山崎菊乃の発言 (法務委員会)
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○参考人(山崎菊乃君) 山崎菊乃です。
本日は、私のお話を聞いていただける機会をいただき、本当にありがとうございます。
私は、DV防止法が施行される前の一九九七年に、三人の子供とともにシェルターに避難した経験があります。その後、二十年以上、DV被害者支援現場でシェルター活動や自立支援活動を行っております。現在、全国女性シェルターネットの共同代表であり、ふだんは北海道でシェルターの運営をしています。
まず、私の被害者としての体験談をお話しさせていただきます。
大学時代に知り合い、対等に付き合っていたはずの夫は、結婚式の日から変わり始めました。私の行動が自分の思いどおりでないと機嫌が悪くなるようになったのです。私の実家に対しては非常に攻撃的になりました。私の両親が遊びに来ると不機嫌になりました。初めてのお産は里帰り出産でした。自宅に帰るとき、実家の母がお米を十キロ私に持たせてくれました。これに対し、夫は、俺をばかにしていると実家に米を送り返した上、新生児のそばで寝ている私の顔を殴りました。掛け布団が鼻血で真っ赤になりました。翌日、私は夫に、暴力を振るうのであれば離婚すると言いました。すると、彼は、土下座をして涙を流し、離婚するくらいなら死んだ方がいいなどと言うので、私は、これほど反省しているならと離婚を思いとどまりました。
しかし、一度暴力を振るわれてしまうと夫婦の関係が全く変わるのです。夫の顔色を見て、怒らせないようにと振る舞う癖が私に付いてしまいました。彼が暴力を振るうのは自分のせいと感じ、努力しましたが、何をしても収まることはありませんでした。人格を否定され、人間扱いされないような言動が絶えずある生活は身体的暴力よりつらく、私はいつも落ち込んでいました。子供たちもいつもぴりぴりしていました。
多くの人はDV被害者になぜ逃げないのと言いますが、これまで生活してきた全てを捨てて、将来的な保証も住む場所もない未知の世界に人は簡単には飛び込んでいけません。
ところが、ある日、どなり、馬乗りになって私の首を絞める夫に向かって、長女が泣き叫びながら、父さんやめてと包丁を持って向かっていったのです。子供たちのためにと思っていた私の我慢が子供たちを大きく傷つけていたことを思い知らされ、避難するしかないと決断し、DV防止法がまだない中、民間団体が運営しているシェルターに避難しました。
先日、私は勇気を出して、当時中学三年生だった娘に包丁を持ち出したことを覚えているか聞きました。娘は、はっきり覚えている、いつもカッターを持っていて、何かあったらお母さんを助けようと思っていた、朝は泣きながら登校していたと話してくれました。何十年もたっていたんですが、ショックでした。
お手元の資料一、二〇二二年にシングルマザーサポート団体全国協議会が行ったアンケート調査の結果、一ページを御覧ください。離婚を決断した理由で一番多いのが、子供に良くない影響があったというものです。次のページ、その子供への悪影響とは何か。具体的な内容では、夫婦が対立、口論したり、自分がばかにされている様子をこれ以上子供に見せたくないが最多です。司法統計で性格の不一致とされてきた中身がこれらです。
大きな決断をして避難した先に一体何があるのか。シングルマザーの平均年収は二百万円ぐらいと言われています。ダブルワーク、トリプルワークをして、自分の健康を顧みずに働いているお母さんがたくさんいます。子供に一日三食食べさせても、自分は二食で我慢している人もたくさんいます。私も、三人の子供を抱えて生活に困窮し、生活保護を受給しました。このような大変な生活を強いられるのに逃げざるを得ないことを、どうか皆様に御理解していただきたいと思います。
日本社会のDV被害に対する認識はまだまだ薄く、暴力から逃れることも難しく、相談機関からさえ理解のない対応を受け続けています。この状況を改善することなく共同親権にすることは、逃げることしか許されない日本の被害者が更に逃げられなくなることが目に見えています。
配付資料二、ここがおかしい日本の被害者支援を見ていただくと現状が分かっていただけると思いますが、DV被害者が相談や支援を求めたときにどんな対応があるのかを時系列的に挙げてみたいと思います。
まず、一番初めの相談は、実家や友達が多いのですが、そのくらい我慢しなさい、子供がいるんだから離婚なんかしちゃ駄目といった反応は全く珍しくありません。身近な人から否定されたことで、逃げられない、DV被害を受けた自覚が持てない状況になっているわけです。
そして次、勇気を出して相談機関に行くと、あざがないから、殴られていないからDVじゃないですよね、身体的暴力に比べると大したことないよねと言われるのは本当にあるあるです。日本のDV法では、DVを身体的暴力だけではないとしています。しかし、日本中で、身体的暴力以外はDVじゃないとする運用が残念ながら行われてきました。
相談の次は一時保護になります。シェルターに避難することです。
全国の都道府県に公営のシェルターがあり、DV被害者を保護することになっていますが、資料の三を見ていただくと、婦人相談所、今は女性相談支援センターとなっていますけれども、なかなか一時保護してくれないというのが全国共通の悩みです。身体的暴力がないからシェルターは入れない、集団生活ができなければ無理、たばこ、お酒、携帯使用は駄目、こうしたチェックに合格して初めてシェルターに入れます。DV被害者一時保護は十分に機能しているものではないということも知っていただきたいと思います。
