竹村和也の発言 (財政金融委員会)
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○参考人(竹村和也君) 弁護士の竹村と申します。
本日は、貴重な機会をいただき、ありがとうございます。
弁護士なので法廷で尋問することには慣れているんですけど、こういった場でお話しして後々質問もされるというのは非常に不安があるんですけれども、せっかくいただいた機会ですので、私の意見を申し上げたいと思います。
御紹介いただいているとおり、私、日本労働弁護団という労働者、労働組合側で労働事件、立法課題に取り組んでいる弁護士団体に所属しています。本日も労働者、労働組合側の立場で事業性融資の推進等に関する法律案について意見を述べさせていただきます。
簡単なペーパーを用意しておりますので、それに即してお話しします。
まず、基本的な視点についてです。
法律案で創設される企業価値担保権の担保目的財産は、先ほどもお話ありましたとおり、会社の総財産とされています。ここには労働契約上の地位も含まれ得ます。労働契約上の地位も含めて総財産に担保を設定するという制度は、ほとんど利用例のない企業担保法を除いて存在しないというふうに思います。
そして、企業価値担保権の実行手続における換価は営業又は事業の譲渡によるものとされており、後ほど述べますとおり、労働契約も大きな影響を受けることになります。
加えて申し上げますと、企業価値担保権の担保目的財産である総財産、それを構成する事業の形成、保全には労働者の労務提供が不可欠となりますし、その総財産に含まれる将来的なキャッシュフローについても労働者の労務提供が原資となっている部分が大きいと考えられます。
これら労働者が受ける影響などからすれば、労働者はこの制度の重要な利害関係人であって、それを組織する労働組合とともに十分に手続的に位置付けるなどして保護される必要があると考えております。
後ほど局面ごとに労働者保護に関する課題を見ていきますが、二つのレベルの課題があると考えています。
一つは、企業の総財産を担保するというこの企業価値担保権特有の課題です。現在でもファイナンスにおいて個別資産を積み上げて全ての資産を担保とするということは行われているところですが、企業価値担保権は事業価値も含めて総財産を包括的に担保するという点で大きな特徴があります。この特徴を踏まえて労働者保護を検討する必要があると考えています。
もう一つは、企業価値担保権に限らない課題です。本法案を検討する中で、企業価値担保権に限られない労働法、倒産法等における課題が改めて浮き彫りになったということです。金融審議会のワーキンググループなどでは、ほかの法制度との均衡という点から、本法案においてはほかの制度にはない労働者保護ルールは基本的には設けないという御指摘が度々なされていたかと記憶しております。私としては、ほかの制度にかかわらずルール設計すべきだと考えていますが、参議院におかれましては他の制度も含めて広く問題を議論していただければと思います。
それでは、局面ごとの課題について述べさせていただきます。
まず、設定時についてです。
設定には、債務者である会社の決定、決議や商業登記簿への登記などは必要になりますが、労働者、労働組合との関係での手続的な規制は設けられておりません。ワーキンググループの報告書には、労働組合などへの情報提供等の促進に向けて取り組むことが望まれる、そういう記載があるのみです。
この点については、先ほど申し上げた企業価値担保権の特徴、つまり労働契約上の地位も目的財産に含まれ、実行時には大きな影響を受けること、企業価値の向上に労働者の労務の提供は不可欠であること、それらからすれば、何らかの形で労働者や労働組合に事前通知すべきだと考えています。他の担保権の設定にはそのような通知は必要とされていないとの御指摘もありますが、労働契約上の地位も目的財産に含まれる点でほかの担保制度と同視すべきではないと考えています。
また、通知を求めることで制度が煩雑になるとの御指摘もなされておりますが、そのような労使コミュニケーションを煩雑と捉えるべきかどうかという点も考えていただきたいと思いますし、本制度が主眼とする事業価値の向上には労働者の協力が不可欠となりますので、労働者との必要なコミュニケーションと考えていただければと思っています。
いずれにしても、法律には難しくとも、何らかの形で設定時の労使コミュニケーションを推進するような規制が設けられればと考えております。
次に、期中について述べます。これは資料一、四枚目に簡単な図を載せていますので、そちらも参考にしていただければと思うんですが、設定後から実行開始までの期間をここでいう期中とイメージしております。
