岡部みどりの発言 (法務委員会)
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○岡部参考人 岡部でございます。
本日は、重要な法案の審議に際し、貴重な機会を与えていただき、本当にありがとうございます。
私は、上智大学の法学部で教鞭を執っておりまして、そちらでは国際政治や外交の方を教えております。研究面においては、まさに、国際政治経済や外交との関わりにおいて、いわゆる非伝統的安全保障問題として、人の越境移動問題を研究しております。これまでは、EU、欧州連合及びその加盟国や米国などの先進事例を対象としてまいりました。この経験に立って、本日は、今般の法案を評価し、また、その運用や関連政策形成の発展に向けて、思うところを申し述べたく存じます。
なお、これまで、私は、第七次出入国管理政策懇談会の委員などを務めた経験はございますが、今回は、主に学術的見地からの所感となります旨、御海容いただければと存じます。
まず、今般の法案は、国内外で人権侵害の可能性が指摘されていた技能実習制度を廃止し、転籍制限の緩和を含む新たな制度枠組みを設けた点、また、育成就労制度と特定技能制度の整合性に配慮しつつ、人材をめぐる国際競争の激化を踏まえたより戦略的な人材確保を目的に据えているという点において、日本の国際社会における信用の向上並びに日本経済の安定的発展につながるものという意味で高く評価します。
他方で、これは同時に、二〇一八年の法改正の本格的な執行、すなわち、中長期にわたり日本に滞在する外国人材をより大規模に、そして広い職種で受け入れるという抜本的な政策であるとも見受けます。この方向性自体はおおむね正しいとは思われますが、今回の法改正は終着点ではなく、むしろ出発点とみなすべきです。
すなわち、いわゆる狭い意味での出入国管理制度にとどまらず、雇用、労働、経済、財政、治安、教育そして外交政策など、関連するもろもろの政策を包括する組織体制の整備、またその実効的な執行が不可欠であるということが私の見解です。
そのために、結論から申し上げますと、一、外国人材の受入れは、国際社会における人材獲得競争と密接に結びついていること、二、その国際競争に日本が勝利するには、とりわけ日本の付加価値を高め、また日本人も含む全ての国内労働者が裨益するような緻密な戦略が必要となること、そして、三、そのような戦略形成を成功させるには、特に欧米諸国の過去の成功だけでなく失敗からもしっかりと学び、その学びを国際協力の発展につなげる必要があるという三点に照らして、御議論、御検討をいただければ幸いに存じます。なお、こちらは、事前に配付いたしました資料の一ページの下のスライドに記載がございます。
まず、昨今において、外国人材をめぐる国際競争は確かに激化しております。お手元の資料二ページの上段にあります資料一を御覧いただければと存じますが、こちらにありますとおり、民間の調査では、米国を含む多くの先進諸国において深刻な人手不足が生じています。IT関連などいわゆるSTEM分野の職種が主ですが、これに限らず、例えばヨーロッパでは、グリーン、つまり環境関連の産業分野やデジタル分野への国家それからEUレベルの産業移転促進政策に伴う人手不足が懸念されています。このほか、ASEAN諸国も、ポストコロナの時期における経済回復に向けては、まずは熟練技能を中心とする人材の確保というものが急務だというような報告をしています。
そして、御案内のように、日本は既にアジア諸国にとって最も魅力的な労働先ではなくなってきているという実態もあります。例えば、日本にとっての受入れ主要国であるベトナムや中国においては、労働者の海外への移動先として日本が占める相対的な順位が低下傾向にあります。ベトナムの送り出し先としては、二〇一八年時点では日本が半数近く、正確には四八・一%を占め第一位でしたが、二〇二二年の時点では、台湾が第一位の四一・五%となり、日本は第二位の三九・三%となっています。平均月給においても、日本はもはや韓国や台湾といったライバル国と比べて、職種によっては必ずしも魅力的とは言えない状況にあります。
このような国際環境における日本の立ち位置の変化を踏まえた上で、日本が選ばれる国になるためには何が必要でしょうか。今般の有識者会議では、この問題に一定の回答を示したものと思われます。特に、国内における人手不足を喫緊に解消するための、かつ有望な外国人材を導入することを目標に設定している点はすばらしいと思います。しかし、日本経済の活性化及び国内の労働者一人一人の待遇改善という目的に照らし合わせるならば、先ほども述べたように、今回の法改正は到達点ではなく、むしろ出発点であるという認識が必要です。
従来においては、外国人の暮らしやすさ、外国人の出身国の生活習慣に配慮する形での対応が検討され、また、政策などを通じて実施されてきたものと存じます。このこと自体は否定するものでは全くありませんが、それだけでは不十分です。外国人に寄り添う政策に加えて、むしろ外国人を引きつける日本の魅力そのものを高める必要があります。
それでは、いかにして日本の魅力を高めるか。まずは賃金です。アジアを含む他国との比較において、日本は決して魅力的な労働先ではありません。さらに、職種によっては日本で働くよりも外国で働く方が利益が出るという認識さえあります。日本人の給与が増えないことには、外国人を引きつける力も生まれないということです。
