松江英夫の発言 (経済産業委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○参考人(松江英夫君) 皆様方こんにちは。ただいま御案内いただきました松江でございます。
私、デロイトトーマツグループの執行役ということで、マネジメントの一端を担いながら、元々は企業の成長戦略並びにMアンドAとか、いろんな業界の再編、こういったものをコンサルティングという立場から数多くの現場に携わってまいりました。と同時に、私、いろんな他分野でいろんな接点ございますけれども、アカデミアという分野においては主に大学院の客員として十数年、さらには、こういった経験生かしながら、いろんな政策提言という部分では主に経済産業省様の各種の研究会の中の政策委員、こういったものもいろいろ経験をさせていただきながら、最近では、ここ数年は報道番組のコメンテーターとしていろんなビジネスであるとか経済全般のテーマに関して毎週のようにいろんなテーマを扱って提言をさせていただいている、基本的には、私は日本を前向きにする提言をしたいと、こういった信条でいろんなテーマに接点を持ってやらせていただいている、こんな立場でございます。
本日は、まさにこの日本の成長、ここに対して非常に重要な意味を持つこの産業競争力強化法案の改正、ここに関して私の見地から意見を述べさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
まず最初に、紙の方は幾つか御用意してまいりましたけれども、三ページ目から順に、こういった日本の成長を考える上で、私ども原点として振り返るべきは、長期停滞、失われた三十年と言われているこの長期停滞の根本原因がどこにあったのかという観点でございます。私は、いろんな要因があると思いますが、一つの真因は、この人口減少という現象を捉える中で期待成長率が低下したことにあると、これを私は一つの真因だというふうに位置付けています。
これ、お手元の資料も、まさにこの失われた三十年の間に、実は日本というのは人口のピークアウト二度経験しておりますが、それに伴って実は期待成長率が下がってきていると。その四ページを御覧いただいても、その期待成長率の低下と実は賃金の低下というの、これ非常に関連付けられていて、言わば国内は人口が減っていくからもう市場は伸びないんだと、したがって、多くの経営者を始めとして民間は投資をするということを抑制すると。投資が抑制されれば新しい需要が生まれない、新しい需要が生まれないということは売上げが上がらないので、賃金も上がらない。国内はこういった悪循環が定着し、じゃ、企業としては成長の原資を求めて海外に投資をするということで、この四ページの右側も、海外投資というのは逆に広がってきていると。こういったところが、私は非常に大きな影響を与えたのではないかと思うわけでございます。つまり、人口が減っていくということは、イコール成長ができないんだと思って投資をしなかったと、これが私は非常に大きな根本要因の一つではないかと、こういうふうに考える次第でございます。
そうした中で、五ページ御覧いただきますと、私、今申し上げたところから簡潔にこの失われた三十年、長期停滞の原因ということを申し上げると、将来の需要不足と過去からの供給過剰、これがもたらす構造ギャップにあるというふうに私は位置付けております。
つまり、将来は人口減っていって市場が伸びないということで投資をしないがゆえに将来の需要は不足ぎみである。一方で、八〇年代以降、日本が非常に強かったときの供給体制、これはなかなか構造を変えずに多くの生産拠点を持ち、安くいいものを売ると、こういったところで雇用も含めてかなりこれは固定化してしまったと。結果的には、将来の需要不足と過去からの供給過剰、これが構造的なデフレ体質を見出してしまった。それがゆえに、金融も財政もマクロ的な政策を打つんですけれども、根本的な成長に対する転換というのがなかなか果たし切れなかった。これが一つ、私が長期停滞の真因ではないか、こんなふうに見ている次第でございます。
そうした中で、これをどう転換していくかというのが、これからのまさに日本の経済の成長においては非常に重要な視点であろうということを最初に申し上げたいと思っております。
その次に、六ページ、七ページで少し先々を見た一つ前向きな捉え方という観点で幾つかのデータをお示しをしております。
