沖野眞已の発言 (法務委員会)

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○参考人(沖野眞已君) ありがとうございます。
 東京大学法学部法学政治学研究科で民法を担当しております沖野眞已でございます。
 本日は、このように貴重な機会を与えてくださいまして、誠にありがとうございます。
 提示されております本法律案につきましては、法務大臣の諮問を受けて設置されました法制審議会家族法制部会におきまして、約三年間にわたり様々な立場を踏まえて審議、検討が行われ、要綱案として取りまとめがされました。それが法制審議会総会における議論と承認を経て要綱となり、法務大臣への答申がされました。本法律案は、この答申を踏まえたものであると理解しております。
 私は、この法制審議会家族法制部会の委員を務めさせていただいておりました。本日は、その経験を踏まえつつ、民法の一研究者としてお話をさせていただきたいと思います。
 本法律案は、民法のみならず人事訴訟法、家事事件手続法を改正するものですが、専ら民法の改正についてお話をさせていただきます。
 本改正法案と申しますが、それによる民法の改正は、子の養育の在り方の多様化等の社会の情勢に鑑み、離婚に伴う子の養育への影響を踏まえ、子の利益の確保の観点から離婚関連制度の見直しを図るものであり、一、親子関係に関する基本的な規律、二、親権、三、養育費、四、親子交流、五、養子縁組、六、財産分与に関する改正を柱といたします。
 以下では、親子関係に関する基本的な規律と親権を中心にお話をし、養育費、親子交流について簡単に取り上げ、最後に民法の改正の意義について一言いたします。いささか大上段のお話をすることをお許しください。
 本改正法案の中核の課題は、子の養育、特に離婚後の子の養育の法制度として基本法たる民法がどのような制度や枠組み、規律を用意すべきかというものです。
 子は、出生と同時に民法を基礎とする民事法の世界におきまして権利能力を当然に付与され、一個の独立した人格として存在することになります。しかし、生まれてすぐはもちろん、一定の時期までは一人で立つことができない、保護や支援を要する存在です。そのため、子の心身の生育、そして社会的な生育をどのように図り、行っていくか、その制度が必要であり、民法は、法律上の親子関係を基礎として、子に対して親たる地位の者に子の養育のための責任を担わせ、必要な権限を与え、またその妨害に対してそれを排除するなどの権利を与えています。そのような総合的な地位を表すのが親権です。
 昭和二十二年、一九四七年の民法改正前の明治民法は、このような親権は基本的に父が有するものとしていたところを、昭和二十二年改正により、婚姻夫婦にあっては父と母の双方が親権を有し、双方が共同でそれを行使すると定めました。父と母が共に親権者として子の養育を担うことがその任務の実現のために適切であるという判断を示すものと考えられます。
 同時に、離婚後は親権者の一方のみが親権を有し、他方は親権を失うという仕組みを設けました。その理由は事実上の困難と言われたりしておりますけれども、必ずしもはっきりしておりません。
 このような昭和二十二年民法の在り方につきましては、一、離婚に伴い当然に一方が親権者たる地位を失うという制度が適切なのか、また、二、親権を有しないことになる親が子供の養育に対する責務を負わないわけではなく、しかしその基礎付けが示されていないのではないか、さらに、三、婚姻中の共同での親権行使もそう定めるだけであって、親の間で意見が対立するような場合の解決方法が用意されていないのは法律として無責任ではないかといった問題があり、議論がされてきました。
 本改正法案は、これらの問題に次のような形で解決を与えています。
 第一は、親子関係に関する基本的な規律を明らかにしたことです。
 父母は、親権の有無にかかわらず、子の養育に関して一定の責務を負っていると考えられますが、現行民法ではこの点が必ずしも明らかではなく、そのため、親権者でない親は子の養育に何ら責任を負わないかのような誤解がされることもあるという指摘もあります。
