是川夕の発言 (法務委員会)

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○是川参考人 それでは、始めさせていただきます。
 私は、国立社会保障・人口問題研究所で国際関係部長を務めております是川夕と申します。
 本日は、参考人として意見を陳述する機会をいただき、感謝申し上げます。
 私は、移民研究を専門にしています。グローバルな人の移動や日本における移民、外国人の受入れ状況などについて研究を行ってまいりました。また、経済協力開発機構、OECD移民政策専門家会合のメンバーを務めるほか、今般の制度改正に当たっては、技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議のメンバーも務めました。本日は、こうした経験に基づき意見を申し述べたいと思います。
 今般の制度改正の方向性として、三つのポイントを挙げたいと思います。
 資料の二ページ目、表紙を一枚おめくりいただいたところを御覧ください。
 一つ目は、人材確保と並び人材育成を目的とし、外国人がキャリアアップを図る仕組みをつくるとした点です。アジアは出稼ぎ、つまり国際労働市場が急速に発展を遂げている地域です。日本はその中で最大の移民受入れ国となっております。年間約五百九十万人の移民がアジアから外国に働きに出ています。日本はそのうち約四十八万人を受け入れており、これは韓国や米国を抑えて第一位となっております。
 そうした中、二〇一九年に施行された特定技能制度に加え、今般、育成就労制度において人材確保の目的を正面から認めたことは、日本がこうした国際労働市場に本格的に参加する意思を明確にした点、大きな意義があります。
 例えば、こうした動きを受け、インドネシア、フィリピン、ネパール及びインド政府が日本への送り出しを積極に進めています。こうしたことは、国際的な人材獲得競争が激化する中、日本が選ばれる国になる上で極めて重要なことです。
 加えて、人材育成を目的に掲げたことも重要です。その理由は、現在、技能形成を通じた送り出し国への技能移転が世界的に大きく注目されているためです。
 例えば、二〇一八年に国連総会で採択された安全で秩序ある正規移民に関するグローバルコンパクトでは、国際移住における能力開発及び技能、資格、適性の相互認証の推進の重要性を掲げています。また、OECDや世界銀行も、技能移転を通じた国際貢献の重要性を指摘しています。
 少子高齢化が進む先進各国では、広範な技能レベルで外国人労働者の受入れが必要になっています。とりわけ、技能実習や特定技能がカバーするミドルスキル層への需要が強まっています。
 もちろん、資格や経験を有するいわば即戦力となる労働者を受け入れる制度はこれまでもありました。しかし、それだけでは十分な供給が見込めず、働きながら学ぶエントリーレベルの労働者を受け入れること、つまり、就労だけではなく技能形成をセットにした受入れが、国際的に見ても有望な選択肢となりつつあります。
 さらに、技能形成と就労を同時に追求することは、送り出し国や外国人一人一人から見ても重要です。
 これまで国際労働移動で見られる人権侵害の多くは、労働者の技能レベルの低さに起因することが明らかにされています。そのため、外国人労働者の権利保護を推進するには、国際条約や法制度などの整備に加え、いかに高い技能を身につけることができるかが最大のポイントとされています。
 例えば、技能実習制度で実習生が負担する手数料の高さは、労働者の技能水準が低い中、他の多数の応募者との競争に勝つため、現地の送り出し機関などが日本の雇用側に過剰な接待や営業あるいはキックバックを行うことが原因とされています。なぜなら、そういった競争に勝つためのコストが、一番立場の弱い実習生の手数料に転嫁されてしまうためです。仮に高い技能があれば、雇用者としても、労働者のパフォーマンスとは無関係な接待やキックバックなどに惑わされず、純粋に能力の高い人を採用するようになります。結果として、仲介手数料も安くなることが考えられます。
 このことは、技能レベルの高い技術・人文知識・国際業務の在留資格で働く外国人については、このように技能実習生を雇う同じ会社も、そのために自分たちが手数料を払い、労働者から手数料を取っていない、外国人本人からは一切費用を取っていないといったような事例からも確認することが可能です。
 逆に、幾らルールで縛ったところで、多少高い手数料を払ってでも海外に働きに行きたい、日本に働きに来たいという人たちが多数いる限り、幾らでも抜け穴を見つけてしまいます。これでは、いつまでたっても、高い借金を抱え、劣悪な職場に縛りつけられてしまう人たちをなくすことはできません。
 さらに、技能形成は、外国人一人一人の希望とも一致するものです。よく、実習生はお金を稼ぎに来ているのであり、学ぼうなどという人はいないと言われますが、これはいずれもエピソードベースの印象にすぎません。
 例えば、出入国在留管理庁が令和二年度から実施する在留外国人に関する基礎調査では、実習生の来日理由のうち、スキルの獲得、将来のキャリアのためと答えた者が三五・六%、お金を稼ぐ、仕送り、送金のためが五五・三%となっているなど、学ぶことと働くことは矛盾したものではありません。
 また、私自身が二〇一七年度より継続的に実施している日本語学校で学ぶ留学生に対する大規模な全国調査においても、ベトナム人留学生の七%、インドネシア人留学生の四・九%が、留学前に技能実習生として日本で働いていたと答えています。
 さらに、私が代表者として実施したアジアの送り出し国を対象とした調査によれば、技能実習修了者の技能は国際的にも高く評価されており、日本で経験を積んだ後、カナダ、オーストラリア、ヨーロッパに行くことが多いといったような結果も得られています。
 つまり、技能実習生は、お金を稼ぐためだけではなく、技能形成を通じて、留学や進学も含めたその後のキャリアアップを考えている人たちであると言えます。
