小原隆治の発言 (総務委員会)
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○参考人(小原隆治君) 早稲田大学の小原でございます。おはようございます。
本日はお招きいただきまして、ありがとうございます。国権の最高機関である国会でこのような意見陳述の機会を与えていただいたことを大変光栄に存じております。
お手元に資料をお配りしております。それに沿いましてお話をさせていただきます。
今回のアウトラインは、始めにから終わりにまでお示ししているとおりでございます。
最初に、問題の限定ということでございますが、地方自治法改正は三本柱があると言われておりますけれども、その中でも特例的な関与、新設の第十四章の中で規定されております、つづめて申し上げますが、その重大事態におけるいわゆる補充的な指示、あるいは指示権の新設に関してその問題点を申し上げたいと思います。
最初に、一番、地方自治の本旨と書いてございます。
しばしば、一九九九年公布、翌二〇〇〇年施行の地方分権一括法にいろいろな方々が言及されておりますけれども、私はもっと遡りまして、一九四七年に憲法と同時に施行されました憲法第九十二条の地方自治の本旨について触れておきたいと思います。
言うまでもなく、地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定めるということであります。それは、英文表記で言いますと、ザ・プリンシプル・オブ・ローカルオートノミーということでございますが、この第九十二条に関しましては、いわゆるマッカーサー草案には元々なかったもので、日本のイニシアチブで作られたということがこれははっきりしております。中でも、中心人物は、元々戦前の内務官僚で、その後、法制官僚として法制局長官までお務めになった佐藤達夫さんでございます。言わば総務省、自治省の大先輩に当たる方でございますが、その方がこれは私が入れましたということをおっしゃっております。
その地方自治の本旨に関して、しばしば教科書では団体自治と住民自治から構成されるという具合に説明されるわけでございますけれども、しかし、佐藤達夫さんが元々のローカルオートノミーについてかくかくしかじかと理解し、そしてその入れ込んだ原義を考えてみますと、それは、国は自治体に対して不要不急、不当な介入をすべきではないということでございます。俗に言いますと、余計なおせっかいをしてはいけないと、ハンズオフということ、手を出してはいけない、手を出していたらその余計な手は引っ込めなさいと、手を引けというのがローカルオートノミーの原義でございます。教科書の言葉に倣って言いますと、団体自治と住民自治の中の団体自治に専ら軸足を置いた表現がローカルオートノミー、地方自治の本旨ということでございます。そして、それを受けて、地方自治法第一条は、この法律は地方自治の本旨に基づくのだということを理念を高らかにうたっております。
私が見るところ、新設第十四章の補充的な指示権は、言わば国が自治体に対して余計なおせっかいをする、その道を開くものだという認識をしております。地方自治法第一条でうたいながら、新十四章で地方自治の本旨を否定する、つまり地方自治法自体が地方自治法を自己否定しているということに当たるのではないか、そのような懸念を強く持つものでございます。
続いて、二番、災害法制に欠けるところはあるかというところに移ります。
今、憲法第九十二条のいわゆる地方自治の本旨条項について触れましたけれども、憲法の中で九十二条だけがそびえ立って唯一無二の原理というわけではもちろんなくて、様々な原理、プリンシプルズが置かれております。その中でも最も重要と言ってよろしいものが憲法第十三条、全て国民は個人として尊重される、生命、自由、幸福追求権は最大の尊重を必要とするというところでございます。
その生命、自由、幸福追求の第一番目にうたわれた生命の危機ということがある場合に分権、分権とばかりは言っていられない。その意味で私は決して分権原理主義というわけではなくて、様々な原理のバランスの中で分権を考えることが重要だというふうに思っております。
そこで、生命を守るための災害法制が一体どういう立て付けになっているかということを考えてみたいと思います。
そこで、お配りした資料には災害対策基本法から検疫法までの法律のメニューが並べられております。中には、武力攻撃事態対処法ですとか国民保護法ですとか、そうしたものも入れた方がよかったのかもしれませんが、地方制度調査会の議論というのは基本的にはコロナ感染拡大がする中でのその対応にいかなる問題がありやなしやということで進められましたので、そこで比較的そのコロナ対策に関連深いものを中心に並べております。中で、原子力災害対策特別措置法だけが少し異例なはまり方をしているように見えるかと思いますけれども、なぜそれを入れてあるかということはすぐ後に申し上げます。
