首藤若菜の発言 (予算委員会公聴会)

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○公述人(首藤若菜君) 立教大学、首藤若菜と申します。
 本日は、このような場でお話しする機会をいただき、大変光栄に感じております。どうぞよろしくお願いいたします。
 私は、労使関係を専門に研究しておりまして、その観点から本日二点お話をさせていただきたいと思います。一つ目が物流の二〇二四年問題、もう一つが持続的な賃上げについてです。
 では、まず物流の二〇二四年問題からお話しさせていただきます。
 トラックドライバーの労働時間の短縮に向けては、ここ数年、国交省、経産省を中心にかつてないほど踏み込んだ対策が取られてきました。その結果、物流現場に変化の兆しが現れているというふうに感じております。大手の運送会社、荷主企業を中心に物流の負荷を軽減させる取組が始まっており、これが今後順調に進むかどうかということはまだ見極めが付かない部分もありますが、長い間ずっと改善してこなかった現場が変わり始めているという点は高く評価すべきだというふうに考えております。
 ただ、こうした動きが中小の運送会社、荷主企業にまで広がっているのかというと、そうとは言い切れないと思っております。中小の運送会社のところで、今物流現場何が起きているのかといいますと、多くの運送会社の方々が二択を迫られているというふうに語っています。二択というのは、結局、四月から始まります労働基準の強化を遵守せずに荷物を運び続けるか、遵守するために荷物を諦めるかという二択です。どちらを選ぶにせよ、非常に苦しい思いを抱えながらこの四月を迎えようとしているというのが実態だと思っています。
 トラックドライバーの労働時間と賃金は、手元にあります五ページの図表一に示しているとおりです。
 いわゆる残業時間である超過労働時間数を見ていただきますと、男性平均の二・五倍から三倍の長さになっています。賃金水準は、決まって支給する現金給与額、これが残業込みの賃金額になっていますが、これは平均の、男性平均に近くなっておりますけれども、所定内給与額で見ますと、平均の八割ほどに下がります。つまり、長く働くことで平均並みの賃金を獲得しているということが分かります。現状のままですと、残業時間の規制強化によって収入が低下し、それにより離職者が増え、人手不足が深刻化するということが懸念されます。
 賃金を上げるにはその原資である運賃の上昇が求められますが、次のページの図表二を御覧ください。
 企業向けサービス価格指数を見ますと、赤い線で示してあるのが道路貨物運送業の指数になります。コロナ前までは上昇していましたが、コロナ以降ほぼ横ばいとなっているのが分かるかと思います。ドライバーの賃金は、実は二〇一〇年頃から若干上昇してきているんですけれども、近年は上昇幅が狭くなっておりまして、これは運賃の上昇幅の弱まりと整合的だというふうに考えております。
 では、どのようにすればいいのかということについて、私の考えを五点述べさせていただきます。七ページから八ページにまとめてあります。
 一つは、価格転嫁です。持続的な物流をつくっていくためには、政府が呼びかけているように、価格転嫁が必須だと思っております。
 現在、公正取引委員会やトラックGメンが取組を強化しておりまして、それは非常に追い風になっていることは確かです。広島県等一部のGメンはかなり踏み込んだ取組もしておりまして、取引環境の改善に貢献していると見ています。しかし、中小企業庁の調査によりますと、トラック運送業の価格転嫁率は全業種の中でも最下位であり、平均四五・七%の転嫁率に対してトラック業界では二四・八%と、著しく低い状況です。
 なぜ価格転嫁が進まないのかと。それは、従来の価格で若しくはもっと安い価格で荷物を運ぼうとする事業者が後を絶たないという実態があるためです。価格を上げようと交渉すれば転嫁しない事業者に仕事が奪われていくというふうに皆さんおっしゃいます。その安さが生産性の上昇によって実現されていればいいのですが、賃金を上げないことで若しくは賃金を引き下げることで安さを実現しているケースも多々あります。
 価格転嫁を進めるには中小事業者は交渉力を持っていかなければなりませんが、しかし、構造的に交渉力が高めにくいというのが実態です。例えば、多層的な下請構造がトラック業界にはありますが、五次請け、六次請けといった下請業者は価格交渉をするすべすら持っていないというのが実態です。その中で幾ら適正価格をと呼びかけられても、その実現は困難だと思っております。
 価格転嫁を進めるためには、それが可能となるような市場環境を整備するということこそが重要であり、例えば多層的な下請構造を是正するということが求められているというふうに考えております。これは海外でも行われておりまして、トラック運送業では例えば二次請け以下を禁止するといった制約を設けている国があるというふうに聞いております。取締りの強化、呼びかけの強化、これも重要ですけれども、価格が転嫁できる環境をつくっていただきたいというふうに考えております。
