鈴木宣弘の発言 (農林水産委員会)
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○鈴木参考人 皆さん、おはようございます。
本日は、このような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。東京大学の鈴木でございます。
皆様に配付いただいております、基本法の改定は食料・農業・農村を救うかというペーパーも参考にしながら、意見陳述をさせていただきます。
今、農村現場を回りますと、平均年齢六十八・四歳という衝撃的な数字が示していますように、あと十年で日本の農業、農村のどれだけが崩壊しかねないか。それが今、コスト高で苦しむ廃業が増えて、スピードが加速しております。
一方で、お金を出せばいつでも輸入できる時代は終わりを告げました。
そういう中で、今、基本法を改定するということは、世界情勢の悪化と国内農業の疲弊を踏まえて、今度こそ国内生産への支援を早急に強化して食料自給率を高め、いつでも国民の命を守れる国にするんだということを打ち出すためだというふうに考えられました。
新基本法は確かに食料安全保障の確保の必要性を掲げている点が評価されますが、原案には、食料自給率、その向上という言葉さえ出てきていなかった。与党からの要請で自給率向上という文言は加えられましたが、しかし、内容で、なぜ自給率向上が必要で、そのために抜本的な政策をやるのかというようなことは書かれておりません。
事務方の説明では、自給率を唯一の指標にすることがおかしい、一本足打法が駄目だというようなことが言われましたが、これは自給率の意味をきちんと理解していないと思います。
〔委員長退席、伊東(良)委員長代理着席〕
五ページの表を見ていただくと分かりますが、一〇〇%輸入に頼っている肥料原料を考慮すると実質自給率は三八%から二二%、さらに、野菜だけでなく米などの種も自給率が一割に低下すると、実質的、総合的自給率は九・二%まで下がります。
つまり、いろいろな生産要素の指標が別に必要なんだということはそのとおりなんですが、それらは総合的に実質自給率に集約される構成要素である。それによって、構成要素の自給率が下がれば実質自給率が低下してしまって、そのこと自体が大変だ、つまり、総合的自給率というものが最終的に一番重要な指標なんだ。ですから、一本足打法が駄目だというような議論は間違いだということは認識する必要があると思います。
それから、今、現行の農業支援は、直接支払い、いわゆるゲタとか、ナラシとか、収入保険とか、中山間地払いなど十分行われているから、もうこれ以上必要ないというようなことが説明されております。これは理解に苦しみます。
それが十分ならば、なぜ農業の疲弊が止まらないのでしょうか。コスト上昇が加味されない現行政策では、今回のようなコスト高に役に立っていないということです。だからこの農業危機があるんだという認識が必要ではないか。
しかし、今苦しむ農家を支える政策は提示されないまま、輸入先との関係の強化とか、海外で農業生産を増やす、そこに投資をするというようなことが言われております。それを否定はしませんが、幾ら関係強化しても、海外生産を増やしても、不測の事態に物流が止まれば、日本に入ってきません。ですから、一番必要なのは国内生産の強化であるということがまず前提になるのではないか。
いやいや、有事になったら慌ててカロリーを取りやすい作物への転換、増産命令と供出を義務づけて、それをやらない、増産計画を出さないと罰金を科すような有事立法をちゃんと作るからと言っていますが、平時に輸入に頼り、国内生産を支えないでおいて、有事だけ作れと言われても無理です。だから、ふだんから自給率を高めておけば済む話だ。この点については、現場でも、この有事立法について非常に厳しい批判が今巻き起こっていると私は理解しております。
それから、今回の基本法の改定において、多様な農業経営体の位置づけが後退しているのではないかという議論がありました。最終的には、これに配慮するという文言が入りましたが、二十六条の一条で分かるように、担い手には施策を講じる、二項で多様な農業者には配慮するとなっています。つまり、施策の対象はあくまでも効率的、安定的な農業経営であり、その他は施策の対象としないということをやはり明記しているわけですよね。これでは、定年帰農や半農半Xや消費者グループなど多様な農業経営体が、今、農村コミュニティーを維持し、生産を維持するために重要な存在であるということが反映されないではないかということが問題になります。
それから、麦や大豆の増産ももちろん重要ですが、だからといって、短絡的に田んぼを潰せばいいというような畑地化推進は極めて危険であります。水田を水田として維持することが有事の食料安全保障の要であり、地域コミュニティーも伝統文化も維持され、洪水も止めてくれます。
片や中国は、有事に備えて、十四億人の人口が一年半食べられるだけの穀物備蓄を始めました。日本はどうでしょうか。せいぜい一・五か月分の備蓄しかありません。これで、いざというときに国民の命を守れるでしょうか。
そもそも、米は今八百万トン弱しか作っていませんが、日本の水田をフル活用すれば一千二百万トン作る潜在生産力があります。今こそ農家の皆さんに頑張ってもらって、米や食料を増産して、それを国の責任で備蓄する、こういう政策を取れば、しっかりと危機に備えることができる。
