンティブを持ちにくいという特徴があります。
荷主にドライバーの労働時間の削減の協力を要請しても、その必要性は理解していただいても、もしその協力にコストがかかるような場合には、行動を変えるということはそんな簡単なことではありません。高速代金の負担をすれば、当然、その分運賃が上がりますし、パレットを使うにしても、荷待ちを減らすにしても、それに対するコストがかかってくるという可能性があります。
運賃を極力安くしようというのは、ある意味、荷主にとっては経済合理的な行動ではあります。ただ、多くの荷主が適正な運賃を支払わないということに寄れば、ドライバーの労働時間を短くすることは難しく、その結果、なり手が減り、物流の停滞が引き起こされます。
こうしたミクロにおいて経済合理的な行動が、社会全体、マクロにおいて不合理な事態をもたらすということは度々起こり得るわけですけれども、経済学ではこうした事象を合成の誤謬というふうに呼びます。
合成の誤謬を克服していくためには、私は政治の力が必要だというふうに考えています。持続可能な物流という意味でのマクロな合理性を担保するために、政府による規制的な措置が必要だと考えておりまして、今回の法案の意義は、まさにそこにあるというふうに思っております。
さらに、現在、こうした法規制がかかるということを前提に、多くの大手の荷主が実際に行動の変容に移っています。今まで、いろいろ話合いに参加したり呼びかけられたりしても、なかなか変化してこなかった物流の現場が、今、できるだけ小荷物をまとめて運ぼう、ドライバーの待ち時間を減らそうといった取組が始まっております。
こうした物流の効率化は、もちろん簡単なことではございません。現場の方々は大変な苦労をされていると思いますが、こうした取組こそが、今、日本社会で求められている生産性の向上につながっているというふうに私は思っております。
何時間働かせても安い賃金で幾らでも働いてくれる労働者がいるという状況の中では、なかなか生産性の向上は進みません。労働時間の削減が現場に様々な負担をかけていましたが、こうした努力が日本経済をまさに強くしていくのだというふうに考えております。
以上となります。(拍手)