 第二、第三は、運賃と賃金の底上げに法的拘束力を持たせるという点です。
 国土交通省は、二〇一八年に標準的な運賃を導入し、運賃交渉の目安とするように呼びかけています。しかし、九ページの図表三を見ていただくと分かりますけれども、標準的な運賃額若しくはそれ以上の運賃額を獲得できているのは僅か一五%にすぎません。半数以上の荷物は標準運賃の七割以下の価格で運ばれていますし、二割の荷物は標準運賃の半額以下で運ばれているというのが実態です。
 中小の運送事業者たちは、標準的な運賃のことを理想の運賃とか夢の運賃というふうに呼んでいます。実態的に標準運賃が標準にはなっていないというふうに考えています。標準的な運賃に実効性を持たせることが難しいのであれば、上限、下限の運賃額を定めたり、最低運賃額を定めるということも検討していただきたいというふうに思っております。
 第三には、賃金の底上げについてです。
 トラックドライバーの流出を防ぐには、ドライバーの賃金単価を上げていくということが不可欠だと思っております。それには、私は特定最賃を活用すべきだというふうに考えております。賃金の最低基準を設けることで、より安い運賃で仕事を獲得しようと、より安い賃金で仕事を獲得しようというような底辺への競争の歯止めにもなるというふうに考えております。
 第四番目ですが、労働規制が強化されていく中で、現在、宅配の現場など一部の物流現場では、雇用労働者ではなくて個人事業主として働く、働かせる動きが広がっています。ギグワーカーに対する労働者保護を拡充していくことや、雇用されるかどうかで労働コストが大きく異なると、こういった状況を変えていくような労働法制や社会保障制度の見直しも急務だというふうに思っております。
 最後に、人手不足の中で、外国人労働力の流入に期待が高まっています。しかし、より安い賃金で働いてもらうために外国人労働者に頼るという発想では再び労働力不足に陥る懸念があります。外国人労働力の受入れに当たっては、日本人であれ外国人であれ、賃金水準の上昇が必要だという強いメッセージを出していただきたいというふうに思っております。
 続いて、持続的な賃上げについてお話をしたいと思います。
 あしたは春闘の集中回答日でありまして、大手企業を中心に昨年を上回る大幅な賃上げが達成される見込みです。政府が繰り返し呼びかけ、政労使会議を開催するなど、賃上げを強く求めてきた効果は大きいというふうに考えております。問題は、これが中小企業にまで広がるかどうかという点だと思っています。
 まず、昨年の賃上げの結果を簡単に振り返りたいと思います。
 昨年の春闘では三・六%という三十年ぶりの大幅賃上げとなりました。しかし、十二ページの図表四を御覧いただきたいのですが、昨年の一般労働者の現金給与総額の伸び率はプラス一・二%で、上昇はしましたが、際立って伸び率が高かったかと言われると、そういうわけではありませんでした。
 また、次のページの図表五のとおり、昨年の春闘は分散係数がかつてないほど高かったことも分かっています。大企業が大幅に賃上げをしているということが数多く報道されていますが、さほど賃金を上げられなかった企業が存在しているというふうに予想されます。
 その中で、持続的な賃上げを実現させ経済を循環させていくための考えを四点お話しさせていただきたいと思います。
 第一には、労働生産性と労働分配率の向上です。
 持続的な賃上げには生産性の向上が不可欠だと思っております。生産性向上に向けた中小企業への支援は既に数多く行われていますが、より多くの事業者が取り組めるよう後押しをお願いしたく存じます。
 他方で、急激な賃上げが生産性の向上を伴わない形で進むことへの懸念の声も聞かれます。しかし、日本の問題は、過去二十年以上にわたり労働生産性の上昇に賃金上昇が追い付いてこなかったことにあるというふうに私は考えております。その結果、日本の労働分配率も低下してきました。内需を拡大していくには幅広い人々の所得の向上が不可欠だと思っております。そのためには、労働分配率が上昇するような賃上げ、労働分配率にも着目した賃上げを目指すべきだと思っております。
 第二には、価格転嫁の促進です。
 価格転嫁率と賃上げ率には相関関係が確認されております。価格転嫁を進めるための方策は既に述べましたので割愛しますが、なかなか価格転嫁が進まない状況や多層的な下請構造はトラック業界だけの話ではありません。トラック業界で起きている実態は日本社会の縮図であるというふうに私は考えております。
 第三に、持続的な賃上げには集団的な労使関係の再構築が必要だと考えています。