じゃ、果たして、私ども考えるべきは、人口が減っていくと経済は伸びないんだろうかと、こういった問いでございます。私は、人口が減っていっても経済を伸ばしていくすべはあるという見地でいろいろ考えております。
こちらのグラフは、まさに人口の増加と成長率、これのプロットした図でございますが、一見、いろんな意味で人口というのは当然ながら影響を与えているんですが、必ずしも正の相関というところまでは言い切れないと、ここが一つポイントでございまして、言わば人口だけが成長の要因ではないということでございます。言い方変えるならば、人口が減っていったとしても、一人一人の付加価値を上げていく、それによって国全体の付加価値を上げていくことができれば、これは成長することができる。このやり方こそ考えることがこれから重要なんではないかというふうに私は考える次第でございます。
七ページ目に、私どもデロイトトーマツグループのある調査をお示しをしているわけなんですが、こちらは、いろんな今後の成長に向けて、特に政策とか施策において期待が持てるところはどこなのかということを、これ一般のビジネスパーソンのある程度マネジメントに近い層を中心にアンケートを取った結果でございます。最も期待が多いのが技術開発であるとかイノベーションへの投資、まさに投資でございます。
この三つ下、御覧いただきますと、国内に投資を還元できるような政策的な手だて、ここに対する期待も非常に高いといったところで、GX、DXと並んでこういったところが将来の成長をある種牽引していく要素であるということで、期待を集めているところが分かると思います。ここをどうこれからの成長の戦略に結び付けていけるかどうか、人口減少下にあっても付加価値を高めて成長できる、このシナリオの下に政策を打てるかどうか、この辺りが非常に重要ではないかと考える次第でございます。
そこにおいて今後の成長の戦略をどう考えるかというところが八ページでございますけれども、私は、こういったこれからの成長戦略を考えていく上で重要なキーワードが二つあるというふうに考えております。一つは脱自前ということでございます。もう一つが価値循環と、価値を高める循環と。この二つがこれからの成長において私は重要な考え方になっていくということを提唱しております。
まず、この脱自前ということでございますけれども、これ今までの日本の、先ほど供給過剰というふうに申し上げましたが、生産性が低い一端は、ある種の、個々に自分でできることは全部自分でやろうと、この自前主義の下に、ほかとの連携であるとか一緒にやるということ自体がおろそかになってしまった。それによって、部分最適で全体最適にならないと。これ、人口増えていっている時代はそれほど大きな弊害はないんですが、人口が減っていく中ではこれかなり非効率になるわけですね。ここのところをどういうふうに脱却しながら、生産体制、供給体制をいかに強化しながら最適化していくかと。ここにおいては、何でも自前ではなくて脱自前、ほかとつながっていく中で生産性を上げる、これが非常に重要だという点でございます。
もう一つの価値を生み出す循環というところ、まさにこの将来の需要をつくっていく上で、お互いがつながるだけではなくて、このつながりを一過性ではなくて継続的なつながりにしていく、それで価値を生んでいくような、こういった在り方が私は重要だというふうに考えていまして、後ほど少し補足をしたいと思います。
まず、脱自前ということで少し補足をさせていただくと、九ページでございまして、これはあらゆる企業で、これは中小・中堅も含めてあらゆる企業において、これから生産性を高めていく上で脱自前が必要であるということで、よく私が好んで取り上げる事例に、まさに中小企業の物づくりで有名な大田区、ここのところで慣習としても言われている仲間回しという言葉でございます。これは、まさにこういった胴元になるような企業が受けた仕事をそれぞれの得意分野の町工場が分担しながら、お互いそれぞれの良さを生かしながらつくっていくと、これによっていい物をより生産性高くつくっていくと、こういった伝統がございます。全て自前ではなくて、それぞれの強みを生かしながら連携してやっていくと、これは一つ、私は良き伝統だというふうに思っております。
最近は、このデジタル化の中で、クラウド上で、七十社ぐらいの町工場がクラウド上でデータを共有しながら、発注された情報を共有しながら自分たちの得意分野を持ち合ってつくっていくと、こういった形で今実装しているということなんですが、まさにDXを通じながら、こういったお互いの連携を高めながら仲間回しをやっている。これが一つの例でございます。
