齋藤裕の発言 (内閣委員会)
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○齋藤参考人 おはようございます。日本弁護士連合会副会長の齋藤でございます。
資料の十六ページ以下を御覧いただければと思います。
私の方は、秘密指定の適正化の問題、二つ目、秘密指定される情報の範囲が不明確であること、三つ目、適性評価の在り方の問題、四つ目、民間企業への悪影響についてお話しさせていただければと思います。
秘密指定の適正性についてまずお話しさせていただきます。
秘密保護法も本法案も、元々アメリカの制度を参考に作られているとされておるわけです。しかし、秘密保護法においては、秘密指定のチェックがきちんとされておりません。よって、アメリカに比べて秘密が水膨れになっている可能性があると考えております。そうであれば、日本の方が秘密が拡大しやすく、市民の知る権利が制限されるということになりかねません。
つまり、例えば、アメリカでは強制的秘密解除というシステムがございまして、市民が秘密の解除を求めるシステムがございます。二〇一五年時点で、全体としてこのシステムで解除された文書が二十四万七百十七件、部分的な解除でいいますと十万九千三百四十九件。対して、日本では、独立公文書管理監や情報監視審査会の監督によって秘密の要件を満たさないということで解除された文書はないわけでございます。
なぜこのようになっているのかということですけれども、アメリカでその制度を管轄しているISOOというところが、ノーリターンルールという人事のルールを設けております。しかし、日本の場合、独立公文書管理監にはそういうルールがない、そういうことが一つの原因かもしれません。
もう一つ、アメリカでは、秘密の指定も解除も文書ごと、つまり、具体的な秘密の内容に沿って秘密指定や解除をしているわけであります。具体的な文書に記載されている中身が秘密の要件を満たすかどうかをチェックしているわけです。
しかし、日本ではそうではありません。例えば、国家安全保障会議の結論というものが秘密指定されておりますのでこれを例に取りますけれども、どういうふうに秘密指定されるかというと、例えば令和四年度の国家安全保障会議の結論というような形で秘密指定されているわけです。そうしますと、独立公文書管理監のチェックだと、例えば二月一日の議事録に書いてある結論が、もうこれは公になっている情報だ、だから秘密の要件を満たさない、だからこの日の議事録は解除するんだ、そういうチェックはしないことになっております。あくまで全体として、令和何年度の議事録における結論という形で秘密指定されておりますので、チェックされるのはそれだけということでございます。
そういう形で、アメリカのようにきめ細かいチェックがなされない、だから秘密指定が解除されないというところがあると思います。ですから、本当は公知で全然秘密として保護するに値しないような議事録が日本では秘密のままになっている、アメリカではそうではない、そういう違いがあるということでございます。
アメリカを参考に制度をつくったということなんですけれども、特定秘密保護法では、アメリカよりはるかに知る権利について制限的なものとなっております。今回の法案もほぼ同じようなものでございますので、独立公文書管理監が仮に秘密指定についてチェックするんだとしても、決して十分なチェックはなされないだろうと考えております。
さらに、今回の法案では、情報監視審査会によるチェックが想定されていないということも問題でございます。
二つ目でございますが、どのような秘密が指定されるか不明確であることについてお話しさせていただきます。
秘密保護法と違いまして、今回の法案は、別表で具体的に秘密とされる類型が規定されておりませんので、立法時点においてどのようなものが秘密指定されるのか見えにくくなっております。審議の中でも、大臣は余り、何が秘密指定の対象になるのか御説明されておられないようです。
処罰範囲は、国民の代表である先生方から構成される国会が決めるべきです。そして、市民がその行動について予測可能性を持つことができるように処罰範囲はあくまで明確であるべき、これが罪刑法定主義という考え方でありまして、それは憲法三十一条に由来するわけであります。
法案は、どのような情報が秘密となり得るのか明確性を欠いており、罪刑法定主義の観点から大きな問題をはらんでいるというふうに考えております。政府の方は、官僚が作る運用基準で特定するんだということをおっしゃられているようですが、そうではありません。国民の代表者である先生方が基準を作らないといけないんです。それが罪刑法定主義であり、憲法の精神なのであります。
政府としては、政府から民間に提供した情報のみが対象となる、だから絞りがあるんだとおっしゃられるようであります。しかし、政府と民間の契約が締結される時点で、民間はどのような情報が来るのかというのは分かりません。既に知っていた情報、つまり、契約を結ばなければ秘密として扱う必要がなかった情報が来るかもしれません。さらに、国が民間の情報を義務として吸い上げて、少しだけ情報をプラスして民間に戻すかもしれません。