ワーキンググループの報告書では、金融機関として絶えず変動する事業の実態を継続的に把握し、伴走支援に十分なリソースを投入することが経済合理的になり、特に業況の悪化局面において、これを早期に察知し、経営改善に向けた支援を行うことが可能となるとされています。
ここで指摘されている業況悪化局面における経営改善支援が労働者の人員削減、労働条件の不利益変更にわたる場合には、労働者の地位、労働条件にも大きな影響を与えることになります。このような場合、個別労働者については、労働契約法等の労働関係諸法規でそれら不利益変更等の有効性が検討されることになります。この個別労働者との関係においては、本法案特有の問題はないと考えてはいます。
他方、レジュメでいうと二ページ目に移りますが、労働組合としては、労働契約上の使用者である債務者とだけ交渉しても実質的な解決に至らないことも想定されます。このような局面では、労働組合は、労働契約上の使用者である債務者はもとより、担保権者である金融機関と交渉を継続しなければ、それらの影響についての問題を解決することができないことが考えられます。
先ほど見ていただいた資料一の一番左側の図ですが、現行法上は、労働契約上の使用者ではない金融機関について、労働組合法上の使用者性が認められるかという問題になろうかと思います。確かに、この問題も企業価値担保権に限った問題ではありません。これまでも、親会社、投資ファンドなどの使用者性が問題にされていますが、現在の判例法理などによれば、実務的には極めて高いハードルが課されております。強い影響力を有する金融機関に対し、労働組合から申し入れられた協議、交渉に対する応諾義務を課すなど、労働法的規制を導入することもあり得たのではないかと考えております。
本法案にはこの点の手当てはなく、ワーキンググループの報告書では、判例法理等を前提として金融機関に周知するとされております。このような周知自体はよいとして、金融機関が労働者の労働条件等について指導してはならないと下位法令等で明記するなど、実効性のある方法を御検討いただければと思っています。
実行後の課題について述べます。
資料一で申しますと真ん中の図になりますが、前提として、会社更生法等の解釈に照らせば、実行後の裁判所から選任される管財人は労働契約上の使用者の地位を承継することになろうかと思います。この点は是非御確認いただければと思っております。
管財人は、換価、配当に至るまで事業を経営していくことになりますが、実行後という業況が悪化している点から、労働条件の不利益変更や解雇などの人員削減が行うこともあり得るかと思います。この点については、実行後の管財人による解雇といえども、いわゆる整理解雇法理が適用されることは会社更生法における事案でも確認されており、当然のことかと思います。
なお、整理解雇法理の適用に当たっては個別の事情が検討されることになりますが、本制度では会社更生下と異なって更生計画等ありませんし、金融庁が御説明されているとおり、換価においては雇用を維持しての一体としての事業承継がその後想定されているのですから、実行後の換価に至るまでの間に人員削減の必要性が強く基礎付けられるとは考えておりません。むしろ、換価時、事業譲渡の際の企業価値を損なわないように、労働者が流出しないよう取り組むことが想定されるはずだと考えております。
実行後の労働組合との関係についてですが、管財人は、当然、労働組合法上の使用者の地位にも就くと考えられます。やはり、資料一の真ん中の図のとおり、団体交渉の相手方になることはもちろんのこと、労働組合への不当労働行為を行ってならないことは当然のことです。実行後であっても労働組合の争議権を始めとする労働基本権は尊重されなければならず、管財人の善管注意義務にはその点も含まれるものと考えています。
なお、実行後の労働協約、使用者と労働組合との間で結ぶ労働協約の効力については、本法案では必ずしも明確ではありませんが、実行後においてもこれは当然存続することを御確認いただきたく思います。
労働債権保護の関係について述べさせていただきます。こちら、資料二についても併せて御覧いただければと思います。
先ほども御説明いただいたとおり、本法案では、資料二のAの括弧二にありますとおり、労働債権が共益債権として優先弁済される立て付けとなっております。具体的には、実行手続開始前六か月間の給料請求権として位置付けられております。