いや、そんな金がどこにあるんだということで、すぐ財政当局から言われておしまいになってしまいますが、アメリカから武器を買うのに四十三兆円も使うお金があるのでしたら、まず命を守る食料をしっかりと国内で守るために、数兆円使ってもその方が先じゃないかということを今考えないと、手遅れになります。
それから、コスト上昇を流通段階でスライドしてしっかりと反映していくというフランスのエガリム2法を参考にして、日本もこういうふうな強制的な政策を入れるというようなことが目玉だと言われましたが、これは無理です。小売部門が強い日本で、このようなことはできるわけがない。フランスでもそう簡単にはできていない。
一番問題なのは、そもそも、生産者も限界、消費者もこれ以上価格が上がったら限界なわけですから、その差を埋めるのがやはり政策の役割ではないか。ほかの国ではしっかりとその差を直接支払いで生産者に払うような政策をやっているわけですから、そのことをちゃんと考えるべきである。
それから、種の問題も深刻です。野菜の自給率は八割と言われていますが、その九割は海外の畑で種取りをしてもらっている。これが止まったら、自給率八%になってしまう。だから、私たちの大事な種を国内で循環させる仕組みをきちんとつくらなければ、日本の食料が守れない。食料は命の源ですが、その源は種です。ですから、それを含めて自給率を計算し直すと、さっき言ったとおり、種の自給率が一割まで下がれば最悪九・二%という計算もできます。
種については、野菜だけでなくて、米などの種も九割海外に依存するという前提を置きました。そんなことは今ないじゃないかといいますが、私たちは種の政策改定でその方向性に進んでおります。ですから、今こそこのような流れに歯止めをかけて、種の自給を確立し、農家の自家採種の権利を守ることを基本法に明記すべきではないか。そうしないと、いざというときに日本人の命を守ることができない。種の自給なくして食料の自給はないということも重要ではないかと思います。
それから、基本法改定に先立ちまして、みどり戦略が策定されました。これは有機農業を大幅に拡大するという大方針を打ち出したわけで、ある意味、農業基本法に匹敵するような方向性が出たわけです。それを受けていろいろな形で環境負荷軽減については書かれていますけれども、肝腎の有機農業という言葉は一言も出てきません。このことは非常に違和感を感じる部分がある、整合性が問われるのではないかということもあります。
結局、今、コスト高に苦しむ農家の所得を支える仕組みは十分であるかのように言われて、そういう政策は提案されないままで、ある意味、最近よく言われている、規模拡大によるコストダウンで何とかなる、輸出を拡大すればいい、スマート農業でバラ色の未来が開ける。さらに、海外農業生産の投資を進める、そして農業法人への企業の参入の条件を緩和する、こういうふうな政策が打ち出されてきている。これも大事ではありますけれども、それが、今苦しみながらも踏ん張っている現場の農家の所得を改善するために直結する政策がどうかということが私は問われていると思います。
このような政策だけを充実しても、IT大手企業などが描くような無人の巨大なデジタル農業がぽつりと各地に残ったとしても、日本の農山漁村の多くが原野に戻り、地域社会も文化も消えて、自給率も更に下がって、都市が過密化して、いざ食料が入ってこないような事態になったら、餓死者が続出するようないびつな国土にまだまだ進みかねないんだということが心配されます。
ですので、基本法の関連法でも、スマート農業や海外農業投資や農外資本比率の拡大などについて新たな法案を準備すると言っておりますが、そうであるならば、関連法の一番に追加されるべきは、現在、農村現場で苦闘している農業の担い手を支えて自給率を上げるための直接支払いなどの充実ではないか。
まず第一に、農地が農地として維持されることに対する基礎支払い、それから、経営が継続できるように、標準的生産費との差額を補填するような直接支払い、そして、政府買入れによる備蓄と国内外援助で需給の最終調整弁を国が持つ、このような政策を持つことを基本法で方向づけて、関連法できちんと整備する。
具体的な計算はそこに出していますが、十アール三万円、全農地に払っても一・三兆円です。今、米と牛乳が一番、酪農が一番大変ですが、それを赤字を補填するには、米で三千五百億円、酪農で七百五十億円必要です。さらに、米を備蓄用に五百万トン、一万二千円で買い入れても一兆円です。総計二・七兆円です。
財源なんかないというのは間違っている。必要なものには財源を確保するのが筋であります。農業の疲弊は、農家の問題をはるかに超えて、消費者、国民の命の問題だと認識する必要があります。不測の事態に国民の命を守ることを国防と言うならば、食料を守ることこそが国民の命を守るための一番の国防とも言える。そのための必要な予算は優先的に確保する。積極財政は、今こそ農業を守ることに必要なのではないか。
防衛費に毎年十兆円の予算が確保されているのに対して、農水予算は二兆円程度で頭打ちにされている、これは大きくバランスを欠いております。今こそ、農林水産省予算の枠を超えて、安全保障予算という大枠で、国民の食料と農業、農村を守るための抜本的な政策と予算が不可欠になっております。
農業、農村で農家の皆様が頑張っているおかげで国民の命が守られているんだということを今こそしっかりと認識しないと手遅れになるというのが、現状の危機的な実態だと思います。今は正念場であります。これからの議論に期待したいと思います。
以上で私の陳述を終わります。ありがとうございました。(拍手)
〔伊東(良)委員長代理退席、委員長着席〕