田代洋一の発言 (農林水産委員会)
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○田代参考人 元横浜国立大学、元大妻女子大学の田代でございます。
本日は、こういう機会を与えていただきましてどうもありがとうございました。
私は、食料供給困難事態対策、この法案の名前自体がなかなか覚えづらいんですけれども、これから不測事態法というふうに言わせてもらいますけれども、この不測事態法について、出荷、販売からではなくて、生産の面からお話をさせていただきたいと思います。
以下、レジュメに即してお話をさせていただきます。
まず第一番目に、この法案でございますけれども、今度の新基本法の改正案が成立したとしまして、食料安全保障の理念を実体法として具体化する法律として極めて意義のある法律だとは思います。
ただ、既存のこれまでの政策、それから改正新基本法との整合性が十分に取れているかどうか。それからもう一点、先ほど平澤先生から世界の状況についてお話がございましたけれども、そういう中で、我が日本の特殊性というか独自性を十分に踏まえた日本独自の政策になっているかどうか、こういう観点から少しお話をさせていただきたいと思います。
第一番目に、日本の持っている不測事態の日本的な特殊性ということでございますけれども、日本は不測事態が起こる頻度が極めて高い、深刻性も高い、そういう国だというふうに思います。
一つは、申し上げるまでもなく、地政学的な危険性が極めて大きくなってきている。二つ目には、気温の上昇率が、みどり法でも、世界平均の倍も上昇が高い。それから、地震だとか豪雨。それから円安、これは構造化するということでございます。
そして最後に、日本の特殊性として、食料自給率が極めて低い、このことをやはり踏まえる必要があるんじゃないか。そういう食料自給率の低い国としての特殊性を十分に踏まえた不測事態法にしていただきたいということでございます。
結論から申しますと、やはり、食料自給率が低いということで、特に輸入に今は力を入れていて、国内供給、国内生産への期待がちょっと薄いんじゃないかという懸念を抱きます。
以下、この法案についての詳細版というものもありますので、それも参考にしながらお話をさせていただきたいと思います。
三ページ目に参ります。
まず、整合性が取れているかどうかということでございますけれども、皆様方、緊急事態食料安全保障指針、これが既に農水省で定められております。ここでは芋類が非常に位置づけられております。
その指針では、レベル二、極めて不足の事態である、一人一日当たり二千キロカロリー未満になっちゃう、このときには、熱量効率の高い作物などへの転換ということを書いてございます。特に、畑の表作で芋類の増産ということを書いているんですね。それで、花卉、工芸作物、飼料作物、野菜、果樹、この順に芋畑に転換していく、こういうことを書いてございます。
今回の新しい法案は、御承知のように、米穀、小麦、大豆、その他畜産等々で、その他というふうになっていますけれども、国民が日常的に消費しているものが足りなくなった場合、こういうふうになってきております。言い換えれば、カロリー基準ではない。とはいいながら、極めて深刻な事態では千九百キロカロリー以下ということを言っていますから、全くカロリー、熱量を無視しているわけじゃないけれども、カロリー基準ではないということでございます。
それから、農業白書等々でも食料自給率とともに示されております食料自給力、これがありますけれども、これは生産を全て、不作付地まで動員して、芋類を中心とした生産であると二千四百十八キロカロリーをカバーできる、これだったら何とかしのげるということでございますけれども、米麦中心にした場合には千七百五十五キロカロリーということでもって、非常に低くなっちゃうわけでございます。
米麦を中心として考えた場合には、実は、平時というふうに言っていますけれども、平時でも国内生産、食料自給力のみでは足りなくて、既に平時でも千九百キロカロリーを割る不測事態になっている、こういうことがございます。
皆様方、私も含めて、芋を食えということはなかなかやはり難しいところがあると思いますけれども、不測事態について、国民、政府がどれだけの覚悟を持っているかということでは考えるべきことではないかというふうに思います。
二点目に、新基本法改正案では、田んぼの汎用化と畑化ということを書いてございます。それに対して、では、いざとなったときに、畑にしちゃっていて、それをまた開田して米を作るのかといったら、それはやはりなかなか難しいということであります。そういう点からも考えますと、新基本法改正案の水田の汎用化及び畑地化ということは、畑地化は取った方がいいんじゃないかということでございます。
それから、備蓄との関係でございます。備蓄は、この政策では、平時の政策でもって、この法律からは除外しております。ところが、やはり問題は、平時の政策と不測時の政策とをどうやって関連させるかというところが問題であると思うんです。