このように、元々知っていた情報、あるいは、企業から吸い上げて国がちょこっとだけプラスアルファして戻したような情報の漏えいが処罰範囲外であると言える根拠は条文上はないように思います。よって、秘密の絞りが十分とは思えません。
このような仕組みの下では、民間は、国に情報を上げたりするとかえって面倒なことになるので情報を上げないようになる、情報の共有が阻害されるということもあり得ると考えております。
三つ目でございます。適性評価の在り方でございます。
適性評価では、かなり機微な情報を国が取得することになります。渡航歴も問題になりますので、適性評価の対象者が自粛をして外国にも行けないということにもなりかねません。
中小企業では、クリアランスがないと、ほかにする仕事がなくて解雇という問題になるかもしれません。
あと、政府の方は、対象者から同意を得るからよいということをおっしゃられているようですけれども、調査対象となる親族や同居者は同意なく情報を集められるわけであります。決して、対象者は親族や同居者の同意を勝手にする権限を持っているわけではありません。本来は、同居者、親族からは同意を得なければならないはずであります。また、中小企業ですと、クリアランスがないと解雇される可能性がありますので、従業員としてはやむなく同意をするということもあり得るわけであります。
不服申立てについても、行政不服審査の対象ではありません。解雇につながるようなものであるのに非常に不合理であります。
情報監視審査会は適性評価を監督する権限を持っておりますが、独立公文書管理監はございません。そうしますと、法案では適性評価の在り方がきちんと監督されないことになりかねません。
企業の代表者についてクリアランスが必要かどうかという議論が有識者会議や国会でもなされております。代表者にもクリアランスが必要ということになると非常に大きな影響があるわけですけれども、このような肝腎な問題についても曖昧なままとなっております。
調査が一元的になされるというのも問題であります。犯罪を犯した疑いもない、犯す懸念もない多くの無辜の市民の機微情報を国の機関が一元的に収集する、そういう制度は日本の歴史上初めてなのであります。このような制度をつくるに当たって、どのようにその機関の権限行使の濫用を防ぐ仕組みをつくるか、これも全く議論されていない。これでは人権侵害に至る可能性が大きいと言わざるを得ません。
最後に、民間企業に対する悪影響についてお話しいたします。
大川原化工機事件は、経済安保の名の下に捜査機関が暴走し、発生したものでございますが、同じような事件が発生する可能性は否定できないと考えております。大川原化工機事件の民事訴訟で敗訴した国は上訴しておりますし、担当検察官も謝罪していないようです。国は反省していないわけです。ひどい取調べがなされた事件でございますが、それを防ぐために取調べへの弁護人の立会いというのも有用でございますが、そのようなことも国は認めていないわけであります。
さらに、この法案についていきますと、秘密漏えいが刑事事件になった場合に、弁護人がその秘密を知り得るということが法案では全く保障されていないわけです。この法案でひっかけられて逮捕された人の弁護をしようとしても、何を漏らしたということで逮捕されたんですかというふうに被疑者に聞くことが許されるのかどうかもよく分からない。これでは人権が保障されるわけはありません。
こういうことを申し上げますと、民間は、新法で外国での取引や情報提供などの参入機会を与えられるからメリットもあるというお話もあるかもしれません。
しかし、この法案が対象としているコンフィデンシャル級につきましては、既にそのようなコンフィデンシャル級の秘密というのは、イギリス、フランスでは廃止されているわけですね。
アメリカでも、ISOOというところが廃止を勧告し、二〇二一年時点でコンフィデンシャルのオリジナルシークレット指定権者は三人しかいないわけです。ISOOが、同盟国でコンフィデンシャル級の廃止の動きがあるということで、省庁にコンフィデンシャル級をやめましょうというふうに言ったわけでございます。コンフィデンシャル級、一九九九年時点では、指定権者は二百六十人いたんです、それが今は三人です。二〇二一年でいうと、トップシークレットの指定権者は七百二人、シークレットは九百四十六人です。つまり、コンフィデンシャル級というのはほぼ絶滅しつつあるわけですね。
そのような、コンフィデンシャル級という非常にニッチなものを保護するためにわざわざなぜ法律を作らなければならないのか、非常に不明だと言わざるを得ません。そうしますと、法律を作って、民間企業の負担は増えたけれども、民間企業が国際案件に参加できるようになったわけでもない、そういう落ちもあり得るというふうに考えております。
以上でございます。ありがとうございました。(拍手)