この点、育成就労制度では、育成就労計画に基づいて段階的に技能や日本語能力を修得させ、専門的、技術的分野の人材育成を目指すものとしていますが、この制度をほかの取組と有機的に連動させることで、生産性の向上、ひいては日本人労働者と外国人労働者の双方の待遇改善を目指していくべきだと思います。
そして、一般的な産業育成、成長分野促進戦略との整合性も図る必要があります。国際的に競争力の高い産業分野や各種先端技術の開発に向けた投資を増やすなどといった経済戦略と外国人材獲得戦略を意識的に連結させるということに配慮がなされるべきかと存じます。
最後の点といたしましては、他国の事例から学び、国際協力の発展につなげる意義について申し述べます。
欧米諸国は現在、ポピュリスト政党等による国民と外国人の分断工作を前に、左右中道政党が大きな政治コストを強いられています。これはなぜか。一般に、移民など越境労働者、越境移動者の受入れにおいては、経済界、つまり雇用主と外国人擁護派の主張が共鳴して政治に大きな影響力を与えます。これが移民問題の政治的な特徴です。しかしながら、外国人の受入れが国内経済にいかに有効であったか、国民にいかに裨益したかという点においては、欧米諸国は、結果として十分な説明責任を果たしてきませんでした。
このような悲劇を防ぐためにも、我が国では、政治の側が、継続的、緻密かつ包括的な政策運営を通じて、内外国民のバランスを行いつつ、経済成長を図り、その成果を十分な透明性を備えて国民に知らしめる努力が必要だと考えます。とりわけ、中長期的な未来を見据えるならば、外国人と日本人を一体的に捉えた上での労働政策の在り方をも考える必要が生じましょう。この意味で、外国人政策は、まさに経済政策、労働政策として捉えるべきです。
同時に、外国人政策は、当該国家の安定、公共の秩序を守るための政策でもあるべきです。永住者資格の失効要件に関する方針は、まさにこの点で重要です。この政策は、外国人を窮地に押しやるものではなく、むしろ守るものだという認識が必要です。多くの外国人は、日本で合法的に働き、国籍によらず、日本社会の一員として積極的に関与していく存在、またそういったことが期待される存在です。さらに、今後やってくる外国人がずっと外国人のままでいるという未来の想定は、余り現実的ではないということも考える必要があります。
その中で、永住許可の制度を仮に悪用するような事例が生じた場合、国内の日本から外国人、外国にルーツを持つ人たちが総じて偏見の目で見られるといったことが発生しないように、きちんとルールを整えておく必要があります。
なお、資料二、これは二ページの下の方ですが、こちらにありますように、これは国際社会の一つの動向であるということにも御留意いただきたく存じます。米国や欧州主要各国においても、各国の文化に応じ、永住や帰化の要件、その取消しや退去の要件を独自に設けています。永住者や帰化者が移住先の公共の秩序を乱す脅威となる場合などのほか、アメリカやドイツでは、納税義務の違反を行った場合などはその地位を剥奪し得るとし、フランスでは、フランス人と婚姻したものの早期に離婚した者や、共和国の原則に従う誓約を守らない、つまりフランスの価値観を遵守しない者などについては、永住資格を取り消し得る制度としています。
そして、欧州諸国を観察しておりますと、出入国管理に厳しいルール作りを望んでいるのは、むしろ外国にルーツのある方々であるという印象を受けます。これは、欧米社会の多様性が成熟してきていることの一つの証左であろうと思われます。外国人であった人々が次第に移住先の社会に溶け込み、社会の形成に主体的に関わろうとするという一連のプロセスの中で、外国人自らが、法を遵守し、社会で尊重される存在として生きていく姿勢を打ち出しているということです。また、そうすることで、社会生活を送る上で自らの利益にもつながるといった構造変化も併せて生じているということだと考えます。
実際、人の越境移動の量的、質的な変化に伴って規制が増えているというのが、各国での、また国際社会での昨今の潮流であります。先ほどの指摘にもありましたように、国連ですとか、それから地域国際機構での人の移動に関わる犯罪撲滅に向けた国際協力はもとより、二国間ベースでも関連の取決めが増加する傾向にあります。
今般、日本政府が、協力覚書、MOCを通じて、送り出し国とともに、監理団体への監視体制を強める方針を打ち出したことはよい傾向であると思いますが、今後更に進めていかれることを期待します。
総じて、今般日本が選ばれる国を目指したことは、時代の要請に応え、また日本の国益にも合致する望ましい在り方であろうと考えます。これを成功させるためには、従来の政策の在り方とは一線を画す抜本的かつ包括的な政策方針が必要です。今後、大規模に、かつ長期にわたり外国人がやってくる、また、中長期に日本の価値や利害を共有するようになっていく未来像を視野に入れた上で、とりわけ一般国民の側に立った政策形成が肝要です。
日本ならではの魅力や付加価値を高めることこそが、日本人、外国人双方の労働者に裨益すること、そして、日本の国益にも資するものとして御検討いただきますようお願い申し上げ、私の陳述を終わります。
御清聴ありがとうございました。(拍手)