大谷和子の発言 (総務委員会)
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○参考人(大谷和子君) ただいま御紹介にあずかりました大谷でございます。
本日は、貴重な機会を賜りまして、ありがとうございます。
資料の用意がございませんで、口頭での意見陳述とさせていただきます。
私は、総務省のプラットフォームサービスに関する研究会の構成員としまして、平成三十年からインターネット上の違法・有害情報への対応について議論に加わってまいりました。その過程で、今回の改正案の前提となる報告書の取りまとめに向けた検討にも参加してまいりました。また、平成十三年からは、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会という協議会がございまして、名誉毀損・プライバシー関係ガイドラインの策定に長年関与してまいりました。
ちなみに、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会といいますのは、プロバイダーなどがインターネット上の権利侵害に適切かつ迅速に対処できるようガイドラインを整備するなどの活動のために平成十四年に設立された民間団体でございまして、本日は、お話の中では単に協議会と説明させていただきます。
このような立場から、この改正案についての賛成の意見を述べたいと思います。
この改正案につきまして、特に私が重要だと考えているポイントを三点ほど御説明したいと思っております。
まず一点目でございます。この改正案というのは、違法情報の削除の迅速化を図ることのできる体制整備を大規模プラットフォームサービス事業者に求めるものだという点でございます。
この迅速化規律というのは、権利侵害情報、すなわち違法な情報に対するものでありまして、外延が不明瞭な有害情報に適用されるものではなく、このことからも表現の自由とのバランスが図られているという点がとても重要だと思っております。
四年前の総務省のインターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージに基づくモニタリングでは、削除の申告の受付や審査のプロセスについて事業者から定期的な情報開示をお願いしてまいりました。ところが、事業者ごとの状況には差異があるものの、そして少しずつは改善していただいているものの、依然として不十分な点が残っていたと思っております。違法情報が放置され、拡散されますと、被害がより大きくなります。
現行法の下でも、事業者が権利侵害情報を知ったときには条理上の削除義務が生じることを前提といたしまして、この協議会の名誉毀損・プライバシー関係ガイドラインでは、侵害情報送信防止措置の依頼書のひな形を作成し、また、侵害情報の特定に資するURLなどの情報を事業者に伝え、事業者が迅速に送信防止措置を講じるためのプロセスを示したり、また、事業者が自主的に速やかに削除できる場合について裁判例などを示したりして事業者の迅速な対応を促してまいりました。
しかし、SNSなどの新たなサービスの利用者が爆発的に増えるに至りまして、民間事業者による自主的な規制だけではその効果が不十分になっていたと私も感じております。
改正法では、欧州のデジタルサービス法にも同等の規定がございますように、削除の申出の窓口や手続の整備、そして公表、そして削除の申出に対する判断、通知というのを大規模プラットフォーム事業者に義務付けております。このような点で日本版DSAとでも呼ぶにふさわしい規定が盛り込まれておりまして、この迅速な対応に向けての改善が大いに期待できると考えております。
二点目でございます。侵害情報に関する調査の義務に加えて、侵害情報調査専門員の選任義務が設けられた点は非常に重要なポイントだと考えております。
御承知のとおり、大規模プラットフォーム事業者の多くが海外の事業者でございます。プラットフォームサービス研究会ではモニタリングをしばしば繰り返しておりましたけれども、権利侵害への対応のために日本の文化的、社会的背景を踏まえた措置を行うための十分なリソースを投入していただいていないと思われる事業者が幾つかございました。また、我が国における違法有害情報の実態が十分に理解されていないために適切な対応が取られていないと思われる案件にも数多く遭遇してまいりました。
具体的な例を申し上げますと、インターネットの上で特定の地域を同和地区であると指摘する情報、識別情報の摘示ということですが、こちらを公表する行為が実質的にはプライバシー侵害に当たる行為であると評価した下級審裁判例などがございますが、これは海外では特に関心のある方以外には知られていないのではないかと思われます。