 以上のことから、技能形成の観点は、日本側から見ても、また外国人一人一人から見ても重要な要素であり、今般の制度改正において技能形成の観点が盛り込まれたことは極めて重要なことと言えます。
 二つ目に、現行の監理団体に代わる監理支援機関や海外の送り出し機関など、移住仲介機能の役割を正面から認めた点について述べます。
 この点については、監理団体などの移住仲介機能こそが中間搾取などの問題の温床であり、なくすべきではないかという声があるのも事実です。しかし、それは、国際労働移動の分野では非現実的であることが明らかにされています。もちろん、仲介機能を廃して、労働者個人と雇用企業を直接結びつけようとする試みは過去にも数多くなされてきましたが、ほぼ成功していません。
 一例を挙げたいと思います。二〇一九年に導入した特定技能制度では、海外の求職者が日本の求人側と移住仲介機能を介さず直接契約できる仕組みを取り入れました。日本・インドネシア間では、インドネシア政府が管理する労働市場情報システム、IPKOLを導入し、特定技能分野での求人、求職のマッチングを試みています。しかし、うまく機能しておらず、駐日インドネシア大使館によれば、特定技能の施行から四年以上たった二〇二三年十月下旬時点で、利用実績は一件もないとのことです。
 このことは、国際労働移動において移住仲介機能を廃することがいかに難しいかを示していると言えます。
 仮に移住仲介機能を形式的に廃止した場合でも、実質的にこういったサービスへのニーズは残り続けることから、非合法なものも含め、様々なブローカーがばっこすることにつながり、外国人労働者の置かれた状況はかえって悪化する可能性が高いと言えます。既に、特定技能制度において、直接契約といいつつ、裏で非合法なブローカーが暗躍し、現場で深刻な人権侵害を生んでいるといったような報告もあります。
 また、移住仲介機能を政府部門で担うべきという意見も少なくありません。
 例えば韓国の雇用許可制は、国際的な労働あっせんのプロセスを全て政府間、つまりGツーGで行っている点が高く評価されているという意見もあります。しかしながら、その実態を見ると、失踪率は日本の約三倍から八倍とはるかに高く、また、外国人が実質的に負担する手数料も、韓国政府の調査によれば四十万円近くになる場合もあることが明らかになっています。また、公的部門が職業あっせんを担っていることから、採用までの待ち時間が長く、そもそも希望者の半数程度が採用に至らないなど、必ずしもうまくいっていないといったことが指摘されています。
 つまり、移住仲介機能をなくすことや、あるいはそれを全て公的部門が担うことは、国際労働移動の実態を踏まえるならば、非現実的と言えます。
 そうした中、厳格に管理しつつ、民間の移住仲介機能を活用することを目指した本改正案は、運用面での改善は常に求められるとしても、国際労働移動のスタンダードに沿ったものと言えると思われます。
 最後に、三の、転籍を通じた人権保護について要点を整理しておきたいと思います。
 人権保護については、本人の意向による転籍を認めるべきだという論点のみが注目されがちですが、転籍を実際の人権保護につなげるための仕組みは、以下のように多層的であるということを理解する必要があります。資料の三ページを御覧ください。
 第一層は、現行制度が認めているやむを得ない事情がある場合の転籍です。現在、技能実習生の失踪は年間約九千件ですが、これは実習生全体の約三%に当たります。同値は、出入国在留管理庁の調査で、賃金が来日前に期待したより少ないとした実習生のうち、契約よりも少ない、来日前と契約が異なるといった何らかのトラブルを予想させる理由を挙げた者四・八%とほぼ同程度です。また、技能実習制度の下では、ハラスメントや暴行などの人権侵害が起こっていることも数々の訴訟によって明らかにされてきました。もし失踪の多くがこういった問題のある事業所で起きているとすれば、最初に取り組むべきなのはこうした人たちの救済です。
 第二層は、必ずしも人権侵害と言えないまでも、経営不振など、受入れ企業側の都合による実習の中止によるものです。入管庁の資料によれば、こうした実習生たちのうち約八〇%は次の受入れ機関が見つかっています。
 第三層が、現行制度では認められていない本人の意向による転籍です。今回の改正案では、受入先の企業で一、二年以上働いていること、一定の技能水準や日本語能力があること、転職先が一定の要件を満たすことなどを条件としています。また、元の受入れ企業が負担した初期費用などを、転籍後の企業が一定程度負担するといったことも想定されています。
 適切な転籍を通じた人権保護を考える際、これら三つの層が有効に機能することが必要です。今回、第二層までに加え新たに第三層が加わったことで、外国人の人権保護をより確実なものとすることが期待されます。
 最後に、今後の課題について述べます。最初のページを御覧ください。最初のページの一番下です。
 今後の課題は、技能実習制度で蓄積してきた技能形成の機能をどのようにしてより高めるかという点です。特に、特定技能一号だけではなく、家族帯同や永住資格の申請にもつながる特定技能二号への合格にどうつなげていくか、これが最大のポイントになるでしょう。
 また、今後、政府は、育成就労外国人が修得した技能が帰国後に生かされ、同国からの継続的な送り出しにもつながるよう、育成される技能の見える化を推進することが必要です。先ほど述べた国連のグローバルコンパクトに見られるように、資格の国際的な相互認証などの取組を国が積極的に進めていくことが肝要です。育成就労制度がそうした新たな取組の国際的なベストプラクティスとなることが期待されていると言えます。
 以上で私の陳述を終えます。御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 是川夕

speaker_id: 20327

日付: 2024-04-26

院: 衆議院

会議名: 法務委員会