牧原出の発言 (行政監視委員会)
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○参考人(牧原出君) 東京大学先端科学技術研究センターの牧原です。本日は、この貴重な機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
私、専門は行政学で、第三十二次、第三十三次の地方制度調査会の委員を務めました。そうした経験から、昨今進みつつある地方制度改革の流れの中から、二十一世紀を見通した国と地方の関係について、ここでは三つの論点を申し上げたいと思います。
第一に、少子高齢化による人口減がもたらす衝撃についてです。
総務省の研究会、自治体戦略二〇四〇構想研究会は、二〇四〇年が全国規模で高齢者の最も多い年になるという人口予測の下で、これがもたらす危機についてどう国と地方が対処すべきかを論じました。この問題意識は、その後の第三十二次、三十三次地方制度調査会に受け継がれており、これ以前と以後とでは地方制度改革の論調は大きく転換しました。今後確実に到来する人口減という未来における状況を基に、地方自治の現場の業務から制度全般の変化を意味付けた点でこれは画期となったと私は考えています。
この研究会が打ち出した今後取るべき施策は三つありました。一つはスマート自治体、すなわち地方自治体のデジタル化、二つ目は地域における公共私連携、そして三つ目は自治体の区域を越えた圏域連携です。これらはどれも地方自治体が自治の上に立って取り組むことが基本線となりますが、国が可能な支援を手当てしていくことも重要です。その際には、国と地方との間の情報共有が何にも増して重要だと考えられます。
この三つの中でも、スマート自治体としての施策は、その後、二〇二五年度をめどとする基幹情報システムの共通化、自治体における基幹情報システムの共通化を国が主導することで現在作業が進んでいます。
その際に問題となりつつあるのは、デジタル化に伴う事務手続の改革です。デジタル化が窓口業務改革などそれぞれの現場での作業手順を組み替えていくため、効率的な事務処理のためにはデジタル化に即した業務改革が必要となります。
地方自治体においては、デジタル化部門と行政改革部門とが密接に連携することが必要です。国でもデジタル庁がデジタル化全般の司令塔ですが、地方自治体の行政改革は専ら総務省の担当です。国と地方を挙げて、デジタル化とこれに対応する業務改革を協力しながら進めることが重要だと言えます。
そもそもデジタル化とは、技術革新によって刻々とその内容を変えていきます。リスキリングなどと言われるように、国、地方の行政官は当然のこと、国、地方の議員も技術革新の状況を絶えず理解するよう努めることが重要となります。
ある市の議会で、新しく当選した議員がAIについて大学の専門家を呼んで話を聞いた上で先進地域の取組の視察に出かけていくという場面に居合わせたことがあります。政治家と科学者、専門家との対話の場をふだんの議員活動の中に取り込み、日常的にデジタル技術のリテラシーを高めるような配慮を、国、地方双方の議会に求めたいと思っています。
また、地方ではオンライン議会が一定の条件の下で認められていますが、国会法の規定における出席の解釈が限定付けられており、そこでの制約があるために地方議会でのオンライン議会の進展に限界があります。国会は、議員会館でリモート審議に参加することが容易であるという、地方と比べた恵まれた環境にあります。是非とも、地方議会のオンライン開催が進むよう、国会のオンライン開催に積極的に取り組んでいただきたいと切に希望しております。
第二に、人口減そのものについてです。出生率の低下は、新型コロナを経てますます深刻になってきています。自治体戦略二〇四〇構想研究会では、二十歳の人口がピークの半分になることで新卒採用が難しくなることを前提に、現在の半数の職員でも運営できるような地方自治体の執務環境が重要であるとややとがった指摘をしました。ともすればデジタル化は仕事を増やしかねませんが、正しいデジタル化によって職員の業務量をできるだけ軽くすることが何にも増して重要です。
