長谷川敏郎の発言 (農林水産委員会)
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○参考人(長谷川敏郎君) 農民運動全国連合会、農民連の長谷川です。
食料・農業・農村基本法改正案について意見陳述を行います。
現行法の下で、基本計画で決めた食料自給率目標は一度も達成されず、その検証もないまま、食料自給率向上そのものを投げ捨てる改正案には反対です。
農民連は、多くの団体と協力して、今国会に食料自給率向上を政府の法的義務とすることを求める署名を提出しています。
今、食と農の危機はかつてなく深刻です。食料自給率は三八%ですが、種子、肥料、農薬、飼料、機械、燃油の全てが価格高騰し、そのほとんどを輸入に頼る中で、本当の自給率は一〇%あるかどうか、砂上の楼閣です。いざというときは世界で最初に飢えるのは日本人と言われ、国民の関心、不安はかつてないものがあります。
私は、島根県の中山間地、邑南町で、繁殖和牛二頭、稲作一町二反の農家です。農村現場では、作り手が減り、耕作放棄で荒れる水田が広がっています。コロナ以後の生産者米価の暴落、資材高騰で、あそこもここもと、米作りをやめています。邑南町役場で調べてもらうと、米を作付けする農家はこのたった四年で一六%も減りました。作付けの筆数も一三%減少。こんな農村でいいのでしょうか。また、こんな農村になぜなったのでしょうか。
農民連は、一昨年から、資材高騰対策や日本から酪農・畜産の灯を消すなの運動を取り組みました。米も野菜も果樹も、後継者がなく、経営は赤字。まさに日本から農業の灯が消えるかどうかの瀬戸際です。今こそ政治が本気で食料増産を掲げ、日本農業の再生で食料自給率の向上を目指す農業基本法を作り上げていただきたいと思います。
基幹的農業従事者が二十五年で百二十万人も減りました。坂本農水大臣は、農水委員会で、高齢になって離農されたからだと答弁しました。高齢は誰にでも訪れることです。問題は、減少する担い手を補充する新規就農対策を政府はやらなかったことです。コロナ禍を経て、農業をやりたいという若者が増えています。しかし、農業で食べていけない、国の農業政策では将来が見通せないと言います。子供に農業を継いでくれとは言えない、自分で終わりだ、もう一年、もう一年と頑張ってきたけれど、と離農する農家の仲間がどれほど多いことか。
ところが、改正案では新規就農対策はありません。基幹的農業従事者のうち五十歳以下はたった二十三万八千人。八十歳を超えてなお現役で頑張って生産を支えていただいている農民が二十三万六千人です。こんないびつな農業生産体制がいつまでもつでしょうか。
大事なことは、規模の大小を問わず全ての家族農業を政策対象にし、家族経営の果たす役割を再評価し、農業再生の主人公にすることです。二〇二〇年の総農家数は百七十四万戸、うち自給的農家は七十二万戸です。この方々がいてこそ、地域農業、コミュニティーは支えられています。
今年は、日本も提案国として賛成した国連家族農業の十年の折り返しの年です。農業基本法以来、一貫して進めてきた大規模化、法人化一辺倒を改めるべきです。半世紀近く制度や補助金を集中して育成してきたにもかかわらず、法人、団体は経営体数の三%、農地の三四%を担っているにすぎません。
私は、規模拡大や農業法人を否定するわけではありません。家族農業を古い経営形態だ、丼勘定だなどと攻撃し、政策対象から排除してきたことが誤りだと指摘しているんです。
今回の改正では、効率的でかつ安定的な農業経営を営む者とそれ以外の多様な農業者に分け、それ以外の農業者の任務は農地をお守りしろに限定です。それ以外とは何ですか。この分類は見直すべきです。
皆さんの手元に資料を渡しましたが、私の二十年間の家族農業の経営データを島根大学の先生方が分析し、論文を発表されました。それによれば、小規模で限られた経営資源をどのように配分すれば生産性が高まり、効率的な農業経営ができるかを経営資料から判断し、所得の経営と家計の未分離という弱さを克服しているというのが結論です。
税金申告でも、二〇一四年から全ての事業者の記帳義務が課せられました。農民連の会員は、農業収入・支出記帳簿で記帳し、自主申告を行っています。
これまでの家族農業への不当な攻撃は、事実に反すると言わなければなりません。ヨーロッパでは、一九八四年、EC共通農業政策を転換し、それまでの専業大規模農家の育成から、兼業を再定義し、多重就業農家をきちんと位置付け直しています。
家族農業は多彩な経営があり、経営の重点は、家族の暮らしとその基盤となる地域を大切にします。それは、そこに住み続けるからです。その結果、農業に不可欠な水と土と森、自然と生態系を守ることができます。
家族経営の目標は、農業労働や農業生産の成果を享受し、家族で喜びを分かち合うこと。規模拡大や経営成長、それ自体が目標ではありません。また、家族の構成員の年齢構成の変化による家族周期に合わせて農業経営を伸縮することができます。企業的な農業経営は、雇用労働や多額の設備投資など、固定的な要素により柔軟性に乏しく、気象変動や災害、価格変動のリスクに対して脆弱です。農業法人の倒産が過去最大になっているのはその表れです。