 十六ページの図表七を御覧ください。これは連合が発表した昨年の春闘結果になります。これを見ますと、労組がある企業では中小企業でも賃上げが行われていることが分かります。昨年の労働経済白書では、企業規模が小さいほど労組の有無が賃金改定率に影響している可能性を指摘しています。
 また、非正規労働者の賃上げについても、今年ではイオングループが昨年同様に非常に高い賃上げを非正規含めて行うということが発表されていますが、連合の発表によっても、労組に加入している非正規労働者については賃金が上がっているというふうな実態があります。
 賃金が上がるかどうかというのは、中小や大企業かどちらかということや正規か非正規かというような違いのみならず、労働組合にカバーされている労働者か否かということにも左右されるというふうに私は見ています。中小企業で賃金を順調に上げていくために、やはり中小企業の組合組織率が極めて低いというような実態を改善していくということも必要だと思っています。
 この間、組合の組織率が下がり、労働者の発言力や交渉力が低下してきたことにより、賃金が上がらず、内需が縮小し、経済が成長しないと、そんな社会がつくり出されてきたと思います。経済の再生のためにも集団的労使関係の再構築が必要だと考えています。
 今、学校教育では学習指導要領で労働三権を学ぶ機会がありますが、労働者がワークルールを知らないまま法令が遵守されずに働くというふうな実態もありますので、労働法や労使関係を学べる機会をより拡充していただきたいというふうに思っております。同時に、中小の事業者への啓発活動、不当労働行為に対する厳正な処分もお願いしたいと思っています。
 第四には、多層的な最低賃金の形成です。
 中小企業や非正規労働者を含めて幅広く働く者の賃金の底上げを図るには、最低賃金というものが非常に効果的です。
 岸田総理は、二〇三〇年半ばまでに地域別最賃を千五百円に引き上げるという目標を掲げていらっしゃいます。私は中央最低賃金審議会の委員も務めておりますので、総理の目標も念頭に置きながら審議に参加したいというふうに考えております。
 ただ、留意すべきは、地域別最賃は不熟練労働者を含めた全ての労働者に最低限支払われる賃金額です。例えば、今エッセンシャルワーカーの人手不足が深刻化していますが、これらの労働者の多くは免許や資格を取得して働くことが求められておりまして、決して不熟練労働者ではありません。こうした労働者たちの賃金の上昇は、地域別最賃の上昇だけでは必ずしも底支えにならないというふうに思っております。特定の産業や職業の最低賃金を特定最賃で定めることができます。さらに、民間企業の労使の中には、産業別最賃、企業内最賃を締結しているケースもあります。こうした多層的な最低賃金の形成が中小企業、非正規労働者を含む幅広い労働者の賃金の底上げになるというふうに考えています。
 現在、特定最低賃金の導入や改定は、労働側が再三要請しておりますが、使用者側が慎重な姿勢を示しており、協議が進まないという状況です。持続的な賃上げのために是非前向きに御検討いただけるように、政治の場からも呼びかけていただきたいというふうに考えております。
 まだ少しだけ時間がありますので、最後に一言だけ、男女間格差の是正についても触れたいというふうに思います。
 今後、人口が減少していく中で、女性労働力の更なる増大が求められています。年収の壁の解消はそれを促す重要な施策だと思いますが、女性たちが労働時間を制限している理由は、税制、社会保障制度だけに起因するわけではありません。男女が共に働く社会がつくられていく中で、誰がケア労働を担うのかということが問われています。
 男性の労働時間を短縮し、男女が共にケア労働を担えるようにしていただきたいと。同時に、正規、非正規間の格差の是正は女性の就業拡大には不可欠だと考えております。さらに、女性の働きやすさを実現するには、選択的夫婦別姓の導入も前向きに御検討いただきたいというふうに思います。
 私の専門は労使関係ですが、労使関係とは、学問上、三者構成というふうに定義されています。労使の二者ではなくて、政府を含めた三者になります。政府は、法政策によって働く者の労働条件を改善させることができます。加えて、政府は、最大の使用者でもあります。国、地方自治体で働く者の賃金、労働条件の改善は各地域の労働条件に大きな影響を及ぼします。国や行政が率先して賃上げをし、労働環境の改善に取り組むことも極めて有効だというふうに考えております。
 私からは以上となります。
 御清聴どうもありがとうございました。

発言情報

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発言者: 首藤若菜

speaker_id: 31391

日付: 2024-03-12

院: 参議院

会議名: 予算委員会公聴会