その次のハードルは生活保護受給です。着のみ着のままで避難した方も多く、生活保護を希望することは少なくないです。しかし、同居中に受けた精神的DVの後遺症であるPTSDなどが理解されず就労を強要される、扶養照会で加害者である配偶者に照会されてしまった例もあります。
そのような中、心ある行政担当者と民間の支援者とで力を合わせてやっとの思いで被害者の安全を守ってきました。民間の支援者は、手弁当で、持ち出しで、全国で何千、何万件と支援してきました。DV被害については私たちが専門家です。共同親権が導入されたら何が起こるのか知っているのは当事者と私たちです。
共同親権が導入されたら何が起こるのか、懸念をしていることをお話しします。
二〇〇一年にDV防止法ができるまでは、家庭の中の暴力は社会に容認されていました。DV防止法は、私たち当事者がこのままでは殺されてしまうと議員の皆様に実情を訴え、議員立法で制定された法律です。共同親権制度は、私たちDV被害者が命懸けで勝ち取ったDV防止法を無力化するものです。この法律が成立してしまったら現場はどうなるのでしょうか。
まず、たくさんある事例なんですけれども、加害者の行動の予測についてお話しします。
加害者の中には、加害者意識は全くなく、自分を被害者だと心から思っていて、自分の下から逃げ出したパートナーに対する報復感情を強く抱く人が多いことを皆さんに知っていただきたいです。彼らはこう考えます。自分は何も悪いことをしていないのに、妻が子供を連れて出ていってしまった。自分に逆らわなかった妻がなぜ出ていったのか本当に理解できない。支援者や弁護士が唆したのではないか。自分こそ妻からの精神的暴力を受けた被害者だ。これではメンツが立たない。絶対に妻の思いどおりにはさせない。自分をこんな目に遭わせた妻に報復してやる。たとえ離婚しても、共同親権を取って妻の思いどおりにならないことを思い知らせてやると考える人も多くいると思います。この法案は加害者に加勢する法律です。
次に、現場の最大な懸念をお話しします。
被害者を支援したら、加害者からの大量の訴訟が起こされ、敗訴するかもしれません。急迫な事情という条文は、婚姻中の共同親権にも適用される規定だからです。被害者の相談に乗って、それはDVですね、避難する必要がありますと言ったら、加害者の共同親権行為の侵害だという損害賠償の訴訟が相談員や支援団体をターゲットに起こされるかもしれない。被害者の一時保護を都道府県が決定したら、同様の訴訟が都道府県、市町村に起こされるかもしれない。訴訟対応で支援機関はストップするだろうし、訴訟というリスクを負ってまで行政は被害者を支援してくれるでしょうか。賠償金の支払を命じる判決が出たら、地方自治体はそれでも被害者を守り続けるでしょうか。発言力の小さい被害者が我慢を強いられるのは目に見えています。
法案では、双方の合意で親権が決まらない場合、裁判所が親権者を決める際に、DVや虐待がある場合は単独親権と決めるとありますが、DVや虐待の証明をどのようにしたらよいのでしょうか。
今年四月一日に改正DV防止法が施行され、精神的暴力、性的暴力も接近禁止命令の対象となりました。内閣府のパンフレットでは次のようなことをDVですと広報しています。資料四になります。
大声でどなる、誰のおかげで生活できるんだなどと言う、実家や友人との付き合いを制限したり、電話や手紙を細かくチェックしたりする、何を言っても無視して口を利かない、大切にしているものを壊したり捨てたりする、土下座を強要する、悪評をネットに流して攻撃すると告げる、キャッシュカードや通帳を取り上げると告げるということが挙げられています。こういうことが本当によく相談されます。精神的、性的DVは、DV関係では必ず起きています。
内閣府が精神的DVと見ているものを被害者が主張しただけで単独親権になるのでしょうか。相手が争ってきたら、どのような証拠で立証しなければならないのでしょうか。例えば、長時間の説教、通帳取上げということを家裁がどのように認定するというのでしょうか。
以上、当事者支援現場からの様々な懸念をお話しさせていただきました。これから考えられるのは、もしもこの法案が成立したとしても、施行までの二年間で必要な制度が整うとはとても考えられません。国会におかれましては、拙速な判断をしないように切にお願いしたいと思います。
最後に、被害当事者からのメールを御紹介します。
衆議院通過してしまいましたね。何でそんなに共同親権にしたいんでしょう。既に離婚している父母も申請すれば共同親権にできるとの一文を見ました。きっと私の元夫は申請してくるでしょう。政治家はようやく立ち直りかけた私たちにまた闘えと言うのですね。平穏を手に入れたと思っていたたくさんの被害者たちをまた崖から突き落とすのですね。私のように、身体的暴力の証拠は残っていなく、既に何年も経過している者は、どうすれば被害者だと認めてくれるんですかね。非常に落胆しています。
私と娘と息子は、元夫と一緒にいる間は常にびくびくと機嫌をうかがいながら生活し、逃げてからは、これまでの生活のほぼ全てを捨て生きていかなければならない現実を受け入れることに必死で、心身のバランスを崩しました。長い時間を掛けて、それでもまだ全員が回復したとは言えないまでも、日々笑って過ごせるようになった一因に、私が親権を持っているからがあるのは間違いありません。
どうか本当に子供が幸せになる道を見極めてください。子供が心から愛され、守られて、穏やかに安心して暮らすために法律を使ってください。ほかの国がどうかとは関係ありません。解決しなければならない日本の家族の問題は決してそこではないことに本当は皆さん気付いているのではないでしょうか。問題のすり替えで命を脅かさないでください。
以上が、うちに来た被害者からのメールです。
これで終わらせていただきます。ありがとうございました。