家族経営では、家族内部で労働、所得、財産を柔軟に伸縮、融通することで危機に対応します。こうした家族農業の特性を再評価し、支援することこそ、環境に優しく持続可能な農業経営体を増やしていく道だと考えています。
次に、地球規模での気候変動など、世界の食料生産が不安定です。ところが、改正案は、更に輸入依存、安定的輸入を掲げています。大きな間違いです。お金を出せば幾らでも買える時代は終わり、中国に買い負けや、穀物がバイオエネルギーの原料として取り合いが起きています。国内で農産物を増産することが緊急の課題ではありませんか。
食料輸入の困難さに異常な円安が加わり、農業経営の危機と食料供給の脆弱さが浮き彫りです。農民は作りたくても作れず、離農が進む一方で、貧困と格差の拡大で、食べたくても食べられない人々が急増しています。
日本は、FAO、国連食糧農業機関のハンガーマップで飢餓国に認定されています。世界の食と農の危機は、短期的、一時的ではありません。二〇五八年には地球の人口が百億人と予想される中で、日本の穀物自給率は世界百八十五か国の中で百二十九位です。今、人口一億人以上の国は、穀物自給率一〇〇%を目指す国際的な責務があります。
坂本大臣は、トウモロコシや麦や大豆を全て国内で生産すると現在の農地の三倍は必要だ、それは無理だから輸入と答弁しています。しかし、日本でも、一九六七年から六八年には二千百万トンの穀物を生産していました。米生産による人口扶養力は小麦の二倍から四倍、日本の農地一ヘクタール当たりの人口扶養力は抜群です。日本で作れるものは精いっぱい作り、どうしても足らない分を輸入する政策に転換すべきです。
国土の七割を山地が占め、国民一人当たりの農地面積は三・七アールしかありません。その日本で、太陽エネルギーの変換率が高い水田は、アジア・モンスーン地帯の持続可能な農業の要として重要です。四十万キロの用水路、中山間地の棚田は洪水防止、水源涵養の役割を果たし、あぜの面積は十四万三千ヘクタール。単純に二メートルの幅とすれば七十二万キロ、地球十八周分になります。
水田と里山は、農民の共同の労苦で作られた多様で豊かな生態系として将来に引き継ぐべき貴重な財産です。水田を水田として存続し、穀物自給率を向上させることを提案します。水田の畑地化を条文に書き込み、田んぼを潰す政策を推進するような暴挙は許されません。また、これまでの農業生産の在り方そのものも見直さなければなりません。
一九六一年に定められた農業基本法は、小麦や大豆、飼料をアメリカからの輸入に依存させることを前提に選択的拡大を進め、規模拡大と効率主義を柱に、少品目大量生産、化学肥料、農薬の多用、輸入飼料に依存する畜産など、農業生産にひずみを広げました。現行法は、このひずんだ農業、日本農業に市場原理主義を持ち込み、更に農村と農業の破壊を加速させました。
日本農業を再生させるには、これまでの政策の根本的な反省と転換が必要です。どんな方向が日本農業の再生の道なのか。農民連は、アグロエコロジーを対案として提案します。
アグロエコロジーは、自然の生態系を活用した農業を軸に、地域を豊かにし、環境も社会も持続可能にするための、食と農の危機を変革する方針であり、実践です。循環型地域づくり、多様性ある公正な社会づくりを目指す運動としてFAOも推進し、世界の大きな流れです。
私の三十年余りのアグロエコロジーの実践を資料として配付しました。有畜複合による経営内の資源循環で、化学肥料に頼らず、地力を維持し、殺虫剤をやめたことで様々な虫が増え、その結果として、ツバメやクモ、カエルやヘイケボタル、アカトンボなど、生物多様性が回復され、害虫を抑えています。
また、それは資本の外部流出を防ぐ持続可能な農業経営です。中山間地域は、実に豊かな資源に恵まれた地域です。
島根大学の先生方が、私の経営を多角的に分析されました。今年一月には中国の西北農林科技大学の先生と学生九人が、また、この七月には韓国から二十五人が視察に来る予定です。アグロエコロジーは日本農業の明るい未来を切り開く道しるべです。
現行法制定でばっさり削除された一九六一年の農業基本法の前文を改めて振り返りたいと思います。
我が国の農業は、長い歴史の試練を受けながら、国民食糧その他農産物の供給、資源の有効利用、国土の保全、国内市場の拡大等国民経済の発展と国民生活の安定に寄与してきた、我々は、このような農業及び農業従事者の使命が今後においても変わることはなく、民主的で文化的な国家の建設にとって極めて重要な意義を持ち続けると確信する、農業の自然的経済的社会的制約による不利を是正し、農業従事者が他の国民各層と均衡する健康で文化的な生活を営むことができるようにすることは、農業及び農業従事者の使命に応えるゆえんのものであるとともに、公共の福祉を念願する我ら国民の責務に属するものであると述べていました。
農村政策の基本は、地域農業を再生することです。日本には農業と農村が必要という国民合意をつくり上げるような基本法改定の議論を強く要望し、私の陳述を終わります。