さて、それで、こうした並び方があって、災害対策基本法が市町村中心、そして自治事務中心、さらに、検疫法はその一方の端で国の直営事務のみということであります。その中で様々なグラデーションがあって、その数直線の中にいろいろはまっているわけでございますが、今回のコロナ感染拡大に対する対応策の最も中心になったものの一つは、新型インフルエンザ特措法でございます。
では、その新型インフルエンザ特措法が国の関与が利かない、グリップが利かない、そういう仕組みになっていたかどうかということで眺めてみますと、これははっきりしておりますけれども、新型インフル特措法は、政府対策本部の設置ほか、国の直営事務が書かれているほかに、自治体が行う事務はほとんど全く法定事務で、法定受託事務でございます。法定受託事務というのは、自治事務と異なって、是正の指示、さらに、必要があれば、辺野古の埋立てではありませんけれども、代執行までできるという、非常に国のグリップが利く、強い関与が利く、そういう仕組みでございます。
僅かに自治事務として残されているものも、同法の第七十四条を御覧いただければ分かりますけれども、警察所管の事務でございますので、警察所管の事務というのはほとんどが自治事務であって、しかし警察は集権的な体制の中で動くようになっておりますから、まとめて言いますと、新型インフル特措法は相当に集権的なグリップが利く法律であったということであります。やろうと思えばいろんなことができたということであります。
では、災害対策基本法などのように自治事務中心、市町村第一主義の場合には国のグリップが利かないかというと、そういうわけでもないということで、そこで挙げたいのが原子力災害対策特別措置法の例でございます。
今から十三年前になりますけれども、東日本大震災のときに福島第一原発が事故を起こして、そして周辺の立地市町村で避難をしたということがございました。そのときに、同法に基づいて、原子力災害対策本部長、これは内閣総理大臣、時の菅直人さんでございますけれども、が避難指示を出したという形でございました。さあ、逃げなさいということでありますけれども、でも、実際は周辺立地市町村の住民に対して内閣総理大臣が避難せよという指示を出したわけではございません。内閣総理大臣が出した指示は、地元の市町村長に権限があるのが避難指示でございます、地元の市町村長が避難せよと言うのでございます。その避難指示を出すべしだという、そういう指示を出したということでございます。しかも、その指示というのは、多分法律によってグラデーションがあると思うのですが、強制力を伴っておりません。基本的にお願いベースのものでございます。つづめて言うと、内閣総理大臣が避難指示を出したらどうかというお願いをし、市町村長がそれを受けて避難指示を出して一斉に逃げたということでございます。
つまり、お願いベースであっても、当時の状況の中で避難をするということが合理的であり、それに従うことが説得的で、説得力があるから逃げたということであって、自治事務であっても科学的、合理的な説得力があれば十分従うというものでございます。
そこで、小括でございますが、今既存の災害法制が分権的な立て付けになっていて、それだから機能不全を起こしてコロナ対策がうまくいかなかったのだということではなくて、既に十分集権的な要素があったにもかかわらず、それを上手に使いこなすことができなかったので、なのでうまくいかなかったということであるのに、あたかも法制の立て付けが悪いからそこに問題があるのだというふうに問題を落とし込んでいっているのが今回の自治法改正の最大の問題点ではなかろうかという具合に思います。
三番目、政治のリーダーシップというところに移ります。
いや、そうはいっても、そうはいっても様々なことは起こり得るから、だから、どういうことがあってもいいように、一般法のレベルで、いざというときに備えて補充的な指示ということを用意しておいた方がどうかと、こういう議論はあるわけでありますけれども、それに対しては私は、政治のリーダーシップで、政治のリーダーシップというのは、選挙で洗礼を受けて、国会で内閣首班指名という更に洗礼を受けて、正統性を持った内閣総理大臣に最終的には集約されますが、それがリーダーシップを取って、いざというときには対応し、しかしそこに私権制限の要素がある場合には、追いかけて法令をきちんと整備していくということでよろしいのではないかという具合に私は思っております。それは政治のフリーハンドの問題、ここまではあるということではなかろうかと思います。
そこで、英国ロックダウンの例ということで、当時のボリス・ジョンソン首相のBBCで行った放送のその写真も付けて委員の皆様にお配りをしております。