内外のプラットフォーム事業者が我が国の文化や社会的背景に明るい、特に法律に明るい専門家を選任することで、インターネットにおける不当な差別、そして人権の問題についても前進が図られるのではないかと期待しております。
海外の事業者に対しましては、ほかにも送達の関係の制度整備、そして大規模特定電気通信役務提供者に指定された外国法人における国内の代表者の氏名、住所の届出義務といった制度整備も講じられているところであります。
そして、三点目でございます。透明化規律の導入につきまして、これも重要なポイントだと思います。
事業者が自ら有害情報の削除基準を策定し、これを公表する義務が設けられたこと、今般のその侵害情報の削除の迅速化規律が導入されたことで、現状からはなかなか考えにくいものの、事業者に萎縮が生じ、オーバーブロッキングが生じないかを懸念する声があるとお聞きしております。迅速化規律も、もちろん拙速な判断にならないように、窓口の設置や調査の実施、申出者への通知などの体制整備にとどめたことでこの懸念には当たらないと思いますけれども、あわせて、その表現の自由を保護し、過剰な送信防止措置が講じられないようにするために透明化規律が設けられたことは極めて重要だと考えております。
透明化規律の肝となる削除基準につきましては、現在の通信関連四団体によります違法情報等対応連絡会がございまして、そこで作られている契約約款のモデル条項やその解説、それから協議会で取りまとめた判例要旨などを参考にしていただくことができると考えております。
削除基準につきましては事業者任せになってしまうことを懸念する声もございますが、事業者が自ら具体的に分かりやすく記載することの努力をすることがとても大事でありまして、判断を他人任せにするということは表現の自由とのバランスを失することにもなりかねないと考えております。
例えばですけれども、私としては、人権擁護機関などの公的機関からの削除要請につきましては事業者が真摯に対応してくださることを期待しているものですが、他方で、投稿内容を吟味せずに、公的機関からの要請だという理由だけで自動的に情報を削除するということが行われた場合には、表現の自由が実質的に損なわれてしまうことになります。表現の自由が十分に保障されていない制度の国家において、公権力への批判や論評が正当になされず、表現そのものが萎縮し、人権侵害が横行するというようなこともありますので、我が国を絶対そのようなものにしてはならないという思いを強めております。
透明化規律というのは、ただ大規模プラットフォームサービス事業者がこれを守れば情報空間がより安全、安心なものになるというものではないと考えておりまして、この規律が本当に十分な効果を発揮するためには、事業者が策定する削除基準、そして実際の送信防止措置のプラクティスに対して、利用者であるとか市民が十分にモニタリングをしていくということが不可欠だと考えております。そのためにも、この社会におけるマルチステークホルダープロセスといったものを機能させてサービス利用者をエンパワーするような政策というものも総合的な政策パッケージとして検討することが望まれると思っております。
長く三点ほど御説明させていただきましたが、最後に一言付け加えますと、今回のプラットフォームサービスに関する研究会の三次とりまとめというのが法制化に当たっての前提になっておりますけれども、そこのとりまとめの中で法制化に当たってより慎重な判断が必要であるとして法制化を見送った項目への御理解をいただくことが大変重要だと思っております。違法情報の流通の監視など、それからノーティス・アンド・テークダウンなど、法制化をしない選択をしたことへの御理解を是非いただきたいと思っております。
若干蛇足になりますけれども、東日本大震災以降に個人的にはスマホユーザーになり、SNSの利用者となりました。SNSの機能、インフラとしての機能についてはこれまでもよく言われているところですが、旧友と再会したり趣味の友人を増やすことができました。また、コロナ禍の下でも、SNSを通じて国際社会情勢にも生きた情報に触れて、多数の異なる意見にできるだけ接する機会を得てきております。
AIの濫用ですとか偽情報、成り済ましの課題など、幾つもの課題が山積しておりますけれども、プラットフォームサービスが今や世界、生活の一部として欠かせないインフラの一つであると、そして多くの異なる意見を持つ方との交流もできる良いものだということを前提に、その良い面を強化する制度としてこの政策が是非法律として公布されることを願っているものでございます。
どうも御清聴ありがとうございました。