そして、高齢化が進む過疎地域では、地域コミュニティーを維持することが難しくなってきています。もちろん元気な高齢者が町を守り立てているところもありますが、やはり災害時の対応などはなかなか厳しい地域も多いようで、一月の能登半島地震でもそうした状況が目立っています。これについては、性急に人口増を求めることはそもそも無理ですが、地域なりの自治があり、その上に市町村の自治があるという考え方が重要です。
デジタル化で業務負担を軽減できれば、自治体職員が地域担当職員として現地訪問を含めた支援に向かうこともできるでしょう。また、災害時に担当地域を重点的に巡回し、必要な支援をしかるべきタイミングで行っていくこともできるでしょう。さらに、他の自治体との調整などの業務にも従事しやすくなります。地域の問題、圏域の問題と自治体運営とをタイムリーに結び付けるような業務改革の上に地方自治があることこそ、人口減の地域においては必要となります。
その際の鍵概念は、地域の尊厳だと私は考えています。高齢化や人口減が更に進んだとしても、その地域は尊厳を保っていると見るべきであり、効率化のために都市部へ移住すればよいといった尊厳を無視した議論をそこから批判していくべきだと私は考えています。また、仮に将来人口がゼロになる地域があったとしても、それを悲観するのではなく、そこまでに至る長い過程の地域を尊厳を持って受け止め、自治の下、周囲もこれを支えていくということが重要なのです。
また、人口減は、どうしても最初に問題が顕在化する過疎地に関心が行きがちですが、大都市部も遅れて人口減の局面に入ります。更に言えば、人口減ではありながら、高齢者人口が多くなるため、医療、社会保障などの行政需要が激増する可能性もあります。とはいえ、都市部であればこそ、産業振興の可能性などもあり、事態は容易に予測できません。都市部が将来の人口減に備えた対応を今からどれほど準備できるのかを、住民としても国民としてもしっかりと見守っていかなければいけないと考えています。
そして、第三点目です。新型コロナによって顕在化した日本の国と地方との関係における問題です。
第三十三次地方制度調査会は、この問題を正面から議論し、地方自治法において、国の地方自治体に対する一般的な指示権を規定することを提言しています。ここでの私の話は、このあくまでも地方制度調査会の提言に基づいたものとして行わせていただきますが、今国会で改革法案が審議されるものと思われます。
地方制度調査会では、こうした問題を平時ではない非平時における国と地方との関係の問題だとして、パンデミック以外に大地震など大規模自然災害、武力攻撃といった事態における法規定を検討しました。その結果、大規模な災害、感染症の蔓延等の国民の安全に重大な影響を及ぼす事態において、国民の生命、身体又は財産の保護のため必要な措置の実施の確保が求められる場合であるとか、その事態が全国規模である場合や全国規模になるおそれがある場合、あるいは局所的であっても被害が甚大である場合、また、当該事態が発生している地域が離島などのへき地であり、迅速な対応に課題がある場合など、そうした非平時に個別法での指示権の規定がなくとも地方自治法の一般的な規定によって国は地方自治体に指示権を行使するよう、制度の立案を提言しています。
そもそも今回の指示権の規定の前提にあるのは、コロナ禍の際に、国側には、地方自治体がなすべき対応をなかなかしていなかったことへのいら立ちがありました。また、地方の側では、ワクチン接種が性急であったことで住民への混乱が生じたといった、国の側の現場への理解が行き届いていないことへの不満があります。
双方をどう調整するかが問われています。こうした指示権は、閣議決定などの内閣での合意の下、担当大臣から地方自治体に発せられるという手続を取るよう提言しています。地方自治体は、指示に沿った一定の行動を取ることが求められます。
しかし、よく考えれば、本来ならば地方自治体が独自に指示される内容について行動すべきです。国が指示するというのは、何らかの理由でしかるべき行動を地方自治体が取ることができない状況だということになります。とはいえ、地方自治体がそうした行動を取ることができないのであれば、国が幾ら指示したところで地方自治体は行動できないのではないかという疑念がすぐに浮かびます。