実は、ボリス・ジョンソン首相は、最初、厳しい規制を置くことに関してかなり抑制的、弱腰、逃げ腰の姿勢であったわけですが、イギリスの中でインペリアル・カレッジ・ロンドンという最も医療、感染症関係では権威があると言われている大学の専門家研究チームが報告書を出しまして、三月十六日にレポートの第九号というのを出します。そこで、様々なシミュレーションを置いて、このままロックダウンせずに放置した場合にはイギリス国内で五十万程度の死亡者が出ると、こうしたことを科学的、合理的な根拠に基づいて、もちろん全て分かっているわけではありませんので、後々それが正しかった、完全に正しかったというわけではございませんが、その報告書が大きな機縁になって、ジョンソン首相、ジョンソン政権が動き出して、そして、二〇二〇年の三月二十三日二十時三十分からBBC放送で、私はそのときイギリスにおりましたので実際これを膝をそろえてテレビの前で緊張しながら聞いておりましたけれども、ここに書いてありますとおり、コロナウイルスは最悪の、最大の脅威であるから、そこでボリス・ジョンソン首相はステイホームだということを一生懸命国民に訴えました。首相自らがテレビを通じて国民に訴えるということをいたしました。そして、そのすぐ後を追って省令を整備したり、コロナバイラスアクトを整備して、追いかけて法令整備をしていくということでございました。
その特徴ということでございますが、改めてまとめますと、科学的、合理的で説得力ある知見に依拠して首相自らが説得に当たったということ。それから、国会内でレーバー、ほかの野党に対して一生懸命説得する。スコットランド、ウェールズ、北アイルランドのファーストミニスターに対して、日本とは別の形で非常に分権体制が進んでいる国でございますけれども、そのファーストミニスター、首相又は第一大臣に対して一生懸命説得して、コブラ会議というようなものを通じて、それで合意を取り付けて実施していったと、こういうことでございます。
我が国でも首相がリーダーシップを発揮した例がございました。それは、二〇二〇年二月二十七日の全国一斉休校要請でございます。私は、そこに何が、どういう問題があったかということでいえば、そこに法的根拠が欠けていたかということが問題であったのかというと、そうではなくて、ボリス・ジョンソンがやったときに示したような科学的、合理的な知見に基づく説得、さらに、国会内での合意の取付け、分権体制での合意の取付け、そういうことをしていたかどうか、そこが欠けていたところが問題だったのではなかろうかと、法的根拠がなかったことが最大の問題とは思えないということでございます。マスク配布も同種の問題かということを付け足して書いております。
最後でございます。
牧原先生も盛んに、十分御指摘になりました国会関与、それによる歯止めということでございます。
事前事後の国会の承認あるいは国会への報告によって歯止めを掛ける、補充的な指示が濫用されないように歯止めを掛ける、こうした議論は地方制度調査会の中でも、それから国会に審議が移って、衆議院でも、それから参議院の先生方の御審議でも続けられております。
なぜ国会の関与をそれほど認めないかということに関して松本総務大臣が主として説明しているのは、地方制度調査会では、機動性に欠ける、そうしたことをしていると緊急事態に対して機動性に欠いた対応しかできないので、国会の関与は要らなくて閣議決定でいいのだと、こういうような議論がされたわけでございます。
私は、学者というのは人から聞いたことをうのみにしないというのがたちでございますので、それで実際、地方制度調査会でそうした議論があったかということを確かめました。
今回の法改正につながる地方制度調査会の議論というのは二〇二三年に入ってから始まっておりますので、その一年分の議事録を全て点検いたしましたけれども、機動性に欠けるという言葉そのものが出てきたのは、第二十回専門小委員会、十月二十三日の二か所。二か所といいますか、山本委員長と田中行政課長が、機動性に欠けるという議論だったよね、はい、そうでしたねという、こういうやり取りですので、事実上は一か所でございます。つまり、公式記録上は、機動性に欠けるから、だから国会の関与はそれほど要らないのだと、そういう議論はなかったということでございます。
今回の法改正は、国と自治体の関係だけにとどまらず、国会とそれから官邸との関係、政治と官邸との政官関係、国会主権をどう担保するかと、先ほど申し上げました、冒頭申し上げました、国権の最高機関である国会、ソブリンティー・オブ・パーラメント、国会主権をどう担保するのかということが鋭く問われている問題でございます。
私は、事後報告にとどめず、事前の承認まで含めて、もう少し深い、先生方、国会の関与が必要だということを申し上げまして、私の意見陳述とさせていただきます。
御清聴ありがとうございました。