現在、いろいろな数字がありますけれども、玄米の生産量が大体八百万トンでございます。食料供給困難事態といいますのは、二〇%以上減ると食料供給困難事態だというんですけれども、八百万トンの二〇%というと、百六十万トンになるわけですね。ところが、現在の備蓄は大体百万トンというふうに言われております。百六十万トンと百万トンとの間にはやはり差があるんじゃないか。これはお金の関わる話ですけれども、こういう点でもやはり法律として整合性を持つ必要があるんじゃないかということでございます。
四ページ目に移らせてもらいますけれども、問題は、生産の要請、促進に対する担保措置として、二つ、担保措置が出てきております。一つはペナルティーということでありまして、もう一つは財政ということでございます。
かつて農水大臣は、二〇二三年の五月の記者会見で、農家の方に何から作れと言うのは、法律によって縛りをかけないと農家の皆さん方には効き目がないということを言っておりまして、どうも、その頃から、何か法律で罰則を設けてやるんじゃないかなという懸念がございました。
ところが、不測時に農業者に対して生産計画を出せと言ったって、出せるのは作付計画だけなんですね。作付計画につきましてはもう、水田活用交付金だとか畑作物のゲタだとか、それから作付面積統計だとか、こういう業務統計や、それから法定の統計でもって、把握は可能なんですね。わざわざ出す必要があるのか。
こういうものについて、現に生産している者全てに計画を出させるということなんですけれども、全部足すと八十四万事業体になってくるんですね。これにあえて出させる必要はあるのかという疑問があります。何かやはり、この生産計画は計画変更のデータ収集の手段じゃないのかという臆測もするわけであります。
それから、問題は、計画変更ができると認められた者、これは省令で規定するというので、今、どういう者がなるのかはちょっと分からないんですけれども、これを特定するわけですけれども、この特定ということが、本当に不公平感なしに、やはりこの人だなということでできるのかどうか、私は非常に問題を感じます。
それから、先ほど稲垣参考人がお話をされましたけれども、今回の農地法改正案では、違反転用の原状回復命令に従わない場合には公表をする、こういう、罰則とは言わないけれども、公表という社会的制裁が加わっています。
ちょっと飛ばしちゃいましたけれども、生産計画と生産計画の変更の届出をしないと二十万円以下の罰金、それから、生産計画の変更指示に従わない、計画に沿った生産をしない場合には公表する、こういうことになっています。
私は、率直に申しまして、農地法改正案の、違反転用の原状回復命令に従わなかった場合には公表するというのは、これは当然のことである、罰則を設けてもいいくらいであると。それと同じように、農業者が生産計画の変更、これを出さなかった、従わなかったというときに公表するというのは、それに値するほど罪な話なのかというのは、やはり考える必要があるんじゃないかということでございます。
ここにいらっしゃる議員の先生方はそういうことはないと思いますけれども、生産に必要なのは、北風といいますか、ペナルティーを科すことで生産への期待をするのか、それとも、皆様方のような、太陽、インセンティブでもって促進を促すのか、その辺はやはり十分に、この法律として、まさに国民的な合意、農業者の合意がなければ、これはやはり不測の事態に耐えられないわけですから、お考えをいただきたいということでございます。
それから、五ページ目に移りますけれども、ペナルティーに対して、今度はインセンティブについてもこの法律では考えられております。販売、輸入、生産、製造が円滑に行われるための財政措置、財政措置とだけは書いてくださっているんですね。ただ、その財政措置の内容が分かりません。詳細版によりますと、農地整備、高い資材費の支払い、値崩れの発生リスク。値崩れするはずないんですよね。不測事態で足りないわけですから、むしろ上がってくるということになってくるんじゃないか。ともかく、そういうものに対して財政措置を講ずるということが書いてございます。
それに対しまして、イギリスの農業法二〇二〇、これのパートツーは食料安全保障になっていますけれども、ここでは、二十一条の第三項で、例外的な市場環境で収入に影響が出る場合、あるいはその可能性がある農業者には財政支援をするというふうに書いてあります。ここまでは日本と同じであります。ただ、四項でもって、財政支援は補助金、グラント、これを明確に書いてあります。補助金、融資、保証。
財政支援ということだけじゃなくて、もうちょっとそれを突っ込んで、具体的な財政支援の中身を書いていただきたいというふうに思っております。具体的には、やはり生産転換にはコストがかかる、農業所得や農業付加価値の減少があり得る、ほかの作物に転換した場合ですね、そういう場合の補償、促進の奨励、こういうことについて明確にしていただきたいと思います。
しかし、問題は、今日私が一番訴えたいのは、問題はそれだけか、不測時の財政措置を取れば済むのかということでございます。
六ページに移りますけれども、今の日本の現実はどうなっているのか。一時間当たりの農業所得をいろいろな賃金と比較しています。最低賃金制賃金は二〇二三年で千四円でございます。それから、農産物の生産費調査に採用する賃金は千五百四十八円でございます。