もう一つ注目しているのが、これ岩手県の八幡平、このまちの人事部という取組でございまして、これは官民とスタートアップ、これが連携しながら、それぞれが持っている人事部の機能、採用であるとか教育であるとかですね、こういったものを個々ばらばらにやるんではなくて一元的に官民、スタートアップが連携してやっていくと。そこの中で得た人材というものを中小・中堅企業が自ら活用していくと。こういうような格好の共有の仕方というのは非常に私は革新的な取組だろうというふうに考えるわけでございます。
すなわち、こうやってお互いがそれぞれつながり合いながら生産性を上げていく。このためには、いろいろな胴元になるような中堅企業、ここのところがハブになりながらこういったつながりをつくっていく。ここを強化していくであるとか、若しくは、それぞれの企業が一緒にやれるような環境ということで、ある部分では提携であったり、一体になっていくMアンドAであったり、グループとしてやっていく。こういったところをより後押しするような政策というものがより私は有効になってくるんではないか、こういうふうに考える次第でございます。
こういったところがまさに脱自前ということで、こういう中で供給体制を最適化しながら供給を強化していくと。この辺が特に人手不足のこれからにおいては重要ではないかと考える次第でございます。
二つ目の価値循環ということでございまして、これは十ページ目でございます。
なぜ私が循環と申し上げるかということでございますが、これ簡単に、釈迦に説法なんですが、この十ページの左側で私が循環と申し上げることの理由を少しある方程式に基づいてお話をしたいと思うんですが。
例えば、国のGDPを企業の売上げと捉えるならば、売上げというのは、釈迦に説法ですが、価格掛ける数量です。この数量を要素分解しますと、人数掛ける頻度というふうに分けることができます。じゃ、人口減少というのはどういう意味かといいますと、この人数が減っていくということでございます。
しかし一方で、じゃ、人数が減っていっても売上げを上げるやり方があると。これはもうお分かりだと思いますが、価格と頻度ですね、ここのところをしっかり上げていくことができれば、人数が減ったとしても付加価値、売上げを上げていくことができる。ここを、これから人口減少下の特に内需のマーケットにおいては企業の戦略として意識していく必要がある。
最近は、サブスクリプションモデルとかもその一つの典型なんですが、今までは、いいものを安くたくさんの人に売ると、こういった戦略だったわけなんですが、これからは、いいものを何回も使ってくれる人、これに適切な価格で売っていくと、これによって成長していく、こういった考え方に発想を転換していく必要があるんではないかと、こういうふうに思うわけでございます。
これは、個々の企業の戦略だけではなくて、いろんな産業政策であるとか国の全体の社会の実装の在り方も、こういった頻度と価格が上がる、言い方を私が変えるならば、回転と蓄積と呼んでいるんですが、回転してリピート率を高めながら、そこで得られた情報を蓄積しながらより良いものにして、価格が上がっても買ってもらえるようにいいものをつくり出していくと。こういった回転と蓄積によって価値を生み出すような循環というものを、企業の戦略から社会の産業の実装まで含めて考えを浸透させていくことがこれからの成長戦略において重要なんではないか、こんなふうに考える次第でございます。
こういった考え方に基づいて、その次の十一ページでございますけれども、じゃ、日本は将来どういうふうに新たなる需要をつくっていくべきかと。そこで一つ鍵になるのは、日本というのは課題先進国であるということでございます。
私が非常に尊敬する、あるイノベーションを豊かにやっていらっしゃる経営者に、なぜイノベーションをこんなに起こし続けられるのかと、こういった質問をしたところ、一番よく深く課題を知っているからなんだよと、こういったお答えを頂戴して、はっとさせられたことがございました。
つまり、課題をよく深く知っているということは、一つイノベーションの源泉を持っている、種を持っているということでございます。ここを解決するすべを見出すことができれば、これはまさにイノベーションを起こすことができるということでございまして、この課題先進国の日本というのはある面でイノベーションの源泉を潜在的に有していると、こういった発想で捉える必要があると。言い方を変えるならば、社会課題を解決するようなソリューションをこれは官民が一体になってつくり上げることが、この先の成長戦略のこれは柱になってくるんではないかと思うわけでございます。
