合瀬宏毅の発言 (農林水産委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○合瀬参考人 皆さん、おはようございます。一般社団法人アグリフューチャージャパン理事長をやっております合瀬と申します。
本日は、このような場で意見を述べさせていただく機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
それでは、時間もありませんので、資料に沿ってお話をさせていただきたいと思います。
私ども一般社団法人アグリフューチャージャパンですが、十年ほど前、農業の経営を専門に教える、AFJ日本農業経営大学校を運営する団体としてスタートいたしました。校舎は東京品川にあり、農林中央金庫を始め、大手食品企業など、二百社を超える会員の御支援によって運営されております。
大学校では、現在、農業界でイノベーターを起こす人材の育成のほか、オンラインで経営戦略やマーケティングなどの経営スキルを中心とした授業を行っておりまして、こちらは、全国の農家や農業法人のほか、JAや地方自治体の職員など、年間百六十名ほどが受講していただいております。
私自身は、農林水産省の食料・農業・農村基本計画検証部会で基本法の見直し議論に加えていただきました。そういうこともありまして、本日の意見陳述に呼んでいただいたものだというふうに理解しております。
ですから、本日は、農業経営者を育成する立場から、農地の集積と合理的な価格形成について意見を述べさせていただきたいというふうに思います。
ページをめくっていただきたいんですが、言うまでもなく、食料安全保障を担保する政策は、国内生産の増大、安定的な輸入、そして備蓄の確保、この三本柱でこれを実現するというふうにされています。世界的な人口増加、食生活の高度化、そして地球温暖化による天候不順などを考えますと、輸入が今後、不安定化することは避けられない状況でありまして、このため、国内での生産基盤の強化はより重要になってきていると言ってもいいというふうに思います。
その国内の生産基盤なんですが、今後農業を担うべき五十代以下の基幹的農業従事者は全国で二十五万人と、極めて心もとない状況であります。少ない人数で、これから、これまでと同じように私たちに食料を供給してもらわなければならないわけですから、当然ながら、一戸当たりの経営面積を拡大し、生産量を増やしてくれる農業経営者が必要であります。
そのために国がやること、それは、そうした農業経営者が活躍できる舞台、環境を整えることに尽きるというふうに思います。その中心になってくるのは、何といっても農地の集約、集団化であります。農地を使いやすくすれば、若い人たちも農業に入ってくるというふうに思います。
次のページをめくっていただきたいんですが、御存じのように、日本の農業生産性は、国際的に見ても極めて低いのが現実であります。上のグラフですけれども、農研機構顧問の梅本雅さんがFAOのデータから作成された米、麦、大豆などの単収の伸び、これを世界と比較しているグラフであります。
一九六三年に比べて、小麦こそ生産性は二倍ほどに伸びていますけれども、それでも世界から見ると半分程度、米や大豆などは世界から大きく劣後しています。また、下はトマトの生産性をオランダと比べたものでありますけれども、トマトはオランダの五分の一で、イチゴは三分の一、キュウリに至っては十三分の一にすぎません。
もちろん、外国とは、天候や土壌、用途も違いますので、単純な比較はできません。しかし、考えなくてはならないのは、どの国、地域も近年、様々な工夫をして、その生産性を大きく伸ばしていることであります。農林水産省が審議会に提出した下のグラフは、オランダがコンピューターによる環境制御技術など様々な工夫をして、トマトの生産性を四倍以上に伸ばしたことを説明しています。
では、なぜ、日本で生産性が伸びないのか。その最も大きな原因の一つに、農地の区画が小さく、分散していること、そこがあるのは間違いないというふうに思います。
労働人口が少なくなる今後、少ない人数で生産性を伸ばす、データ分析や自動機械を使ったスマート農業などが必要だというふうにされています。そうしたスマート農業を実現するためにも、何より、農地の区画を大きくし、効果的な作業が行えるような環境を実現しなくてはならないというふうに思っています。
そういう意味でいいますと、次のページですけれども、二十八条の農地の確保及び有効利用の条項に、集団化、この言葉を書き加えてもらったのは、経営者にとっても極めて重要なことだと思います。現在、農村では、地域の将来を見据えた地域計画の策定が進んでいますけれども、ここはしっかり集積、集団化という視点で計画作りを進めていただきたいというふうに思います。
また、これに関連して審議会では、二十六条の望ましい農業構造の確立の第二項に、従来の効率的かつ安定的な農業経営を営む者とともに、新たに、多様な農業者が位置づけられました。
このことに関し、審議会では、農地集積の阻害になるのではないかという懸念が示されています。しかしながら、この第一項で、効率的かつ安定的な農業経営者が農業生産の相当部分を担うというふうにしているわけですから、ここは、多様な農業者の位置づけが農地集積の阻害とならないこと、それぞれの役割が違うことを明確にしておくべきだというふうに思います。