これと現実の農業所得がどうなっているのかを比較したのが、図の二でございます。左の四本は北海道、それから右の三本は府県を示しておりますけれども、これは全農業、全経営平均でありますから、企業的な経営も入っています。北海道でいいますと、水田作は最低賃金ぐらいのところはカバーしているけれども、畑作は辛うじて生産費採用労賃をクリアしているということで、赤字にはなっていないという程度でございます。
ただ、北海道で畑作について生産転換をお願いする場合には、これは輪作を攪乱する可能性がありますので、そういう問題が出てくるということであります。
御注目いただきたいのは都府県でございます。生産の促進は全農業者にやるわけでございますけれども、都府県を見ると、現在、既に農業所得はマイナスであります。
農家の方に、あんた、農業をやったって所得はマイナスですよと言うと、農家の方は、いや、金のためにやっているんじゃない、これからも農業を守っていくためにやっているんだ、こういう切ないお話をされるわけでありますけれども、そういう事態でございます。
畑作を取ってみます。内地の、都府県の畑作というのは少ないんですけれども、これも大体六百円から七百円ということでございます。この中には育成すべき経営、効率的かつ安定的という、これも含めた全平均でございますけれども、五百円から六百円ということでございます。この中には芋を作っている経営も取られております。
七ページに行かせてもらいますけれども、水田作の規模別に見ていくとどうなるかといいますと、これは全国をやっていますから、さっきの都府県と違うんですけれども、階層平均では、水田作でいいますと、これはちょっと図が見えないんですけれども、十二円なんですね。一時間働いて十二円なんですよ。息子がパートで働いたって千円以上はもらえるときに、大の大人が働いて十二円だということでございます。
五ヘクタール未満は赤字です。何だかんだ言ったって、もう五ヘクタール未満は、水田作で農業をやっている意味は所得の面からはない、こういう事態でございます。十ヘクタールから二十ヘクタールでやっと最賃制賃金、息子のアルバイト賃金並みというところでございます。生産費労賃に匹敵するような黒字になる経営は二十から五十ヘクタールで、五十ヘクタール以上だともう危なくなってくる、こういうところでございます。
内地で見ますと、東北で七十八円。だから、東北でもやはり難しいです。北陸が五百八十八円。御注目いただきたいのは、関東以西はみんなマイナスです。全平均ですよ、全平均でマイナスだということでございます。
次の八ページに移らせていただきますけれども、生産促進の確保条件として、平時に、普通のときに農業所得が確保されずに、不測時に生産の要請だ、促進だといったって、それは可能だろうかという感じがするわけであります。今の新基本法改正案では、合理的な価格ということが言われております。ただ、合理的な価格で皆さん方がお考えになっているのは、実は物財費だけで、労賃部分は余り検討していないんですね。
岸田首相は、人件費等の恒常的なコストに配慮した合理的な価格形成ということをおっしゃったんですけれども、これは、各党派、会派によって違うでしょうけれども、首相が人件費も考慮して価格を保障するんだと言ったことは、非常に重大なことです。
結論からいって、できっこありません。それは、労働費をもしも最賃制賃金で評価したならば、食料価格は数倍、数倍というのはちょっとオーバーかも分かりませんけれども、人件費だけを取れば、三百七十九円が千四円になるんだから、三倍になります。そうなってきたら、消費者はそんな国産品は買えません。みんな輸入品だけを買う、自給率は下がる、一人一人の食料安全保障は遠のいていく、こういうことであります。
したがって、首相が幾ら約束したとしても、農業所得を確保するためには価格転嫁も必要だけれども、それだけでは駄目だ。やはり、直接支払い政策が必要になってくるんじゃないかということでございます。
最後でございます。
私は、冒頭、日本の特殊性に即した不測時対策が必要だということを申しました。結論的に言えば、食料自給率のいかんによって、食料自給率が高いか低いかによって、やはり各国の不測時対策は異なってくる。それは、先ほど平澤先生のお話にもございました。食料自給率が三八%という極めて低い日本、これにはやはり日本独自の不測時対策が必要じゃないかということであります。
実は、そういう不測時対策はもうできているんですね。それは、一九八〇年の農政審報告でございます。「八〇年代の農政の基本方向」、これが原点でございます。この第二章、そこには「食料の安全保障―平素からの備え―」と書いてあります。それから、今回の法案に匹敵する、不測の事態への備えという項目もございます。不測の事態への備えというのは何を書いてあるかというと、そこでは、平素から総合的な食料自給率の維持強化を図っていくことが重要だということが書かれているんですね。
私は、日本の不測時対策の最大のポイントは、やはり平素から、平時から食料自給率を維持強化していくことに尽きるな、そのためには農業所得を何とかしてください、こういうことをお願い申し上げて、終わりにさせていただきます。
どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)