私はよく5Kなんという言い方をしまして、十一ページの右側に5Kということで、たまたま頭文字があるような、観光であるとか、環境、健康とか、国土強靱化、教育といった分野で、まさに課題を抱えつつも、このソリューションこそが世界に通用する潜在力を持っている分野でありまして、ここをいかに需要に変えていくかといった辺りが一つの突破口になるんではないか、こんなふうに思うわけでございます。
そうしたことを社会に実装するモデルとして描いたものがこの十二ページでございまして、これがまさにこれからの日本の成長戦略の大きな考え方、枠組みということだということで、私は循環型成長モデルということで提唱をしております。
ここの中核になるのは、これ実は三つの循環で形成されているんですが、その中核になるのはこの青いところの循環、この大循環と呼んでいるところでございます。こちらの出発点が真ん中の下にありますAというところで、日本が直面する社会課題、これが出発点になっておりまして、ここを解決するために解決策というのを、ソリューションをどんどん生み出していくと。
ただ、この解決策を生み出すだけではなくて、これが買ってくれる人がいないと市場にならないと。重要なのは、この需要に結び付けるということが重要でございます。プロダクトアウトにならずに需要に結び付ける。この需要に結び付くことによって、そこは新たな市場になっていきます。この社会課題を市場に結び付けていくというのがこの大循環でございます。
この新たな市場ができますと、そこに雇用が生まれます。良質な雇用が生まれると、言わば賃金が上がりやすい、ニーズが強い雇用が生まれる。ここに多くの人を教育して移動して従事していただくことによって、それぞれ所得が上がっていく。所得が上がると消費に回るので、更に新しい市場が大きくなる。さらに、ここを国内に閉じずに海外とも接続しながらやっていくと。この一番外のところに灰色の丸がありますが、これ国際循環ということで、こういったものを外からもお金や資金や人を集めながら、まさにこういった市場をつくって所得を向上させていく。
これ全てぶつ切りではなくて循環させていくことが、まさに回転と蓄積、人数に依存しない経済の新しい成長モデルになり得るんではないか、こんな考え方でお示しをしているところでございます。
さて、最後に、こういった考え方に基づいたときに、今回の産業競争力強化法案、これがどういうふうな位置付けでどういうふうな貢献を私は期待しているかということを整理したいと思います。
今申し上げた循環型の成長を果たしていく上で、あいにく、今現状では、それぞれの循環を阻害する壁が至る所にございます。今回の法案というのは、その壁を一つ取っ払う突破口になるという期待感が私は持っております。
具体的には二つ、右側のところに整理しておりますが、まず、国内に対して投資を拡大していく、先ほどの期待成長率を高めて投資をしていくことによって将来の需要をつくっていく、これは非常に重要なところだと思います。
とりわけ、今回、五分野に関して、EVであるとか半導体を始め五分野に関して特に集中的にインセンティブを利かせていくということで、実際、そこによって需要の創出につながる芽を育てていく。さらに、そこのところのインセンティブも、実際に生産額とか販売額に応じてこの辺りを利かせていくということで明確に需要を意識している。ここが私は非常に評価するべきポイントではないかと思います。
同じように、今後の成長の原資になっていく、ある種知的財産、ここに関してもイノベーションボックス税制において、これもまさに知財のライセンスであるとか譲渡というこの需要側にインセンティブを利かせる。この仕組みとして、私は新たな需要、市場をつくっていく上で非常に期待感が持てるところではないかと思います。
それともう一つ、二番目のところの国内の投資拡大に向けたイノベーション及び新陳代謝、ここにおいては、まさに供給の生産性の向上を促すために、中堅企業、ここにフォーカスをして、いろいろな格好で後押しをしていこう、それによって、人への投資とか賃上げの原資、この投資の原資をつくることにも機能しますし、さらに、MアンドAということでお互いのつながりを促していく、ここに対しても一つの後押しになるんではないか、こんな期待感を持っております。
以上、私からの冒頭の御説明でございます。御清聴ありがとうございました。