他方、今回の制度では、実行後も当然に労働者との雇用関係の継続が予定されており、実行後の労務対価たる給料請求権の保護も問題になります。実行後の給料請求権についても、給料債権についても当然ながら共益債権になると考えますが、その根拠条文が百二十七条二号か五号になろうかと思います。この点については明らかだと思いますが、念のため、その解釈でよいのか、金融庁の方は明確にしておくべきかと思います。
労働債権保護の関係で最後に指摘させていただきます。
共益債権として保護されるとしても、その前提として労働者に適切な情報が提供される必要があると思います。
この点、会社更生法などでは、管財人は、更生債権等である給料の請求権又は退職手当の請求権を有する者に対し、更生手続に参加するのに必要な情報を提供するよう努めなければならないと定められています。破産法にも同様の規定がございます。つまり、労働者に直接情報提供される立て付けになっているわけです。
他方で、本法案は、情報提供の名宛て人は労働組合等となっております。もちろん、労働組合等に情報提供することも重要ですが、会社更生法、破産法などと同様に労働者にも直接情報提供する規制を必要だと考えております。
もちろん、共益債権ですので随時弁済が予定されており、届出などは必要になっていませんが、破産法においても、財団債権等についても当然情報提供をすべきだというふうな解釈がなされておりますので、同じように本法案においても労働者への直接的な情報提供を検討されていただきたいというふうに思っております。
レジュメでいいますと三ページ目に参りまして、最後に換価の課題についてです。
換価は、裁判所の許可による営業又は事業の譲渡によるものとされております。事業譲渡という特定承継の方法によりますので裁判所の許可が必要になるものの、管財人とスポンサーとの間で承継する範囲を合意することになろうかと思います。
問題は、不採算部門を承継の対象から除外され、同部門に所属する労働者も承継の対象から外されるといった、いわゆる不承継の不利益が生じないかということです。
行ったり来たりで申し訳ありませんが、資料一の一番右側の図を見ていただきたいと思います。不承継となりますと、そのまま債務者に残った労働者は最終的には破産、清算時において解雇の対象になると思われます。この点は実務的には生じ得る事態ではありますが、まさに企業価値担保権に限らず、事業譲渡一般の問題とも言えます。
この点、事業譲渡については労働組合等からの意見聴取が本法案では予定されておりますので、その点について触れたいと思います。
この意見聴取が裁判所の許可に当たって重要な考慮要素になり得ることは指摘されているとおりかと思っています。しかし、過半数を組織する労働組合がその会社に存在しない場合の過半数代表者の選出をどのようにするのか、その点、労基法と異なって、本法案では明確ではありません。
実は、これはほかの倒産法制でも同様なのですが、それら倒産法制の下でも、過半数代表者が存在しない場合には意見聴取は不要だとの実務的な見解も示されております。そのほか、仮に裁判所が意見聴取をしなくとも事業譲渡自体は無効にならないと解されるなど、手続的規制として十分とは言えない状況にあります。これらは倒産法制全体の問題ではありますが、労働者保護として十分な規制として機能してはいないということを指摘させていただきます。
また、ワーキンググループの報告書では、換価の方法については、雇用を維持しつつ承継するなど事業を解体せずに換価することを原則とし、個別財産の換価は、事業の譲渡が困難である場合の例外とした上で、個別事案ごとに管財人がその善管注意義務に照らして相当な方法により行うものとし、これを裁判所の許可基準とするとされています。ただ、この点、本法律案では明らかではありません。この許可基準については、是非とも明文化する必要があると考えております。
譲渡先と労働組合との関係についてはレジュメに記載しているとおりですので、割愛させていただきます。
以上、細かいところも含めて幾つか指摘させていただきました。
これまで述べてきたとおり、企業価値担保権はこれまでにない担保権として特有の課題もあります。各局面の労働法的課題を整理した上で、労働者保護ルールを整備する慎重な制度設計が必要だと考えています。そのことが事業価値を向上させるという本法案の趣旨にも沿うのではないかと考えているところです。
また、企業価値担保権に限らず、倒産法制、企業組織再編一般の課題も多く浮き彫りになったと思っています。倒産法制、企業組織再編においては、労働者、労働組合は重要な影響を受けるにもかかわらず、確かに利害関係人とはされつつも、必ずしもその利害調整に十分に組み入れられているとは言えません。本法案の審議を機に、その点の議論が進展することを希望いたします。
以上で私の意見を終わりにさせていただきます。御清聴ありがとうございました。