この点は、地方制度調査会でも様々に問題提起されたところです。つまり、指示権が意味を持つ場合が果たしてあるのかということになります。非平時は様々な事態があり得るため、国の指示や裁断があって地方自治体が初めてうまく行動できることもあるのではないか。であるならば、今回の新型コロナにまつわる混乱をきっかけにそうした法規定を設けておいた方がよいだろうという見通しが地方制度調査会にはありました。
いずれにしても、非平時では、問題が深刻な地域の地方自治体と国とが十分情報共有することが何にも増して不可欠です。そうした情報共有があれば、国の指示権を行使するまでもなく地方自治体は一定の判断をすることができるはずであり、判断に遅れがあるなどの状況があったとしても、いたずらに国が指示権を行使する必要はなく、自治体の判断を合理的に待つことができるはずです。万一、指示権を行使する際にも、十分な情報共有があれば、国と地方が対立することなく、指示を受けて地方自治体も一定の対応をすることができるでしょう。
私見では、こうした国と地方の情報共有と指示権とは、リダンダンシー、冗長性の関係にあると考えています。リダンダンシーとは、ロケットなどで本来の回路が動かなくなったときに、別の回路を準備しておくことで安全航行できるように設計する手法を指しますが、情報共有と指示権とをそうした冗長性の関係に立たせることで、混乱した国が突然指示権を行使するといった事態や、地方が国の指示権を無視したり、行使できないまま放置したりするという事態を避けることができると私は考えています。
非平時は多様です。平時から見れば、指示権行使の条件を満たすような極限状態としての非平時はめったに到来しないはずですが、いざ非平時となれば、冷静な見通しを失った国、地方の関係の中、突如指示権を行使する決断を国がしないとも限りません。国会はそうした状況をしっかりと監視する役割を負っています。いざ指示権が行使された場合は、その行使の状況を国会がしっかりと監視しなければなりません。
地方制度調査会は、政府には事後検証を求めるべきだと提言しています。また、一度行使された指示権をそのままにせず、可能な限り個別法の立法によって同じような事態で再度一般的な指示権を行使しないような措置をとるべきだとも提言しています。それぞれ、国会が監視と立法を適切に行うことが不可欠です。つまり、一般的な指示権を法律に規定することは、それに伴い、国会の役割が重要であることをも要請するのです。
一見このような規定は不要に見えるかもしれません。しかし、ここで強調したいことがあります。いざ非平時ともなれば、法的根拠なく国が地方自治体に指示を出そうとする事態は十分あり得ることです。東日本大震災では、相手方は地方自治体ではありませんでしたが、中部電力に対して浜岡原発の運転停止を国が求めました。コロナ禍では、国が地方に対して学校の一斉休校を求めたのは記憶に新しいところです。
法規定がないとむやみに国が指示を乱発するという事態を招きかねません。しかし、法規定があれば、まずはこの規定に沿って指示権を行使できるかどうかを国は検討しなければならなくなります。つまり、一般的な指示権を法律上規定することで、まずはそうした具体的な法規定の要件と手続に落とし込んで国が指示権を行使するように促すことができます。法規定を前提としない指示の乱発はかなりの程度防げるのではないかと私は考えています。
今回の地方制度調査会の提言は、相当程度限定された危機的な状況の下で、閣議決定などの手続を経た上で国が地方自治体に対して指示権を行使するよう提言しています。また、事後的な検証も必要だとも述べています。こうして指示権行使の事前と事後の手続に枠をはめた規定があり、それを前提としながら、まずは国と地方が十分情報共有することが求められているのです。
したがいまして、今回地方制度調査会が提言した一般的な指示権は、国会による十分な監視とともに法律上規定され、次に到来するおそれのある非平時に機能することを私は期待しております。
ここで、私の意見を述べさせていただきました。