さて、次のページですけれども、農業者自身の問題であります。
今回、二十七条の二として、新たに、国は、農業経営者の経営管理能力の向上、労働環境の整備、自己資本の充実の促進を図るという文言が書き加えられました。つまり、経営者としての資質を高めよというふうなことであります。
本来であれば、経営能力の向上などは農業経営者自らがこれを行うべきもので、国からあれこれ言われることではありません。ただ、農業の場合、その経営については、いまだ財政基盤が弱かったり、従業員の定着が悪いなどの事例が多いのが実態であります。例えば、国が雇用を支援する農の雇用事業についてですけれども、この調査では、一年後の定着率は全国平均でこそ七五%でありますけれども、県によっては、雇用した人の半分以上が事業終了後、一年以内に辞めているところもあります。
農業は、元々家族中心でやってきましたから、一般の会社のように財務や雇用に慣れていないところがありまして、従業員としては、その待遇や将来性に不安があるのかもしれません。
しかし、今後、一戸当たりの経営規模が大きくなってくることを考えれば、経営者は、従業員が働きやすい職場づくりですとか組織マネジメント、新たな事業を展開するためのマーケティングや投資のためのファイナンスなどの力をつけることが不可欠になります。
農業法人の中には、既に、群馬グリンリーフの沢浦さんですとか、千葉和郷園の木内さん、それに茨城の横田農場など、優れた経営力を発揮し、周囲の雇用や農地を引き受け、売上げを大きく伸ばす経営者も少なくありません。
ただ、今現在ではその存在は点にすぎません。効率的かつ安定的な農業経営が農業生産の大宗を占める、これが基本法が目指す農業構造であるなら、国が経営能力の向上や労働環境の整備などを支援することは、過渡期である現時点では必要なのかもしれません。
次のページですけれども、一方で、第二十三条に食料の価格形成に対する国の関与が書き加えられたことについては、その運用に私としては懸念を持っております。
第二十三条は、国は、食料の価格の形成に当たり、食料の持続的な供給に要する合理的な費用が考慮されるよう、理解の増進及びこれらの合理的な費用の明確化その他必要な施策を講じるというふうにしています。
この文言にあるように、国が、食料システムを構成する事業者に対して合理的な価格の決め方について理解を求めるだけであればいいんですが、例えば、国がコスト上昇を勘案して、価格の水準を示したり、上昇分を一律に補助したりすると、その対象や水準をめぐって大変な騒ぎになります。
そもそも価格ですけれども、事業者にとって一つの価値、戦略でありますし、しかもビジネスですから、他人が口を出すべきものではありません。また、コストを低く抑えようとする生産者の努力も無駄になり、構造改革を後退させ、国際的な競争力も失わせる、そうした危険性もあります。
今回の生産者の苦しみは、ロシアのウクライナ侵攻などによって小売価格が上がる前に、肥料や餌価格の高騰などでコストが上昇し、上昇分を価格に反映できない事態が続いたことであります。価格は基本的には市場で決まりますけれども、その調整には時間がかかります。そのために、国は、野菜価格安定基金ですとか、飼料価格高騰に対する価格補填、それに収入保険制度などを整備してきたはずであります。
短期的には、そうした緊急的なコスト上昇分に対する補填政策を整備しつつ、長期的には、取引に関わる様々なステークホルダーが食料システムの持続性を担保するような、自主的な価格交渉に任せるべきだというふうに思います。
最後のページになりますけれども、今回の基本法改正案は、現基本法と比べまして、より食料の安全保障を意識し、内容も具体的なものとなっています。とはいいましても、その実現において国内の食料生産の増大が基本であることは変わりなく、これをより強化していく、そういう内容と取るべきだというふうに思います。
その実現のために国がやるべきことは、農業経営者がその能力を最大限に発揮できるように、農地の整備、集団化などの環境を整えること、そして農業経営者は、そうした環境の中で消費者が求めるものを高い生産性をもって生産すること、そうした当たり前のことであります。
そしてもう一つ、私がお願いしたいのは、断固たる意思を持って政策実現に当たることです。
私の前職はNHKの解説委員で、二十年以上にわたって農業政策や農業現場を取材してきました。そこで感じたのは、国会や行政は、新しい法案や事業をつくることには熱心ではありますが、その実現に当たっては熱量が徐々に下がっていくということであります。
食料自給率目標や農業構造の転換、農地の集積や生産性向上など、現在の基本法が目指してきたものがいまだ十分に達成されていないのは残念なことだというふうに思います。
本来であれば、未達の原因を時間をかけて分析し、今回の見直しにつなげていくべきであります。ただ、これだけ変化のスピードが速い中で、長い時間をかけて議論を繰り返すのも現実的ではなく、その力を政策実現のために振り向けていくべきだというふうに思います。
新たな基本法がスタートする暁には、何が何でも目標は達成するという覚悟でこれに当たってほしい、これが改定作業に参加した私の願いであります。
そのことを願いまして、食料・農業・農村基本法改正に対する私の意見陳述を終わりたいと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)