 本改正法案は、親権の有無にかかわらない父母の責務等を明確化しています。具体的には八百十七条の十二ですけれども、一、子の心身の健全な発達を図るため、子の人格を尊重するとともに、子の年齢及び発達の程度に配慮して子を養育しなければならないこと、かつ、二、子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならないこと、また、三、父母が子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならないことを明文化しています。
 子の人格の尊重に関しましては、子の意思の尊重との関係が問題となり、かなりの議論がありました。しかし、人格の尊重において、その意思の尊重はむしろ当然のことです。これを例示することも考えられなくはありませんが、理論的な問題に加え、子の利益の確保の観点からの緊張関係や弊害も懸念されるため、意思の尊重は人格の尊重に当然含まれるという言わば当然の理解の下に法文が作成されており、適切なことであると考えます。
 また、父母の間の相互の人格の尊重は、虐待が許されるものではないことや、それへの対応の基礎を民法そのものに明文で設ける意味をも有するものです。
 第二は、離婚後の当然単独親権の見直しです。
 父母の子の養育への関わり方、在り方は様々であり、昭和二十二年当時に比し、一層多様化しています。夫婦としての法律婚は解消するものの子の養育については協力して当たるという場合もありますが、現行法では離婚後も夫婦双方が共に親権者という立場で子の養育に関わる道は全く閉ざされています。父母の婚姻中はその双方が親権者となり親権を共同して行使することとされていますが、父母の離婚後は一切の例外なく必ずその一方のみを親権者と定めなければならないこととされているからです。
 このような制度は、およそその余地がないという点において、父母の離婚後もその双方が子の養育に責任を持ち、子に関する重要な事項が父母双方の熟慮の上で決定されることを法制度として支えるということがされていない点で問題であると考えられます。改正法案が離婚後の父母双方を親権者とすることを可能とするとしているのは、このような考慮に基づくものであると理解しております。
 これに対し、離婚後の父母双方を親権とすることに対しては、子に関する意思決定を適時に行うことができないおそれがあるのではないかとの懸念や、DVや虐待等がある事案において、父母の一方から他方に対する支配、被支配の関係が離婚後も継続するおそれがあるのではないかという懸念があります。
 本改正法案では、父母が協議上の離婚をする場合には、父母の協議によって父母の双方又は一方を親権者と定め、裁判上の離婚の場合には、裁判所が父母の双方又は一方を親権者と定めるということを基本とした上で、裁判所が親権者を定める場合の考慮要素に関して、子の利益のため、父母と子との関係や父と母との関係その他一切の事情を考慮して判断しなければならないこととし、かつ、父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、必ず父母の一方を親権者と定めなければならないとなっています。
 さらに、子の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときについては、DVや虐待等がある事案を念頭に置いた例示列挙がされています。これらの規律は、こうした事案に対する懸念を踏まえ、それに対処できる規律としたものと言えます。
 もっとも、協議上の離婚の場合に完全に父母に委ねてしまうという現行法を維持することには、父母の合意について子の利益の保護の観点からの適切性が確保されないという問題もあります。協議離婚の際に、DVなどを背景とする不適切な形での合意によって親権者の定めがされたという場合には、子にとって不利益となるおそれがあるからです。協議離婚の成立にチェックを掛けるという事前確認型の規律も考えられますが、そうしますと、速やかな離婚が困難になるなどの問題もあります。
 そこで、改正法案では、事後の対応の手法を取り、家庭裁判所の手続による親権者の変更を可能とするとともに、家庭裁判所が変更が子の利益のために必要であるか否かを判断するに当たり、父母の協議の経過その他の事情を考慮すべきこととし、DV等の有無がその考慮要素の一つとして明示されています。
 第三は、双方が親権を有し、それを共同で行使する場合の規律です。
 改正法案では、親権の共同行使の場合の規律を設け、まず、監護又は教育に関する日常の行為をするときは一方の親権者が単独で行使できることを明らかにし、また、それに該当しない、したがって共同で親権を行うべき重要な事項について父母の意見対立がある場合には、家庭裁判所が父母の一方を当該事項についての親権の行使者と定めることができる手続が新設されています。また、日常の行為に当たらない重要な事項であっても、協議や家庭裁判所による手続を経ていたのでは子の利益を図ることのできない場合、これを子の利益のため急迫の事情があるときとして、単独での行使が認められる場合であることが明らかにされています。
 このように親権の行使の規律が整備されることは、単独行使の認められる余地や範囲の規定を欠き、意見対立の調整手続を欠くという現行法の不備を補うとともに、父母の双方が親権者である場合に子に関する意思決定を適時に行えなくなるという懸念に対処するものと言えます。
 続きまして、親子交流及び養育費について簡単に申し上げます。
 まず、親子交流でございますが、親子交流については、親権の所在にかかわらず、子が父母の一方とのみ同居する場合に、別居親との交流は子の成長のために重要な意義を有するものですが、その一方で、親子の交流の実施が子の危害へつながる場合もあり得ることも否定できません。そのため、親子交流については、子や同居親の安全、安心を確保した上で、適切な形での親子交流を実現できるような仕組みを設けることが重要となります。
 また、親子の交流は別居に伴うものであって、必ずしも離婚後に限定されません。むしろ、離婚前の婚姻中の別居においても重要となります。しかし、現行法はこの局面での規律を置いておりません。また、別居親と交流をしてきており、その中で祖父母等との親族と交流をしていたのだけれども、その別居親が死亡した場合に、それまでの祖父母等との交流を継続することが望まれるといった場合もあります。
 改正法案は、これらについて規律を設け、また、それとともに、手続法関係になりますが、裁判手続過程において、家庭裁判所が事実の調査として親子交流の試行的実施を促すことができる旨の規律が設けられています。いずれにおきましても、子の利益の観点からの要件設定が明示された、適切な親子交流を実現できる仕組みの構築のための改正であると理解しております。
 次に、養育費でございますが、これは子の養育を経済的に支えるものであり、その取決めや支払の確保が重要であることは異論がありません。問題は、それをいかに実現するかです。
 本改正法案では、取決めがされないときへの対応として法定養育費の制度が設けられ、また、支払の確保への対応として、養育費債権につきまして一般先取特権を付与することで、他の一般の債権者に優先して弁済を受けられる地位、かつ債務名義を取得していなくても民事執行手続の申立てができるという地位が付与されています。
 また、手続面では、裁判手続における収入等の情報の開示命令の仕組みや、また、民事執行手続におきまして、一回の申立てにより複数の手続を連続的に行うことができることとされ、債権者の負担を軽減する仕組みが設けられています。
 最後に、民法の改正の意義について一言申し上げます。
 民法の制度は社会における基本設計として非常に重要であると考えられますが、父母の離婚後の子の利益を確保するためには、民法等の民事基本法制を整備するだけで足りるわけではなく、その円滑な施行についても必要と思われる環境の整備を図ることが重要であり、何よりまた、子の利益の確保のためには、総合的に各種の支援等の取組を充実させることが重要です。
 法制審議会家族法制部会において、民法等の改正内容を示す要綱案の取りまとめに加えて附帯決議がされ、総会でもこれが認められております。この附帯決議には、改正法の内容の適切な周知を求めること、各種支援についての充実した取組を求めること、家庭裁判所における適切な審理を期待すること、改正法の施行状況や各種支援等に関する情報発信を求めること、これらの事項の実現のため、関係府省庁等が子の利益の確保を目指して協力することなどが盛り込まれております。
 民法等の改正の実現が重要であることはもちろんですが、それのみで目的を達成するものではないこと、環境整備や各種支援のための総合的な取組があってこそであることにつきましても改めて指摘させていただきます。
 以上でございます。御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 沖野眞已

speaker_id: 3464

日付: 2024-05-07

院: 参議院

会議名: 法務委員会